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恐怖、キレた魔法少女の陰謀

 テレビでは連日メタリックゲームスの悪口が報道されていた。

 ほとんどが俺への悪口である。個人攻撃だ。

 高校生と結婚というわかりやすいターゲットだったのだろう。

 完全な捏造である。

 ところが世の中の人たちは報道を信用してないのにも関わらず抗議の声を上げた。

 会社へは抗議の電話が殺到。

 児童婚に反対するNPOやらNGOが俺への抗議声明を出す。

 署名サイトでは俺の死刑を望む署名が始まった。

 罪刑法定主義(他人様裁くならちゃんと法律作りやがれ)が忘れられて久しい。

 警察にも事情聴取され、それがまた報道される。

 だから結婚ってどこ情報だよ!

 テレビでは会ったこともない同級生がデタラメをしゃべる。

 記憶にある同級生は出ない。

 これは俺の人徳だとうぬぼれていいに違いない。

 自宅には毎日突撃。

 実家にも毎日突撃。

 これらはアプリで訪問時間と回数を記録して弁護士に自動で送信される。


 会社は婚約を否定。

 そりゃしてないのだから当たり前だ。

 ありがたいことにネットは好意的。

 いや性格に言うと俺に好意的なのではなく、オールドメディアに対する反感で俺に優しい。

 テレビを消しさえすれば叩かれることはない。

 わからないのは元婚約者の動き。

 俺から取れる金など……約150万円の銀行預金くらいだ。

 葵だって、


「お前が大金持ったらろくなことに使わない!

ってお祖父様に言われたから50万円しか持ってないです。

これだって芹沢さんの監視付きなんです。

私が金を自由に使えたら全部お菓子に消えるって……」


 と言っている。

 太るぞと言ったらローキックされた。ひどい。

 なお番外編としてセリナこと芹沢さんは、


「貯金?

あるはずないでしょ。

すべて酒と課金に消えてますよ!」


 ……ダメな大人がいる。

 だが俺たちの世代はそんなものだ。

 刹那で生きている。後先など考えない。

 結局、目的もわからないまま一週間が経過した。

 してしまったのだ。

 俺は気づいていなかった。

 毎日うちで飯を食べてるあの葵が……妙におとなしいことに。


 一週間経った。

 まだテレビでは俺を叩いている。

 メタリックゲームスはサクサク訴訟準備を開始。

 俺はボケっと見てるだけ。

 だがそんな日常は一瞬で崩れ去る。

 それは前時代の遺物、SNSで起こった。

 一枚の写真が大量に拡散された。

 それはあの記者と元婚約者殿。

 背景は最低プレイ人数二人以上のホテル。

 それだけじゃない。

 あの会社の帳簿やら、経営者の銀行口座などの財産目録。

 それだけだったら小さな会社の自爆で終わった。

 だけどここでメタリックゲームスのライバル企業の名前が出てくる。

 何十年も前からゲーム会社は多角経営化に着手していた。

 ……なんというか、ゲームは安定して利益を出すのが難しい。

 流行り廃りが恐ろしく速いし、投資額はうなぎのぼり、しかも勝利の方程式はない。

 社員がひとりいなくなっただけでクソゲー生産機と化してしまうのだ。

 だから他の業種で稼ぐ必要がある。

 キャラクターグッズ、お菓子、業務用ソフトウェア制作。中には熱帯魚用品までつくっていたところもかつてあったほどだ。

 ほとんどが副業が本業になっちゃったり、倒産したけどね。

 専門学校……それに学習塾。

 どうやら俺たちは商売の邪魔をしたようである。


 さらに例のクーププレイ専用ホテルの写真には詳細情報も添えてある。

 元職場はVR化どころか電子化にすら乗り遅れてシェア急落。

 俺がいた頃から「紙には魂が宿っている」と言い張る変人教師向けの教材だった。

 そもそもだ。

 例えるなら木のスプーンとステンレスのスプーン。

 同じスプーンだ。

 木のほうがぬくもりがあるかもしれないが機能的には同等。

 それならばシェアはたいして変わらない。

 電子書籍もAR化の恩恵で、実物と比べても使い勝手で劣っている部分はない。

 むしろ場所を取らないし忘れ物もない。しかも毀損することもない。

 なので教科書としては優れている。

 滅びこそしないが紙がシェアを落とすのは必然だろう。

 印刷の時代が来たときも「手書き写本には魂が宿ってる!」って反対した連中多いんだろうな……。

 元の職場では俺も電子化しろやボケと主張したが、紙には魂が宿ってる理論で却下された。

 論理的で建設的な意見ならわかるけど、オカルトじゃ批判する気にもならん。

 直後にクビになり結局は俺の言った通りの結果がついてきたわけである。

 教科書会社と塾経営。

 嫌な予感がして調べた。


【紙の教材と木のテーブルによる魂の宿った学習塾】


 そっとブラウザを閉じる。

 俺たちがなにかしなくてもじきに滅んでたと思うのよ。

 普通さ、宣伝するなら【進学実績】とか【テストの点数が上がります!】とか【どの子もちゃんと最後までカリキュラムをやり遂げられます】とかじゃない。

 やめてよこういうの!

 なお俺たちは最後のやつ。

 受験よりも学校ドロップアウトした子向け。

 そもそもが棲み分けができているはずだ。

 だが……そこまで考えてないんだろうな。嫌がらせする側は……。

 その状況判断の拙さ、情報の少なさで自爆したのだろう。


「それにしても誰がリークしたんだ?」


 そう言いながら部屋に戻る。

 世間の空気など一切読まずに葵は部屋に上がり込んでいた。

 すでに合鍵を持っているのだ。

 葵はVR端末で何やらしている。

 嫌な予感がする。

 俺は8月32日にアクセスする。

 すると葵のアバター。

 魔法少女ナターシャがクランの仲間たちとなにやらやっていた。


「お、ケイちゃん。仕事終わったの?」


「まあな。会社は任せろってさ」


「いつも通りだね」


 いつも通り。

 なのになぜか不安になる。


「ナターシャはなにしてたんだ?」


「悪党を成敗してた」


 とてもいい笑顔。


「ちょっと待て。もしかしてお前……」


「まあまあケイちゃん。聞いてよ。

8月32日のユーザーは数億人。

数億人の中でケイちゃんに味方してくれる人は……案外少ないけどそれでも市長になれるくらいいるよ」


 つまりだ。

 この魔法少女、なにかしやがったことを遠回しに白状したのだ。


「ケイちゃんが思っているよりケイちゃんには味方が多いってことよ。

ま、日頃の行いがよかったんだね」


「……なにをするつもりだ」


 もう終わったはずがない。

 この魔法少女。

 唐揚げの恨みを三週間は保持できるのだ!


「私は私の居場所を守るだけだよ」


 にっこりとする。

 その笑顔に俺は……背筋が凍った。

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