えぇ。次はシモンくんですか?
バタバタ と大きな足音を立てあの場から逃げ去って既に数分。今、彼らはどうなっているのだろうかと疑問に思った。その度にじくじくと傷口が傷んだ。保健室に行ったほうが良いのだろうとも思うが、生憎保健室の場所を知らない。
「……のっ!!」
「シモンくんどうしましたの?急ぎの様ですか?」
慌てた様子で私を引き止めたのはシモンくんです。そう、魔術師の彼です。あぁっ……思わずシモンくんだなんて馴れ馴れしい呼び方をしてしまいました。私とシモンくんは確か初対面。気分を害さなければ良いのですが……
「いえ……血の匂いがしたので怪我をしているのかと……」
血の匂い?あぁ……吸血鬼に血を吸われただなんて言えないしどう言い訳をして、保健室を教えてもらいどうやって治療を施して貰うかを考えないとなりません。
「ああぁっ!!そうですの。保健室をご存知ありません?」
「それ、副会長様のですよね?」
んんん?シモンくんは何故そんな事を知っているのでしょうか?傷口を見ていなくても分かるだなんて、さすが魔術師の卵なのかな?それとも、シモンくんが魔術師云々関係無しに持っている特技なのかも知れませんね。鼻がいいって少し動物っぽいですが、なかなかに便利そうだったりする様な気もしますね。
「そうですのっ!!いきなり噛み付いてきて、殴ってしまいそうになりましたわっ!!」
苦笑いと困惑が混じった顔をするシモンくん。少し、不思議です。なぜ、困惑をしているのでしょう?もしかして、副会長は滅多に人を噛まないとか!?
「はい?副会長が素敵に見えたり、副会長に絶対服従したくなったりしませんか?」
「何故ですの?確かに素晴らしく美しい容姿だとは思いますわよ?でも、あんなのに絶対服従だなんて信じられませんわ。」
本当に不思議だ。なぜ、物理的に噛みつかれて絶対服従なのだ。むしろ、反抗意識が高まったわ。だいたい、仲良くもないカッシアに対していきなり噛み付くだなんて人としてどうなのだ?いや、彼は吸血鬼だから、正確には人ではないかも知れない。でもだ、とにかくいきなり殆ど記憶にも無い女の子に対して噛み付くだなんて!!彼ほどの容姿なら自ら彼の血肉になりたい人もいるのでは無いだろうか?
「知りませんか?吸血鬼が吸血に要する時間は約42分程度なんです。」
「それで?」
そうなのか……物語等では吸血鬼に血を吸われた人間は直ぐに死んでしまうイメージがあったが、42分も血を吸い続けるのか……食事に42分もかけるだなんて、現代社会人には信じられないことだと思う。だって、今では一分一秒を争う事も少くない。少し、吸血鬼を尊敬する。
「その間、人が抵抗しないとは限りませんよね。」
そりゃ、血を吸われている状態だなんて、嬉しいわけが無い。もしかしたら、血を失ってしまうかも知れないのだから、抵抗するに決まっている。少なくとも私ならできる限りの事はするだろう。
「それで、抵抗されない為に吸血鬼は歯を指すと同時に一種の魅了魔法をかけます。」
「それが、副会長が魅力的に見えたり、絶対服従したくなったりする魔法って事ですね!」
シモンくんはよく出来ましたとでも、言いたげな表情をしています。丁寧な物腰に柔らかな微笑み、シル様からは気が弱いと聞いたが、私を引き止める度胸も持っています。シル様や副会長と比べれば少し地味な容姿ですが、癒される様な美形さんです。
「カッシア様には魅了魔法が聞かないみたいですね。」
ボーッと彼の微笑みを眺めます。おかしな吸血鬼にあった後癒し系の彼に会えたのはきっと、神からのご褒美でしょう。多分、私が主人公ならきっと、シモンくんを攻略しようと躍起になる自信があります。
「あの……聞いてますか?」
「いえ?それで、あの吸血鬼がなんですか?」
ため息をつくシモンくんを眺めつつそう言えばここが乙女ゲームだった事をぼんやりと思い出した。
私も吸血鬼が42分も吸血に時間をかけるだなんて、最近知りました。
ソレを知ったときいつかはそんな話を書きたいなと思いつつですね……
機会を無下にも出来ず勢いで書いてしまいました。
まぁ、所詮は諸説ありって奴なので、吸血鬼さんについては知らないことの方が多かったりも。