小話③酒場の食材事情2
昨日は投稿が遅れてしまってごめんなさい! そこで、今回は2話連続投稿です。どうぞ、お楽しみください。
「ここが街で人気の酒場か」
男はテーブルや椅子の木目に指先を滑らせつつ、品定めする様に店内を見回る。しばらくして、小さくかすかに嘆息した。
「……ほう」
期待はずれといった含みのある、言葉。
「注文は?」
マスターはその言葉に取り合わず、普段通りカウンターに立つ。男は苦笑を漏らしながら、椅子に座った。
「メニューはあるのかね?」
「メニューは無い。酒は俺の後ろにある棚から」
「何?」
マスターの無愛想な声が響く。
男はわずかに眉をひそめ、口を開いた。
「なら、食事は何でもいい。酒は右端の黒いラベルの物を」
ーーー
「どうぞ」
コトリと音がして、店内にその香りが漂う。片眼鏡の男は、その肉料理に反応を示し、テーブルの上を見た。その目は次第に驚きへと変化し、ゴクリと唾を飲み干す。
「こ、これは」
恐る恐るナイフとフォークを手に取り、出された料理へナイフの先を入れる。力を入れずとも簡単に切れる、その肉の柔らかさ。いやが応にも期待感が高まっていく。
「!?」
口に入れた瞬間。
その柔らかさと、弾ける様な油の甘みが広がっていく。高級な料理店にも引けを取らない、食材本来の旨味と噛みしめるほどに得られる満足感。想像を超える美味さに、片眼鏡の男は夢中で食べ進めた。頼んだ黒ラベルの酒もまた格別で、瞬く間に酒瓶がカラになっていく。
気づけば皿の料理は、綺麗になくなっていた。食事に満足して一息ついていると、周囲のざわめきが聞こえてくる。余程、料理に夢中になっていたらしい。酒場は、ちらほらと客達の姿があり賑わい始めていた。
「この味ならば、客が来るのも頷ける!」
男は何か確信を得たのか瞳の奥に鋭い光を宿し、席から立つ。
その光景を眺めていた客達は、誰もが言葉にせずとも思いを1つにしていた。
「なんだか、また厄介事が始まりそうだ」と。