復活と新たな始まり
正月ですね、新年あけましておめでとうございます!
今年もよろしくお願いします!
『魔王ベルナックの死亡を確認、異端存在及び高位化存在の脅威と共に、本来の管理観測者である■■■■■■に報告します。 ……阻害されました』
漆黒すら溶けゆく闇の中、死体の閉じた瞳の前で、淡々とした[メッセージ]が流れている。
『再試行します。 ……阻害されました。阻害元の確認が取れました、観測者▲▲▲▲▲▲の阻害を確認。失敗を避けるため、情報を最小限、[魔王ベルナックの死亡]のみに制限して、私の[本体]を介し、管理観測者■■■■■■に報告します ……成功しました』
報告を終えたシステムは、それから暫くの沈黙を保つ。
やがて半刻が過ぎた頃、再度メッセージが動きを見せた。
『管理観測者■■■■■■からの指示を受けました。ベルナックの記憶を改竄した上で、現状可能な最良の方法で蘇生を行います。今後は私の[本体]を此方に据え置き、直接的なサポートを実施します』
聞く者も見る者も居ない中、一つの死体、ベルナックの蘇生が始まる。
『心臓の修復……異物を確認。[蠢黒森の短剣]の刃先と断定……蘇生ルート変更、[蠢黒森の短剣]の特殊能力を強制発動、ベルナックの体内に[黒森]を展開。これにより種族の変更が行われます。ベルナックの種族が[魔王]から更に上位の[黒森]に変更されました。 ……エラー発生、蘇生が遅れた事と[黒森]化により、一部のスキルが使用不能な領域までに破損しました。破損したスキルは自動的に破棄します。 ……蘇生が完了しました。これより[本体]を移動する作業に移ります』
一通りの重大で緻密な作業を終えたシステムは、またも沈黙を始める。
しかし、今度ばかりは終始無音という事にはならなかった。
「ぐ、う……?」
蘇生された男が目を覚まし、呻き声と共に状態を起こす。
そして───
『こんにちは、私はあなたの補助を任されているアウストルです』
いつかの日と同じ様で、少し違う。始まりの[メッセージ]が表示された。
◇◇ ◆◆◆ ◇◇◇ ◆◆◆ ◇◇◇ ◆◆◆ ◇◇
「アウストル?」
『はい、なんでしょうか?』
思わず反芻した言葉に、メッセージが反応する。
「え、あ? いや、君は誰だい?」
『アウストルです』
「アウ……ストル?」
その名に、聞き覚えは無い。戸惑いと驚愕がない交ぜになって、俺に不安をかき立たせた。
『解らないことは多々あると思いますが、まずはご自身のステータスを確認してみて下さい』
「す、ステータス? 待ってくれ何のことだ? 何を言ってるんだ?」
『安心して下さい。私はあなたの味方です』
「味方?」
信じられない。いや違う。解らない。判断材料が無さ過ぎるのだ。
目が覚めて、暗闇で、急に現れたメッセージ。
『落ち着いてください、ゆっくりと、思い出そうとして下さい』
落ち着く? 思い出す?
思い出す? 何を?
何………?
「あ……いや、そうだ。うん……俺は魔王で……アウストルは……」
少しずつ、植え付けられた偽りの記憶が芽吹く。
(俺は黒森、この世界に召喚されたばかりの魔王なんだ。アウストルは確か、誕生したばかりの俺のサポートのために、神から与えられた精霊だったっけ)
偽りの記憶を思い出すことで、本来の記憶は更に封をされ、奥底に沈んで行く。
しかし、俺はそれに気づかない。
『私は、あなたの味方です』
記憶の改竄が終われば、繰り返された言葉は不思議とすんなり受け入れられた。
『まずはステータスを開いて下さい。やり方は、「ステータス」と念じるだけでできます』
「わかった」
アウストルに言われ、その通りに念じてみる。すると暗闇の中で、アウストルのメッセージと同じようなウィンドウが表示された。
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種族:黒森
名前:??? Lv19
職業:黒森の化身
体力:700(+?????)
魔力:950(+?????)
スキル:全級鑑定Lv1
アイテムボックスLv3
武術Lv2
軽業師Lv1
闇属性魔法Lv2
属性強化Lv1
黒森魔法Lv2
人化Lv3
配下:なし
称号:新種
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「名前が無い?」
そういえば、考えてみると俺は黒森という事しか解っていない。それに生まれたばかりなのだから、無くて当然だろう。
『今すぐに決めますか?』
「いや、適当に呼んでくれていい。少なくとも今は必要ないから、普通に黒森でもいいぞ」
アウストルが気を利かせて聞いてくるが、俺はやんわりと断る。特に拘りも無いし、何より自分で自分の名を決めるのは憚られた。
『了解しました。見て解る通り、あなたは黒森の化身です。新種の存在である為、その能力は私にも未知数。少し、[黒森魔法]について、調べてみましょう』
「了解、タップすれば良いんだよな?」
タンッとスキル欄の[黒森魔法]に触れると、今度は計四つのスキルが表示された。
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黒森領域
黒森の領域を展開する。最低限、土と水分が必要となる。詠唱不要。
植物操作
植物を自在に操る。詠唱不要。
下級魔物隷属・昆虫
下級の昆虫型の魔物を隷属下に置ける。洗脳に近い。
下級魔物生成・植物
レント、マンドラゴラ、マッシュ、が生成可能。条件、素材によれば上位種を生成できる。
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『興味深いスキルが沢山ありますね……一つずつ試しましょう。』
「わかった」
アウストルに促され、黒森領域の魔法を脳裏に描く。表示の通り詠唱は不要、俺は足元から周囲に向けて、自身の内の黒森を広げる感覚で魔法を展開した。
しかし……
「……土が無い」
俺が足を置いているのは、硬い岩盤。少なくとも俺が魔法を展開した周辺一帯にでは、幾つかの箇所にごく微量の土がある程度だった。
とはいえ、何も成果がなかったわけでは無い。そのごく微量の湿った土がある箇所で、黒苔を群生させることに成功した。
『何か変化は?』
アウストルもそれには気づいている様で、その上で尋ねてくる。俺は少しの間目を閉じて黙すと、発生した黒苔の状態が、事細かに解った。
「えっと……これが、領域?」
より集中してみると、黒苔の周辺を僅かに掌握することができる。そして、付近を流れる水と、その傍らの何かに気づく。
「アウストル、近くに川と……何か、変なものがある」
『なるほど、植物生成とその周辺の空間把握が可能、というわけですね』
この領域内であれば、この暗闇でもそれなりに行動できるかもしれない。試しに歩こうとして、地面の形状、質感が理解できる。
「この暗闇で領域を展開するのは、重要だな」
『そのようですね、今の所周辺にはモンスターは居ませんが……いつ来るかわかりませんし、早めに対処しておきましょう』
アウストルのメッセージを尻目に、俺は歩く。行き先は勿論先程発見した物がある所だ。
幸い、そう離れているわけでも無いし、俺の黒苔もその側にある。間も無く辿り着いた時、俺はその光景に息を飲んだ。
「アウストル、これ……」
果たしてそこには、今尚発火し続ける人間の死体があった。
『焼死体、形は人間ですが、中身は違いますね。ここに来た経緯は知りませんが、鑑定してみてください。全級鑑定があるでしょう?』
「そ、そうだな……うん、全級鑑定」
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強化人間の焼死体 (ユニーク)
魔石を埋め込まれた強化人間の死体。素体が異世界人の為一般の物より出来は良い。
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『魔石、ですか……ふむ……』
「アウストル?」
『いえ何でも。それより、その死体と体内の魔石を用いて、下級魔物生成・植物を使ってみましょう』
「大丈夫なのか?」
『発火しているのは魔石の暴走の影響でしょう。生体反応は無いので、問題は無い筈です』
と、いうことは使われているのは火の魔石か。
「わかった……」
(今創れるのは、レントとマンドラゴラ、マッシュだから……)
「根付く若木、纏いし緑、黒き闇抱く黒森の子は森羅を示す。[魔物生成・若木魔]」
生み出すのは[レント]。若木のレント、若草のマンドラゴラ、若茸のマッシュでは、やっぱりレントが一番強いだろうという、勝手な先入観からだ。
『レントですか、いい選択です。上位種になると思うので、エントもしくはドライアドになる可能性が───』
『[強化人間の死体]及び[炎魔王の魔石]を素材に、[ドリアード]を生成します。宜しいですか? YES/NO』
『炎魔王?』
アウストルのメッセージと並行してウィンドウが開き、アウストルが反芻する。俺も声には出さなかったが、眉を僅かに顰めた。
『炎魔王と言うと、先代のジルドレンでしょうか。確か彼は、当時のトリスカラーナの勇者ハヤトに殺されたと報告を受けていますが……』
「トリスカラーナ? ……ああ、魔法大国だったか」
『今度、少し調べて来ますね。とりあえずドリアードを生成して下さい。ドライアドなら諦めていましたが、ドリアードであれば私の存在を内に宿すだけの器があると思うので、私の補助も本格的に行えます』
「わかった。[魔物生成・森女王]、実行」
俺の許可を得て、組み上げた魔法が動きを始める。死体に根付く形で黒い大木が生え、養分を吸い取るように死体の炎を吸収していく。やがて全てが終わった時、そこには黒焦げた物体と、紅黒い葉を繁らせた大木だけが残った。
「全級鑑定」
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種族:ドリアード (レジェンド)
名前:アウストル Lv1
職業:精霊王の器
称号:黒炎樹の女王
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早い事に、アウストルはもう入り込んだみたいだ。
「アウストル?」
「はい、なんでしょうか?」
物言わぬ筈の木に声をかけると、木を擦り合わせたような音色で、器用に返事が返ってくる。
しかしそれは最初のみ、直後にバキバキと歪な音を発てて変形すると、瞬く間に一人の美女の姿を象った。
黒地に紅いアラベスクが映えるワンピースを纏っており、絹のような素肌が露出した肩には艶やかな黒髪がしな垂れかかっている。僅かに釣りあがった眦は翡翠色の双眸を際立たせ、整えられた顔立ちはより一層美しく見えた。
この世の美の集大成とも言うべきそれは、その視線を受けただけでクラっとしてしまう。唯一欠点を挙げるとすればその控えめな胸だろうが、細い線のようなシルエットには慎ましやかな胸は花を添えていた。
「それが、アウストルの姿なのか?」
その目眩がしそうな美貌に耐えつつ、言葉を投げかける。
「いえ、これはこのドリアードの姿です。本来、精霊である私には姿形は勿論、性別という概念もありませんので」
「そ、そうか……」
見ていられずに顔を逸らす。心に震撼を与えるその美貌は理性という軛を取り払ってしまいそうで、俺はそれをなんとか押さえ込んでいた。
「さて、会話も楽になったことですし、やるべきことを早く済ませましょう。私にも解らない未開の地ですからね、やる事は多いですよ」
しかし、そんな俺の努力に気づかないアウストルは容赦無く眼前に回り込んでくる。その仕草もいやに可愛らしくて、俺は逃げ出すように人化を解いた。
以前の配下が気になると思うので一応報告しておきますね!
ベルナックの以前の配下は健在です。頭を失った群はどうなるのか、それぞれの心情を交えて書いてみたいので、後々になりますが再登場します。
それでは!改めて今年もよろしくお願いします!




