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お妃さま誕生物語  作者: violet
番外編 帝妃レイラ
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許せない思い

「レイラ!」

ありえない人の声が聞こえて、レイラは耳を疑った。


レイラを守って戦っている騎士達にも聞こえていて、戦うよりはレイラと侍女達の守りに入った。

賊はジェラルドに任せたという事なのだろう。


返り血を浴びて真っ赤な服のジェラルドが、館に入って来た。

レイラは、その姿に口元を押さえて(おび)えを押し止める。

レイラとジェラルドが結婚してから、争いはなく、ジェラルドが戦場に行くこともなかった。

だから、ジェラルドの戦闘を見るのも、鬼気迫る表情を見るのも初めてなのだ。

軍の訓練は何度も見た、でも、それとは違う命のやり取り。

そして、返り血だけではない、ジェラルド自身が傷ついて出血している、と気が付いたのはすぐの事だった。

賊は騎士達が征伐し、生き残った賊も重傷を負って縛られている。


考えてる余裕などなかった。

ジェラルドから逃げるように走り出していた。

レイラを庇って護衛も走るが、その後ろをジェラルドが追いかけて来る。


賊が押し入り、足場の悪くなった館の中ではレイラは不利であった。すぐにジェラルドに捕まってしまう。

「レイラ、ごめん。僕が悪かった」

「放して!」

レイラはジェラルドに掴まれた手を振り放そうと、身体ごとよじるがジェラルドが放すはずなどない。

「痛い」

その強さにレイラが痛がっても、放せば最後と分かっているジェラルドが力を緩めるはずもない。

「ごめん、痛いよね。でも、放したくない」


「触らないで!

若い女の子がいいなら、そっちに行けばいいでしょ!

もう、苦しめないで!」

もう、苦しめないで。

レイラは、庭園で姿を見た時に知ったのではない、と言っているのだ。


「ごめん、レイラ、ごめん」

大事な人を苦しめ、二度と会いたくないと手紙に書かれる事をした。


レイラはゆっくりとジェラルドに振り返った。

「どうしてここが分かったのか、知りたくもありませんが、殿下が他の女性の手を取った時に終わりました」

レイラが、ジェラルドの名前ではなく殿下と呼んだ事に、ジェラルドの顔が歪む。

「皇帝陛下に、皇太子夫妻の離縁の手続きをお願いしております。

今度こそ、私だけを愛して下さる方と結婚します」

レイラの言葉は、ジェラルドが戴冠式をする前に、離婚ということだ。


ドックン!

ジェラルドの心臓が大きな音をたてる。

レイラの髪に他の男が触れる。

その手を、他の男が繋ぐ。

レイラが他の男に抱かれる。


全部、ジェラルドがオルコットにしたことだ。

因果応報、分かってはいても耐えれない。

「僕からレイラを奪う男など殺してやる」


「違います。

殿下が私を裏切ったのです。

殿下が、私を幸せにすることを捨てたのです」

レイラの表情は、ジェラルドに微笑まない。

ジェラルドはレイラを守っていると思っていた。違う、レイラがそう思わせてくれていたんだ。

ジェラルドがいなくとも、レイラは一人で生きていけるのだから。

「私は、自分で自分の幸せを勝ち取ります」


僕以上にレイラを愛している者などいない、今更それを言っても嘘にしか聞こえないだろう。

一度犯した過ちは、消せやしないのだ。


オルコットが政務官として頑張る姿が魅力的に見えた。

それよりもっと、レイラの瞳は強く輝いている。この瞳以上の魅力などないのに、なんて愚かなことをしてしまったのだろう。

ジェラルドはレイラに見惚れてしまっていた。

美しい。

誰の目も惹き付ける容姿、深い知識と強い意志。

公爵令嬢として育った気品。


離婚なんてしたら、直ぐに誰かに奪われてしまう。

「嫌だ、絶対に離婚などしない」

ジェラルドも、レイラを帝妃の地位で引き止められない事を分かっている。

レイラが望んでいるのは、そんなものではない。


「他の女性と楽しそうに繋いだ手で、触らないでください。

気持ちが悪い!

もう、戻る事は出来ないのです、殿下がそうしたのです」

投げ捨てるようにレイラが言った瞬間、ジェラルドは剣に手をかけた。

だが、剣を抜く事なく護衛達に取り押さえられた。

「離せ!

この腕を切り落とすんだ!」


「殿下、お止めください」

暴れるジェラルドを数人掛かりで、押し止める。


やっと手を離されて、レイラは掴まれた腕を見るが護衛達の前で袖を捲るわけにもいかない。

侍女が駆け寄ってきて、レイラを椅子に座らせる。

賊の死体は、部屋から運び出されているが、床にはおびただしい血が溜まっている。

外も、騒ぎを聞いて駆けつけた人々が集まって来ているだろう。

せっかく借りた家だが、ここも長居はできまいと、レイラは考えた。


「殿下と私にお茶をちょうだい」

レイラが侍女に声をかけると、侍女の一人が急いで厨房に向かう。

「殿下、抜刀をしないと誓ってくださるなら、お茶を用意してます」

レイラが折れた事で、緊張していた空気が変わる。


「約束するよ」

護衛から解放されて、ジェラルドがレイラの向かいに座るが、レイラの手を握ろうとして手を引っ込めた。

「ごめん」

ぽた、テーブルで握りしめた手の上に涙が落ちた。


騎士や侍女達が多く見守る中で、皇太子が泣いている。

皇太子の醜聞は誰もが知っており、それで皇太子妃が王宮を出てここにいるのだ。


レイラは心の中で溜息をついても、表情には出さずにジェラルドにお茶を勧める。

「殿下、お茶が冷めてしまいますわ。

外も騒がしくなってきたようですし、賊の処理もしなければなりません」

物心ついた時から王妃教育を受け、ジェラルドに嫁いで12年の皇太子妃の生活、バカでは務まらない。

公務をしていなくとも、レイラは優先順位を考えていた。


2度と会いたくないと思ったジェラルドだが、会ってしまったし、泣いているし。

レイラは、その泣き顔が綺麗だと、(ほだ)されてしまった。

二人きりで結婚式を挙げた日を思い出してしまったのだ。


レイラは、この胸に育ってしまった不信は消えることがないだろう、と思いながらも、ジェラルドが仕事を捨てても自分を探しに来てくれたことが嬉しく思う。


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