それは婚約破棄から
初めての小説です。
好きなものをつめこみました、楽しんでいただけると嬉しいです。
よろしくお願いします。
やっと自由になれる。
これで、堂々とあの人を想う事ができる。
心のなかで、そっとほくそ笑んだ。もちろん、表面上は驚いた顔を繕っていたけれど。
ここは、セルジオ王国宮殿、建国200年記念のパーティー会場だ。
煌めくシャンデリア、流れる音楽に国の威信をかけた天井画、大広間を埋め尽くすかのごとく、着飾った人々。
「私こと、アラン・デ・ラ・セルジオは、デュバル公爵令嬢、シーリアとの婚約を破棄して、ここにいるハンプトン男爵令嬢エリザベスを新たな婚約者とする。」
周りは、突然のことに波をうったように静まっている。
王妃譲りの美しい顔が興奮のためか、高揚しているようにみえる。その手は、男爵令嬢とつないだままでだ。
好きな人がいる気持ちは、よくわかる、私自身が婚約者の王太子でない人が好きなのだから。
でも、ここでコレはない。各国の大使や政府高官を招いての披露会場で立場ってものがあるでしょうに。
これでは王家が公爵家をないがしろにしていると公言しているようなものだ。
デュバル公爵である父はこの国の宰相である。
「理由をうかがっても、よろしいでしょうか。」
私は父の顔を窺いながら声を出した。
宰相である父の公爵は、私がこの婚約を嫌っているのを知っているからか、沈黙を決めたようだ。
反対にアランの父である王は怒り心頭のようである。この婚約は王家からの打診を断れずに10年前になされたものだ。
公爵領は隣国であるブリューダル王国と接しており、貿易、軍事の重要陸路であり、パーバル海に面し、ルクティリア帝国への航路となる巨大港も有している。母は現王の妹であり、傾国の美姫と言われたお姫様である。兄は父の、私は母のいいところを貰ったようで、血筋、教養、美貌、政治的にと決して軽んじて婚約破棄される要素はない。
世間一般にいうお妃教育は10年。5ヶ国語に堪能、各国の情勢や作法にも精通しており、私の青春を返せと言いたい。
アランはバカなの?
「シーリア、君は公爵令嬢という権力で様々な人を虐げてきた。私は愛するエリザベスを守りたい。
私はエリザベスを正妃とし、シーリア、君を側妃としよう。」
アランはバカだった。
私が何を虐げてきたの、ずっと我慢してきたのに。
アランの言葉が終わる前に動いたのは、父と兄とあの人だった。
あの人が来てる、目のスミでこちらに駆けてくるのが見える。
「私は間違ったようだ。アラン、謹慎を命ずる。」
王の強い言葉が響く。
母と王妃は倒れ、父と近衛兵にそれぞれ支えられている。
震える私の前に立って、アランの視界からさけてくれるのは、兄のフェルナンデスと大商人であるグレネド伯リヒトール・マクレンジー。
「シーリア姫、あなたに恥じるとこは何もありません。」
リヒトール様が私を勇気づけてくれる。
何度もあきらめた想い、宮殿で、庭園で、わずかな視線をからませる相手。
恐い人だと教えられた、たくさんの美姫との噂も聞いた、でも見ることを止められなかった。
5年の想いが涙となって、流れ落ちる。
婚約者を先に裏切ったのは私。
アランのことは嫌いではなかった。従兄だし、生まれた時からの付き合いで、気心もしれてる。
王家に姫はなく、父が断れないほど、妹大好き王が切望したらしい。
7歳の時だった、アランは10歳。
リヒトール様に初めてあったのは12歳の時、すでに王太子が婚約者だった。
そっとリヒトール様をみるのが精いっぱい、彼の姿を見つけるたびに歓喜でいっぱいだった。
リヒトール様も私を見ていると気付いたのは、いつからか。
期待しないでおこうと思っても、探してしまう。
アランを避けるようになり、わざと冷たい言い方で接するようになったのは、リヒトール様以外の誰とも結婚したくなかったから。
リヒトール様と結婚できるなんて希望はないけど、他の男性と結婚する私を見られたくなかった
アランが他の人を好きになって当たり前だった。それを心の底で望んでた。
こんな醜聞の婚約破棄でも、リヒトール様が私をかばってくださる事がこんなに嬉しいなんて、醜い私。
心が乱れる。