アラン
アランは、もともと出来のいい王子、ちょっと思い込みが強くロマンチックなだけ。
思い出の中で人は美化されていくのですね。
執務室の窓から、アランは城下の方を眺めていた。
シーリアが行方不明になって20日以上になる。
婚約破棄から、15日程たったころだろうか、城は隣国の情報収集で緊迫していた、革命で王政は廃止、だが、その革命が失敗すれば、大量の難民が流れて来るかもしれない。
そんな最中に宰相であるデュバル公爵が登城した、
「娘シーリアが昨夜から所在がわからない。」
自分が、各国大使達のいならぶ中で、婚約破棄をして貶めた。
逃げたくなる気持ちもわかる、美しい従妹、いなくなってどれ程の存在だったか切実に思った。すでに公務を担ってた、代わりをできるものはいない。
自分自身があれほど望んだエリザベスも、覚めてみれば、教養のない、ちょっと顔立ちがかわいいだけの娘だ。
ドレスや宝石を仕切りにねだってくる、今まで、私に会う時は常に豪華なドレスだった、男爵の財力で用意しきれるはずもない。
今、私にねだっているように、誰かに貢がさせていたとしか考えられない、とんだ女に騙された。
ベッドの中のかわいさは演技だったのかもしれない。
シーリアは婚約していても、結婚まではと絶対に許さなかった、公爵家と男爵家の違いか。
私は男爵令嬢を正妃にして公爵令嬢のシーリアを側妃と公言してしまった、それがどれ程の侮辱か、今はわかる、公爵家の信頼も貴族達の信用もなくしてしまった。
私達は、初恋同士だったはずなのだ、仲のいい従妹、だから婚約の話になった、どれ程シーリアが傷ついたか。
私は、シーリアの何が不満だったのか、思い浮かぶのは、美しいシーリアの立ち姿、いつからだろう、あの従妹が笑わなくなったのは。
お妃教育に疲れてたに違いないのに、私は手助けをするどころか、いろんな女と遊び歩いた。
シーリアがとても努力してたのを知っていたのに。
10日程前に、革命中のブリューダル王国に聖女と呼ばれる女が現れたと報告を受けた。
朽ちかけた教会に、子供や女性を集め、文字や計算を教えているらしい、光輝くシルバーブロンドの類いまれな美貌の若い女性、シーリアに違いない、その優しさ、美しさに天使降臨と噂が流れた。
君こそが、本当の優しさだったのだ、エリザベスの見せかけの優しさと比べられようもない、今さらにわかる。
革命直後の危ない土地に行くなんて、心配でならない。
情報を入手したデュバル公爵家が支援食料を持って教会に着いた時には、すでにシーリアの姿はなかったとの報告が届いている。
君は、どこでどうしてる?
あまりの美しさに誰かに連れ去られたのではと、思わざるえない。革命直後のあれくれた男達も多いだろう。
婚約破棄後、公爵家には国内外からの大量の縁談があったと聞く。
この国が得た情報は他国も得てる、セルジオ王国より早く動いた国があったとしたら。
あの美しさでお妃教育も済んでる、そこに聖女と呼ばれるほどの優しさを持つ女性。
公爵家から護衛が自ら望んで付いて行ったようだと聞いた、シーリアの失踪時に数名の護衛と侍女が同時にいなくなっているらしい。一命を賭して仕えたい姫君なのだろう、彼らがシーリアを守ってくれていることを祈る。
私以外が君を抱くなんて考えなかった、君は私の女遊びの話も聞いてただろうが横に居てくれたから、どんなことをしても横にいるものだと思ってた。
エリザベスの機嫌を取るために、正妃を与えようとした私の愚かさを許して欲しい、今度こそ大事にするから、戻ってきて欲しい。
王家の威信をかけて捜索している、遠からず見つかるはずだ。
私の美しい従妹、姿も心も美しい、君のことをいつも思っている。
どうか生きていて欲しい、もう一度会いたい。
エリザベスの懐妊が正妃にと思った一因だが、本当に私の子か。
エリザベスが、シーリアが他の男に言い寄っていると言ったのを信じてしまったが、シーリアは公務と勉強でそんな時間はないし、常に側近の目があり報告にはそんなことは書かれてない。
どうやって、エリザベスは、シーリアの情報を知った?
男爵令嬢にシーリアとの接点はないはずだ。
エリザベスこそが、怪しいではないか。
私は子供はできないようにしていたはずだし、他の女性もそんなことはなかった。
エリザベスの周辺を調査させよう。
謹慎のために、エリザベスから離されても、思うのはシーリアのことばかり、私が王位継承1位で、デュバル公爵の嫡男フェルナンデスが2位。3位になると、かなり血が薄まる、王族とはいえないぐらいだ。この国は男子のみに継承権があり、私に兄弟はいない。父王の兄妹はデュバル公爵夫人だけだし、祖父の兄弟は男子を残さずに亡くなっている。
私は、建国祭の場で取り返しのつかないことをしてしまった。
この失敗を、引きずるわけにいかない、あの場でエリザベスと婚約すると言ってしまった以上、簡単に翻せない、私は笑いものだ、でもシーリアの心のキズに比べようもない、私しかこの国を次ぐ者はいない、さらに笑われても正道に戻さねばならない。
私がこの国になるのだ、私の間違いがこの国の間違いになるのだ、逃げることはできない。
自分の仕事は終えてるが、もう出かけたりはしない、シーリアのしていた慰安以外の公務も引き継いだ、それに軍部の追加予算の書類も廻ってくるはずだ。
遠くにいるはずのシーリアに話しかける、
「どうしてる?」