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お妃さま誕生物語  作者: violet
本編
61/102

夢の国

剣を捨てる音がする、何故だ。血だらけで、剣を捨てたら我が身を守る術がなくなる、この状態で何故に、やはりコントロールされている。

我々も剣を捨てると思っているように見える。

その自信はどこからくるんだ。



ダレスハイムの手には香炉がある、それほどの確信を持つのはなぜだろう、ウィリアムは考えた。

人心を操れると知っている、何かがある。


皇妃の呪符を思い起こしながら走る、ドレスの内側に縫い付けてあった、お針子が手の者だった、記憶をたどる。

仮縫いの時の危なげな手つきが呪符の発見に繋がった。

生け贄、生き血、それは。

針だ!

呪符には麻薬が練り込まれていたに違いない。


「傷を負うな!!傷から麻薬が染入る!」

それが人身を操る方法だ!

ハリーが走った、皆の目がその銀髪に行く瞬間、ポールが小型爆弾を投げ込んだ。

ダレスハイムが逃げ遅れ、足場が崩れる。

『止まれ!!』

ウィリアムが急遽覚えたスレナ言語の一つを叫んだ。

ダレスハイムの幾重にも着込んだ布地には血が滲んでる、足場が崩れて傷を負ったようだ。

手に持つ香炉の火は消えてない。


相手の動きが止まった。

「これは?」

ポールがウィリアムに聞いた。

「私の考えが正しければ、傷から麻薬が入ることにより操ることができる。」

「そのようだな。」


「皇妃には、お針子が針で刺して出血したところに麻薬を練り込んだ呪符を擦り付ける。

それが成功したと思ってたんだな、皇妃が操られてサルシュに来たと。」

「俺達がそんな事許すはずない、最初から失敗の計画だ。」

「ああ。」



占い師ダレスハイムはベールをはぎ取られ、猿轡(さるぐつわ)と頑丈なロープで厳重にも縛られた。

猿轡の前に麻薬を吸わされ、虫を飲まされた。


大公はすでに判断能力のない中毒状態だった。目は虚ろ、涎をたらし、不明瞭な言葉を呟いていた。

後宮の奥に女神像があり、その足元に大公は転がっていた。



遅れて到着した極東首長国軍が見たのは、半壊した王宮と大量の中毒患者だった。

その時には、香炉の中の麻薬を含め、宮殿の全ての麻薬はマクレンジー隊に押収された後で、他の者に知らされることはなかった。



ロナウドは、ウィリアムから占い師をわたされた、好きにしていいと。

「ただし、7日後には腹を食い破って出てくる寄生虫の幼生を飲ませてあります。尋問はそれまでにするのがいいでしょう。」

ウィリアムが、麻薬の事は言わないように麻薬によって暗示をかけた。

それよりも、直ぐに虫は動きだし激痛に耐えられないだろう。7日持つ人間は少ない、虫は死体を食い破って出てくるのだ。


麻薬のことを知らないロナウド王ではない、人を操るまでは知ってなかったが。それよりも、サルシュ大公国を手にいれる為にはこの宗派の過激部分が邪魔なのだ。この国は砂漠から内陸部への入り口となる位置にあり、格好の足場となる。

ダレスハイムはこの宗派の過激な部分に大きく関わっている、数年前まで穏やか国だったのだ。ダレスハイムを得たことでスレナ教統一が近づく。




「この種の麻薬はやっかいだ、他の者に渡すわけにいかない。

この占い師の出身村ごと焼け、秘密も守れるしな。

この地域のみでの突然変異種なら二度と発生しないだろう、村にある種は全部持って帰ってくるように。」

リヒトールは、別部隊の報告を聞いて指示をだした。


占い師の出身オアシスからの荷物に麻薬はあった。

オアシス周辺に自生しているありふれた植物の種がそれだった。

但し、どこのオアシスにもある植物だか、その地域だけ花の色が違う、との報告と種の麻薬が届いた。

既に麻薬として、多少は流通してるだろうが、それまでは回収できない。

シーリアの事がなかったら、人心を操るなどわからなかったな。今までも麻薬のせいでの狂人の言動と処理されてきたんだろう。

「無駄だと思うが、一部を生物班に回して栽培させろ」


シーリアの生き血とは、出血させた傷口から麻薬成分を取り込ませ意識を乗っ取り、女神降臨と称して傀儡とした身体を操るという事だ。それは、操り続ける為に傷をつけ続けるという事になる。殺すだけでは許しがたい、リヒトールは自分の出した答えに怒りがおさまらない。


リヒトールは側近達の報告を受けるが、それだけだ、彼等が最終決定をした場合それ以上を求めない。

彼等の能力を知っているからだ、そして裏切ることがないことも。

それが失敗したら、そこに配置した自分が間違ったのだ。


彼等も知っているのだ、リヒトールが自分達の能力を知って使っていることを。そして裏切ったら面白いと思っていることも。



砂漠と内陸部との境目にある小さなオアシスで火事が起こり、2日に渡って燃えた火は村を全焼させ、誰一人村人は助からなかった。オアシスの草木は炭となり、地図から消えた。


サルシュ大公国と極東首長国は、同じスレナ教でも宗派が違うために思想の違いが多々あった。サルシュ大公国が消えることで、その宗派も弱体化し極東首長国に吸収された。




ロナウドは、サルシュ大公国を吸収し内陸部侵攻に伴う物資購入の為にマクレンジー帝国に来ていた。

もちろん、シーリアには女神様とひれ伏している。


シーリアの方は銀髪、紫の目なら他にもいるだろう、ぐらいにしか思っていない。



「マクレンジー皇帝、内陸部侵攻のために武器の調達をしたい。小型爆弾はいいね、是非納品してほしい。」

「あれは、訓練がいるぞ。極東首長国はサルシュを足掛かりに、内陸部に攻めいるとは予定通りかな。」

「砂漠との境目のオアシスが消えたので一気に行こうかと。」

砂漠と内陸部両方の環境を有する特異な地域であった。

「オアシスが消えるとは砂漠の環境は厳しいな。」

極東首長国は、砂漠をはさむトーバ領とは反対側の内陸部の国を制圧するだろう、それはマクレンジー帝国とは別の巨大国になっていくのだ。

そして、そこにもマクレンジーは経済ルートを広げていくのである。

お互いが必要としている、占い師ダレスハイムは双方にとって片付けねばならない者だった。


「支払いの一部はオアシス部分ということで。」

ロナウドの言葉でオアシス消失も暗黙の了解となった。マクレンジー隊が隠密行動であっても、何も気づかれないはずはないのだ。

極東首長国は戦争中である、どこよりも情報に敏感だ。

ロナウドもあの麻薬は処理したかったが、リヒトールのように焼き尽くすような指示はできない、市民が生活しているのだ。

しかもリヒトールには実行できる能力者が揃っている。



サルシュ大公国は占い師と大公の女神降臨という夢の国、魔法の国だったのかも知れないが、ロナウドにとっては通過点に過ぎない。リヒトールにとっては許しがたい野望を持った国だった。



ダレスハイムには悪魔の薬を与えましたよ、痛みを緩和させる為には何でもしましたね。

人民の前で演説させました、宗派の改宗を。

薬が切れた途端に激痛で3日も持ちませんでした。

薬の提供ありがとうございます。

ロナウド王がリヒトールに臨床実験の結果を伝えた。


「他者には苦しみを強要するくせに、自分となると弱いな。」



6/29文字修正

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