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お妃さま誕生物語  作者: violet
番外編 極東首長国王ガサフィ
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決意の朝

翌朝早くから大将、中将、少将、准将の将官達が集められた。

ガサフィは集まった情報と対策を話していた。議題ではない、話し合う必要がないぐらい選択肢は一つしかない。

「私は地位ではなく若い兵士を優先しようと思っている。」

大将の一人がガタンと席を立ち、膝をついた。

「陛下、ありがとうございます。」

そうだった、息子が初陣として参加している。大将の息子だから最低位ではないが、准尉のはずだ。

子供を助けたい、それは誰もが持つ願い。


「私は無力だな。」

ポツリと口からでる言葉。


「無力だったら、すでに軍は壊滅しています。陛下だからこそ我々は生き伸びています。」

中将の一人が言うと、他の将官達も声をあげた。

「最初に亡くなった者達は、先攻隊として街に入った時に上官の撤退命令を無視して、街の住民の遺体から金品を盗んだ者達でした。極東首長国軍は奪略、強姦を禁じてますが、新しく吸収した国の兵程それが徹底できてません。その結果、感染して軍内に広めました。」


「そうか。」

起きてしまった事を悔やんでも戻りはしないのだ。


「我々は国の為に戦っています。

伝染病という病に侵されつつある国を守ります。」

「私の国は極東首長国に吸収された国の一つでした。だが、吸収されて生活は良くなった。

私は妻と子が暮らす街を病から守りたい!」

「ここで食い止めます!」

「我が陛下に永遠の忠誠を!」

将官になる者達だ、覚悟はできている。だが、下級士官になるほどパニックになるだろう。

「陛下、薬がなくとも我々は勝ちます。隔離を急ぎましょう。」

「感染リスクをもっと細かく分けましょう。高リスクと低リスクを同じ部屋で隔離はできません。感染の可能性のある者同士でうつさないように、少人数の部屋をたくさん作ります。」

「それと並行して予防薬の投与です、各指揮官が10代20代の者を投与に向かわせます。」

将官達がそれぞれの役割を振り分けていく。


「ああ。」


「陛下、うちの女房は女神様のように綺麗じゃないですが、俺みたいなものによく尽くしてくれたんです。

アイツの為になら守り切りますよ。」

まだ若いであろう准将が笑って言う。

「いつかはあの街からネズミなどで感染が広がったであろうと学者が言ってたじゃありませんか。

私達は早い段階であの街を見つけ、焼き払いました。

この進軍は国を守りました。」

あの街もどこかから感染したのであろうが、感染元は死滅してないだろう。

この砂漠で食い止める、それ以外はその後だ。


ガサフィがリデルを守るために決意したように、其々(それぞれ)が大切な人の為に決意する。

それは妻であり、恋人であり、母であるかもしれない。

そして最後に一目会いたいと思う人であるのだ。

「誰も亡くしたくなどない、亡くしていい命などない。

隔離が成功すれば生き残れる。症状が出た者はすぐに申し出て薬の投与を受け、他に感染しないようにするんだ。

生きるという強い意志を持って行動をして欲しい。」

ガサフィの言葉が震える、それでもその願いは強く響く。



ガサフィは薬を飲んでいる、生き残るであろうという罪がガサフィを打つ。

ガサフィは王として国の為に生き残らねばならない、そしてそれは部下達の願いと解っていても、ガサフィ自身が自分を許せない。

そして生きてリデルに会える自分を喜ぶ気持ちがある事は紛れもない事実なのだ。

ここで死んでいく人間の責務を背負うのが王だ。

過去の戦争でもたくさんの戦死者、負傷者をだした。だが、この感染症はそれよりも大きな死者を出す可能性がある。

リヒトール陛下はあの時、王でなく一介の商人でありながら、1万人の命を選んだ。商人であっても心は王だったのだ。

自分は幼い時からあの執務室に出入りを許されたのだ、見て来た事を思い出せ、と自分を奮い立たせる。


解散と同時に各自が走った。

一刻の猶予もならない、感染の先手に行動すれば勝てるのだ。

学者が持ってきた薬をすでに飲ませている初期の患者も居る。

最低限の犠牲で勝つのだ、隔離室の用意をする者、隔離される者の中には暴れる者もでるかもしれない。

すでに特効薬の手配が済んでいる、数日もせずに届くだろう。

皆が希望を願いながら自分のできることをしていく。



王都では第一子を妊娠中のリデルが報告を受けていた。

すぐにでもガサフィの所に行きたい、だが産み月に入った我が子を産むのが責務だ。

この国の世継ぎになる御子、無事に産まねばならない。

それがガサフィの信頼に応えることになるとわかっていても、ガサフィの元に駆けつけたい自分がいる。

だが、自分の行動の全てがこの国に見られているのだ。

同じように不安で待っている兵士の家族達がいる。それは王妃も平民も変わらない、大事な人を想う気持ちは同じなのだ。

「私は王妃リデル、落ち着くのよ。」

王宮内には敵がいる、悟られてはならない。

王妃であっても、全ての人間に受け入れられた訳ではない、少数とはいえ油断のできない人物はいるのだ。


国内に病が入らないようにガサフィ達は頑張っているのだ、自分がここで気弱になる事はできない。

遠く離れているガサフィとリデルがお互いを思いやる。

まだ何も知らされていない国民は、大事な人の帰りを同じ空の下で待っている。

もし、伝染病を知らされたら大混乱が起きるだろう、それを静めるのはリデルしかいない。


ガサフィは軍と上層部に緘口令(かんこうれい)をひき、伝染病は国民に知らされることなく終わらせたいだろう。それはこれ以上の感染を出さずに終わらせる事が大前提なのだ。

そして戻って来るガサフィをリデルは迎えたい。



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