ミケ 騒がしくも続く日常編
「アカリもなくのでしょうか……。」
孤独な世界で一人きり漂う心。 感覚を手放すようにふわりふわり何も無い場所を漂う。
光も闇も重力も時間もない自分だけの世界。
死ぬとここから自分すらも消得るのではないかと思ってアンドは。
こわくなった。
冷たいおぞましい何かが急速に自分の中からわいてきてそれが全身を包んでいく。
そしてそれすらも消えてしまうのかもしれないと考えるととても恐ろしくなって。
熱すら奪われていってそれすら無になったとき。
自分はどうなるかそれすら認識出来なくなのかもと考えたら。
言葉の意味だけは知っているということが余計に心を蝕むようで。
無へと。
導く。
不意にその一人の世界に伸びてきた手。
アンドは知っていた。
その暖かみのある手を。
強くしっかりとアンドの手をつかんだその手を。
「アンド!助けにきた!遅れてごめん!」
自分の世界はガラスを破るかのように砕け散り力強く引っ張る腕から重力を取り戻しそして何もかもが戻っていく。
何もなくなってなんかいなかった。
その事にふと糸が切れるように安心して。
アカリ泣きついた。
「うわああああーっ!ごめん、なさいっう、あああっー!」
「いやアンドは悪くないよ。」
一言二言言葉を交わしたがすぐにアカリが周囲を警戒する。
「話は後にしよう、アンド行ける?」
アンドは涙に塗れた顔を拭い頷く。
アンドは霧状になってアカリに憑依。
アカリは赤い服で全身が覆われ力がみなぎり銃を構える。
そしてその構えた先には何があったのか埃だらけで崩れた家屋の一部を払いのけている3人。
「お前汚いぞ!あんなことするなんて!」
「いってぇ!こっちゃあまだ完全に怪我直ってねーんだぞ!」
「フニャーオ!フシュー!!」
クライブ、デスロウ、ミケの三人が口々にアカリを罵る。
「なにしたの?」
アンドが気になってアカリの口からアカリに語りかけるがアカリはニヤニヤと笑うばかりだった。
「なあにちょっとした事だよ。」
そう呟くとアカリは銃のトリガーに指をかけて三人に狙いをつける。
「人攫いのほめ言葉だと受け取っておくよ!さあてもう一度檻に入ってもらおうか!」
しかしクライブは不敵な笑みを浮かべて懐からなにやら小さなボタンを取り出す。
「おおっとそこまでだ!このまま大人しくするわけないだろっとな!」
ポチリとそのボタンを押すと家屋全体が揺れ出し危険を感じたアカリは一度かがんて手をついてから後退し二段ジャンプして天井を撃ち抜いて脱出した。
そのまま家屋の外へ行き地面へと降りたってから脱出してきた家を見るとその家の地面から機械の腕が生えそのまま地面に手を体の部分を地面から抜き出す。
そのまま全身が出てくるとただの家だった部分が回転し変型して二つの目が出てきた。
全身が硬質そうな鋼鉄で覆われたロボットのようなものは全長5mほどもありアカリたちを圧巻する。
全身緑に塗られていて柄も含めるとウォード団の服装と同じだ。
「みゃっみゃーみゃーん!」
ロボットからミケの声が響く。
恐らく拡声器が積まれてるのだろう。
「どーだ恐れ入ったか!俺たちの秘密兵器グランドウォード!」
デスロウが拡声器を使うとたたでさえ大きな声が町中に響く。
「自警団もお前もこの俺様たちが蹴散らす力!見せてやろう!」
拡声器からそうクライブの声が響くと駆動音を鳴らしながらロボットが動きファイティングポーズを構えるように腕を前へ折って拳を握りしめた。
町のはずれの方にある家だったので幸い人々は少ないが騒ぎに気づいて次々と自宅から逃げ出している。
その中でアカリは驚き少し汗を額に流しながらも平然とした態度で銃を構えた。
「そろそろこんな奴の相手をしたかった頃さ!」
撃ちながら走り様子を伺う。
チリチリという金属銃弾エネルギーをはじく音。
全く効かないというわけでもないがあまり効果的ではないらしい。
「どうした!こちらからいくぞ!」
右腕の真っ直ぐ突き出されたストレート。
重量の乗った攻撃を食らうわけにはいかず転がって避ける。
大きな破壊音とともに周囲の住宅を破壊する腕。
さらに左腕も飛んでくるがこれも回避。
「どうにか弱点を見つけないと……!」
走りながらそう言っていると高速でロボットの胴体が回転しその勢いで高速に腕が横なぎ払い!
とっさの事に避けきれず大きく吹き飛ばされる!
「ぐうっ!」
空中で回転しつつ何とか地面にたどり着く前に体勢を立て直して着地する。
「だいじょうぶですか?」
「ああ、意外となんとも……ん?
」
アカリは首周りにアンドに渡したチョーカーがあることに気が付く。
アンドが憑依したときについたのだろう。
それどころかどうやら自動シールドが発動したらしく弱く光っている。
アカリの腕輪も光っており二重でシールドが張られているらしい。
普通コスモスは二つ持つと片方だけしか動かず個人認証を同じ人間の場合でも様々な同時作用したさいの不具合を考慮し片側は待機状態になる。
しかしアンドの認証とアカリの認証でこの特殊な状況のおかげか二つとも動いているらしい。
自動シールドは一つでもたくまさいが二つならば例え巨大なロボット相手でもかなり耐えられる。
「これは良い!よし、攻めるぞ!」
はい!というアンドの返事と共にロボットへと近づくため駆ける。
「みゃあみゃー!」
ロボットの肩から銃が迫り出て轟音と共に銃弾エネルギーが放たれる!
大きく旋回するように走り家の壁をアンドと協力して走り抜ける。
銃弾がすぐ後ろに迫っていても臆せずに足下まで走り込んだ。
「見つけた、まずはあの肩を壊す!」
銃にエネルギーを込めながら足下から跳んで膝へ。
「みゃあー!」
「分かってるって!ちゃんと狙ってるさ!」
足下から一気に跳んでさらに二段跳び。
そのまま壁走りで胴体を駆け上がり狙いをつけてとんできた腕をかわす!
「どこへいったんだぁ!?」
「にゃあ!」
そのままとんできた右腕に乗って肩の近くへ。
肩の砲台がアカリを狙う!
が気にせずそのまま距離を詰める。
そして思い切り蹴り飛ばした。
「ゲエ!?右肩の銃が動かねえ!」
砲台は無理矢理上を向かされガチガチと中のデスロウたちの操作に反応する音はするが元に戻らない。
当然銃が向いてる方向にアカリはいない。
アカリはチャージしていたエネルギー弾を肩のその銃へ向かって一撃、二撃、三撃!
異常な金属音が肩から鳴り響き急いでアカリは肩から飛び降りる。
その途端大きな爆発が起こり右腕がロボットから落ちた!
ズシンと言う重々しい音と共に地面に落ちロボットは途端に崩れた重心を立て直そうと暴れるように動く。
「にゃあにゃあにゃあにゃあ……!」
「耐えろー!耐えるんだ!」
「うおおぉおおぉおぉ!?」
騒がしく拡声器から騒音がでている。
アカリはその落ちた右腕の側に駆け寄りそれを両手で抱えた。
「……というわけ。やれる?」
「わかりました、やってみます!」
アカリが同じ口で説明と応答を行う。
アカリとアンドが分かれて会話しているだけなのだがやはり端から見ると奇妙そのままだった。
アカリが気合いを込めて右腕が少し浮くまで持ち上げる。
するとアカリの左足の後ろ側からいくつか地面に黒い霧が固形化したものが伸びまるで支え棒の用な物になる。
すると今度はアカリは右足を上げて同時に黒い霧が右半身全体にブースターのように吹き出して左足を軸にして持っている右腕ごと反時計回りに回転する。
「せえのっ!」
一周する直前に取れた右腕をロボットに向かって投げつける。
大振りの勢いがついた右腕は見事に空を飛びそのまま腕は体勢を崩したロボットの首へ。
正確には頭部の家部分と胴体部分の間だ。
強い当たりにただでさえ崩してた体勢で耐えれるはずもなく。
「にゃーー!」「ウワワワワワァ!?」「なああああああっ!!」
轟音を響かせ倒れるロボット。
頭も外れ突然の出来事に驚き混乱しながらミケたちウォード団の三人がその頭から出てくる。
そしてその出てきた目の前にいるのは銃をしまったアカリと憑依をやめたアンド。
「頼んだよ、ロボットの頭にラストインパクト!」
アンドが両手を広げると全身からエネルギーが集まっていき中央に大きめの玉が出来る。
「まっまた……!?」
デスロウがそう言って顔を歪ませた瞬間黒のエネルギーがロボット頭つまりウォード団の足下に撃ち込まれた。
三人の悲鳴と共に大爆発。
綺麗に三人は空へと撃ちあがった。
「ミャーーッ!!」「「こんなの聞いてないーー!!」」
再びウォード団は空の星になった。
疲れた体で自宅である簡易家型テントへと戻る。
まだ日は高いが流石にアンドが破壊エネルギーを放つ技をした休憩しなければアンドの身が持たない。
二人でゆっくりと休憩しふとアンドがアカリに話しかける。
「自分、まだしぬとかよくわからないのです。」
アカリはアンドに少し笑顔を向けてそれに返す。
「分からなくても良いんだよ、私だってまだ分からないからね。」
意外な答えにアンドは驚く。
てっきりアカリは分かり切っているのかと思っていたからだ。
「えっ?アカリも分からないのですか?」
「ああ、ただ一つ分かることは何かの死とかに必ず原因がある訳じゃないって事と。」
アカリは腕を頭の後ろに組んで後ろに倒れる。
腕を枕にするようにして天井を見る。
「その死の中で生かされてるってことかなあ。」
アンドは悩み考えて結局いつもの結論に達する。
「むずかしくてよくわからないのです。けれど。」
アンドはふと言葉をつけたし笑顔をアカリに向けた。
「アカリがなかないためにしぬはしたくないのです。」
ほほう、とアカリは言って笑顔でアンドの頭をくしゃくしゃと撫でた。
実を言うとアカリはそこまで生やら死なやらについて考えることは少なかった。
アンドに言われ少し考えてみて経験から少しそれらしく形づくってみただけだ。
アカリは人が原因と結果を求める生き物だと知っていた。
あらゆる事には原因となる犯人がいると思いこむ事が。
良いことがあれば悪いことも起こるという思い込みも。
等価交換という幻想が世界の真理だと信じたがる習性も。
無から有は科学で作れ死ぬまで不幸で報われる前に散る命もあり命が失われるようは事でも誰かが犯人になる必要は無いときもあるということを。
アンドは今後も考えていくかもしれないし案外寝たら忘れてしまうかもしれない。
しかし再び笑顔になれたアンドの表情からは一つ何かアンドの中で決まった事があるように見えた。
アンドの中で決まったことそれは、アカリと一緒に考えてそれまではいままで通り過ごそうと。
「そうだアンド、食事の時に食材になった生き物にありがとうというものがあるらしいよ。」
「ありがとうですか?」
昼食の準備をするアカリがそう話しかける。
「イタタギマスと言うそうだよ
。まあ相手が死んでしまってるのは同じだけれど少しは浮かばれるんじゃないかな?」
「イタタギマス……知らないことばです。」
アンドが顎に指を当てて考えるがそのような言葉はアンドが覚えた言葉には無かった。
「まあ、この世界の言葉ではないらしいから仕方ないさ。よし準備出来た。」
アカリがアンドの隣に座って手を合わせる。
アンドにも同じようにやるよう教え手を合わせさせる。
「せーの!」
いただきます。
昼からはいつものように依頼をこなし夜になったら帰って食事。
アンドも悩みつつもきちんとやることはこなしたし食事も元気に挨拶をしてからするようになった。
やることは全て済まし後は眠るだけとなった時にアンドはふと朝の事を思い出した。
人だかりが出来た洞窟の側で見た光景。
ベッドに寝転がりながら床に布を引いただけの所で横になるアカリに話しかけた。
「あのですねアカリ、えっと朝にへんなことがあったのです。」
「ん?」
アカリが耳を傾けて聞いた話はアンドの体験した白昼夢だった。
何かを感じて惹かれた先にあった何か。
アンドもわからないしアカリもわからない不思議な力を感じる場所。
誰かの視点から繰り広げられる悪魔による惨劇。
そして伝わってくる恐怖。
「それを見て、もしかしたら自分たちのせいなのかもしれないと、おもったのです……。」
アカリは一応そういうものに心当たりがないか思い出そうとするがまるでわからなかった。
しかしアンドが見た光景そのものは気になる。
ただの夢だと言い切るには洞窟の封鎖が気になった。
主にここらへんの町は自警団に任され警察は自分たちの手の届く都市部や危険地帯が主な管理場所だ。
洞窟の封鎖は警察が使う光壁発生端子により封じられていたためあそこが突然危険地帯に指定されるような事があったとも考えられるからだ。
「まあ詳しいことは明日調べよう。どちらにせよ私たちが悪意があったりしてその悪魔の絵の事を報告したわけじゃない。そう、例えその見たことが本当だったとしてもね。」
「うーん、そういうものなのですか?むずかしいのです。」
アンドは大きなあくび一つしてそう答える。
少し眠そうだと感じたアカリは早めに切り上げるためにそのまま話を続けた。
「別にアンドはその見た光景のようになってほしいと思って見つけたわけじゃないだろう?」
「うん、お仕事をしただけなのです。」
「そしてその光景みたいになることもわからなかった。誰かが悪いって事が無いときもそうやってあるんだよ。」
「へええ、ちょっとだけわかったのです。」
アンドなりの納得をしてもう一度大きなあくび。
おやすみ、とアカリが言うと言葉にならないような声で返事をしてアンドは眠ってしまった。
翌日は支度を済ませて家を出て向かった先は情報センターではなく町のコスモスショップだ。
目的は充電電波とともに送られるニュース。
基本アプリとしては入ってない事もあるがアカリはずいぶん前にニュースアプリの一種を手に入れているので簡単にニュースが手に入る。
マニアックな方向の話になるとともかく基本的なニュースならアプリそのものも無料で手に入る。
その場合広告欄が多いことがあるがそれは好みで使い分けるしかない。
アカリのコスモスアプリにもすぐに最新ニュースがやってきた。
「えーっと、きょうのかわいいと、とく?しゅ……」
「あああああいいから!そこは見なくて!」
アカリのニュースアプリは有料のマニアックな部分にも注目しているアプリだ。
そことは全く関係なく地方ニュース欄を見る。
目当ての記事はその記事の一番上。
つまり今一番の注目記事になっていた。
《町の近くで一体何が?アルセノラ洞穴で惨殺遺体4名 行方不明2名も》
アルセノラ洞穴は崩壊した洞窟の正式名称らしいとアカリはアンドに教えた。
ちなみにアカリはアルセノラ洞穴と呼んでいる人は見たこと無い。
記事の内容は崩壊した洞窟の中で4人が鈍い刃物で力ずくで切り裂かれ殺されていたとのこと。
人がやったというよりもそれこそかなり凶悪なセイメイが殺したという考えを警察は発表していること。
緊急用の救援信号を発信したと思われる人物と一緒に行動していたと思われる某有名飲料水メーカーの元社長が行方不明になっていることだった。
心身を癒す効果のあるオアシスの水なども販売している有名メーカーだ。
さらに洞窟の奥には謎の大きな白紙絵が日光に晒され落ちていたという。
「記事の内容はほとんどアンドの言ったとおり、か……。」
よりわからなくなった。
アンドが見たものはまるでこの記事の中をさらに深く突っ込んでその場で見てきたような内容だった。
アンドも記事を読んでより頭を悩ませる。
「あれは……、うーん、まるで、だれかのきおく?それにこころのようでした。とくにこのきじを、見るとそうかんじます。」
二人して悩むが分からない物が解決するわけではなくとりあえず分かったことを整理した。
アンドが見た事はほとんど事実だろうと判断できること。
そしてそのアンドが見た物はアンドではない誰かが見たものらしいということ。
アンドが見たその光景の最後である死の瞬間はアンドが光景を見た場所とほぼ一致しているということ。
「魂とかそんなものが残留していた、とか?」
アカリがふとそうこぼすがアンドは首を捻る。
「うーん、ちょっとちがうような?気がします。その、なんといいますか、そのひとの、いし、みたいなものを、感じました。」
いし、石。
ではないなとアカリは自分でツッコミを心の中で入れた。
意思、意志、遺志。
意味合いもだいたい同じだがここらへんの事だろうとアカリは納得して話を進める。
「その強く残された意思をアンドは見た、ということなのかな。」
アカリがそういうとアンドは少し考えてから肯定した。
現在分かることは少なかったがアンドがそのような光景を見れるという事とそしてそのような光景が起こった事。
それだけで十分な収穫だった。
「あの絵、持って帰らなくて良かった……。」
アカリは思わず苦笑いしてしまう。
はじめ見つけた時高値で売れそうだからと仕事と天秤にかけていた事はアンドには秘密だ。
もし持ち帰ろうとしたならば今頃アカリとアンドが遺体側になっていただろうから。
「やっぱり、あの絵、こわかったのです。でも、こわいのがいるだなんて、しらなかったのです…。」
アンドは絵を見た時の恐怖を思い出した。
むしろ絵から見られているような逃れようのない恐怖。
もしあれが悪魔の封じられた絵だと知っていたら。
そんな考えが頭に浮かぶ。
「アカリ、あれがもしあくまが出てくるってしっていたら……。」
「まあそれも報告する事で少なくともこの犠牲者は助かったかもね。でもね。」
アカリは即答した後にさらに一言付け足す。
暗い感情が心に注がれそうなアンドの目を見ながら。
「こういう事に、もし、はない。次のために学習するのは大事だけど既に起こってしまった事は変えようがないんだよ。」
アンドに向かって力強くそう言う。
アンドも思わず息を飲んでから「は、はい!」と返事をした。
「だからそんな暗い顔しないの。誰かにお前が悪いみたいに言われてもアンドが悪いわけじゃないんだから。」
そうアンドに言い聞かせ頭をゆっくりと撫でる。
すっとアンドの心が楽になって行き首のチョーカーも落ち着いた緑色になっていく。
「ちょっとむずかしいけれど、たぶん分かったのです!」
軽くアカリは笑いながらアンドの頭を撫でる。
ゆったりとした時間が再び戻ってきた。
「あ、でもアンド、無理矢理犯人に仕立てられたならともかく悪いことをしたらそれはちゃんと反省する事だよ?」
「分かりました!」
その日は精力的に依頼をこなし少しずつ資金をためていった。
二人分になったので稼ぎも多くなった分消費も大きく次の所へ向かうにしても十分稼いでおく事も大事だからだ。
信頼度があがったので特定の情報を町で探す情報捜査や特定の荷物を悪党から守りつつ運ぶ荷物護送。
それにセイメイ退治の依頼で場合によってはセイメイがたまに霧に戻らず落とすセイメイの一部を欲しがるものもある。
今回は“オレンジサマー”の討伐とそのヘタの入手だ。
出現する事が多く危険という訳で草原のオアシスのオアシス付近に現れる所を退治する事になった。
水際から感じる威圧感。
黒の霧が空間の歪みの穴から出てきて形作りオレンジが二匹とオレンジサマーと呼ばれる大きなオレンジのような個体が一匹現れた。
オレンジサマーはオレンジのまるまるとした形や二層に分かれた透けるような身体はそのままに一回り大きくなり小さな腕と口のようなものが逆三角形に赤くついている。
生物学的には口なのかは不明らしい。
さらに頭部にまるでオレンジたちのリーダーであるかのように王冠のようなヘタと呼ばれる部位がついている。
その緑色のヘタがあることがオレンジサマー最大の特徴だ。
「よし、やるか!」
「おしごとなので、ごめんなさい!」
口々に同じ身体でアカリたちは意気込む。
銃をコスモスから取り出して構える。
銃先のパーツは切り裂くエネルギー波を出すタイプに付け替え済みだ。
素早くまずはオレンジたちに射撃。
連射出来ず射撃の中では遅いエネルギー波では普通なら回避されるかもしれないかアンドのエネルギーが銃にこもってるなら別だ。
オレンジぐらいの軽く跳ぶ動きならエネルギー波がやや追尾してくれるというのをアカリは何度か使って実感していた。
当然跳ぶ事前提でオレンジの頭よりやや高めに撃ち込むがさらに高く跳ね避けてもオレンジの動きがギリギリの回避でない限りエネルギー波はオレンジを襲う。
まずは一撃左のオレンジに撃つ。
撃った瞬間にオレンジは大きく跳んで弾を避けようとする!
しかしエネルギー波は少しだけ角度を変えてオレンジを斜め下から上へ一閃!
黒い霧と散る姿を確認しつつアカリは次の射撃のために右へ走り込む。
その時僅かにアカリの左側に飛び込む塊!
勢いは猛然で見えない程ではないが力強く確実にアカリを狙った一撃。
当たりはしなかったがオレンジサマーの攻撃だ。
セイメイの攻撃はシールドではあまり弱められない。
喰らうと危険だなと考えながら少し大きめに回り込みつつオレンジサマーについて回ろうとしてるオレンジに撃ち込む!
オレンジの反応速度が追いつかずエネルギーの刃がオレンジを切り裂いた。
オレンジサマーが接近したあと小さな腕を振り回してからのストレート!
さらに右へ転がってから側面からオレンジサマーを撃ち抜く!
直撃。
横に当たりオレンジサマーに食い込み勢いよく押される。
しかし貫通はしない。
そのまま力を込めたこと思うと刃を弾き返した!
「一撃では駄目だな、なら!」
オレンジサマーの直接攻撃をすんででかわしながら二発。
さらに動きつつ三発。
切り刻まれたオレンジサマーの表皮が震えプルプルと震える音が聞こえる。
「はっ!」
さらに一撃。
しかしアカリはさらに銃にアンドのエネルギーをチャージしていく。
オレンジサマーの様子が変化して行き破裂しそうなほどに膨れ上がり。
爆発!
「来た!」
爆発の勢いでオレンジサマーは小さく4つへと別れまるでオレンジが4匹に増えたかのようになった。
アカリが警戒していたのはこの分裂だった。
分裂すると受けたダメージを分散してしまい再び一つになれば無傷に戻る。
この分裂時に全滅させれれば倒せれる。
のだが。
「あたらしい、オレンジなのです!」
黒い霧が集まって行き4匹のオレンジサマーの分裂にオレンジが3匹加わる。
乱れ跳んで混ざり合い見分けのつかないオレンジとオレンジサマー分裂体が逃げ広がりアカリに回り込んで襲い込む。
「まとめてえええ!!」
チャージしていた銃のエネルギーを一度に解き放ち回転するようにエネルギー波を撃ち込む!
鋭いエネルギーは長い光の波となって円状に広がりまとめてオレンジたちをなぎはらった。
刻まれるオレンジたちの中で唯一吹っ飛ばされるオレンジが一匹。
アカリが近づくと目を回している。
そして頭にオレンジサマーの証のヘタが現れ小さな腕もだらしなく垂れて出てきた。
「最後の本体!」
オレンジサマーめがけて銃を撃ち込む。
オレンジサマーの身体に深い切れ込みが入りそのまま黒い霧へと変化してどこかへと霧散した。
そのオレンジサマーが倒され消えたたあたりをアカリは念入りに探した。
「あった、ヘタだ。」
オレンジサマーが霧と消えた所に残されたプニプニとした不思議はヘタ。
これそのものにアカリが使える事はないがセイメイ研究には必要のものらしい。
ヘタは通常のコスモスの道具入れアプリに入れるのではなく特別な生体用保存庫アプリに入れる。
高級なメモりを使用してよりそのまま保管する事で例え生きているものでも安心して入れられる。
ただし人に使用するのは原則として禁止されている。
誘拐や監禁などが安易に行えてしまうためあらかじめ人は入れられないように仕組まれていてそれを解く事は普通の悪党ではできない。
「こういうセイメイの一部を手に入れて退治もするような依頼は基本報酬がうまいんだよなあ。」
仕組みをアンドへと話しつつアカリはオレンジサマーのヘタをしまって帰り道を歩む。
アンドは憑依を解除してからアカリへ「なんとなく、わかったのです!」と元気よく返した。
「あ、でもあれですね、ごちそうそま、しなくちゃですね。」
アカリは思わず声を出して笑ってからアンドへ返した。
「いや、ご飯じゃないからごちそうさまはしなくていいよ!」
「ええと、そうじゃないのです。うーんと、ごちそうさまだけど、ごちそうさまではないのです。ありがとうを伝えるのです!」
あー、と何となくアカリは納得した。
何となくアンドの言いたいことは伝わった。
命いただく感謝の気持ちを捧げるという事。
そのことをしないと、と言いたかったのだろうと。
その日の夜食事を終えたアカリはコスモスからいくつか白や赤の粒々を取り出していた。
アンドがふと気づいてじっと見ているとアカリが気づいてアンドにちゃんと見えるよう見せてきた。
「これはなんですか?」
「錠剤だよ。栄養剤で最近二人だからよく働くようになったしそれに憑依された後パワーが抜けて落差で疲れるから、明日も頑張れるようにってね。」
そう言うとアカリは一気に口に放り込んでから水で流し込むように飲んだ。
「へぇー、自分も飲んでみたいのです。」
「いや、子どもはすぐ元気になれるから必要ないよ!」
アカリが笑いながら勢いよく突っ込みそれを受けてアンドは「そうなのですか?」ときょとんとした顔をして返事した。
アンドはそういえばアカリはいつも夜に何かを飲んでたなと思い返しあれが栄養剤だったんだなと一人納得していた。
大人になったら栄養剤とやらを飲めるのだろうかと考えながら大きくあくびをした。
「ほんと床で寝ると疲れが取れなくてなあ、そんな風にならなきゃ子どもは栄養剤いらないさ。」
アカリもいい加減床寝生活をどうにかしたいとは思ってはいるがなかなかベッドの資金をひねり出すのは苦しい。
徐々に貯金はたまってきているので残高と目標金額を頭の中で照らしあわしつつ大きく伸びをしてから机を片づけた。
床に本来は身体にかける毛布をひいてその上に寝転がった。
「さて、今日はどんな話をしようかアンド?」
繰り返される日常はアンドにとっても日常として記憶されていく。
日々仕事をこなし二人の息を合わせ働いていきアンドはその日常で多くのことを学んで行った。
そして頑張って稼いだお金を使う機会の日がついにやってきた。
それこそが。
「今日は休日だーー!」
朝からアカリは気分を上げて家の中で叫んでいた。
アンドは休日という言葉は初めて聞いた。
一応言葉を覚える過程で覚えはしたが《仕事がなく休める日》程度しか知らない。
「その、休日、はいいことなのですか?」
アンドの訪ねにアカリは目を輝かせしゃがんでアンドの肩に手を置き興奮してるかのように言い聞かせた。
「もちろん!今日は自由だ!」
二人は外出用に服を着替える。
アンドはいつも通りゆったりとした子ども服を適当に。
しかしアカリはかなり服装が違った。
普段はアカリの能力を最大に生かすために服の布地がギリギリ少ないものを選んで着るが今日は膝下まである青のスカートに長袖のゆったりとした女性服それにつばの広めな帽子まで被っている。
わあっ、とアンドが驚いてアカリを見てみると不敵な笑みを浮かべながらアカリが話した。
「どう?似合ってる?」
アンドは思わず短く二回うなずくと満足そうにアカリはアンドの頭を撫でた。
「オフの時……あっ、つまり休みの時くらい思い切って羽を伸ばさなきゃね!」