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異世界魔王のダンジョン奮闘記  作者: 敗者のキモチ
異世界ダンジョンは遠い
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転生者ラルドの旅

遅れてすみません。

テスト期間だったのもあるのですが、終わって直後にインフルエンザに見舞われてしまいまして……


何にしてもすみません。

健康管理……乾布摩擦は年がら年中やってるんですけど、やっぱそれだけじゃ免疫力はつきませんよね。



今回、ラルド視点でお送りしてます。

 日も暮れた後の、薄暗い宿の一室。


 そこに、一糸纏わぬ姿の女性が居た。


 女の肌は黒く、耳は少し長く尖っている。灰色の髪は背中を覆い隠しくびれの辺りまで伸びていて実に扇情的だ。しかしその紅の瞳は暗がりの中でも爛々と輝き、釣りあがった眦は突然の闖入者である俺を睨んでいた。


「あぁ……え~っと………」


 背中越しでも解る豊満なボディラインに、俺の素直な心は「マーベラス!」と半狂乱するも、視線を何も無い所へ泳がせながら言い訳を考える。


「間違えました」


 結局、それだけ言って扉を閉めた。やはりこういう場面だと頭が回らなくなるのである。


(なんだろ、旅立ちの日にも似たような事があった気がする………)


 あの時は幼馴染みだったし、何より服を着ていたのだが。


 思いを馳せる間にも、部屋の中からは衣擦れの音が聞こえてくる。もう脱ぐ物なんて無かったから、着ているのだろう。


 少しばかり落ち着きを取り戻した俺は、本能に従い先程の光景をフラッシュバックさせていた。


 仕方ないサ、男の子だもの。


 しかしどういうことだろうか? 説明は遅れたが、ここは俺が借りた宿の一室だ。さっき借りたばかりで入るのは初めてなのだが………サービス? いや、な訳ないか。

 一応部屋の号数を確認。うん、間違いなく俺の借りた部屋だ。


 衣擦れの音が途絶えたのを見計らって、俺は扉に拳を当てがった。


 コンコン、と渇いた音が周囲に反響し、中に居るであろう人物に声をかける。


「すんません、もう入っていいですか?」


「…………」


 しかし、帰って来たのは静寂だけだった。


「うん?」


 違和感を覚え、眉をひそめ耳を澄ます。内部からは音はしない。耳を扉に添える。


 ……風のそよぐ音を、微かに捉えた。


「入るぞ」


 嫌な予感がする。最低限のマナーとして入室を宣言しつつ、俺は部屋の扉を乱暴に開け放った。


「…………チッ」


 部屋の様子を一通り見て、舌打ちをする。


 そこにあったのは、乱雑に散った家具の類と、破壊された窓ガラスだった。


「物盗りだったのか?」


 最初に開いた時もこんな状態だっただろうか?


………こんなだった気がする。あの時は女に見惚れてたけど。


 とりあえず、早い内に宿の経営者に報告しておこう。


 しかしあの長い耳、エルフだろうか? 黒い肌のエルフというと、ダークエルフを想起させるが………


(いや、それはないな)


 脳内で出した答えを、俺は即座に否定する。前世の記憶がある俺はダークエルフという種族を創作物で知っているが、この世界にダークエルフは存在しないのだ。


 だが、それなら色黒のエルフが居るのかというと、そういう訳でも無い。


 ………いや、深追いはよしておこう。通報の際も「色黒の女性」とだけ伝えて、エルフの特徴は伏せておく。このエルフ至上主義を掲げるトリスカラーナで「エルフが物盗りをした」なんて宣えば、次の瞬間には銀の輪っかを両手に飾られてしまう。


 幸い被害に遭ったのは宿だけで、俺は何も盗まれていない。


「ったく……目的の村に着いた途端にトラブルか……世間は物騒だな」


 大家に報告する為に、受付の方に戻る。

 長旅で疲れきった重い足を運びながら、俺は部屋を変えてもらおうかと思案した。




◇◇ ◆◆◆ ◇◇◇ ◆◆◆ ◇◇◇ ◆◆◆ ◇◇




 翌日、俺は当初の予定通り科学者の寝泊まりする小屋を訪ねた。


 結局昨晩は部屋の空きが無いことを理由に同じ部屋で過ごしたが、まあ特に問題は起きなかった。流石に同じ部屋に物盗りする馬鹿が居る筈も無いし、当然と言えば当然だが。

 破損した窓からの夜風が不安だったが、それも大家さんが急ごしらえでベニヤ板を取り付けてくれたから安心だ。


 まあ、それはいい、そんな話はどうでもいい。


 俺は今緊張している。

 そしてこれは、興奮とも言う。

 張り詰めると同時に昂ぶってもいた。


 転生して初めて会う同じ境遇の「仲間」に、俺の心は浮き足立っていた。


「……よし」


 意を決して小屋の扉を手の甲で軽く二度叩く。小屋と言っても、正直これは[物置小屋]と評した方が正しい気もするが。


「入ってくれ」


 返ってきた言葉の落ち着いた雰囲気に多少なりの安堵を得、安心して扉を開く。


 開かれた扉の先には、眼鏡を掛けた中年の、茶とも金ともつかない髪を短く刈り上げた男性が居た。


「む、君は初めて来る人だね。要件はなんだい? 短めに頼むよ」


 歳の頃は30前後といった所か、そこまで若くもないが年老いてもいない。髭はしっかりと剃ってあり、身に纏う純白の白衣と相舞って清潔感に溢れている。


「初めまして、自分はラルドと言う者です。あなたと、話がしたくて来ました」


 またとない機を逃すまいと、俺は努めて丁寧な言葉遣いを心がけて言う。すると男は、興味深そうに顎に手をやって応じた。


「……ふむ、その様子では、[科学者]の僕をからかいに来た訳ではないみたいだね。しかし、科学の話をしに来た訳でも無い」


「はい、ただ、話がしたくて来ました」


 勿論、この剣と魔法の世界で行われる[科学]にも興味はあるが、それよりも、同じ境遇の[仲間]との話がしたかった。


「そうだね、解った。なら敬語はいらないよ、僕も作業しながら答えるから、その辺に腰掛けてくれ」


「は、はい……」


 敬語はいらないと言われても、やめることはできない。それが日本人というものだ。


 言われた通り、指示された木椅子に腰を降ろす。俺はどう切り出すかを考えて、科学者の方が先に口を開いた。


「まず、僕の方も名乗ろうか、僕はマリウス・ヒルベルト。知っての通り科学者だ。最近は魔法について調べている」


 マリウスさんが名乗る。俺はそれに乗じて、自身の身元を明かすことにする。


「えと、俺も名乗り直しますね。自分は、[古月戒斗](ふるつきかいと)という日本人の記憶を持つ、言わば[転生者]です」


「そうかい、転生者か。なるほど合点がいったよ」


 しかし、結構重大なカミングアウトをしたにも関わらず、マリウスさんの反応は酷く淡白としたものだった。


「え、あれ?」


 その反応に、俺は思わず戸惑ってしまう。マリウスさんはその戸惑いの理由を知ってか、驚かなかった訳を淡々と説明を始めた。


「別に、僕の様に転移した人間が居るんだ。なら、転生者や召喚者がいても、なんらおかしい事は無い。今なら、パラレルワールドでも平行世界でも、何でも信じるね」


「は、はあ……」


「そもそも、僕は「こんな事起きる筈が無い」と否定する気は毛頭無いんだ。起きた事象の原因を解き明かすのが科学というものだからね。 否定した瞬間、科学者失格だよ」


「えっと……それで、解ったんですか?」


 なんだかいつの間にか科学の話になっている事に気付くも、完全にペースを握られている為どうすることもできない。


「これが、今の所全く解らないんだよ。所で、転生者の君は魔力をもっているかい?」


「え? ああ、はい。魔力だけなら沢山ありますよ」


 寧ろ要らないほどだ。魔力がある癖に才能が無いから、日々使うこと無く有り余っている。


「ほう……魔術の才能は?」


「無いですね」


「いいね、実にいい。そんな君を使って一つ人体実験をしたいんだが、どうだろうか? ああいや、人体実験と言えば聞こえは悪いが、これは君にとっても悪い話では無いと思う。どうかな?」


 一瞬、人体実験という嫌な響きに身構えるも、その後に続く言葉に、断るのを踏みとどまる。


「えと……ものによりますけど、具体的にどの様な事をするんですか?」


 いずれにせよ、頭ごなしに拒否するわけにもいかないので、内容を聞いてみることにした。


「興味を持ってくれて嬉しいよ。そうだね、まずは持論なんだが、この世界の魔法では、何も無い所から炎を出したり、水を出したりしているよね? ということは、無から有を生み出している訳だ。つまり、0=1の方程式が成り立ってしまう。この世界の人間は気づいていないみたいだけど、0=1が成り立つ場合、理論上では何でもできるということなんだ」


「えっと……つまり?」


「難しかったかい? 要するに、本来であれば、[魔術の才能]といった概念に囚われること無く、大抵の不可能が可能になるんだよ」


 つまり、魔術の才能がない俺でも、それに相当する事ができるということだろうか?


「それでどうかな? 実験をしてみる気になったかい?」


 マリウスさんが、期待を込めた視線を送ってくる。確かに、それは俺にとって悪い話では無く、寧ろ食いつきたい話だ。だが悲しいかな、俺はなる早で帰らなければ幼馴染から血の制裁を受けてしまう。いや、いつ帰ったとしても受けてしまうのは確実だが、それでも少しは軽くなると希望的観測をしている為になる早で帰りたい。というかそもそも、具体的に何するか結局聞いてないし……


 俺は、NOと言える日本人だ。


「誠に申し訳ありませんが───」


 と、断りかけた所で、言い切る前にマリウスさんが遮って来た。


「一週間、いや、五日でいい。それでもだめかい?」


 いや、長くても二日が限度だ。俺はNOと言える日本じ───


「なら、二、三日でも構わない。研究成果とは別の報酬も此方で用意するよ。偶然にも、僕が元の世界から持って来た道具は科学用品だけではないから、それらの中から好きなものをあげよう」


 お、俺は───


「頼むよ、お願いだ。転移者の僕は、この世界の人間と身体の構造が違うのか、魔力というものを持っていないんだ。かといって、この世界の人間に頼んでも断られるのは目に見えているし、現状、君しか居ないんだ本当、頼むよ……!」


「ふ、二日……なら、まあ」


 俺は……NOと言える日本人に……なりたかった。

今回初登場は

謎の色黒エルフ

科学者マリウス

の二人です!


色黒さんは、ラルドのヒロイン役ですね。

科学者さんの方は、リア友をモデルにしてます。特に口調を。


今回沢山書いたかな……?

自分は今日から休暇でキタコレひゃっほいしてます。

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