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お妃さま誕生物語  作者: violet
本編
29/102

シーリア登城

とうとうシーリアお妃さまです。

リヒトールは夜が明けると側近だけを連れ、馬を駆って戻って来た。


一睡もしてなかったシーリアはかけて行く。


「待っていたのか?」

リヒトールの軍服は返り血でドス黒くなっていた。

シーリアは一瞬目をみはると、ケガはないらしいと気付き

ドレスの裾をつまむと、すばらしいカーテシーを披露した。

「お帰りなさいませ。心はずっと一緒でしたから。」

リヒトールはシーリアの手を取ると、

「あっちは血まみれなんだ、どうする?」

マクレンジー邸と王宮とどちらを本拠地にするか聞いてるんだと悟った。

「簒奪者はそこにいないとダメでしょ?」

クスっと笑ってリヒトールを見上げてお帰りのキスをする。

「リヒト様の責の半分は私にくださいませ。」


リヒトールはシーリアを抱き上げると馬の背に乗せ、自分も後ろに飛び乗った。

シーリアを落ちないように抱き寄せると、馬の踵を返し王宮に引き返した。

側近達が後ろに続いたが、すぐに守りの陣形をとった。


こびりついた血を全身に纏った黒衣の騎士に守られ、銀の髪を煌めかせた女神を乗せた黒馬は街を疾走する。

それはいつまでも街の語り草になるような光景だった。

王宮の門をぬけ、王宮の正面で馬から降りた。

たくさんの目が銀髪に止まる。

王宮は復旧作業とクーデターの処理に追われていた。

誰もが寝てなかったが、寝る気になれなかった。

誰もが興奮していた、血の匂いの充満する中で大きく歴史が動いたのだ。


シーリアはここでもう一度王宮に向かって深いカーテシーをした、皆に見えるように。

シーリアの動きに合わせて銀の髪が揺れる、光輝くようだ。

闇夜に紛れて血塗られた宮殿に舞い降りたかのような朝の光、そして響く声、

「シーリア・マクレンジーでございます。」

その声は女神降臨かのように、闘争を終わりたいと願う人々の心に沁み入った。


リヒトールはシーリアの手を取り、王宮の正面の階段を昇ると振り返って。


「ここにマクレンジー帝国の誕生を宣言する!」

血まみれの側近達が、リヒトールとシーリアに片膝を折り、礼をとる。


地響きがするような歓声が起こった。


王宮の中は悲惨だった、いろんな物が壊れていて血が飛び散っていた。

かろうじて遺体は片づけらていたが、戦闘の激しさが手に取るようにわかる。


血の跡をなぞってみる、

「リヒトール様よくぞ御無事で、ケインズ様、ウィリアム様、ポール様、ダーレン様、シュバルツ様守ってくださってありがとうございます。」

思わず涙とともに零れた言葉に側近達が照れているようだ。

「当然のことをしたのです。」

とはにかむ、胸をはって主を守ったと言える。

主よ、良い嫁を貰った、あんたの1番の手柄だよ、と思ったのはポールだけではないようだ。


部屋に入るとリヒトールが抱きしめてきた、

「リア、興奮を鎮めさせておくれ。」

「それは私だけの役目ですわ。」

キスが深く、深くなっていく。

シーリアの手がリヒトールの髪の中にもぐっていく。

二人で命を確かめ合うように求め合った。



シーリアが目を覚ました時はすでに暗くなりかけていた。

リヒトールは執務に行ったらしい、これからなのだ、何もかも全部が。

リヒト様が私を一人にするはずない、

「誰かいる?」声をあげると

「はい、部屋に入ります。」キャサリンが来ていたようだ。

あの後、侍女達も宮殿に来て、部屋の準備をしていたらしい。

「服を着たいのだけど、起きあがれなくって手伝って欲しいの。

食事をしたら、リヒト様のところに行きたいわ。」

リヒトールの冷めた表情の下にどれほどの激情を持っていたのだろう、何度気を失ったか、きっとリヒトールはまだ鎮まってない、今夜の為に何か食べて体力をつける必要があると切に思うシーリアだった。


セシルの案内でリヒトールの執務室に行くまでにたくさんの人にすれ違い、すさまじい視線にさらされた、慣れねば。

ここではシーリアは新参者だ、誰だという視線。

朝まで戦場だった場所に似つかわしくないドレス、侍女に守られて歩く姿。


執務室には、側近の5名と見知らぬ顔が並んでいた。

マクレンジー商会だけでなく、ヒステン王国側の協力者達なのであろう、これからの首脳部となる面々。


「怪我をした兵士達を慰安したいのです、戦闘に参加できない私の戦場です。」

リヒトールがダメだと言う前に言葉を繋げる。

「侍女と警備を連れて行きますから。」

「リアが動ける状態だとは思わなかった。」

顔が真っ赤になる、あれだよね、あのことを言ってるんだよね側近やみんなのいる前で。

「今こそ、無理をせばならない事だと思うのです。」

否定も肯定もしない、恥ずかしいから。

「侍女と護衛から離れないと約束してくれ。」

「はい。」


マクレンジー側の救護棟である後宮に入ると歓声があがった、みんなケガ人なんだよね?

「無理をなさらないで、皆さま大丈夫ですか?」女神様スマイルを演出してみる。

「しゃべったーーーー!」

どんなイメージを持たれてるんだ私。

「どうか、早くよくなりますように祈っておりますね、また来ますわ。」

警備のロジャーがこっそり、

「姫様は、兵達の中で女神様になっていたんですよ。」

って教えてくれたけど、どこが?

このみてくれか、キレイに産んでくれてお母様ありがとうと言っておこう。


次に兵士宿舎のヒステン国側の救護棟に行くと、反対に静まり返った。

商会の医者や関係者が沢山いて、傷を負っている兵士とはいえ敵意に警備が身構える。


「とうとうお迎えが来た。」

えええええーー!!ここでもか。

「大丈夫ですわ、きっと良くなりましてよ。

元気になったら、よい生活ができるように一緒にがんばりましょう。」

イメージ大事、病人の希望のイメージを作って、にっこりほほ笑んでみた。


2か所の救護棟を周って、このイメージを壊せない状態になったことを思い知った。

ケガ人の理想を壊すのはしのびない、ばれるまで、この見てくれを有効利用しよう。


血まみれの宮殿で迎える夜は亡霊が出るかと思っていたが、リヒトールに抱きつぶされて、気絶するように眠ったので気が付いたら翌日の昼だった。


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