小話②ミルクを飲む男2
ミルクを飲む男の続編。果たして、ポチの正体は? 1樽ミルクの行く先は?
怪しい男のミルク注文。
そして、謎の存在「相棒のポチ」。
予想を超える発言に、酒場の客達は混乱に陥った。
相棒のポチ。名前の雰囲気から察するに、犬とか猫とか鳥など身近で人と暮らしている小動物だろうか? ミルク1樽を考えると、小動物には多いように感じられるが。保存用か、自分用なのだろうか?
第一印象と釣り合わないその発言は、一部の年若い客達に侮った感情を抱かせる。その感情は嘲り。言葉に出さずとも、口には嘲笑の笑みが浮かんでいた。明らかに礼儀を失する行為だ。盗み聞きも、失礼ではあるが。けれども、その行為を諌めようとはしない。それはとばっちりを受けるのが嫌だ、という意見もあるが、発言も行動も基本「自己責任」。店自体に問題が飛び火しない限り、マスターも客達も関与しない。この店の暗黙のルールだ。
そんな時だった。
突然、店の外が騒がしくなる。女性の悲鳴や子供の泣き声。馬の嘶きや人のざわめき。外で何か異常事態が発生しているのは明らか。徐々に明瞭になってくる声に、「何か」が接近してくるのを肌で感じた。そして。
バキャッ。
「ワォォォォォォン!!」
雄叫びと共に、酒場の扉が粉微塵に吹き飛ぶ。扉を吹き飛ばし、店に突進して来た「そいつ」は宙で一回転して見事、床に着地。タッタッと音もなく店内を走り、噂の渦中にいたミルク男の足にすり寄った。
「な、あ」
年若い客達の1人が顔を青ざめて、呻く。その視線は、人の大きさと遜色ない、黒い毛並みの生物に釘付けだ。
「艶のある黒い毛並みに、紅の瞳。吐き出される炎は、何者だろうと溶かし燃やし尽くすという」
ーー地獄の番犬:ヘル・ハウンド
その説明を聞いた客達全てが凍りつく。
こんな街中でいるはずの無い存在。それも魔物であるその番犬を、普通の犬と同じように接するミルク男。
「ポチ。飯だ」
男は何食わぬ顔で、先ほどマスターに用意してもらった樽の栓を開け、トクトクと大きな皿に注いでヘル・ハウンドに差し出す。すると嬉しさのあまり尻尾を振り乱しながら、ミルクを飲み始めたのだ。
『……』
異様な光景を目の当たりにした若者達は、冷や汗を流す。視線を感じたのか、ミルク男が彼らに目を向ける。
『ひっ!?』
言葉がなくとも分かる。目を向けられた瞬間のこの威圧感。彼らは1秒の間をおかず、その場にひれ伏す。
『大変、失礼しました!!』
人を侮っては天罰が下る。それを身をもって実感したのだった。
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その後。
「お客さん。お代と扉の修理費を」
「あ、あぁ」
ミルク男は、マスターにお金を支払い酒場を後にしたのだった。
予想以上に長くなり、自分でびっくりです。これはどんどん長くなる予感……。次回のお話は、「酒場の食材事情」。なんだか偉そうな商人が来店し、またもやひと波乱起きそうなご様子。マスターは、一体どうする!?