エリザベス
マクレンジー商会の影がチラホラ・・・
ある日、小さなカードの付いたプレゼントが届けられた。
“エリザベス・ハンプトン嬢へ、貴女の僕より”
それは、街で人気のショコラと花束だった。
毎日のように届き、それはリボンからストール、小さな宝石の付いたアクセサリーへと変わっていった。
顔の見えぬ送り主に、憧れた。
“3日後に、お迎えにまいります。街の散策をしませんか?
もちろん、侍女を連れてきてかまいません。
あなたのシザール・ド・ファン”
飛び上がらんばかりに喜んだが、名前に聞き覚えがない、
家族で相談したが、このプレゼントの財力を見ると、会ってから決めようと3日後を待ちわびた。
3日後、ハンプトン男爵邸に来たのは、格別ではないが、普通に整った顔の貴公子だった、
聞けば、隣国ブリューダル王国の伯爵家の長男で留学に来てるらしい。
シザール様は、流行の服飾店でドレスを作ってくれ、宝石店でネックレスもプレゼントしてくれた。人気のスイーツを食べて、屋敷に送って来てくれた。
とても紳士だと思った、恋するのに時間は必要なかった。
それから何度も街を散策して、その度にプレゼントされた。
出かける前には侍女を派遣してくれて、我が家ではできない、高級オイルマッサージなどもしてくれるので肌も髪も見違えるようになった。
信頼は増し、侍女を連れずに二人で会うようになった。
「ブレーン侯爵の夜会に一緒に出て欲しい、この間作った青いドレスはきっと似合う、それに合うネックレスとイヤリングを買いに行きましょう。」
「シザール様、うれしい。」
王太子様も来られるブレーン侯爵の夜会に招待されるなんて、やっぱりこの人は信じていいんだ、どんな宝石をくれるんだろう。
男爵程度では行けない、ブレーン侯爵の夜会はすばらしかった、目を見張るほどのきらびやかさ、着飾った人々。
王太子様とダンスをすることもできた、夢みたいな時間だった。
それから、度々シザール様と夜会にでかけ、王太子様と会った。
シザール様はステキだけど、会場には一緒に行くのに、すぐに離れていっちゃうから、私はいつも一人だった。そんなとこに王太子様は声をかけてくれる、一目みたら忘れられないような美しい顔、軍隊に所属してるだけあって鍛えられた身体。
庭園の茂みでキスされた、そして奥の休憩室で深い関係になった。
婚約者がいることは有名だけど離れたくなかった。
ベッドの中でささやいてみた、
「デュバル公爵令嬢に声かけられた男性が何人もいるみたい。」
シザール様が以前誘われたと言ってたのを覚えてた。
婚約者と上手くいかなければいいと思った、私とは愛し合ってるんだから。
アラン様はびっくりされてたけれど
「告げ口みたいでごめんなさい。」
アラン様の裸の胸に、自慢の胸をすりよせて、甘えてみた。
シザール様の買ってくれるドレスで王太子に会う、シザール様はステキだけど、王太子様はもっとステキ。でもシザール様の財力は好き。ドレスも宝石も王太子様の目に留まるようにもっと必要なんですもの。
シザール様がいつものように、ドレスを買ってくれて、人気のホテルのティールームのスイーツに誘ってくれた。そこでお茶がドレスにかかってしまい、ホテルの部屋で着替えることになった。
でも部屋には見知らぬ男性がいて、シザール様と二人がかりで襲われてしまった、絶対に王太子様に知られたくない。
今日の密会はシザール様にプレゼントされた青い花柄のドレスとアクアマリンのチョーカー、
「アラン様、赤ちゃんができました。喜んでくださいます?」
アラン様の目が見開かれる、
「もちろんだとも、王族は少ないので喜ばしいことだ。」
「でもちゃんと産めるのかしら?
アラン様にはデュバル公爵令嬢がいらしゃるし、不安でいっぱいなの。」
アラン様がキスをしてくれ、安心できるようにすると答えてくれた。幸せな時間だった。
あの婚約破棄のパーティーから、アラン様とは離され、宮殿に隔離されて、勉強を受けている、教師なんて嫌い私は未来の王妃なのに厳しい事ばかり言う、アラン様に会いたい。
実家からは、シザール様から贈り物は届かなくなったと連絡があった、王宮の生活に必要なものを用意することができないから、王太子に用意してもらわねばならない。
私は王太子の婚約者なんだから、相応の装いが必要だし、格式の高い侍女達も必要だ。
「エリザベス、勉強が進んでないようだね、ヒステン語は話せると聞いてたけど、嘘だったのかい?」
久しぶりにアラン様に会えたのに、なんてつまんないこと聞いてくるんだろう。
「お腹が張るので、あまり机にむかってられないの、昔、ヒステン王国から来たお友達がいたので、お話はできるの、その子がセルジオ語を話すから使う機会がなかっただけよ。
アラン様寂しかったです、もっと会いに来てほしい。」
「ブリューダルの革命が落ち着くまでは、時間は取れない、わかるだろう。」
「革命って何?
私や赤ちゃんより大事なことなの?」
アラン様が私を見てる、もっと見て。
「所詮は男爵令嬢だからか、頭が悪いからなのか、これ以上は耐えれない。」
アラン様の声が地をはうように低い、こんな恐いアラン様見たことない。
「衛兵、このものを王のもとへ連れいけ。」
アラン様が何を言っているのか、わからない。