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さいごのたび  作者: チル
オーヤ編
16/22

オーヤ 見えざる檻

「お前は何者だ、目的はなんだ。これからどうするつもりだ」

「順を追って説明しまします。僕はオーヤ、歳は20。2番目の子、とも言われています。ここで幹部等もやらさせてもらっています。」

 2番目とはつまりアカリの次の子だ。

 すかさずアカリが反応する。

「っ! つまり子どもたちがこの街にいるといったのはお前自身の事だったのか!」

 オーヤはにこりと笑顔を作った。

「ええ、改めてよろしくお願いします。次に、ここへ招いた目的は2つ。お二人に会いたかったから、そして、この国や僕を知ってもらいたかったからです」

「まるで観光大使みたいだな?」

 アカリが冗談まじりに突っ込むがオーヤはすずしい顔をしている。

「ええ、そうですね。さて最後の質問、これからどうするか、ですが、まず見てもらいたいものがあります」

「見てもらいたいもの?」

「ええ、ただ準備があるので少しお待ち下さい」

「…わかった」

 アカリはまるでこの男の思考が読めない。

 笑顔の奥には何を隠しこちらの言動を誘っているのかはたまた深い意味は無いのかアカリは判断に迷っていた。

「キュイ!なんとなくわかったのです!」

 アンドは素直に納得した。

 そうしてアンドが手をあげた。

「あの、じぶんもしつ問したいのです!」

「もちろんどうぞ」

「はい! あのこおりのちからのことを、くわしくおしえてください!」

 ここへ来る前にオーヤが造り出した二頭の巨獣を撃退した氷の巨人のことだ。

 ナチュコンにより水を凍てつかせ意識があるかのように動かしてみせた大技の原理はアカリにも分からなかった。

 なのでアンドは中途半端なアカリの説明以上をと俄然興味が湧いたのだ。

「分かりました。少し長くなりますので楽に聞いて下さいね」

 オーヤが左手を軽くアカリたちの方へと振るとアカリたちの後ろの地面がうごめき崩れすぐに別の形である腰掛け椅子となった。

 クッションまである。ナチュコンだとしてもかなり器用だ。

 二人は出来立ての椅子に座ってオーヤの話を聞くことになった。


 どこまでアカリが説明出来たのかをオーヤが把握してから話は始まった。

 その話の始まりはナチュコン自体の始まりからだった。

 発展した科学は魔法と見分けがつかない。

 そう遥か昔から予想されそして実際そのとおりとなった。

 しかしその先で再び別れる事となるのは誰も予想だにしなかった。

 始まりは死後の研究だった。

 多数の眉唾な話はあれど誰も確かな情報など持つはずもない死語の世界。

 そこに科学的にメスを入れる事になったのは発展しきったといえるほど発展した科学の次の領域としては十分魅力的だったからだ。

 多数の苦難を乗り越え科学が出した答えは無だった。

 何もないそれこそが最終結論となるその時に全く別方向からその死語の“何か”が確認された。

「その何かってなんなのですか?」

「……その話は今は関係ないので、後でお願いします。」

 アンドの質問は保留しさらに話は続く。

 その“何か”を見つけたものはその時点では科学の一分野に過ぎなかった。

 まだ未発達な科学分野の一つとされていたそれはそこから一気に注目を集め力をつけ研究が盛んになった。

 と同時に不思議な事が起こった。

  科学はあらゆる方向から見てそれがどういうものであるかを見極める。

 だがこの分野が成果としてあげる内容の多くは他の視点からではまるで理解ができない。

 言ってしまえば科学としてはまるで成立しないことを成立させ続けた。

 その結果科学から完全に独立した分野として単独で新しい世界を構築するものとして成り立った。

 それこそがナチュコンだった。

「ここからが本題の仕組みです。」 ナチュコンは自然を寄せて整え形作り成立させる事で具現化と呼ばれる現象を起こす。

 コップに入っている水から熱を多く逃し結果温度の下がった水は凍り付く。

 それを科学的には何らかでの冷却で行うがナチュコンは具現化により熱そのものに干渉して逃がした結果凍らすのが特徴だ。

 つまりはコップを手でなぞるだけで水がみるみる内側から凍っていくという手品のような魔法のような不可思議な事を起こす。

「ここで大事なのは科学では見ることの出来ない世界から観察することです。」

 光の反射に赤外線や紫外線。

 あらゆる生物が持つあらゆる感覚ではない世界。

 科学的には裏世界とも言われるナチュコンで最も大事と言われているこの世界とほぼ同じ位置にありながらぶつからずかつ常に干渉しあう世界を視る事が大事だとされている。

 表世界は肉体的部分で支配されているが裏世界は精神的部分で支配されているためマインドサークルとナチュコン界隈では言われている。

 そこで先ほどの“何か”が大事になる。

 死後という“何か”の発見の過程でマインドサークルが発見されたからだ。

 表世界で肉体的死を迎えても裏世界である精神的死は同時に迎えることはあまりない。

 だが切り離される事により強い負荷を受ける。

 それが時たまに強くその場所のマインドサークル側で焼き付き残る。

 昔の人々はそれを薄く感じ取り幽霊と呼んだりマインドサークル側影響を受けた現実側変化を祟りと呼んだりもした。

「あれ?たしかじぶん、なくなった人のキオクを見たことあるのです!」

「!……それは……もしかするととてつもない才能があるかもしれませんね。」

 アンドが読み取った死者の記憶らしきものはミケと会った町でとある執事のものだった。

 その時アンドが焼き付いた記憶に触れる前に見た表現の出来ないような何かこそがマインドサークルだった。

 そして偶然ながらもアンドはその記憶を自分に寄せて見れるように整え具現化し閲覧した。

 閑話休題、そんな精神が支配する世界は正しく視てねじまがるほどではなくとも操る事ができれば表世界では起こしにくい事も楽に起こすことが可能となる。

 人は常に肉体的側の自分は意識できるが精神的側の自分からはうまく精神的世界への干渉は肉体的世界の死でもなければ出来ない。

 それを死なないで行う方法や補助装置を用い直接マインドサークルに干渉し様々な事を行えるようにして表世界等へ反映すること。

 それがナチュコンの仕組みだ。

「おっと、準備が出来たようです。先ほどの質問は移動しながら答えるのでまずはワープへ移動してください。」

 促されるままアカリとアンドは部屋の外へ出て来た道を戻りワープ装置へと入る。

 オーヤが最後に入り機械へ何やら手をかざすと何か小さい機械が稼働した音がしてワープ装置は動き出し三人を何処かへと消え去った。


 転送された先は今まで案内されたどの場所でもなかった。

 雰囲気は一変し配管が壁を這いところどころ老朽化の跡が見られる通路だ。

 アカリはあまりアンドの話に興味があったわけではないがオーヤに連れられてきたまるで雰囲気の違う場所には関心を向けざるおえなかった。

 それはアカリの直観による強い警戒でもある。

 ここはオーヤが先導して通路を歩いて行った。

 少し歩くと通路に下側まで広く見える窓がある場所に出てそこからのぞくようにオーヤに言われた。

 アカリたちが窓から通路の外を言われた通りのぞき見ると。

「な、なんだこれは!?訓練!?」

 窓からの光景は今までの平和な宗教施設とはかけ離れたものだった。

 どうやら窓から見える広い部屋の天井近くにここはあるらしく高い位置から見える。

 天井と床までの距離はビル2階分以上ありその全体に仮想空間を広げ十数人と十数人が障害物を挟んで激しい銃撃戦を繰り広げている。

 突然の非日常な擬似戦争じみた激闘。

 音はほとんど窓からは聴こえないがわずかに伝わってくる振動音がその光景に現実味を上乗せしていた。

 ゲームとして行っているのではなく本格的な殺し合いのための訓練だとオーヤに説明されなくとも伝わるほどの戦いだった。

「さて、あそこの説明は置いといて。先ほどの質問に答える約束でしたね。」

「置いとくのかよ!?」

眼下に広がる光景をあえて置いといてオーヤは話を続ける。

 案内のためにゆっくりと歩き続けながら。

「死後の“何か”とはつまり循環システムです。」

 循環システム。

 それは自然界では肉体的にも行われている食物連鎖と同じだ。

 マインドサークルのイベントホライズンと呼ばれる場所へ肉体を失った魂は導かれそこで分解され他の分解されたものと再構築し再び肉体を得て産まれる。

 連続した意識は混ざりあい一つになって全く新しい存在へと変わる。

「以上が“何か”の説明です。」

「ええっと……また教えてくださいです!」

 少しアンドには難しかったらしくオーヤは噛み砕いて説明した。

 そんなある意味和やかな雰囲気の通路と窓を挟んだ所の部屋はまさに戦場再現だった。

 アカリが見る限り片方のチームが前線を押し上げつつあり中央から敵陣へと隠れながら進んでいる。

 鉢合わせ激しい銃撃が相手の肩にあたり血が吹き出る。

 バーチャルな空間だとは言いつつも腕が吹き飛ぶのは痛々しい。

 遊びならここで終わりだが被弾した兵士は隠れ代わりの兵士が壁から出て撃ち込む。

 攻めていた側も隠れ被弾を避けると今度は爆弾を転がしてきた。

 慌てて攻めていた側が引くと爆発し炎の壁が出来た。

 撤退時に向いている人の侵入を阻む炎のナチュコンボムだ。

 傷を負った兵士は衛生兵のところまで肩を組んで運ばれ緊急の止血を受ける。

 止血と痛み止めの処置それに気力回復に衛生兵が杖を持ちつつナチュコンを使うとみるみるうちに顔の脂汗がひいてきた。

 自然治癒を高める類のナチュコンだろうが詳細は確認できない。

 そして再び立ち上がらせると予備の銃をもたせ再び戦場へと走り出した。

 片腕が無くとも戦わせるのはもはやゲームですら酷だ。

 そんな文字通り命がけだとしか思えない戦い。

 しかし前へと進軍するその背後の壁の角に潜む伏兵が飛び出て気配に振り返ろうとする負傷兵の首筋にビームナイフが……

「アカリ!いくのですよ!」

 訓練を越えたような戦いに目を奪われていたアカリはアンドの呼び止めで我に帰った。

 とっくにアンドたちは廊下の端の角を曲がろうとしていた。

「ああごめん!今行く!」


 そんな会話を続けているうちに新たな窓が廊下から見えていた。

「キュイ?ということは消えないのです?」

「必ず巡るようにつくられてます。世界を維持するために。」

 二人の会話を横目にしつつアカリは窓から通路の外を見る。

 今度は武器庫だ。

 今すぐにでも使えるよう手入れされた銃器や鋭利な刃物がおさまっているであろう鞘や刀身がビームで構成されている武器の持ち手部分などが埃もかぶらずに置いてある。

 この部屋も先ほどの所ぐらいの広さがあり細かく武器ごとに区切られている。

「アカリさん、見られましたか?そろそろ行きますよ。説明はまた後で。」

「なっちょっと!」

 いつの間にやら二人は廊下の角を曲がろうとしていてアカリは慌てて追いついた。

 アンドはオーヤとの話に夢中らしい。

 アカリはアカリで先程からの一宗教団体が持つようなものを見せつけられ困惑していた。

 三人はその後も施設の中を歩いていった。

 ワープして階層を切り替えつつまたアンドはオーヤに質問をしながら。 

 アカリはそんな二人について行きながら窓からの景色に驚かされ続けた。

 先ほどのトレーニングルームとはまるで違う光景で兵士たちが統率された動きで何グループかに分かれて十人程度がまとまって訓練をしていたり。

 実験室という名の空き部屋に物を積んでるだけの所とは違って多数の研究者たちが多量の火薬や劇薬を含む薬品が並びわけのわからない機械や数式が見られナチュコン関連物や鉱物まで置いてある研究室。

 物々しい雰囲気で百人以上が集って会議らしきものをしている所もあった。

 様々な施設がありそのどれもが先ほど歩いて見てきた宗教団体としての施設とは規模が遥かに大きくそして日常生活とはかけ離れたものだった。

 アカリは政治や国に詳しいわけではないがまさに国家規模と言いたくなるようなものを見せつけられた。

 一方アンドはと言うと窓からの景色は見はするものの最大の関心はオーヤとの会話に向けられていた。

「それでは後でナチュコンの基本をやってみましょうか。」

「キュイ!」

 二人はいつの間にやら仲良くなっていてアカリはそれを遠巻きに見ている状態になっていた。

 そもそもオーヤが情報を寄越したのはアンド宛だ。

 アンドに最大の関心があるのは当然だろうなと考えつつオーヤが危険な事をしでかさないかと耳だけは彼らに集中させていた。

 特に今のところ危険はなくむしろ仲良くなっていくさまを見せつけられている気分になったが。


 そしてついにオーヤが「最後の階です」と言った場所についた。

 今度は通路ではなく、直接広い部屋へとワープしている。

 壁面に大量の機械が組み込まれその前に座れるように椅子が何人分か用意されている。

 さながらここで何かを操作するためのコックピットのようだとアカリは感じた。

「とは言っても塔は動かないよな……」

 ボソリと一言アカリが呟くとオーヤが反応した。

「それについて今から話そうと思います。それと先程から置いといてあるここまで案内した場所のことを。」

 意外な所に反応されたアカリは驚きオーヤの話に耳を傾けた。

 アンドはそこらへんの機械を触ろうとしていたのでアカリが手を繋いで変なものにうかつに触れないようにした。

「ここはとある船のコックピットルーム。つまり操縦席です。今は別の用途に使われていますがね。」

「船……?いつの間にその船に移動したんだ?」

 まさか、という可能性は一旦捨てて常識的な範囲内の方をアカリは聞いた。

「いえ、塔の本当の形は船なのです。ここは地下に当たる場所で船の大部分は地下に埋まっています。」

 常識外の方の回答をされた。

 これにはアンドもアカリも驚かずえなかった。

 変な声を上げて二人は驚きオーヤを見つめる。

「地下に造られた戦艦で有事の際は町を突き破り直接宇宙へ退避できるようになっています。収容人数もかなりのもので宇宙でも一国として機能できるように造られています。もちろん国家秘密ですよ。」

 不敵な笑みをつくり狼らしい牙を口に浮かべながらスラスラと話す。

 一方アカリたちは突然国家の秘密をバラされ若干混乱気味だった。

「お前、え、一体いきなり何を!?」

「まあまあ、そこは大事ではないのです。大事なのはここの現在の使用方法なのです。」

 国家秘密をどうでも良いと流された。

 アカリにとってオーヤはこれで完全に読めない相手となってしまった。

「お前は一体、何を言ってるんだ……!?」

「ええ、これから出来るだけ分かってもらえるようにお話しますね。」

 機械の動くブゥンという低めの音が静かな部屋に鳴り響き空中にウインドウが開いていく。

 そのうちの一つをオーヤは機械を操作して大きく表示した。

 多数の波形の線が表示されていてそれが何なのかを示す文字も書かれている。

《C.S.M.S.データ収集受信 良好》

《通信妨害送信 良好》

「CSMS?つうしんぼうがい?」

「CSMSはコスモスの事だよな?それのデータ収集って……」

 コスモスは本来この星以外では電波通信機能がある。

 電話をかけたりネットワークにアクセスしたりできるのだがこの星は既に滅びかけで管理できるものが既にいないという話で機能をオミットされている。

 他の星から来た人間もここにくると圏外となってしまうのであまりその説明に疑問を持つものは多くなかった。

 アカリたちがデータへと目を向けて読んだのを確認してからオーヤは話を続ける。

「言ってしまえば、これはこの星で利用登録されているコスモスのデータをチャージのさいにデータを引っこ抜いている様子です。しかも高度的な通信機能を妨害する装置もついてます。」

「ということは、電波管理できないからココにネットワークや電話が出来ないというのは全部ウソなのか!?」

「ええ、全てのコスモスデータを一方的に集めそしてそれらのちょっとした不思議を共有され大きくされてしまうのを防ぐために手軽な連絡手段を絶たせてもらっています。」

 どうもアンドは理解が追いつかないがアカリは言葉は理解できても突然の暴露に思考がついていけなかった。

 唯一漏れ出るように出た言葉が「なぜ、そんな」とアカリ自身何が言いたいかわからない言葉だった。

「星一つ実験場にした銀河機密、もちろん僕が主導ではないですがこのプロジェクトにも関わっています。こういう事も知っておいて貰ったほうが良いと思いましたからね。」

「キューイ、すごいひみつだということは、わかったのです。」

 邪とも言える計画をまるで子どものいたずらのようにオーヤは軽く話続ける。

「コスモスはその利便性からあっという間にあらゆる人が持つようになりまたあらゆる国もそれの所持や販売それに改善を推し進めました。なぜなら統一された物を扱うことによりとても管理をしやすかったからです。」

 計画の最初の段階はコスモスを持っていることが普通である環境づくり。

 そして次の段階が今この星で行われている情報の一括管理だった。

「そして最後の段階でそれらのデータ等を利用し行動そのものを管理、制御へと持っていく。それこそが現在秘密裏に進められている星連合上層部の計画です。」

 星単位での政治的連合がこんな壮大な計画をこの壊れかけの星を利用して進めているらしい。

 その事はアカリも頭が痛くなりながらも理解した。

「とんだ……ディストピア計画だな!」

「ディストピア……いちぶのひとが多くのひとをかんりして、じゆうがないようにすること、です?」

 言語データとしてはアンドはあらゆる単語はコスモスを通して全て覚えているのでそれを頼りに会話へ追いつこうとする。

「それに近いものは、既にこの国でもあります。おそらくいくつか見たことが有るはずです。」

 アカリたちはこの国に来てからの事を思い出す。

 完全に管理され隔離された国境。

 朝決まった時間へ外へ出て決まった時間に膝を折って祈る。

 決まっていることはそういうことなのだと疑問を抱かない下流の人。

 上流階級に所属する人間の名前が全ての所で当たり前に通用する。

 全てを宗教中心で町並みが作られ人もそれに作られていく。

 そこまでならまだありうると言える範囲だ。

 しかしそれが全て一部の管理下に置かれコントロールされて生み出された物なら?

 そんな事を可能にしたと目の前の狼は語っているのだとアカリは理解しゾッとした。

「なんだか、いけないことだと思えるのです!」

 アンドは全ては理解してないが自分なりにそう判断した。

 しかしオーヤはゆっくり首を横に振る。

「いえ、何も悪いことばかりではないのですよ。まず第一にこのプロジェクトの各星から集められた膨大な資金の多くはこの星自体の維持に使われています。」

 この星は球体から既に崩壊が進みある程度の大きさで地盤が砕かれ宇宙に浮かんでいる。

 それでも中心があり大気もあり生命が活動しているのはあらゆる技術により崩壊したままで星として大体球体にまとまり太陽のまわりを回っているからだ。

 ギリギリではあるが星は生きている。

 その全力で命を繋ぎ止めるために注がれた金は表向きは各惑星からの寄付金だった。

「寄付というのは大半は嘘で実際は実験場としていつでも終わらせれる場所を選んでたってわけか……!」

「本当に慈善の心で寄付してくださった方たちもいますし一概には言えないのですけどね。そして第二に何も管理され統率されることは悪ではない。何も今だって多少の管理はや統率はあるしそれは望まれて、または秩序を得るためにあります。人の物を盗ってはいけない。会社として規則に則り全体で活動する。そのアカリさんがアンドさんを繋ぐ手も一つの管理です。」

 思わずアカリは手を離す。

 なにか考えがあったわけではなく反射的に離した。

 アンドが不安そうにアカリを覗き込みはっとさせられる。

 完全に相手に飲まれている。

 このままでは良くない方向に持っていかれてしまう。

 そう確信した。

 何でもいい、きっかけが欲しい。

 言葉を発しひたすら反応を伺う。

「何事も程度があるだろ、過剰な秩序やその逆に良いことなんて無い!」

「その“程度”を決めるのはアカリさん?それとも僕やアンドさんですか?それは誰にも測れませんよ、少なくとも群衆というものに現れなければ。」

 余裕の笑み。

 手応えがない。

 それもそうだろうこの国で一応は成功させているという建前がある以上この切り口からは難しかったらしい。

「なら、その実現のために取る手段、多くの人間に秘密裏に動かし犯罪行為までしてそんな事して誰にも同意されないだろう!?一部の人間の意思だけで人の意思を踏みにじって良いわけがない!!」

「ええ、そうですね。でも、それが問題があるのでしょうか?人の心は

誰にだって踏み入れぬ所があるもの、それはこの管理下でも変わりませんよ。人の心というのを僕は信じていますから。それに承諾が得られないとか、犯罪であるということもそうです。本当に誰も管理を必要としなければ必ず人が離れ崩壊しますし、法律や道徳は時と場所により変わるものなのだから管理下の世界ではそれが正しいとすれば良いだけの話です。」

 この方向もダメ。

 むしろ人としての可能性や凄さ等を説得しにかかられてしまった。

 ならば彼を崩す一手は何なのか。

 唸るような声で悩むそんなアカリの側にいたアンドはアカリの手を取って考えながらポツリと言った。

「そもそも、なぜそんなひみつをじぶんやアカリにおしえてくれるのです?きいているぶんだとぜったいに、ぜえったいにひみつの事なのです。」

 この言葉にアカリはハッとさせられまるで読めなかったオーヤの顔が瞳にはっきりとうつし出された。

 初めての僅かなスキ。

 上手い返しが見つからず声が詰まるようなその表情をアカリは初めて見た。

「……そうだ、お二人のコスモスにはこの部屋ならちょっとした事が出来るんですよ。」

 思い返したようにオーヤは機械を操作する。

 天井の機械から光が伸びてアカリの腕輪型とアンドのチョーカー型に繋がると一瞬コスモスたちが輝いた。

「アップデートしました。これでオミットされた通話機能がこの船を通して可能に、またお二人の付けるコスモスは全て調査から外れました。その二つはこの計画に加わる者の証です。」

「なっ!誰も加入するだなんて言ってないだろう!?」

 そう言ってから気づいた。

 このディストピア計画を知ってしまう事そのもので必ず加入しなくてはならないのだと。

 もはや気づいた時には敵の胃袋に取り囲まれていたとしか言いようがない。

「この計画は知るのには必ず加入しなくてはならないんですよ。それが突然他者から聞かされる形でも。」

「で、でもこのけーかくをあちこちで話したらいったいどうするつもりなんですか!」

 アンドの発言はアカリも考えていたがそんな事をしてもどうなるかは直ぐに気づいたため言わなかった。

「そうですね、まずだいたいの人は笑い話にし、ほとんどの人が陰謀論だと切り捨てますね。特に“一つ星のハイエナ”さんではね。」

 一つ星のハイエナという呼び名は悔しかったがまるで反論できなかった。

 アンドも「うう……」といって押し黙ってしまう。

 アカリたちは別に有名だったり世間的に信ぴょう性を認められるような立場の人間ではない。

 むしろその逆で気に入らない権力を振りかざす奴を殴ってその権力に潰され旅人という仲間内でも妙な呼び名が定着してしまっている。

「もし、それでも信じる人がいればその人たちもこちらの仲間になるかさもなくばというやつですね。」

 有無を言わさずトドメを刺された。

 一瞬光明が見えたかと思ったらむしろ敵の口内への入り口だった気がしてならない。

 アカリたちは暑くもないのに汗が出て止まらなかった。

「おっと、もうこんな時間だ……また話は今度しましょう。今ここは信用できるものに言って人を掃けさせてもらっているだけでそろそろ戻ってきてしまうようです。見つかったら皆殺しでは済まないでしょうから急ぎましょう。」

 ここにきて皆殺しという物騒すぎるワードが飛び出しオーヤに急かされるまま廊下へ。

 そしてワープ機械に乗って直接一階まで飛んだ。

 その後のことは二人はあまりよく覚えていない。

 オーヤに「必ず明日来てください」と言われたのは覚えているが果たしてその通りにして良いのか?

 そんな事を考える余裕すら無く二人は突如銀河を巻き込む陰謀に飲み込まれ頭の中まで“管理”された気分になった。

 外は日が暮れていて相変わらず寒さは止まること無い。

 しかし二人はそんな寒さよりもおぞましい寒さをこの国から見せつけられたような気がした。

 そんな二人は特に実の有る話が出来ないまま普段通りに就寝することとなりその混乱を夢の中にまで持ち込んだ。

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