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異世界魔王のダンジョン奮闘記  作者: 敗者のキモチ
示された道、示されぬ未知
29/29

地下の森

お久しぶりです。

遅くなって申し訳ありません。


 静寂が響く空洞。

 影の溶けゆく暗闇に囲まれた空間。

 頭上は鍾乳石が生いしげ、足元には突き上げるような石筍が競い合うように立ち並んでいる。

 白亜の岩盤と滴る水しか見受けられない。

 その中で、闇に溶け込む様な男と、闇を纏いつつも神聖な印象を残す少女が相対していた。

 明かりも灯さず、互いに視線を脇に逸らすことなく正眼に見据えている。

 静謐をやぶるように、男がやおら口を開いた。


「土魔法?」


 訝しむような口振り。

 少女は男の戸惑いを意に介さず、従順に答える。


「はい、貴方には適性があるので、覚えた方がよろしいかと。それに、黒森領域を広げるためにも、必須であると愚考します」


 黒字に紅いアラベスク模様のワンピースが映える少女は、艶やかな黒髪を片手で弄びながら、視線で周囲───洞窟内を指し示す。


「土が無ければ領域の要となる樹木は育ちませんから」


「それもそうだな」


 男は少女の言葉に頷きを返して、暗闇の中で淡く光るステータスウィンドウを出した。


「では、失礼して」


 滑り込む白指。

 間髪入れず少女の手が男とウィンドウの間に割り込み、その細指がリズム良く盤上を躍ると、程なくして男が短く詠唱を行った。


「我ここに土を求める。[土塊](グラン)


 言葉と共に、周辺一帯に広大な魔法陣が広がり、宙空に大小様々な土塊が現出する。形成された土塊は、魔法陣の光が消えゆくのに合わせてその浮力を失い落下を始め、地面と衝突すると例外なく崩れた。


黒森領域(シュヴァルトテリトリー)


 しかし、男の魔法はそれだけに止まらなかった。男の言葉に前後して、今し方創り出した地面から種々雑多な植物が異様な速度で成長を始める。黒葉を茂らせる樹木は天井近くまで枝を伸ばし、樹皮を這う蔓草はさらなる養分を求めて方々に頭を向ける。

 それら黒森の生誕は、地響きを伴って成された。


 ───地下深く、人知れぬ鍾乳洞に突如として現れた黒森。


「さて……侵略の基盤は、此処から始めるか」


 森に反響する男の言葉は、鍾乳洞の闇を心なしか深めた。




◇◇ ◆◆◆ ◇◇◇ ◆◆◆ ◇◇◇ ◆◆◆ ◇◇




「流石ですね、シュヴァルト」


 シュヴァルトとは、どうやら俺の事らしい。まあ、名前が無いのだから妥当な呼び方だろう。


「根を広げる感覚だから簡単なものだ……それより、早速だが侵入者が来たみたいだ」


 魔物らしき反応が複数、二方向から迫っているのを、森から感知する。恐らくは異変に気付いての行動だろう。知恵があるかどうかは流石に判断しかねるが、どうやら片一方の群れは魔虫型の魔物らしい。これは、スキル下級魔物隷属(ロウモンスターサーヴァント)昆虫(ビートル)の検証に丁度良いだろう。


「魔物……? 種別はわかりますか?」


「虫と獣、それぐらいしかわからないな。丁度良い、下級ならアレを使おう」


「そうですね、いい機会です」


 遠回しな言い方をしたが、アウストルはちゃんと理解してくれた。


 さて、浸入方向は二方向。詳しく感知してみると、虫型は数十からなる大きな群れで纏まって行動している。対して、獣型は二体……恐らくは(つがい)だろう。

 この洞窟に棲息する魔物達の平均的な強さがどの程度かはわからないが、強者と弱者に分かれるのは確実だ。ならこの閉鎖された地下空間で、弱い魔物は必然的に群れる。


(都合の良いことに、虫型魔物は下級の可能性が高いな)


「さて……この森の最初の来訪者だ。手厚く持て成そう。まずは、虫ケラから相手をする」


「わかりました」


 アウストルを従えて、俺は虫型魔物の入ってきた方向に足を向ける。雑多な草木が邪魔になるかと思ったが、植物操作(プラントハンドリング)の効果なのか数多ある草木は自主的に道を開ける。


「便利だな」


「そうですね」


 暇つぶしにそんな会話を交わしつつ、草木の開けた道を進む。数分もしない内に俺たちは件の魔物と遭遇した。

 その魔物を一言で表すならば、大きな白い蟷螂(かまきり)といったところだろうか。大きいといっても、精々が膝ぐらいの大きさなので、微妙な大きさだ。所々蟷螂とは似て非なる部位も見受けられるが、概ね白い蟷螂の扱いでいいだろう。


「ギチギチッギチッ!ギヂィ!」


 ふと、蟷螂(かまきり)の一匹がこちらに気づいて顎を忙しなく揺らす。

 殺意を向けているのであろうが、何故だか脅威に感じない。その事に疑問を覚えつつ、俺は全級鑑定を使った。



──────────────────

種族:石灰蟷螂(アーノルドマンティス)幼生体(ベビー) (ノーマル級)

名前:なし Lv1

職業:なし

称号:真洞穴性生物

────────────────────



 等級はノーマル。それは幼生だからなのか、それとも元来の生物種としての等級なのか。いずれにしても、下級種である事に変わりはないだろう。


「浸入した魔物とは、彼らですか?」


「ああ、ざっと見て三十匹は下らないか……因みにアウストルなら、何分で片がつく?」


「十秒あれば可能ですが、いいのですか?」


「いや、確認しただけだ。下級みたいだから、予定通り配下にしよう」


 涼しい敵意に晒されながら、なんの気なしに言葉を交わす。その間にも、石灰蟷螂(アーノルドマンティス)幼生(ベビー)の顎音に呼び寄せられた他の個体が俺達の周囲に集まってきていた。


「ギヂヂギィ! ギ! ギィ!」


 そして、その中に一際巨大な石灰蟷螂(アーノルドマンティス)を見つける。他の個体は全て小さいのにも関わらず、だ。


(……全級鑑定)



──────────────────

種族:石灰蟷螂(アーノルドマンティス) (ユニーク級)

名前:なし Lv32

職業:なし

称号:真洞穴性生物

────────────────────



「ふむ、群のリーダー……って訳じゃ無さそうだな。さしずめ母親って所か?」


 全級鑑定では性別まで解らないため確かなことは言えないが、おおよそそんな所だろう。


「あの個体だけは周囲とは雰囲気が違います。排除した方が宜しいかと存じますが」


 傍のアウストルは目敏くその事に気付いたみたいだが、ここはひとつ見守っていて貰おう。


「ユニーク級みたいだな。だが、問題はない……森に潜み、森に暮らす。か弱き森の血族。森に従い、森の腕に抱かれよ……」


  母親の指示で石灰蟷螂が俺達を緩慢な動作で包囲する中心にて、俺は詠唱する。

  そして───


「───我が名の下に服従を示せ。[下級魔物隷属(ロウモンスターサーヴァント)石灰蟷螂(アーノルドマンティス)]」


 発動句が紡がれると同時に、緩慢な動作を続けていた幼生達の動きが完全に停止した。


「……ギヂ?」


 我が子等の異変に早くも感づいた母親が、疑念の篭った顎音を響かせる。


「ヤツの動きを止めろ」


 そうして出来た明確な隙を、俺は見逃さなかった。


「ギィ!」


 命令に応じて、速やかに動き出す石灰蟷螂(アーノルドマンティス)の幼生達。しかし母親もすかさず様子のおかしい子供達から距離を取る。だが、更に後退しようとしたその脚を。黒森の蔓草が地に縛り付けた。


「まあ待て、逃げるな。子供達の糧になってやれよ。なあ?」


 俺の黒森魔法。植物操作(プラントハンドリング)による物だ。


「ギ……ギギギヂ!」


 行動を阻害する蔓草。それらを引き千切ろうと脚に力を込めるも、効果は芳しくない。そうしている内にも幼生達は母親に群がり、両腕の鎌を用いてその身を更に地に縛る。


「ギッ!?」


 そして、取り押さえにあぶれた一匹がその首を撥ねた。

 ボトリと、あまりにも呆気ない音を発てて、石灰蟷螂(アーノルドマンティス)の首が落ちる。


「まだ殺せとは言っていなかったが……」


 落ちた首に視線を向けながら、俺は少し納得がいかないとばかりに嘆息する。例え上位種でも痛めつければ魔法で従えられるか、試してみたかったのだ。しかし、終わった事に文句をつけても不毛だし、今回は初めて使う魔法と言うことで俺が少し制御を誤ったのかもしれない。


「まあ、いい。何もこの獲物に拘る必要もないしな」


 地に落ちた石灰蟷螂(アーノルドマンティス)の頭は、奇しくも俺を見上げていた。

前回の掲載から約一月と半月程……

遅くなってすみません。今現在、少々忙しくありまして……まあ、高校三年生の忙しい理由なんて言わずと知れたアレなんですけどね。

という訳でして、何卒ご容赦を。

それでも少しづつは書いていく予定ですので、末長く待っていただけると幸いです。

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