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お妃さま誕生物語  作者: violet
番外編 ジェラルド
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花園

毎日届けられる花にレイラの部屋は埋もれている。

花は好きだけど、ここまでになると嬉しさはなくなる。

義務のように水を換え、傷んだ花びらを摘み取る。

「イタ。」

細い葉があったのか、茎を切ったところにひっかかったのか、レイラの指に小さな傷。

うっすらと血が滲んだ。

侍女が来客を知らせに来たのはその時である。

名前を聞かなくてもわかる、ジェラルドが日参しているからだ。

「レイラ。」

侍女が開けた扉から花束を持ったジェラルドが入って来た。

「レイラ!」

ジェラルドは花束を放り出すとレイラの元に飛んできた。

「指をケガしているではないですか、血が出てる。」

「ちょっと切っただけで大したことありませんわ。」

「血がでているんですよ。」

ジェラルドの様子は瀕死の重傷者に対するような扱いだ。

「早く医者だ。僕が治療する方が早い、薬を早く。」

一緒に来たウィリアムの息子のイライジャは驚いて声もでない。

ジェラルドは他人の血を見るのが大好きな危ない人種なのだ、間違ってもかすり傷で大慌てした事などない。


「イライジャ何をしている、早く薬をもらって来い!」

「わかった。」

侍女殿、案内願えるか、とレイラの侍女に声をかける。


「ジェラルド、治療するほどの傷ではないわ。」

「バイ菌でも入ったらどうするんだ、血がでてるんだぞ。」

普段のジェラルドを知らないレイラは心配性ね、と思う。


それはあっという間の事だった。

ジェラルドがレイラの指の傷に口付けすると舐め始めた。

「きゃー!やめて!」

レイラが捕まれた手を引こうとするが、逃がすジェラルドではない。

「僕は婚約者ですよ、何をしても許される。」

レイラの血で興奮しているジェラルドは、レイラを抱き上げると奥の部屋に進む。

そこにベッドがあるのを知っているレイラは真っ青になる。

「やめてジェラルド!」

ジェラルドは震えるレイラをベッドに降ろした。

「手をだして、傷を見せて。」

レイラはびっくりしてベッドの脇に立つジェラルドを仰ぎ見た。

「あの、誤解してごめんなさい。傷は大丈夫だから。」

真っ赤な顔をしたレイラが言う。

手を洗う水桶と薬を持ったイライジャと侍女が戻ってきた。

「ここは寝室だから、僕は出てるよ、侍女にちゃんと手当てしてもらって。」

「わかったわ、ありがとうジェラルド。」


寝室から出て来るジェラルドと入れ替わるように侍女が薬を持って入って行った。

「あの侍女に看護の心得は有るかな。傷が残ったら可哀想だ。」

呆れたイライジャが答える。

「擦り傷だったじゃないか、ケガと言う程でもないよ。」

「血が出てたんだぞ。」

誰だ、お前。イライジャの目は他人を見る目である。


イライジャにとってジェラルドは、戦闘時に出血の多い斬り方をするとか、拷問の時に少しずつ斬っていくとか、相手に苦痛と流血が多い方法を選ぶのだ。

人間の血管の構造に詳しい、それは何の為だと聞いたら趣味だと答える人間だ。


「ジェラルド。」

治療を終えたレイラが部屋から出てきた。

ジェラルドはレイラの指に包帯が巻かれているのを見て安心したらしい。

すぐにレイラの手をとりソファに座らせる。

花に埋もれたソファーに座るレイラを見て、ここは妖精の国かと思う。

「明日は孤児院の慰問に行くので、夕方まで留守にします。シーリア叔母様も行かれていた孤児院なの。」

「誰か護衛を付けましょう。」

「そんな事すれば、子供達が恐がるわ、今までも問題なかったもの。我が家の護衛が付くから大丈夫よ。」

どうでもいい子供の事まで考えるとはなんて優しいんだ、やはり天使だ、妖精だとジェラルドは思考が捻れている。

子供は世間一般にどうでもいい事ではないが、ジェラルドにはレイラ以外どうでもいい事なのだ。

遺伝のなせる技か、父親と同じである。




ところが、その天使は孤児院で子供達と一緒に攫われてしまったのだ。

その報を聞いたデュバル公爵家とジェラルド達は直ぐに動いた。


孤児院からの煙を見てジェラルド達は孤児院に駆けつけた。

数十人の男達が孤児院に押入り火をつけた。逃げ惑う孤児院のシスターと消火活動をしていた護衛達を斬りつけ、レイラ達を連れて去ったというのだ。

同じように駆けつけてきたデュバル公爵家の持っている情報と照らし合わす。

孤児院と揉めている貴族がいる、孤児院の場所に劇場を造りたいとの交渉が強行で、この貴族が疑われている。

お抱えの女優が、孤児院の場所が気に入っているらしい。


街を暴走するレイラ達の乗った馬車はたくさんの人の目についた、しかも昼間の出来事である。

王宮にも情報が届けられ、アランも直ぐに動いた。

王都で公爵家の令嬢が攫われるような暴挙が許されてはいけないのだ。


レイラが連れ込まれた場所は、お抱え女優のいる劇場だった。

ジェラルドの怒りは凄まじく、直ぐに飛び出し劇場に向かった。

レイラを助けるのは僕だ、この国の兵などに後れをとるものか。

それよりもレイラが心配でたまらない。

後をジェラルドの側近達が追う。

レイラに密かに着けた護衛の姿もないことから、彼らがレイラを守るために着いていったのは明白であった、それだけが不安を減少させた。



「お前はなんて事をするんだ。」

「あら、これぐらいでないと孤児院は立ち退かないわよ。」

グフロフ子爵は劇場で女優のカメリアに詰め寄っていた。

「デュバル公爵家の姫君なんだぞ、しかも王太子の婚約者だ。」

王太子の婚約者が替わった事はまだ公表されていない。

「ええ、そんな娘だったの。質のいいドレスを着ているとは思ったけど、知らなかったんだもの、仕方ないわ。」

レイラは孤児院の慰安に豪華なドレスは着ない、シーリアもそうだった。子供達と遊ぶのに必要ないからだ。それがならず者達には下級貴族の娘に見えたのだろう。

カメリアが町のならず者達を集めて孤児院を襲撃させたのだ、燃やしてしまえば手っ取り早いと指示をした。

僅かな金でたくさんのならず者達が集まった。

レイラ達を連れて来たのはならず者達が勝手にした事だった。

何もかもがお粗末な計画である。


「若い娘を黙らせる方法は簡単よ。」

グフロフ子爵は言葉の先を想像して、体が震えた。

カメリアは美しい女優と評判だったが、子供達と一緒に連れ込まれたレイラの美しさに嫉妬していた。

しかも公爵の娘で王太子が婚約者だと、自分に無い物ばかりだ。嫉妬は憎しみになっていた。

輝くような銀髪を踏みにじみたくて仕方ない、あの娘の泣き叫ぶ様を見たいのだ。

「バカな事を言うな、姫君を直ぐに帰すんだ。」

「怖じ気ついたの、もう手遅れよ、男達には好きにしていいと言ってあるもの。」


人質など取る予定ではなかったが、あまり燃えずに鎮火したので丁度いいとは思っていた。

ならず者達は孤児院にいたレイラに目をつけたのだ。どうせ孤児院ごと燃やすのなら遊ばせてもらおう、子供よりずっと楽しめると思っただろうとカメリアにはわかったが、止めるような事はしなかった。

劇場の1室に子供ごと閉じ込めて、好きにしていいと言ったのだ。



ジェラルドがレイラの安全を手配していないはずはないのだ、手の者が既に潜んでいる。セルジオ王国に配慮して表に出ていないだけで、レイラに危害が及ぶことはありえない。

ただし、彼らはレイラの安全しか考慮しない、孤児院の子供達の安全は範疇にない。

マクレンジー兵は正義の味方ではない。目立たないように警護が2人付いていた、男達の相手をしなければ、姫1人なら守って逃げる事ならできる。

その事を知らないレイラは部屋の片隅で恐怖に震えていた。

男達の下衆な視線が気持ち悪い、孤児院の子供達を抱き締めて折れそうな気持ちを奮い立たせていた。



男達がレイラに近づいて来る、マクレンジー兵が飛び出そうとした時に近くで馬の嘶きが聞こえた。男達が扉に駆け寄るのと喧騒が起こったのは同時だった。

男達がレイラを盾にしようとした手を振り払う者がいた。

マクレンジー兵が男達とレイラの間に滑り込んできた。

「ジェラルド様より姫君の警護を仰せつかってます。」

レイラを安心させる様に護衛が声をかける。

バーーン!

レイラの目に派手な音を立てて扉を蹴破り飛び込んで来るジェラルドが写った。

「よくやった、そのままレイラを警護しろ。」



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