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夢を見ていた、かもしれない。
頭に靄のかかったような感覚は寝起きに感じるものとしては珍しく、それでいて不快ではない。夢を見ていたのだとすれば、きっとそれは悪夢の類ではなかったのだろう。
それに比べ、目の前に広がる現実はおおよそ考え得る中で最悪に近かった。
眠りから覚めると同時に頭から落ちた一枚の紙は、いわゆるテスト用紙。教室の時計に目をやると、すでに期末テストの制限時間の四分の三ほどが終了している。寝起きの頭が正確に物事を把握できているなら、昼休みに寝ていた俺はテストが開始したにも関わらずそのまま睡眠を続け、そして今に至るといったところか。
クラスメイトはともかく、せめて教師はテスト開始前に一言くらい掛けるべきではないだろうか。怒りを込めた視線を向けるも、担任の木村は一切気にした様子を見せない。もしくはただ気付いていないだけかもしれないが。
だがどちらにせよ、それならそれで構わない。残りの十分と少し、満点を狙うのは不可能だろうが、赤点を免れるくらいならなんとでもなる。幸運にも、クラスで一番勉強のできる幼馴染が前の席に腰掛けているのだから、後は体力の問題だ。
もう一度目を閉じ、ゆっくりと開いた後、ペンを右手に掴む。テスト終了のチャイムが鳴るまでの間、俺の右手が動きを止める事は無かった。