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お妃さま誕生物語  作者: violet
番外編 マクレンジー帝国皇太子ジェラルド
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赤い花

ジェラルドが軍に着くとエンボリオが手を降っている。

「昨日は遅くまで悪かった。

新婚さんの邪魔したな。」

「いや、あいつも楽しかったみたいです。」

「さすが姫君、すげえ美人だな。

しかも銀の髪だと皇妃様と同じだ。」

皇妃も皇太子妃も銀の髪ですよ、と心の中で言いながらジェラルドは答える。

「綺麗で、珍しいでしょ。」

隠さない方が不信に思われない。


「昨日の国境警備だが、お前は行くなよ。

奥さんを悲しませるわけにはいかん。」

エンボリオはこれが言いたかったのだろう。

「指令が出れば仕方ないですが、気を付けますよ。」

じゃ、訓練に入るか、と手合わせを始める。

「今日から、視察官の護衛が訓練に参加するらしい、そのうち会うだろうが、無礼をするなよ。」

はい、とジェラルドが頷くのを見て、エンボリオは手合わせを続ける。

ジェラルドは6歳からマクレンジー軍に入隊した、最初は生き延びるのが精一杯だった。軍の訓練は子供には過酷過ぎる。

剣だけでなく、逃げるタイミング、機敏性、駆け引き、全てにおいて命懸けだった。

それはイライジャ達も同じだ。この駐屯軍で実力を出すわけにはいかない、過ぎた腕前は目立ち不信をかう。


マクレンジー軍では次々投入される側近の子供達が集まった。足手まといであろう子供達の面倒をみたのはディビットである。

あそこでの連帯感があるから、お互いの命を預けられる。

父に与えられた主従関係であるが、自分達で勝ち取った関係は仲間だ。



夜遅くになって、リアム達が町に着いた。

人目を避けるように家の裏手に馬をつける。既にジェラルドとイライジャ、オリバー、ベンジャミン、アレキサンダーが待機していた。

レイラはナンシー達の家に行っている。


机の上に置かれた赤い花にジェラルド達の視線が集まる。

「これは?」

「リッチモンドでは、キビを砂糖に加工したあと茎や葉が堆肥や家畜飼料として利用されている。これもそれで栽培されたのだろう、山間部で隠すように栽培されていた。

広大な芥子(けし)畑、つまり麻薬栽培だ。」

リアムの言葉で全てが繋がったとジェラルドは思った。

「昔からある麻薬だ。温暖なリッチモンドは農産物栽培に向いた気候だが、土壌が()せていた。

だが、灌漑(かんがい)工事、キビ栽培、廃棄植物と土壌を変える方法ができたんだ。」

「個人ではできない、組織があると考えて間違いないな。

だが、どこに流れているんだ?」

「立地からみて、ルクティリア帝国、タッセル内乱地帯だろうな。

まだ表面化してないが、麻薬に汚染されている可能性が高い。

それから、先の国にも汚染は延びているかもしれない。」

「ジェラルド、首謀者は総領事ではないかもしれない。」

「どういう事だ?イライジャ。」

「今の話で思ったんだが、総領事は私兵隊出身だ。2年ほど前までは駐屯軍の訓練にも参加していた。

だが、今は参加していない。」

ジェラルドとオリバーも解ったのだろう、うーんと(うな)った。

訓練に参加する体力がなくなったか、不安定になった可能性がある。

「総領事ぬきでは、砂糖に(まぎ)れ込ませて国境を超えさせるなど無理だ。

そしてトーバ内を秘密裏に運搬するにも総領事の力なくてはできない。

つまり、仲間に引き込む為に麻薬中毒にされている可能性が高い、と言う事だな。」

これが、と言ってベンジャミンが出したのが総領事夫人の宝石購入のリストだ。

他にもドレスもあるであろう、王族でもこれほど頻繁には買うまい。

これの費用はどこから出ているのか、麻薬の代金はかなりの額になるはずだ。

「総領事邸に戻ったら、アレン達と麻薬も探してみる。

裏帳簿はなかなか見つからない、夫人の部屋にあるのではないかとみています。

オースチン・アルマンドと夫人は20歳以上歳の差がある。

夫人は恋人がいたらしいが、別れさせられて嫁いできたようだ。

それほど、夫人の実家ではトーバ総領事というのは魅力的なんだろう。

夫人は軍に守られて別邸に時々行く。

しかも中隊が警護に出ている、かなりの人数だ。用心せざるを得ない何かがそこにあるとアレンが言っている。

別邸の地図は手に入れた。」

夫人はルクティリア帝国の貴族だ、ルクティリアで麻薬が流通しているのなら関係があると考えるのが普通だ。

中隊が出動するなら、エンボリオも警護に行っているのだろう、とジェラルドは思う。知っているから、僕達にあれほど注意するのかもしれない。

タッセル内乱地帯はどうだ?

あそこは長い内戦で疲弊している、麻薬におぼれやすいだろう。


ジェラルドが、フーと長い息を吐く。

「今より、全責をマクレンジー帝国皇太子ジェラルドが負う。」


ジェラルドの親書を(たずさ)えて、リアムがリッチモンド国王の元に、ヘンリーがルクティリア皇帝の元へ向かい、アレキサンダーがマクレンジー帝国に報告に戻る、こちらに帰って来る時は軍隊を連れてくるだろう。オリバーはタッセル内戦地帯の偵察。

麻薬を運ぶのであれば、砂糖に隠して人が持ち運べる可能性がある。

横領が解るほどの量の砂糖となると馬車の単位になる。

もっと大きな物も隠されて運ばれている、麻薬だけではないかもしれない。

国境から横領された砂糖が別ルートで運ばれ隠された倉庫、なんとしても探さねばならない。

そして、それはトーバで使われるのか、運ばれてどこかに行くのか。



砂糖の横領と見られたものは、別の事件へと姿を変えていく。

リヒトールは、戦場より危険だと言った。最初から砂糖だけでするリスクでないと読んでいたのだろう。

リアム達がジェラルドの家を出たのは朝日が登ろうとする頃だった。

胸元にはジェラルドの親書を隠し、馬に飛び乗った。



随行官僚のオリバーと護衛官のアレキサンダーは仕事が終わった事を総領事に告げ、馬車で総領事邸を出た。

途中で馬車は捨て、其々が単騎でマクレンジー帝国とタッセル内戦地へと別れた。


時代が動いて行く。


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