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お妃さま誕生物語  作者: violet
本編
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グレネド伯爵

「ダメだ。」

公爵の言葉が響く。


「お父様!」

「シーリア、わかっておくれ。

グレネド伯爵といることは、とても危険なことが多いんだ。

私は、そんなところに大事な娘をやれん。」

リヒトール様は父の言葉を黙って聞いている。

「グレネド伯爵、今回のことはとても感謝している。

あの建国記念披露会場で、シーリアを庇うために、すぐに動いたのはわずかな人間だけだった。」


父の後を引き継ぐように、兄がリヒトール様に語りかける。

「グレネド伯爵、貴方は我公爵家をつぶそうとしたのでは、ありませんか?」

兄の言葉に思わず兄の顔を凝視した、言葉もでない。


リヒトール様は何も言わない、深い緑色の瞳がさらに深い色になる。

「ここ数年、うまい話が多すぎる。もちろん誘いは丁寧にお断りしましたが。」


「実家を傾かせて娘を得る、簡単な方法ですよ、例え一国の王太子の婚約者といえど、でも、公爵家は乗ってこなかった、わかってましたけどね。


本気ではありませんでした、こちらの公爵夫人には王というヒモがついてますから、本気になったら国ごと潰すかどうかということです。


国を潰す方法も考えましたが、時間がかかりすぎる、この国は手ごわい。

まぁ、王家が気づく前に潰せるかもとは思いましたが、期待はしてませんでした。


この国に来るのは、姫に会うためだけ、仕事は建前のものでしかない。

会うと言っても、姫に不名誉なことはしてません、大切な人ですから。


このグレネド伯爵の爵位も、王宮に出入りしやすくする為に手に入れました、つまりは仕事がなくても王宮に出入りできるようにということです。

王宮では頻繁に舞踏会がありますからね、情報収集でも、商談とでもなんとでも理由はつけられるからです。

いろいろな国で、様々な爵位を持ってますが、この国以外では、使うことはありません、私は商人ですから。」

父も兄も、驚きの表情をしている、潰そうとしたことを本人達に公言するリヒトール様。

私は、うれしくって、淡々と言葉を(つむ)ぐリヒトール様を仰ぎ見る。


「私は、デュバル公爵家には敬意を持ってますよ。数多くの国に行ってますが、そんな家は王家も含め、そんなに多くない。そして、私を理解してくれる家も数少ない。


私は国を潰すより早い方法を選びました、私には姫を諦めるという選択はないんです。」

リヒトール様が楽しそうに眼を細める。

私の中で黒い気持ちが小躍りしてる。父も兄も母も犠牲にしてもこの人とありたい。


「シーリア姫、貴女を大事にしようと思ってました。たとえ、無理やり手に入れても。」

父が母にしたように、と、これが血というものなのかもしれないとリヒトールは思う。


父は母を大事にしていた、他人とは違う方法であったが。

私は、子供の頃でさえ、母との記憶が少ない、父が息子とはいえ、男との接触を許さなかったからだ。マクレンジー私兵隊に女性が受け入れられたのも、母の護衛のためだった。

母は年の離れた弟の出産で、母子ともに亡くなり、父の嘆きは深いものだった。

早々に私が仕事を手伝うこととなったが、その父も数年もせずに亡くなり商会を引き継いだ。

今ならわかる、私も父と同じだ。


「でも先程、貴女みずからの意志で私に答えてくれました。これが幸せというものだと初めて思いました。

デュバル公爵家も大事にしましょう、貴女の心が平穏でいられるように。


うまい話の中にはヒントもありましたよ、公爵家のことはかなり調べました。

土壌改良の話は乗るべきでしたね、領地で栽培されている葡萄の中には貴重な品種がありまして、最高級のワインが作れるはずです。ただ、その後に巨額融資付きの大規模工場造成の話が用意されてましたが。」


「シーリア、おまえはこんな男がいいのか? いろんなところで恨みを買っている男だ。」

兄がわかっているけど、手に負えるのかと聞いてくる。

「ありがとう、お兄様。」


「父上、心配なのはわかりますが、シーリアは未来の王太子妃として、我慢して耐えてきました。

国のために、アランをささえようとしてた。

でも、そのアランがアレです。

グレネド伯爵からは逃げれそうにありませんし、シーリアも望んでいるらしい。

マクレンジー商会に恩を売りましょう。」

「娘は売らない。

くれてやるから、大事にしてくれ。かわいい娘なんだ。


あんなに切望するから、幸せになれると思って婚約を許したんだ、ずっと近くで見守ってやれると思っていたんだ。」

父が睨むようにリヒトール様に言った。


「お父様、お兄様、ごめんなさい。」

シーリアは家族を捨てても、リヒトール様に付いていこうと思ってます、こんなに大事にしてくれてるのに。


リヒトール様に付いていくことは、家を捨てることに近い、王より危険な地位に居る人なんだ、もう家族に会えないかもしれない、何かあっても戻ってこれないかもしれない。

例え、リヒトール様に捨てられても、ここに戻ってこれないかもしれない、現実が落ちてくる、この人の横には好きという不安定なものしかない。

なのに、この好きを諦められない。


「いったい、グレネド伯はいつから。」

父がぽつりとつぶやいた。


「5年ほどになるでしょうか、マクレンジー商会が5年も準備をかけて手を引くことはありえません。」

リヒトール様の言葉に、自分と同じ思いの時を知る。



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