国境
国境の城門は人であふれていた。
これでは、馬車1台づつ時間をかけて調べることはできないだろう。
シーリアのプラチナブロンドは、見事というべきものだ、父のデュバル公爵ゆずりだが、
男性の短髪に比べ、女性は長く艶やかである。
母の公爵妃のピンクブロンドは有名であるが、シーリア自身も、光の加減で薄いピンクに色づく時がある。
これを検問で記憶に残させるわけにはいかない、いなくなったシーリアを探す足がかりとなってしまう。
まだ、シーリアの存在は、公爵邸であり、結婚式から7日後に失踪したと王宮に連絡する予定になってる。
婚約破棄直後から、王家や他国から毎日のようにリアに面会がきてる、それ以上リアの不在を隠し通せるものではない。
「リア、起きれるかい?」
「リヒト様」
寝起きの潤んだ瞳で見つめられ、唇にふれるだけのキスをする。
「もうすぐ。国境検問だ。できるだけ、検査官の記憶に残らないように、ごくありふれた様子にしないといけない。
今は、革命から逃げる人、革命地に入ろうとする怪しい人間であふれかえってるから難しいことではない、髪だけ束ねて小さな帽子をかぶっていたらいい。
私の影に座っていれば、気にも止められないだろう。」
このために、何度か女連れで国境を超えるというのを検査官に見せている。
リアが馬車の外の喧騒に気付いたようだ。
「リヒト様、あの子たちは靴も履いてなく、ずいぶん痩せてます。
これが悪政という事なのですね、国民を守るべき国がそれをしなかった結果。
・・・・・・・・・・・・
国境を超えることができたあの子達は幸運なことなんでしょうか?
この国はあの子達を受け入れることができるのでしょうか?」
馬車の窓から外を見たシーリアから、かわいそうに、という言葉はでてこない。
考えてでた言葉に、含めた意味を知る。
彼女は、やはり賢い、貴族のご令嬢といわれる女性達でこれを言えるのがどれだけいるのか。
よくできたと褒めたいがまだまだである、商会の役員にはおよばない。
裸足で国境まで来れるはずがない、誰かの手助けがいる、人買い商人とかの。
シーリア、君はこれからも知る必要はないよ、私が隠してあげるからね。
私だけの美しいシーリア。
馬車を覗いた検査官は私の顔を見ると、いつものように調べもせずに、国境通過をさせた。
先頭を行く側近達が多少にぎらせたのだろう。
隣国から入ってくる検問が強化された分、出ていくのは手がまわらないはずだ。
険しい山や大河や渓谷が国境線とはいっても、そればかりでなく、歩いていける検問のない国境地帯はいくつもある、見つかれば警備兵に問答無用で撃たれる。
すでに警備強化されているだろう、まともなルートを通れない人間に国に入られたら困るからね。
革命の飛び火は、消さねばならない。
「リア、もうセルジオ王国は過ぎてしまったよ。」
振り返るシーリア。
「私は、リヒト様を選びました、貴方の居るところが私の国です。」
満点をあげよう、その答えは気に入ったよ。
ブリューデル王国の大地は荒れている、国境近くは潤っているが、中央都市に近づくにつれ、都市から逃げ出した貴族らしい馬車が目立つようになっていく。
シーリアを今日中に、ブリューデルにある商会のホテルに連れていかねばならない、彼女を人目につかさせる事はできない、人間は心がすさむと何をするかわからない。
僅かな金で信頼を売るのを何度も見てきた。
馬車を疾走させて目立つ訳にいかないから行程は時間がかかった、国境まで2日かかり、これからブリューデル都市部まで1日、着くころは、革命から6日か、まだ粛正途中で、国の機能は動いてないだろう、各国の間者に気をつけながら、どれから始めるか、商会の仕事はしばらく側近でまわさそう、革命地が私達のハネムーンだ。
この計画に5年かけた、12歳のシーリアを連れ出すわけにはいかないからね。
彼女の成長を見るのは楽しみだった、王太子の婚約者というのは、他の男からは守れたが、アラン王太子が手をださないように、いろんな女をあてがったものだ。
国境を越えた。
シーリアにもう二度とこの線を踏ますつもりはない、国境は地にあるだけではない、心の中にもあるのだ。
座席に深く腰掛け、シーリアを抱きしめる、口づけは深く、教えたように答えてくる、今夜も楽しみだ。