森の小人達
前話のあらすじ?
ベルナック:私は……神だ……。
スゥちゃん:ん。
狙うのは、なるべく一体か二体で行動してるやつになるだろう。少しスキルを得た程度でゴブリンの群れと戦えるなどと増長してはならない。
とはいえ初めての戦闘に緊張はするが同時に期待もしていた。自分のスキルが一体どこまで相手に通じるのか、非常に楽しみであった。
「ターゲット確認、敵影は二つ。食事に熱中している模様、奇襲をかけるにはもってこいの状況と思われます!」
「ん、突撃」
30点かな。
俺達は、湖に向かう途中で見かけた二体のゴブリンの様子を見ていた。ゴブリンの癖に火を焚いて肉を焼いている。贅沢なものだ。
「ホルアドさん! 今回の女も中々イイもんでしたね!」
「そうだろうそうだろう? ま、このオレサマにかかっちゃ商隊の一つや二つちょろいもんよ!」
「さすがッスよホルアドさん! オイラ一生ついて行きます!」
「はっはっはっはっ!」
はて、どうやら中々の実力者みたいだ。それに名前も持っているらしい、俺は全級鑑定を発動してゴブリン達を見た。
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種族:ゴブリン(コモン級)
名前:なし Lv8
職業:野生の魔物
称号:ホルアドの部下
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種族:ゴブリン(コモン級)
名前:ホルアド Lv16
職業:メイジ
称号:森の炎術師
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「ヴ……急にお腹が」
「ん、鎮痛草と解毒草」
か、活路を絶たれた! 他ならぬ配下に活路を絶たれた!
「お、おう、ありがとうスゥちゃん」
ペッと吐き出されたそれらを笑顔で受け取るも、心から喜べないのは仕方ないと思う。というかスゥちゃんも持ってたんだな。
「や、やるっきゃねぇか………」
俺はアイテムボックスから麻痺粉を取り出し、それぞれ両手に忍ばせる。そして、呑気に肉を食う二体のゴブリンに背後から襲いかかった。
まず無力化するべきは、メイジのホルアド!
「な、なんだぁ!?」
「ホルアドさん! あぶねぇ!」
部下が早く気づいたようだが、遅い。俺は既に、ホルアドの顔に向けて麻痺粉をぶちまけていた。しかし───
「ホルアドさん!」
粉がホルアドに届くより先、部下がその身を盾にして麻痺粉を遮る。
「あがか、身体が……がぁ」
「チィッ!」
いきなり予定外だが………まずは部下から殺す!
麻痺して倒れこんでくるゴブリンの頭を掴んで、その鳩尾に膝蹴りを入れ続けざまに首を捻る。[武術]スキルのおかげか、スムーズに決めることができた。
「小さき火、敵を焼き貫け! フレイムアロー!」
ホルアドの声にハッとしてそちらを見ると、こちらに向けて炎の矢が放たれているのが確認できた。
「うおっとぉ!?」
瞬時に飛び退き炎の矢を回避する。そのまま木の陰に入ると、軽い足捌きで木を登る。その姿を例えるなら、まさに[猿]。
(軽業師、なかなか使えるな)
細い枝の間をスルリと抜け、隣の木に移る。ホルアドが再度同じ魔法を放つのを見て、俺はホルアドの背後に向けて身を投じた。
(これで背後をとった!)
着地と同時に前転して衝撃を抑え、振り返りざま裏拳を顔に喰らわせてホルアドの呪文を中断させる。
「ぐっ……テメェ!」
この距離での魔法は不利と判断したのか、ホルアドはゴブリン特有の鋭い爪で切りかかってきた。だが、肉弾戦は[武術]スキルを所持する俺にとっては得意分野だ。下手に魔法を使われるよりずっと安心できる。
その選択は、悪手だ。
俺は振るわれた爪を易々と避けると、その動きをそのまま利用して蹴りを放つ。
「グギェ」
それがホルアドの首に命中すると、確かな手応えと共にホルアドの首から嫌な音が鳴った。
「安らかに眠れ!」
地面に倒れ込むホルアドに向けて言い放つ。だがよく見ると、ホルアドはまだ生きていた。ヒューヒューと弱々しい呼吸が血に汚れた口から聞こえてくる。
やがてその音も消え入るように小さくなって───
『レベルが7に上昇しました』
「…………安らかに眠れ」
呪われそうだからもう一度唱えておく、今度は合掌付きだ。なんだかんだでやっぱり生命を奪う事には抵抗がある。だがまあこの世界は弱肉強食、強い者が喰らい、弱い者は喰われる。何時如何なる時でも、それは絶対不変のルールだ。
『おめでとうございます。クエスト[弱肉強食の世界]をクリアしました。報酬としてプレゼントアイテムとスキルポイントが贈られます』
そういえばそんなクエストもあったな。
「ん、お疲れ様」
「おう、スゥちゃんか」
「ベル、怪我無い?」
「いや………大丈夫だ」
少々身構え過ぎだったのだろうか? いや、大体はスキルの恩恵か。
「行こうか」
俺は踵を返すと、そのまま湖に向かう事にした。
道中、スキルポイントとプレゼントアイテムを歩きながら確認する。スキルポイントは3増えて12ポイントになっていた。
(まあ、魔法に残しとくべきだよな)
続けてプレゼントボックスを取り出し、開封する。中には短い剣が入っていた。
「全級鑑定」
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森小人の短剣(レア級)
森精霊の加護がかかった短剣。自然に囲まれている時に限り、剣術に補正がかかる。
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漸くまともな武器が手に入った訳だが、都合よく覇王の剣帯があるのでそちらに納める。プレゼントには鞘も一緒にあったので問題ない。
それと、気になるステータスだが………
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種族:魔王
名前:ベルナック Lv7
職業:かけだし魔王
体力:280(+50)
魔力:450(+50)
スキル:モンスターテイムLv2
全級鑑定Lv1
アイテムボックスLv3
武術Lv2
軽業師Lv1
斥候Lv2
直感Lv2
配下:スゥ
ダスラ(種族名)
称号:ラッキーボーイ
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「ベル、はなの下伸びてる」
「え? 気のせいじゃないっすか?」
冗談は置いといて、それなりに上昇して喜ばしい限りだ。
「スゥちゃん、レベルが7に上がったよ」
「ん、おめでと」
「もっと褒めて?」
「ん、すごいすごーい」
「もういいや」
「ん」
スゥちゃんは天使の様に可愛いけれど言葉の抑揚が乏しい、ここまで反応が薄いと少し寂しいな。
「ベル、湖ついた」
お、中々早かったな。まあ前回は大分探して見つけた訳だから当然といえば当然だが………
今日は先客は居ない。警戒する必要もないのでそのまま岸まで歩いて行くと、呼びかけるまでもなく水球が二つ浮き上がった。
おまけ
ゴブリン:ホルアドさん、今回も最高でしたね!
ホルアド:ハッハッハ、そうだろうそうだろう?
ゴブリン:でもホルアドさん、あの後すぐ殺られちゃいましたね。
ホルアド:お、おう……そうだな。
ゴブリン:ねえホルアドさん、俺達って踏み台なんすかね……?
ホルアド:………子分よ、貴様にまだ教えていない事があったな。
ゴブリン:ホルアドさん……?
ホルアド:よいか?脇役には脇役なりの生き甲斐ってのがある。俺達は主役の為に散ったのだ。そう、俺達は主役を一歩前に踏み出させる為の誇り高き[踏み台]だ!子分よ、[踏み台]であることに誇りを持て!
ゴブリン:ほ、ホルアドさん!オイラ一生ついて行きます!