表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
さいごのたび  作者: チル
アカリ編
2/22

アカリ 2

 彼が眠る間彼女……アカリは彼の生態についてさらに調査する。

調査といっても彼の毛を一本拝借してコスモスの科学調査モードにかけ、解析結果を閲覧するたけだ。

 5分後、その結果が表示され詳細なデータをスクロールしながら読み取っていく。

 アカリがまず注目したのは生年月日。

一週間以内どころか今日産まれたという事が判明している。

その事実にアカリは興奮した。

自分以外まだ誰も彼に接触していない可能性が高い。

つまり自分が初めて彼を『発見』したということだからだ。


 アカリは比較的幼少期は安全にかつ平凡に育てられた。

彼とアカリの間には4つの命しか産まれていない。

正確には大きな生命体を育むための一つの細胞たちやバクテリアたちの生き死にはあるが分裂のようなそれとは違い出産や孵化で産まれたのはその4つの命のみ。

 丁度アカリが産まれる一年前に開発された世界全体の生命誕生エネルギーを観測する装置つまり世界の残りエネルギーをはかる装置が確認した生誕数がそれなのだ。

 そしてその装置もアカリを含め5つめの命誕生時に世界エネルギーが尽きたとはかり、それを知った科学者たちはもう二度と何も反応しないであろうその装置を停止した。

 そのため世界の誰もが彼の存在を知る由も無い。

完全な偶然でアカリが発見し無ければまだ誰にも見つかってないだろう。


 話変わってそんな希少な新しい命の一つであるアカリは当然産まれた時から注目されもてはやされ同時に過保護なほどに守られ育てられた。

 知識や鍛錬は自由にさせてもらったのはありがたいがその狭い町の外以上には外へ行けなかったし常に誰かが側にいた。

 だが同年代の友と言える存在は当然おらず年上のみに囲まれ常に守られる立場で成長した。

 また希少な存在であるアカリを良からぬ企みでさらおうとする者も少なくなかった。

 世界を諦めきれない者がわずかな望みにかけ世界の犠牲……つまり実験のモルモットにしようとするものが少なからずおりそんな人間に裏で取引された者たちが幼いアカリを何度も襲った。

 また攫うことで希少な存在を盾にあらゆる物を要求しようとする者、希少な生き物をコレクションする違法コレクター、そんなことすら関係なく性欲のままアカリを狙うもの等々。

 結果的に無事成人するまで育ったが常に危機とそれから守ってくれる存在の板挟みで育ってきた。

 そんな環境で育ったため本や資料でしか見たことがない外の世界には憧れた。

特に自分よりも年下の存在。

 成人しついに町の外へ一人で行く事を許された時アカリは思い切って世界を一人で自由に旅をする事を決めた。

 両親は反対したがまだ見ぬ新しい世界と自分より年下をみんな見てみたいという情熱で押し切り護身を身につけついに外へ出た。

 初めての一人は寂しさと自由が合わさった物だった。

護られていた有り難みと危険の薄れた環境の気楽さ。

世界は例えそこに死が迫っていようとたった一人を全て包み込んだ。

 一年旅を重ね多少は経験を積みそして自分の思い描いた旅日記は簡単に叶えれる物ではないということも実感した。

辛く苦しい先に待つのはさらなる苦難の方が多く気軽な一人旅は人肌を求める一人旅になり死の溢れる世界は灰色に染まりかけていた。

 肝心の年下に会う目的も情報すらロクに入手できない事も多くやっと手に入れた情報は既にずっと過去の物。

 嘘偽りも多いのは保護のために流された物も多く近づく事すらままならない。

途方に暮れるほど見えない物ではないのにそれを掴む事が出来ない。

そんな毎日にアカリの心は静かに色褪せて行っていた。


 そんな時に出会ったのが彼だった。

調査依頼をこなすために訪れたオアシスは彼女にとってのオアシスすらもそこにいた。

彼女の初めての年下との出会いだった。

 アカリの世界は再び色づき初め深緑色の彼はアカリの旅に色を付けた。

 もし彼がこの世界の事を知っていたら歩みを止めていただろう。

 もしアカリが彼に出会わなければ旅を止めていたのだろう。

世界は偶然に満ちていてそして今アカリはその事を深く噛みしめていた。


 新しい『発見』は旅の原動力になりその喜びは特にアカリにとって大きな物となった。

それは少しの困惑と多大な喜びを与えアカリにとって最初の情熱を呼び覚ました。

 そんな想いに浸りながら彼の資料に目を通して行く。

 両親がそもそもいない可能性が高い不可思議なDNAをしている事。

 身体が外熱に強く毛が火傷を防ぎかつ昼間の光熱エネルギーの多くは草のように自身のエネルギーに変え昼間のうちはずっと無補給で動ける。

 水分もできる限り補給せずに高効率で身体を循環し身体全体から空気や地面から吸収する。

まるでサボテンのように過酷な環境でも生き伸びれる生体。

コスモスでも前例があまりにもないものは調査しきれず、目立った内容はそのぐらいで《詳細不明》が目立った。

 少なくともコスモスは彼を知的生命体だと判断し人類枠にデータをジャンル分けした。

 コスモスにとって新しい存在である彼はより詳細なデータの手入力での登録と名前を求められた。

 データ手入力はともかく彼の名前に関してはまだアカリは考えていなかった。

もし既に名前があるならともかく離す事すらできない彼では名前すらないと今更気づいた。

 アカリが不思議に思っていたのはコスモスにかけても結局男女が不明な事でそれのせいでどういう名前を付けるべきかも検討がつかない。

 適当にいろんな言語の辞書をめくりそれらしい単語を巡っていくつか候補を探しそして一つに絞る。

「よし、彼の名前は……。」

 名前入力欄に『アンド』と入力した。

 どこかの言葉の意味では『&』という二つを合わせたものという意味。

 遠くの言葉の意味では『安堵』というほっとする、安心するという意味。

 アカリの初めての名付けだった。


 アンドはすっかり眠りに落ち窓から見える外の景色は左欠けの月がすっかり空高く登っている。

 アカリはコスモスの空中に投影されたウィンドウに付いてるバツを押してメインメニュー以外閉じる。

 明かりをコスモスのリモコン機能を呼び出して消し全てのウィンドウを閉じると一つしかないベッドの小さなアンドの横に寝転がる。

 アンドは薄いながら全身体毛に被われているし子どもとは言え全裸。

空調が効いてるので風邪は引かないにしろ流石に服をどこかで調達したい。

アカリのコスモスの道具欄も一応先ほど確認したが代わりになりそうなものもなくアカリの服では大きすぎる。

 服の調達のために次の目的地はアンドを連れ砂漠の町に行こうと決めアカリは目を閉じた。

もちろん彼が同行してくれるのならばという前提がいるがアカリはきっとアンドは付いてきてくれると今までの様子や状況から察してその前提はクリアしているだろうと考えたからだ。


 光が窓から差し込む朝。

先に目覚めたのはアンドだった。

 ぱちりと目覚めた彼は右側から伝わる温もりに気づく。

ただし温もりと同時にずしりとした重みも。

 もちろんアカリに悪気があったわけではないが何だかんだシングルベッドは二人では狭い。

互いに寝返りを打ち続けた結果痛くはない程度にアンドの右半身にアカリがのし掛かっていた。

 アカリの右腕は身体全体を押さえつけるように伸びているし身体は右側がアカリのうつ伏せの身体に重なってて抜け出そうにも抜け出せない。

 アンドが既に丈夫な程度に育っていたから無事だが本当の赤ん坊なら少し間違えれば沈黙のまま窒息死一直線だった。

どれだけ力を込めた所でびくともしない。

 ついにこらえきれずにアンドは大声を張り上げた。

「ワアアアアア!!!」


 驚き飛び起きたアカリはその後が大変だった。

大声を出したショックと押しつぶされそうになってた恐怖などが合わさりアンドが軽くパニックに陥ったのだ。

 泣きわめいて駄々をこねるかのように身体を地面に叩きつけるかのごとくその場で暴れ叫び泣いて、アカリはアカリで年下の対処なんてロクにしらず自分がアンドを下敷きにしてしまっていたのは分かったが退いて上げても当然泣きやむはずはない。

 まさか子どもというのがここまでヒステリックになるなんて想像していなかったアカリはとにかく焦ってコスモスからいろんな物を出してなだめた。

 アンドに取っての初めての泣きで、アカリにとって初めてのあやしだ。


 アンドが泣きやんだのは20分ほどでアカリが慌ててコスモスから取り出したガラクタや人形はほとんど効果が無く結局初めて会った時に食べたパンで物理的に口が塞がる事で自然に落ち着いていった。

「アンド、ええと私が君につけた名前なんだけど……。とにかく、ごめんねアンド。」

 丸パンを不機嫌そうに口につめこんでいるアンドにアカリは両手を顔の前で合わせ謝罪した。

 といっても言葉はアンドに通じていないしアカリもそのことは承知の上で謝った。

言葉というのは意味はわからなくてもトーンや相手の表情それに仕草や直前の出来事またはその場の状態で感覚的に察する事はできる。

経験則よりも本能的な感性が言葉を少しずつ理解させる。

 アンドも例外ではなく彼女が危害を加えようとしてやったりまた自分に何らかの意思を必死で伝えたい事はほんの少しだけ分かった。

 丸パンを飲み込んで涙のついた目をこすってからアカリの手にそっと触れた。

言葉としてはやりとりが出来なかったがそれはアンドなりの許し。

良いよという表現だった。

 触れられた手をアカリは握りそしてそっと離す。

「アンド、許してくれる?」

 アカリはそう言ってアンドに笑顔を向ける。

彼女なりに考えつつアンドと対話するために。

 そんな笑顔に釣られアンドも笑顔になる。

アンド自身笑顔にどんな意味が込められてるかは知らないがアンドにとっては何となく良い感じがしたからだ。

「アンド、ありがとう。」

 アカリはそう言ってアンドに笑顔を送った後扉へと向かい外への扉を開く。

「アンド、一緒に行こう!」


 アンドとともに外に出たアカリは家をコスモスでリモート操作し自動片付けを行わせる。

 屋根から生えた機械の腕が次々自身の家の壁や床を取り外し壁自体も勝手にどんどん縮まり小さくなる。

そしてそれらを丁寧に自動で積み重ねてから最後に屋根が上に乗り腕をひものように伸ばして解体したものを抱えて固定する。

 固定を確認したらアカリはコスモスを操作して家セットに赤い光を浴びせる。

赤い光に包まれた家セットはその光の中に消えるように姿がなくなりそしてコスモスである腕輪に光が吸い込まれて行った。

「よし、しっかりしまえたかな。後は調査か。」

 アカリがここにきた本来の目的はここのオアシスに生えたヤシの木の調査。

 簡単な依頼で最新の詳細データを取得すれば完了だ。

 アンドはさっきまでの不機嫌は吹き飛びアカリやコスモスの一挙一動に新鮮な目を向けている。

初めて見るのだから当たり前だがその目はアカリの廃れかけていた冒険心を呼び覚ます。

 期待された目で見られてアカリの気持ちが少し高ぶってただサンプルを取るにしてもその期待に応えたくなった。

 木のサンプルとして適性だと言われたのが葉っぱだ。

一枚丸々だとヤシの場合大きすぎるが先を少し取れば問題無いだろうとアカリは判断した。

 普段のアカリなら適当な遠隔武器で作業的に刈り取るがここはアンドの目の前。

 年下に対する見栄というものが生まれつつあるのをアカリは感じ取っていてただ刈るだけではなくできる所を魅せたいと考えた。

 コスモスから小型のサバイバルナイフを取り出し後ろ腰に鞘をセットする。

 しっかり鞘にナイフを納めてから木の幹の掴まれそうな場所を確認してから跳ぶ。

 アンドから見るとそれは恐ろしいぐらいの跳躍だった。

自分より遙かに大きな彼女が彼女自身の身長を越えるほどの跳躍で木の幹に飛びついたのだ。

 さらにそこからが早かった。

木の幹の既に半分程度まで跳んでしがみついたアカリは慣れた手つきで駆け上がるように木を登る。

そのまま葉の近くまで登ってから片手を木から離しナイフを腰から取り出して右手に持ちそのまま木を蹴って跳び離れそのまま葉へと腕を伸ばして先を切り裂く。

 アカリの身体能力的には動かない目標など文字通り朝飯前だった。

 ナイフを持ってない左手と両足で華麗に着地してから立ち上がりナイフを鞘にしまって空を見る。

 ひらひらと舞い落ちる葉の一部をアカリは手に取りアンドへと振り返った。

「どう?これぐらいなら……これ……ぐらい……え?」

 そこにアンドの姿は無く代わりに残されていたのは二つの足跡と何かを引きずった跡。

 アカリは幼いころの経験上これが何を意味するか直ぐに気づいた。

「アンド!」

 人攫いだ。


 アンドは暗闇の中にいた。

揺れる地面に外から聞こえる大きな声。

「岩陰に隠れてあのメスが目を離した隙に麻袋をこのチビに被せてとんずら、隠してあった荷台に乗せてさらにとんずら、まさに完璧よ!」

 低く腹に響きそうなその声ともう一つ低いが良く通る声。

「メスをつけて行ったのは正解だったな。アイツよりもまさに宝ってのがのこのことそこらへんを歩いてるとはな!流石に良く冴えるなオレのカンは。」

 二人の男が何を話してるのか、また自分がどんな状況かさっぱり分からなかったが一つ分かったことはどことなく怖いということだ。

 身体が振動によって揺れる。

そして振動以外の震えも身体を揺らす。

 初めての恐怖だった。

 突然放り出された暗闇。

狭い空間は身動きすらろくにとれない。

ぎゅっと自分の腕の毛皮を掴み小さくなって固まる。


 しばらくすると揺れが収まり移動していた荷台が止められたのが分かる。

「ここまで逃げれば大丈夫だろう!どれ……」

 響く方の男の声がさらに大きく響く。

「洞窟ででかい声出すなって!エコーしまくるだろ。」

 アンドを入れた麻袋が荷台から降ろされながら二人組はそんな話をしている。

「こっちの方を売れば間違いなく一生遊んで暮らせる待遇はしてもらえるだろうから、慎重に扱わないとな。」

 どこかに運ばれたアンドの入った麻袋はゆっくりと地面に降ろされる。

 二人はアンドが内容を理解しているかしていないか気にも止めない様子で会話を続ける。

これからの移動経路や売り払った交換条件での狸の皮算用など完全に浮かれ気分で話していた。

 アンドも暗闇の中二人の会話に耳を傾けるが正直全く理解はできない。

ただ何となくイヤな感じがするのだけはひしひしと感じていた。


 すっかり成功ムードに酔っていた二人は麻袋以外の警戒を怠っており逃げてないのだけ確認しながら水筒の水を飲む。

洞窟に潜む影にも気づかずに。

「動くな!」

 岩石砂漠の岩山の影にある洞窟の光が届きにくい奥まった所に二人組の男はいた。

 アカリは暗闇の中その二人組の影に銃を向ける。

「おっと、良く分かったなここにいるって。」

 暗闇の中長身の男が良く通る声で話しかける。

「道に車輪跡をずっとつけてればバレバレに決まってる!」

 アカリは声のする方へ銃を向け警戒をする。

「おお、それは気づかなかったな!」

 大柄な男が闇の中から声を響かせる。

 アンドは真っ暗で状況は分からなかったが聞いたことのある声がして安心する。

「にしてもアンタ、火器の扱いには気をつけなよ?この暗い中間違ってこのガキに当たったら鼻の穴が増えちまうぞ?」

 長身の男が暗闇の中麻袋に目をくれる。

その中にはアンドが小さく詰められているからだ。

「アアワア!」

 言葉というより鳴き声に近い声でアンドはアカリに助けを求める。

この暗闇から出して欲しいと。

「やはりお前たちが!」

 アカリがその声を聞いてより一層アンドだと確信する。

「おうよ、俺様たちが天下に名を轟かせる予定のウォード団よ!オレ様はデスロウ!」

「団員はオレとデスロウ二人なんだけどな。そしてオレはクライブ!」

 少なくともアカリは聞いたことが無いので恐らく売り出し始めた小悪党だと判断した。

 しかも聞いてもないのに名乗りだしたり逃走ルートがバレバレなところを見るとまさに悪党初心者といった所だろう。

「あんたたちみたいな奴らはきっちりシバいておかないとね。」

 銃を構える音が洞窟内に響く。

「おいおい聞いてなかったのか?こんな狭い暗い所でそれを使ったらどうなっても知らないぜ?」

 長身の男が暗闇の中そう言いつつ何かをしようとしている。

暗いので何をしているかは分からないがよからぬ事ではあるだろう。

「ご忠告ありがとう。だけど問題ない!」

 アカリには勝算があった。

不意をつく事が最大の勝機を作る。

体の内側に力をイメージし貯蓄するように溜め込みそして今それを体中に向けて放つように力を込める。

 その瞬間、アカリの毛が全て強すぎるほどの白い光を放つ!

「うわっ!」「目が!」

 アカリの秘策技である発光。

こういう暗闇の所で有効な技はそれを一瞬だけ最大に開くことだった。

アカリだけが使える不思議なそれを最大限利用するためにアカリは普段からかなり薄着かつ布面積が少ない服を好む。

服装センスが疑われる事もあるが彼女にとっては効率重視となると際どい服装になるのだ。

 光る時は黒や灰がかった毛が一斉に白く光るためその独特の姿を親が生まれた時に見て名前を決めたそうだ。

 光が容赦なく二人組の視界を奪いなおかつアカリの視界を確保する。

左側に長身の猿らしい男と右側に大柄なカバらしい男。

どちらも砂漠越えのためにつばの広い帽子とお揃いの緑服を着ている。

さらに長身の男は右手にリボルバーを持っている。

発射の簡単で片手で扱いやすいために昔から使われている銃だ。

 そして中央奥の机の上に中身が動いている麻袋。

 瞬時に確認した所で今度は二人組にアカリの銃を構える。

 アサルトライフル。

両手で扱う長身銃で特徴は汎用性に優れる事と連射力。

 躊躇うことなく引き金を引いて激しい銃弾の嵐を浴びせる!

「うおあららららら!」

「あだだだだだだ!」

 銃弾といっても旧式の銃のように実弾を消耗するタイプではあまりにもこの時代効果すぎる。

 その代わりに放つのがコスモスのバッテリーを変換したエネルギー弾。

コストパフォーマンスだけでなく威力面もこちらの方が高いため現在では多くの銃がこのエネルギー弾タイプになっている。

 アカリは銃弾を浴びせながら飛ぶように駆けて二人組の背後に回り麻袋をキャッチする。

 そしてそのまま元の位置へと戻って銃弾を止める。

連射が効く分弾倉の中身が直ぐに空になるためもう一度コスモスにエネルギーチャージさせるためだ。

「いきなり何するんだこのメスネコ!」

「尻に穴が空くかと思ったじゃねーか!」

 ある程度は彼らは踊らされるかのようにある意味奇跡的な避けを披露したがそれだけではない。

彼らのコスモスが自動で防御シールドを張ったのだ。

全身を覆うエネルギーシールドは銃弾を浴びせてもちょっとやそっとでは壊れない。

ただし威力緩和するだけなので限度はあるし痛いものは痛いが。

 彼らのコスモスがどのような形でどこにあるかはわからないがキッチリ守られている以上アカリがこれ以上相手するのはただ面倒なだけだ。

 麻袋の紐をナイフで切り取って中身を開けるとアンドが耳を抑え震えていた。

「アンド、助けに来たから一緒に逃げよう!」

 突然の銃声に震えていたアンドにアカリの優しい声と光が降りかかりその白い光に向かってアンドは手を伸ばす。

 アカリはアンドの手をしっかり握って麻袋から出し外へ向かって駆け出す。

「あっ!いつのまに!」

 猿男のクライブが先に気づき駆け出す。

「しまった、ケツはもう穴が空いてた……ってコラ待て!」

 カバ男のデスロウも直ぐに後を追う。


 洞窟の外まで逃げ切ったアンドとアカリはどこかやり過ごせそうな場所を探す。 

 アカリは自身の発光を消してもう一度アンドを見た。

 アンドはアンドで白の光がアカリに変わる所を見て驚くが安心もした。

「とりあえず後少し、頑張って!」

 アカリがさらに駆けようとしたその時、背後から響く声が聞こえた。

「おっと何が後少しかな!?」

 後ろを振り返ると洞窟から出てきた二人組が銃を構えていた。

 クライブはリボルバーを、デスロウは猟銃を構えている。

猟銃は長身銃でかつ長い射程と高い一撃の威力それに二発同時に撃つ特性がある。

 アカリはアンドを連れている以上撃ち合いは不利だ。

「さあ、大人しくそいつをそっちに……ん?」

 クライブがアンドの方を見て何かに気づく。

 アンドは緊張の連続とアカリの元に戻れた少しの安心感でトイレを催していた。

アンドの初めてトイレ。

といっても彼は何か出そうなのは分かったが正直何をどうしたら良いのかはあまり分からなかった。

そしてアンドの初めての敵意はあの二人組だとはっきり認識した今何だか分からないがアンドの中で二つの思いが繋がる気がした。

 なので彼らに敵意を向けたままアンドは体のおもむくままにそのじれったい催しの解消を任せた。

 アンドの全身から黒々としたものが滲むように出てそれがアンドの目の前に集まり玉の形に収束する。

「なんだ、あれは!?」

 デスロウも気づき驚くがアンド自身も一度始まれば止まれない。

黒の玉はどんどんと膨らんで行きそしてアンドが両の手を大きく仰ぐように開く。

「アンド……?」

 アカリが異変に気づいた時にはもう寸前。

黒の玉は強力なエネルギーの塊としてまるでビームのように二人組に放たれた!

「どわぁっ!?」

 そして大爆発。

地面ごと吹き飛ばすかの如く二人組を空へと打ち上げた。

「「こんなの聞いてないぞーー!!」」

 二人の声がどんどん遠くなって行きそのまま空の星のように消えて行った。

 その攻撃、もとい排せつを行ったアンドは実にすっきりとした顔と心だった。


 アカリはアンドの謎の攻撃をコスモスに調べさせた結果、予測段階だがアンドは敵対物に排泄物を当てる事で安全を確保する生態ではないかと予測された。

 普段は効率よくわずかな水分を体内で出来るだけ処理し可能な限り排泄物を貯蓄する。

 そして限界が来た時や敵に襲われた時に放出する。

生物の攻撃反応としてはそれなりにあるものではあるがアンドはそれが類を見ないほど強力なようだ。

 ただしやはり弱点もあるらしく一撃しか出来ず再装填にはそれこそ一日かかる。

効率が良い身体構造をしている分一日に何度も使うことは出来ない。

 またわざわざ破壊エネルギーに変換しているため疲労は免れない。

 実際あの後アンドは尻餅をついて疲労からほとんど動く気力がないらしくもう一度テントを仮設してアカリが抱き抱えて動かしテントという名の家の中で休憩させている。

 アンドには簡単な食事、つまり白パンを渡しつつアカリは彼の生態データでコスモスが解析した新たな部分を読んでいた。


 恐らく彼らのような悪党は何度も襲ってくる。

アカリは経験上そう判断して今後の対策を考えることにした。

 一度使えば動けなくなるほどの諸刃のヤイバになる代わりに強力そのもののアンドが使える必殺技。

今回はたまたまアンドの使うタイミングが良かったが毎回無策に撃って楽に決まるものではない。

 どれだけアンドを制御出来るかが今後アンドが凶悪な輩に対して生き残れるかが鍵となる。

 アカリはコスモスにアンドの必殺技の情報を補整入力しつつそう考えた。

 最後にこの現象に名前をつけるように言われ少し考えてから入力する。

「アンド、さっきの凄い技ラストインパクトって付けて良いかな?」

 白パンをゆっくりと食べていたアンドが急に話しかけられ驚いてちゃんと噛む前に飲み込んでしまう。

 一瞬苦しそうな顔をしたが無理矢理飲み込みきってから一体何を言ったのかアカリの顔を見た。

「ああ、アンド急に話しかけてごめんね。とりあえずゆっくり休んでよ。」

 アカリなりに優しく声を掛けアンドは少し考えるも詳しくは何を言ってるか分からないのでまた食事を続ける。

そのなんとなしの優しさに包まれ甘えながら。

 彼女守ってくれる。

よくはわからないけれど自分に危害を加えようとする相手もいる。

そして疲れはしたがそんな一連のやりとりに何だか幸せな気分に包まれた。


 小一時間ほど休憩を取ってから再び家を出る。

洞窟があったのは街道から逸れた場所のため道が全く整備されておらず岩石砂漠らしく岩や石だらけで街道に戻るのも一苦労だろう。

 またアカリはもう一つ心配事があった。

悪党でもアンドの体調でもないもう一つの不安要素。

 街道でもその危険は襲ってくる可能性がないわけではないが人通りがまったくない場所ほどその危険が来る可能性が高いためだ。

 ゆっくり歩くアンドを見守りながらコスモスから弾倉エネルギーをチャージしたアサルトライフルを取り出して周囲を警戒する。

 その時アンドが先に異常に気づく。

震えるほどの突発的な悪寒。

詳しいことは分からなかったとにかく何かが来る事は分かった。

 アカリの足下に寄り添って周囲を見渡す。

アカリもアンドの突如の変化に戸惑いかつその変化が彼女達の警戒心をさらに高める。

 そして直ぐ後、目の前に突然現れた空間の歪み。

強く歪んで行ってさらに光すらも飲み込んで行く。

 アカリはこれが何かは直ぐにわかり銃を構える。

黒い歪み、その空間の穴とも言える所からは黒い霧のようなものが噴出しすぐ下に集まってぐるぐると回転しつつ形作って行く。

それは丸い形を作り黒々とした大きな二つの瞳だけがそこに浮かぶ。

色も黒から黄色の中心核とその周りを薄く覆うような透けるような赤色が特徴の謎の生き物。

 かわいくも見える高さ20センチ程度のこの霧から生まれた生き物の危険性はアカリは重々理解していたしアンドは悪寒から危険性を理解した。

「アンド離れて、こいつはセイメイ。死そのものが形作ったモンスターだ!」

 コスモスがセイメイ警告の多数のウィンドウと自動解析。

 名前はオレンジでもっとも一般的なセイメイで数が多い単独では危険性が低い相手。

しかしこちらは守りつつ戦うことに慣れてないアカリと先ほど体力を使い切ったアンド。

コスモスの判断は《五分五分》。

 それほどまでにこの20センチのコロコロとしたオレンジは危険だった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ