魔法少女たちの正体
オシャレでも不潔でもない服に着替えて秋葉原へ向かう。電車で1本。近くて楽だ。埼玉だけど。
ホームで電車を持っていると近くに貞●がいた。
こちらもオシャレでも不潔でもない格好だ。おお、同志よ。
さしたる理由もなく好感度が上がった。ダメ人間どうしの醜いマウンティングしゅきー!
絵に描いたようなクズだが、それもまた人間の一面である。
俺は自分をアップグレードする気はないのだ。
ダメな自分を受け入れてくれる!
と偉そうなことを心で語ったが、遺憾ながらごく普通の人間としての反射的行動に入る。
「あ、どうも」
あいさつ。
ストーカーじゃないよ! 通報しないでね! という命乞いでもある。
抹殺されるだけの社会的地位はないけど。前科はまだいらないと思うんだ。
「あ、どうも。お出かけですか?」
セーフセーフ。どうやらセーフである。
前と同じように感じのいい子である。人間は苦手そうだけど。
「ええ、秋葉原で飲み会がありまして」
「奇遇ですね。私も秋葉原でお友だちとお食事なんです」
なんてたわいもない会話をする。
友達いたんだ。おっさん安心した!
見た目は幽霊みたいだけど、愛想のいい子だからおっさん本当に安心した。
だけど少女と無職の大人との間にそれ以上の話題は存在しない。
そもそも二人とも人間が得意なタイプじゃない。それだけは確実だ。
だって、人と会う直前に服を揃えるようなタイプだもの。
だから俺たちは黙った。だってなんの話題があるのさ。
ゲームの話題とか知らない子相手にはハードルが高い。
ああ、ナターシャみたいに容赦のない鬼コミュニケーション能力が欲しい。
とお互い思っていると秋葉原に着く。
秋葉原のホームで携帯電話の地図アプリで店を探す。
……って、駅近くのあのビルの最上階じゃないか。
「それじゃ、俺こっちなんで」
と言って少女と別れようとした……のだが。
「あのビルですよね? 私もそっちです」
その中には不思議なことがあるようだ。おっさんばかりの地獄の飲み会の近くで女子会が行われるなんて。
二人でビルに向かう。なお、フラグが立つことはない。それが人生。レビュー星1つのクソゲーなのだ。
ビルで最上階に向かうと人だかりができていた。
20代の中頃くらいの女性が楽しそうに会話をしている。
たぶんあれがギルドメンバーかな?
その周りにおっさんやおばさん。……と言いたい所だが、大学生っぽい若い男女や高校生くらいの少女までいたのだ。おっさんもいるけどね。
俺……場所間違えたかな?
まことに恐ろしいことではあるが半分は女性である。85%がおっさんって言ったやつ、俺に土下座しろ。
すると会話の中心になっていた若い女性がこちらに気づいて手を振る。
「はーい、ターニャ! ちゃんと来れたね!」
俺の首が勝手に隣の少女の方を向き「ぎぎぎぎぎぎ」とさび付いた音を立てる。
今あり得ない事件が俺の前で起きた。
「ナターシャ?」
俺は指をさした。胸をさしてしまったのは不幸な事故である。わざとじゃないよ!
それにしても詐欺だ! 絶対に詐欺だ! この大人しい少女がナターシャ!
汚いおっさんだと思っていたのに!
絶対眼鏡で太っててハゲてると思ったのに!
30代後半、いや40代だとすら思っていたのに!
「もしかしてケイちゃんですか?」
「あ、は、はい。ケイです……」
「そっかー。えへへへ、服屋さんではありがとうです」
人なつっこい。ナターシャが笑う。
そして貞●ロングヘアの隙間から顔が見える。
目はぱっちり、肌はきめ細やか……全体のパーツは整って……美形やーん! すんげえ美少女! 詐欺だ! 完全な詐欺だー!
少し疑問なのはどことなくNPCのアオイと似てるような……。
いや、アオイは貞●じゃない。でもなんとなく似てるような。
俺が頭を抱えていると、それを知らないナターシャが元気に言った。
「セリナ。お家から出た!」
いやハードル低すぎだろ。なにドヤ顔してるの!
って、それより重要なことが起こった! 俺はさらにギギギと首を鳴らす。
そこにいたのは先ほど会話の中心にいた20代の中頃くらいの女性。それがあのセリナだ。
お前もか! お前もなのか! お前もおっさんロールプレイガチ勢か!
お前自分でおっさんって言ってたやん! 40代って言ってたやーん!
「詐欺だ……」
「ケイちゃん、それは誤解ッス。私の中にはちゃんと汚いおっさんがいるのです! えっへん!」
セリナは拳を突き出して言った。
それを詐欺と言っておる!
あと心の中のおっさんは飼うな!
それは加齢とともに勝手に外に出てくる野獣だから!
「それにケイちゃんだって30代中頃かと思ったのに! まだ若いじゃん!」
ギリギリ20代だが若くない! なにもしてないのに全身が痛い!
だが抗議などする間は与えられない。
畳み掛けるようにセリナが言った。スルーされたとも言う。
そのまま店内に案内され座敷に通される。
席に座るとセリナが場を仕切った。
「さあ、ナターシャギルマス。今日のご挨拶を」
パチパチとギルドメンバーが拍手をする。
ナターシャは「ふぇ」と困惑した声を出した後、考える。考える。……考える。
いつものマシンガントークはそこにはない。
だが……中身はナターシャだった。
「脱ぎます」
「おいやめろ!」
ナターシャは選択した。スピーチを要求した俺たちへの報復を。社会的抹殺を。
いかん止めねば!
俺はナターシャを羽交い締めにする。
すると俺の端末がメッセージの到来を知らせる。
俺はセリナにバカを引き渡し、メッセージを確認する。
『ええい離せ! てめえら全員地獄送りにしてやる! 刑務所の飯でも喰ってろ! 死ね! 全員死んでしまえ!』
貴様か!
大暴れしながらメッセージ送りやがった!
アホだ……アホがいる。
俺はセリナに画面を見せる。
するとセリナがほほ笑んだ。
「くすぐりますね」
「うにゃー!」
セリナはナターシャに襲いかかる。若い女性同士のキャッハウフフ。いいものを拝見させていただきました。
と思うだろ?
疲れすぎたのか俺は賢者モードになっていた。
あまりの情報量に脳がついて行けない。……最近の若い子は元気じゃのう。ふぉっふぉっふぉ。
老化してみたが意味はなさそうだ。
バカなことをやっていたら、少しだけ頭が情報を整理できた。
つまりだ……ナターシャはネット弁慶なのだ。それも重度の。
リアルではマシンガントークも毒舌も言えない女の子だったのだ。
そしてセリナはネットオナベ……いや汚いおっさんロールプレイガチ勢。
おっさんが金髪小学生になりたがるのも世間体が悪いが、セリナの方はもっと謎である。
中身は汚いおっさんという設定の金髪小学生。中身は20代女性……闇が深すぎる。
だがセリナはさも当たり前のようにしているし、まわりの連中も誰もツッコミを入れなかった。
つまりだ。これが8月32日なのだ。
エンドレスサマーを楽しむのはおっさんだけじゃなかったのだ。
みんな……みんな、老若男女みんな疲れていたのだ。
みんな現実というクソゲーに見切りをつけて、死ぬまでの短い刻をただ生きることを選択していたのだ。もうやだこの社会。
その後、飲み会を楽しんだのだが記憶がない。
ナターシャを送っていったような記憶がかすかにあるが、それも曖昧だ。
とにかく騙された。騙されたのだ。
こうして俺たちの終わらない夏休みは、異次元の方向に転んでいくのだ。




