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さいごのたび  作者: チル
ミケ編
4/22

ミケ 資金稼ぎ編

物価はだいたい同じです

  あらすじ

 死にかけた星にも生き物はすみつづけたが新しい子はほぼうまれなくなってしまった

 そんな世界に突然何かに産み落とされた子アンドは道中出会ったハイエナ系種族のアカリと共に世界を旅しのわずかに生まれた子どもたちをさがしに行くのだった。

 世界は激動の時を終え温暖な時すら過ぎ去りもはや力尽きるその時を待つだけの身となった。

 そしてそんな世界から離れる事なく暮らす人々は故郷が惜しいのかもはや出て行く気力がないのかそれとも何かを果たそうとしているのか。

 いずれにせよ彼らはこの星で暮らし過ごしていてそして星の終わりを待ち続けている。


「……。」

 アンドは呆気にとられていた。

夜の町の外に建てられた簡易な家。

 アカリの簡易家キットで出来たその中言葉を理解できたアンドに一つずつアンドの質問に答えていった。

 アンドの質問攻めにアカリは全て答えれるわけではなかったが知っている事は見たこと聞いたこと一つずつ答えていった。

 アカリのこと。

 自分、つまりアンドのこと。

 コスモスのこと。

 町の事。

 岩石砂漠の事。

 空の事。

 太陽の事。

 世界の事。

 空の向こうの事。

 アカリもそういう話に詳しいわけではないが少なくとも現状の世界が朽ち消える前だということやそのせいで新たな生命が生まれる力が無くなっているということ。

 そしてそんな世界に生まれた最後の生き物がアンドだろうということ。

 空の向こうに宇宙が広がり宇宙の中の太陽が星を照らしさらに離れた場所ではそんな環境がいくつもあってそれが集まり銀河となってさらに遠く別の銀河の果てにはまたここと同じように誰かが暮らしていてそこと違うのは星が老衰してはいないということぐらいで。

 そんな銀河と人の暮らす星がいくつも集まって一つの宇宙になる。

 そして宇宙の隣にはまた同じ宇宙がありその集まりがこの世の中として成り立っている。

 そんなアンドには想像もつかないような遙かなはるかな話。

「アンド、大丈夫?」

 アカリが話を中断してアンドに問いかける。

 アンドははっとして一度アカリを見てからうーん、と唸る。

「分かったようなわからないような……むずかしいのです。」

「そうか。だよねえ。」

 でも、とアンドはつぶやく。

「もっとしりたいと思いました!ええと、なんだか自分はもっとしらなくちゃいけない、そんな気がするんです!」

 アンドが勢いよくそう言いアカリは小さくうなずく。

「そうかあ、じゃあゆっくりと話そうね。」

 でも、とアカリは言いコスモスを操作しだす。

「まずはご飯にしようか!」

「わかりました!!」

 アカリの赤い腕輪型コスモスから光が伸びて机の上に山海老の辛煮やオレンジ肉まんそれに竜炎麦の緑パンなどが並ぶ。

 アンドはふさふさとした深緑色の尻尾を強く振って食事をきらきらとした瞳で眺めた。

「うわぁー!いただきます!」


 食事が終わり片づけをした後しばらく眠るまでアカリとアンドは話の続きをした。

「私は夢があるんだ。」

「夢?」

 話の途中アカリは一息ついてからそうアンドに切り出した。

「世界中の私より幼い子たちにあってみたいというのが第一の夢。そしてこの壊れかけた世界が完全に無くなってしまうまえに故郷として一通り見ておきたいというのが第二の夢。そして第三の夢。」

 アカリは天井を見つめて腕を伸ばす。

「別の星へ行く。故郷と別れをつげて元気な星に。」

「わかれ……?」

 アンドはアカリの言ってる言葉の意味はわかる。

 だがアカリのその時の悲しげな何とも表現し難い顔は分からなかった。

「そう、別れ。だからこの星にさよならを言って回って。そして新しい場所へ。まあ全然うまくいってないんだけどね。」

 アカリはそう言うと軽く笑い飛ばしてアンドの頭を撫でた。

 柔らかい手がアンドの頭に触れてアンドは不思議と優しい気持ちが広がって行く。

「キュイキュイ……」

「続きはまた明日、さあ寝る準備しよっか?」


 身体をシャワーで綺麗にし。

 アンドはともかくアカリはトイレもすませ。

 アカリはコスモスを外した。

「ふう……便利だけどやはり、なんかやだなあ。」

 コスモスの機能をオフにすると腕輪はカチャリという音ともに変形し半円になって外れる。

 そんなコスモスの機能の一つに“旅用体調管理システム”というものがある。

 あまり一般に出回ってない高級なアプリケーションでアカリが旅立つ前に親に買って貰った品だ。

 普段の生活での些細な体調補正から始まり外熱からの管理日射によるダメージ管理水分量管理自動解毒老廃物管理等など。

 効果としては例えば砂漠や凍土に半裸のような格好にいても平気になり、水は活動してても一日ぐらい何も飲まずとも喉はまるで乾かず、険中間違って猛毒の蝶に襲われてもじきに回復し、トイレは数日我慢しても身体に毒にはならない。

 もっと言ってしまえば女性特有の体調の崩しや大けがした時の流血日々の疲れからくる身体と精神への負担すら制御してしまえる。

 その変わりコスモスを常に身につけさらに常に身体に何とも言い難い違和感を抱えながら常に過ごす事になる。

 便利な反面、面倒さや違和感何よりあまり出回ってない高級品ということもありアカリのような旅人ですら持っていたり存在を知るものは少ない。

 アカリもそのコスモスに全て視られ続けてるような感覚から時に解放されたくなる。

 ただだいぶ前その機能をオフにしたまま旅を続けたら気づいたら病院のベッドの上だったので大事さは良く知っている。

 束の間の休息に外すだけでまた明日からは存分に働いて貰うつもりだ。

 コスモスは机の上に置きアカリは床へと寝転がる。

 前回アンドを潰した反省として今日は床寝だ。

 近いうちにもう一つベッドを買いたいが暫くは資金がないため我慢する事にした。

 ベッドの上のアンドを見ると既に目を瞑り眠ったのか静かにしている。

 アカリも明日からの行動プランを頭の中で組み立てながら眠りにつくことにした。

「コード、消灯。」

 声に反応し部屋の明かりは消える。

 静寂の闇が激動の一日を送った二人を癒すかのように包んだ。

 一方アンドは眠ったわけではなかった。

 もちろん眠りたくて目を瞑っていたのだが頭の中で先ほどの話や今日の事が渦巻いていた。

 特に“最後の新しい命”ということ。

 そのことが渦巻いて自分から溢れて包みまるで急かしてくるように突き動かそうとする。

“しらなくちゃいけない”その気持ちはそんな焦りにも似た感情が生んだ言葉でその言葉がアンドを焦らす。

 何に焦るのかそれすらも分からないのにアンドの中を這いずり回るように動くそれは止まらなかった。

 何も気負うことなど無く苦しむこともないはずの要素要素がアンドの

首根っこを掴んで急かしてくる。

 見えない何か這い寄られ身体の感覚すら手放しかけたその時。

 すっかりアンドは夢の中だった。


 翌日。

 朝日が上るころに二人は朝の支度をしていた。

 朝ご飯は真白食パンに大トカゲの卵の目玉焼きそしてトンカツ星人の政府認定印付きハムそして天国盛りサラダという王道で済ます。

 アカリは今日は紺のジーンズに黒ベースのどこかの国の文字が書かれた服で当然布は自分で危ないと思うラインスレスレまで切り落としている。

 まだアンドに詳しく話していないアカリの技である発光は普段から身体が布に被われてなければないほど強く力を発揮できる。

 嫌いな格好というわけではないが落ち着いたら着飾った煌びやかなドレスなども着てみたいという願望が無いわけでもなかった。

 そしてアンドの今日の服は赤とピンクでフリフリのついた花柄のワンポイントが特徴な子どもならではのお姫様のような甘い雰囲気の漂う女子服だ。

 昨日とは方向性がまるで違うが一つだけ共通しているのは“ゆったりとしている”ということだった。

 アンドの服選び基準もある意味自分と似たようなものだな、などとアカリは思って苦笑いしながら性別がわからないからこその自由な服選びをするアンドを見た。

 準備を終えアカリはコスモスを右腕にはめ外への扉を開けて外へと向かった。


 町の中の酒場。

そこは朝は開いてないが朝から業務を行っている所が一つだけある。

 そここそが情報センターだ。

 《閉店中》と書かれた掛札を無視して扉を開け誰もいない客席を進んで奥のカウンター前の座席に座る。

 アカリが情報センターに来たのは簡単な理由だった。

 資金稼ぎだ。


 今日の朝、改めて資金を確認して机の上に並べられた三つの銅貨。

「これが、全財産……。」

 アカリは頭を悩ませていた。

これでは夢の実現どころか今日の昼食も難しい。

 どうにかして先立つものを稼ぐ必要があった。

「きらきらコインをならべてどうしたのですか?」

 アンドが頭を抱えているアカリに話し掛けるとアカリはアンドの方を見てから少し考えてそして答えた。

「これは……お金だよ。銅貨三つしかないんだよね。」

「なるほど、これがお金なのですね!」

 言葉では知っていたが実物は改めて示されたアンドが尻尾を振って喜ぶ。

「確か、似たようなので銀色のもあったのです。」

「そう、お金はまあそれぞれの国で違うんだけど私のような旅人が簡易にやりとりしやすいように扱われてるのがこの貨幣なんだ。」

 アカリの説明によると、まず最低の価値を持つのが銀色で1g程度の小さなアルミ硬貨。

 次にそのアルミ硬貨10枚分の価値の磨けば輝く銅色の黄銅硬貨。

 さらにそれの10枚分の価値のあるこの銅貨。

 銅貨10枚と同じ価値の銀貨。

 そして銀貨10枚と同じ価値なのがずしりと重い黄色く輝く金貨。

 そしてその金貨10枚と同じ価値なのがアカリもあまり見たことがないという白金硬貨というものだそうだ。

 銀行等の表記は基本銀貨基準で例えば銅貨5枚銀貨1枚金貨8持っていれば81.5銀という表記になる。

 そして旅人たちに物を売る商売をする者たちが細かく価値を提示するときは398硬貨などと書きこれで398枚のアルミ硬貨と同じ価値があると言う意味になる。

 慣れてない旅人がこの数字トリックに騙され詐欺同然のぼったくりを掴まされ枕を濡らす事もあるという。

 アカリも過去に一度大損したためアンドには念入りに価格というものを教えておいた。

 そして現在の所持金3銅が先ほどの398硬貨の品すら98硬貨分足りなくて買えないという事態であることもよく教えアンドと共に今日は頑張って資金調達する事を誓った。

 のだが。


「どういうことだよ!」

 アカリが怒りの抗議をするも酒場のマスターは涼しい顔をしながら白く長い体毛を弄りながら答える。

「何度でも言ってやるが、まずはそこのガキの情報を売るという提案。それはもう間に合ってる。」

 酒場のマスターの視線がアンドに触れアンドは少し緊張した。

「何せ町中で堂々と晒し回った奴がいるらしいからな。細かい事までこちらに売られてきている。これ以上の情報は現在必要とされてないと判断されたってだけだ。」

 アカリは昨日の自分を殴り倒したくなった。

 確かにアカリが流そうとした情報はあくまでアンドの基本的な事であって委細な情報や位置関連またあの特殊な力については一切話すつもりは無かった。

 そこまで話すとアンドの身に迫る危険が多くなるためだったがそのアカリが話そうとした情報以上に町の人間から情報収集されていたらしい。

「さらに、なぜお前さんに渡せる依頼がこんなにも制限されているのかという事について。最近お前さんは“一つ星のハイエナ”としてでの方の名前ばかり強くなってて信頼に値しないと判断されたらしくってな。最低の階級からやり直しだそうだ。」

 情報収集の依頼はそれぞれに属した階級によって受けれるものが変わる。

 より高品質に完璧に依頼をこなせばより多くの重大な依頼を任されるが逆に悪名が広まるような信頼に関わる事ばかりすれば階級が下がり制限される。

 最近揉め事が多かったせいで見事に安くてまるで使いぱしりのような内容ばかりが揃った最低ランクの依頼が揃っている。

「あー、もう分かったよ、やり直せば良いんだろう!」

 アカリは適当に依頼をいくつか選びコスモスに情報を受け取ってから席を立つ。

「じゃあ、直ぐに終わらせてくる!行こう、アンド!」

 アンドの手を引き酒場のマスターに別れを告げる。

 アンドは少し固まってたせいで引っ張られるように歩く。

「まあせいぜい真面目に仕事をする事だな。」

 酒場のマスターの憎まれ口を後ろに聞きながら酒場を出て扉を閉めてから大きく溜め息をつきしゃがみ込む。

「はあ、稼げるかな今日のご飯代……。」

 何となく言葉から事情を察したアンドが背中をポンポンと軽く叩いた。


「待てぇーっ!」

 舗装された道路を逃げる一人と追う二人。

 依頼の一つは食べ物泥棒に関する自警団からの依頼だった。

 ここの所菓子類の万引きが相次いでいるらしくその情報を広く募集さしていた。

「犯人捕縛で報酬上乗せ!逃がすか!」

 被害にあってる店に聞き込みしていた時にアンドがたまたま話しかけたアンド程度の背で全身をローブで隠すような服装をしていた人が話しかけられた事に驚きローブの中から菓子を落とした事で犯人だと判明。

 そのまま逃走したためアカリとアンドが現在必死に追いかけている。

「にゃにゃーん!」

 軽い声で泥棒が鳴き近くの家の窓まで大きくジャンプ。

 窓のサッシに足をかけてさらに回転するかのようにそのまま屋根へ跳ぶ。

「なっ、身軽っ!」

 アカリが呆気に取られている間にアンドがなんとか追いつく。

「は、早いですっ。」

 アカリは振り返ってアンドの手を引いて急いで路地裏へと駆け込む。

 いきなり掴まれたアンドは宙に浮く勢いで引っ張られそのまま路地裏へと入り込んだ。

「アンド、早速だけどアレをするよ!」


 屋根の上で泥棒は軽く走り後ろを振り返って誰もいないのを確認する。

「にゃあ~。」

 振り切ったと確信してそのまま屋根伝いに跳んで移動する。

 例え見つかっても捕まるヘマはしない。

 絶対に逃げきれる自身と力、それこそが今までやってこれた秘訣だった。

 優雅に町の上の散歩と行こうかとしたその時。

 後ろのほうに聞こえた足音。

 直ぐに振り返りそして反射的に走る。

「待てーっ!!」

 先ほどの女がなぜか赤い服に着替えて屋根の上まで追ってきている。

 しかもさっきとは違ってかなり速い。

 このままでは追いつかれる。

「ふなーお!(こうなれば奥の手!)」

 後少しで追いつく。

 その瞬間泥棒は一瞬身体に光を纏ったかと思うと着ていたローブが脱げ空へと舞う。

「ね、猫に姿が変わった!?」

 追っていた背の低い泥棒は一瞬で三毛猫へと変化し逃げる速度を増す。

 負けじとアカリたちも追うが直線ならともかく次々と細く細かい足場へと飛び移り徐々に高い建物へ移っていくせいで距離を次第に離されていく。

「このままじゃあ逃げられ……」

 アカリの言葉を“憑依”しているアンドが遮る。

「少しためしたい事があるのですが、やってみてもよろしいのでしょうか?」


 全力で駆け抜けた先は三階建ての建造物が建ち並ぶ町の中でも高い建造物が多く屋根が塔のようになっていたり着地出来る所が細い端の上のみだったりしてただの人間ならここまで追ってこようとするものはまずいない。

 今度こそ完全勝利した泥棒は一安心して帰路につこうと。

「やっと追いついた!」

 不意に身体を掴まれそうになったがスレスレで避けて抜けるように跳ぶ。

「にゃにゃーっ!?」

 ありえない、二度までも。

 そう思って走りながら後ろを見ると壁に向かって跳んだかと思えばそのまま壁を走りこちらが高所に逃げれば相手は空中を“蹴って”空中ジャンプをしてくる。

「にゃぁーーあ!!(そんなスキルありなのー!?)」

 アンドの試したい事。

それは二人で協力して行う立体移動だった。

 壁走りはアカリが壁に向かって足をかけた瞬間に後方へアンドの身体の一部である黒い霧を高出力で飛ばして加速し走る技。

 そして空中ジャンプはアンドが一瞬だけ黒い霧を足下にまるで床のように固めた瞬間にアカリが跳ぶというどちらもその場で思いついた荒技だ。

 最初は微妙なタイミングの違いで距離を離されたが何とか近くまで追いついたのだ。

 猫は塀の上を駆け抜けアカリは塀の壁を駆ける。

 道はとっくに無く足場なんて言える所はなくなり地面がぐんぐんと遠ざかりやがて一つの高く突き出た塔の外壁を逃げて追いかけて登っていく。

 足場は僅か装飾の一部やそこから生まれる段差。

 本来なら登る事すら困難な塔の外壁を互いに駆け引きしながら登る。

 そしてついには。

「にゃあ!?(逃げ場所が!?)」

「先端まで来たか!」

「もう逃げられないのですよ!」

 同じ口から二人の言葉が出るが泥棒猫にそれを気にする余裕はない。

 町を見下ろせるほど高い塔の頂上外壁でほんのわずか足をずらせばいくら猫といえど地面についた瞬間身体が砕け散りそうだ。

 逆にアカリたちはゆっくりと猫に詰め寄る。

 まさかここまで追い詰められるとは思っていなかった猫は焦りからほんの僅か後ろ足を下げてしまう。

 軽い空を切る感触。

 気づいて身体を捻った時には遅かった。

 伸ばした鉤爪虚しく外壁に刺さることなく真っ逆さまに地上へダイブ。

 この時ほど自分の行いを深く反省しそしてそれが原因で死ぬ自らの愚かさを呪った。

 ほんの僅かな時が長く感じられ短いながらも人生が走馬燈のように駆けめぐる。

 まあまあ平凡な家庭に生まれ不自由はほどほどに自由もそれなりにある環境で育ったが常にスリルを求めていた。

 そんな下らない理由で現在最高のスリルを味わうハメになっているのだからまさに求めたものを手に入れれたわけだ。

 自暴自棄気味に感傷に浸るには時間が少なすぎる。

 だけどせめて最後は誰かの腕の中で息絶えたいなどという欲も出てきた。

 そう、まるで今のような腕に抱かれ……。

「ふにゃっ!?」

 泥棒猫が驚きの声を上げたのはある意味当然だった。

 空中でアカリに捕まえられていたのだ。

「犯人確保!アンド、タイミング合わせてよ!」

「わかりました!」

 猫からみたら自分で言って自分で答えてるようにしか見えない光景だったがまさに落下中の状況に明るく笑顔で対処している姿そのものが狂気に見えた。

 地面につく僅か一秒かといったその時。

 アカリが空気を受けるように身体を広げていたの急激に変化させ足を下へ。

「今だ!」

 黒い霧がかなり勢いよく放たれ一瞬で何か黒く固いゼリーのように見える物へと変わる。

 それを思いっきり踏みつけ縦回転。

ゼリーは強く吹き飛ばされ霧へと戻ってアカリに付着しアカリはクルクルと激しく回転した後見事に地面へと着地した。

「よし、依頼完了だな!」

 そしてそんなアカリに掴まれていた猫はというと無理矢理掴まれてからの一連の激しい動きについていけずグロッキー気味になっていた。


「ふう、1銀と2銅ゲット。」

 自警団の目の前でつい金額の話をしてしまったアカリは慌てて口を塞ぐ。

「ははは、まあとにかく助かりましたよ。」

 犬のお巡りさんならぬ犬の自警団の方々が元の姿に戻った泥棒猫をきっちりと拘束している。

 三毛猫だというのはそのままなのだがローブがなくなって人型に戻りはっきりわかったのはまだ子どもだ。

 見た目だけならアンドと同じ年齢の女子。

 服装は恐らく親に縫ってもらったのだろう花のシールが一つ二つある程度のシンプルな子供服でアンドと同じ上だけ着るスタイルだ。

「にゃあ!にゃあ!!」

 甘えた声を出してみたり抵抗してみたり。

 一切犬の自警団の方々は手を緩めてはくれないが忙しそうにしている。

「もしかしてあの子、五番目の子なんですか?」

 アカリがそう疑問を尋ねると犬の自警団の人は素直にうなずいた。

「我々もこうして捕まえて驚きましたよ。子どもが不良に走る事は嘆かわしいことだと昔から教えられています。我々も全力で彼女を更正させるつもりです。」

 あっ、はいと生返事してしまった。

 確かに目的の自分より若い子供はこの町にいると聞いてやってきた。

 しかしまさかこんな形で出会うとは思っていなかった。

 アンドはアカリの股にちょこんと手を置く。

 憑依は自警団が来る前に解いた。

「アカリの夢、ひとつかないましたですね?」

 アンドの問いかけに何とも言い難い感情がアカリの中で渦巻いた。

「ところでなのですが。」

 アンドがさらに問いかけてきてそちらをまず聞くことにした。

「さっきあの子姿が変わったのです。あの不思議なのは何なのでしょう?」

 ああそっか、とアカリは返した。

 まだアンドにはスキルのことを話していなかった。

「あれはスキルと言って……まあ次の所に移動しながら話すよ。」

 アカリが語るスキルの内容こうだ。

 元々人間には様々な隠された力がある。

 だからといって普通ではそれを引き出せる人間は多くはない。

 特に遺伝子に刻まれた遙か遠い力や魔法のような超能力に自らが完全に持っていない摩訶不思議な技術ながらそれを身体がたまたま身につけやすいはずのものなど努力では簡単には得られないもの。

 スキルとはそんな変わった力の総称で特に引き出された力の事を表す。

 アンドがコスモスによって言語理解したのも普遍的なスキルの一つでまたアカリの“発光”や泥棒猫の“先祖帰り”という四足歩行の獣になるスキルはかなり特殊なスキルだ。

 というのもスキルには適性があり誰もがあらゆる力を駆使し全知全能にというのは不可能。

 なおかつスキルは特に特殊で強力なものほど適応者は少なく入手方法も限られるため簡単には手に入らない。

 もちろん普遍的なものでも適性があり泥棒猫は言語を理解はしてるが声帯の関係で発音を正しく発する事は出来ないというのが自警団の取り調べで判明した。

 アカリのスキル“発光”は幼い頃両親がアカリの身を守るために色々試行錯誤した結果やっと適性があった護身等に使えるスキル。

 暗い夜道も明るく歩ける他に暴漢に襲われたら複数人纏めてでも相手を失神させるほどの力で光を浴びせれる使い方次第で相手の視界を永久に閉ざすスキルだそうだ。

 覚え方は簡単でコスモスを介して適性があるかどうか調べて可能ならそのまま習得が出来る。

 アカリが昔やったゲームにも同じようにモンスターに技を習得させれるものがあったが感覚上はあれとまったく同じだと今でもアカリは思っている。

 ちなみに“発光”のスキルデータは未だにアカリのコスモスに残っているのでアンドに試してみたが結果は外れだった。

「まあ、こういうのは本当にその人次第だから仕方ないさ。」

 アカリが残念がるアンドにそう声をかけアンドは小さくうなずいた。


 話変わって次の依頼へと向かったアカリたち。

 少しでも資金を稼ぐ為にかなり頑張って働いた。

 まずは特定書物の運搬。

 指定された情報の載った本、といってもデータを購入し指定された場所にいる人にまで届ける。

 誰がどうみても立派なパシりである。

 それでも片手間に出来る割に運送料がそこそこもらえるので何かのついでにまとめて行えばわりとバカに出来ない小遣い稼ぎになるなとアカリは考えながら無事依頼主にお届け完了。

 5銅、つまり500硬貨入手。

 次は特定薬草の入手。

 情報はこういう物として届ける事も多い。

 ここ最近の子が増やせないという環境に適応した草たちが生える町の近場にあるオアシスとそこを中心に広がる草原。

 その草たちの環境への適応方法は長命に根分けでの繁殖つまり出来る限り死ななくなってなおかつ分裂して増えるのだ。

 今生き残ってる草花はすでに30年近くそうして生き残ってきたものばかりで草花の適応力には驚かされたらしい。

 アカリもその昔の事を知らないので聞いた話をアンドに話す事になったが昔の草は半年程度で枯れたり種というものを作って子孫を増やしたという話を伝える。

「とおくの星からうられるくだものとかこくもつとかことばでしか知らないのですが、そのしょくぶつのたねというのと同じなんでしょうか?」

 少し違うが今度実際に買って食べさせてみようと思ったアカリだった。

 仕事の方は簡単で指定された薬草を刈り取り一束持って行くだけだ。

 草原への立ち入りと採取は制限されているのできちんと許可証を貰ってから草原へと乗り込む。

「うわぁ!思ってたよりずっと緑で一杯です!」

 見渡す限り様々な種類の草が広がる町の側のオアシス付近。

 実はオアシスよりかなり離れたところまで緑化していてここが岩石砂漠とそうでない場所とを隔てる地域になっている。

 草原はあまり背の高い草はなく一面に茂っているため快適な環境になっている。

 吹き抜ける風が草とアンドたちの頬を撫でる。

 感動しているアンドを引き連れ特定の薬草を探しナイフで刈り取っていく。

 こうすることでこの薬草は翌日には完全に再生している力を持っておりその生命力は人の体の治癒にも効能があるという。

 探索している最中何度かオレンジの群れに襲われたがアンドの憑依fを使って簡単に倒せれた。

 30分もせずに目的の物を回収出来て対した危険もなく帰還。

 7銅の報酬はあくまで危険地帯に行くわりにあまり割りに合わない作業だなとアカリは考えたがアンドはもっと新しい場所へと行ってみたいと鼻息荒くしていた。


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