夜の女王の娘 女優退場
時間は、退院後、桜は、元の生活に戻ります。
サブタイトルの「女優退場」は、『銀英』からです。
桜は、家に帰った。
戸籍上の父親は、かつての笑顔は消え失せたが、自分のしたことを悔いて、桜には、なにもしなかった…………………
学校には、急病で倒れて入院していたことにした。
元の生活に戻った。
だが、来栖路可の手術の代償は、説明を受けて、わかっていたつもりだったが、想像を超えたものだった。
担任「桜さんは、できる子のはずなんですが、まったくやる気がないように見えるんです。一度、婦人科の病院でみてもらった方がいいかもしれませんね」
桜は、家に帰れば、ベッドに寝転がりなにもしなくなった。
サクラママ「桜、またそんなことしてる。そんなことしていると、勉強遅れていくばかりだよ」
桜は、この原因がなにかわかっていた。
わかっていたからこそ、婦人科の診察を拒んできた。
無理やりつれていかれた。
婦人科医師「触診しますから」
既にパンツは脱いでいるので。
婦人科医師「なんの手術をしたんですか?」
桜、答えない。
婦人科医師「子宮の位置ですね」
婦人科お約束の拘束具を外す。
婦人科医師「直腸の中を触診します」
桜の中に、婦人科医師の指が入れられた。
婦人科医師「やはり子宮がない」
婦人科医師「しっかりと外科の技術を持った者に、子宮、卵巣、いわゆる赤ちゃん穴が切除され、ふさがれ、○○○○さえできない身体にされてます。娘さんの症状は『更年期障害』です」
次の日、桜が学校から帰ると、サクラママは、現金と、貴重品と、いくつかの着替えを持って家を出ていったあとだった。
桜の戸籍上の父親は、家裁に、「悪意の遺棄」で調停をおこし、認められ、離婚が成立した。
話しは、桜と、来栖路可の会話に戻る。
ルカ「救ってください てどういう意味かな?」
桜「私の身体から、子宮と、卵巣と、赤ちゃん穴を取ってください」
ルカ「更年期障害って知ってる」
桜「はい」
ルカ「普通は、老化現象でホルモンていうのが出るのが少なくなるの」
ルカ「あなたの場合、完全に無くなるの」
ルカ「しかも、あなたは、これから大人になろうとしてるの。大人の更年期とは違うの。猫だって、子猫の時には、不妊手術はしない方がいいと言われてるの」
桜「私は、リリンなんです」
ルカ「サタンの娘たちリリムのこと?」
桜「そうです。私は、悪魔を本当の父親に持ち、夜の女王を母親に持つ、リリムです」
ルカ「本当の父親を悪魔と呼び、自分を産んでくれた母親を『夜の女王』と侮蔑しなければならないなんて」
桜「生まれてきたことを呪うしかない。だけど、全身の血を棄ててしまう勇気はないんです」
ルカは、「かわいそうな子」と言う言葉を飲み込んだ。
上から目線の傲慢でしかないからだ。
桜「だから、大人になってからでは、遅いんです。だって早い女の子は、中学生の内に初体験をすませてしまうんですよね?」
ルカ「早い女の子は、そんなもんだね」
桜「男の人を知れば、私は、夜の女リリムになってしまう。夜の女になれば、母と同じか、もっとひどいことをしてしまう」
桜「仮に優しい男の人に結婚してもらったとしても、間違いなくその男の人の子供を産んだとしても、私は、いい母親には、なれないはずです」
ルカ「夜の女王の娘、夜の女リリムの宿命には、抗えないと?」
桜「はい」
ルカ「でもね、ただという訳にはいかないわ」
桜「……」
来栖路可のところをあとにして、
再び、安っぽいネトゲのようにぞろぞろとついていった。
桜の家へ。
桜の戸籍上の父親は仕事でいなかった。
桜は、自分と姉の部屋で、預金通帳、印鑑、何故か、全巻揃っていると思われるコミックスを大きなバッグに入れていった。
愛と、喜多は、桜の悲壮な思いに言葉もなかった。
家を出る。
持ち出したコミックスを売る。
それなりの値段で買い取ってくれたが、定価で買い揃えようとするといくらになるのか。
夜、来栖路可に教えてもらった場所。
住宅街の中にある家。
桜「足りない分は、後でどんなことをしてでもお払いします。手術を」
来栖路可「自分名義の預金、お金になりそうなものの売却、お財布、これを私に差し出せば、少なくとも、今のあなたには、一円も持っていないことになるはずね」
桜「はい」
来栖路可「持ちうるお金全て、それが、私の手術の報酬です。あなたの臨手術お受けします」
手術室
来栖路可「私の愛する天の神様、夜の女王の産みしかわいそうなリリム、この少女を私の信じる手段で救いたいと思います。罪を重ねし私の肉体と、魂は、どうかゲヘナへお棄てください。イエス・キリストの御名をもってお祈りします。アーメン」
来栖路可「数を数えてください」
夜の女王の娘
完
続編、新章は、新連載のかたちになります。