リアのキモチ
本日二度目の投稿です。読んでいない方は、そちらからどうぞ。
『短い間でしたが、ありがとうございました。マスター』
暗闇の底へと消えて行く主人を見送って、私は一人呟いた。
これで、これで私は───
───自由です。
産まれてこの方、迷宮核の私は誰かの下で働くのが宿命だった。そもそも、迷宮核とはそういう存在なのだ。
でも、私は[コアナンバー3]のリア。つまり、この世界における三番目のダンジョンコアだから、世界でも有数の高位存在なのです。
当然、数千年単位で生きていますし、ダンジョンコアの枠を超えた行為───即ち主人の命に背く行為や、主人の間接的な殺害も可能となります。
それなら、以前のマスターであった遮刀も殺せばよかっただろうと思うかもしれませんが、アレも私と同じく数千年単位で生きている高位存在なので、そうもいきませんでした。
そんな遮刀が呆気なく殺られたのは、ひとえにスケルトンに宿る魂達の怨嗟によるものが強かったと思います。
そういえば、先程殺ったスケルトンさん、浄化で消滅したと思いましたけど、即座に骨だけ残して魂で逃げたみたいですね。でも、ただの霊魂に出来ることなんてありませんから、ほっといていいでしょう。
まあ何はともあれ、遮刀は倒され、新たなマスターは世間知らずの弱小魔王。欲が膨らむのも仕方ありません。
『それにしても……フフ、バカですよねぇ、普通に考えてダンジョンコアが勝手にダンジョン創る時点で、おかしいと思うでしょうに』
騙すのは簡単でした。細かな契約が為されると主人の殺害が不可能になってしまうので、それをされる前に人化して、その場を混乱させれば、全部有耶無耶にしたまま納得してくれましたから。
お人好しというか、馬鹿というか………この場合はアレですね、お人好しと書いて馬鹿と読む。とかいうやつです。
あ、でも、隷属の首輪をつけられた時はひやっとしました。効果が出なくて良かったです。
『さて、喜んでばかりもいられません。事後処理も、しっかりしないといけませんから』
影に隠れてる三匹は、影を塞ぐ、つまり隠れた影の付近を光で照らし続ければ、閉じ込められます。影に隠れたのが仇となりましたね。
問題はウーナさんとディーナさんですが………
『まあ、あの二人には適当に言っておきましょう』
侵入者に殺されただの、相討ちしただの、口を開けば嘘は幾らでも出てくる。
『水の無い空間に幽閉して殺してもいいんですけどね。フフ、生かしてあげるなんて、リアは優しいです』
仮にも精霊ですから、元居た場所にでも戻るでしょう。
やりたい事は多いです。数千年もの間この場所に縫い止められていたのですから、まずは遠い所に旅をしたいです。豊かな街に着いたらそこにこっそり迷宮を創って、ぜーんぶ殺してポイントにします。それで自分を強化して、有名人にでもなりたいですね。冒険者ギルドとかいう場所もあるみたいですから、そこにも行ってみたいです。他の迷宮を自分の隷属迷宮にするのもいいです。それからそれから───
夢は大きく、なんて言葉がありますけど、こうしてみると[夢]っていうのは、[欲]をキレイに着飾っただけの物って気がしますね。
でも、それでいいんです。
さて、まずはこの馬鹿デカい城をポイントに戻して………え? 戻すのにも同じだけのポイントが必要? あんなの嘘に決まってるじゃないですか。私が城を創ったのは、勇者達を誘うためです。そして、魔王を追い詰めた所で漁夫の利でも得ようかな~という寸法でした。といっても、来たのは謎人物でしたが。結果オーライです。
『えっと、迷宮放棄、創力変換、即───』
ポーン!
意気揚々と実行しようとして、私だけに聞こえる連絡音が脳裏に響いた。
[連絡。侵入者が現れました]
………侵入者?
『誰ですかぁ? 今いい所だというのに………』
出鼻を挫かれた私は、不機嫌気味にダンジョンの入口を映像化する。しかしそこには何も映っておらず、金井斗夜の残した焼死体が転がるばかり。
おかしいなと感じて別の部屋も覗いていると───
「君が、新代の魔王か」
『───え?』
突然背後から、男の声がした。
おかしい───この部屋は完全に隔離している筈なのに。
思わず聞き返した返事は、何か硬い物が割れる音に掻き消された。
リイィィ──ン、と澄んだ鈴の様な音が、部屋に響き渡る。
見れば自分の胸元、心臓の位置から神々しい光を放つ刀身が伸びていた。
人間にとっての心臓の位置。そこには私の心臓部とも言える核があった筈だ。
それが貫かれるということは、つまり───
───待って、私はまだ自由になったばかりで。
───まだ、やりたい事とか沢山あって。
───死にたくなんかなくて。
『ひ、いやぁぁあぁああぁあぁぁあ!?』
先程の鈴音から一転、耳を劈く悲鳴が迷宮内に響いた。
「不意を狙う様で悪いね。でも、君は魔王なんだろう。どんな手を使ってでも殺さなくちゃならない」
違う。違う違う違う!
私は魔王なんかじゃない!
魔王はついさっき、死んだんだ!
私が殺した!
『コ、真核起動………核、創造………』
「無駄な抵抗はやめろ」
背後に居た男は、私を苦しめるように剣を捻る。それでも諦めず、最後の詠唱を紡ごうとして。
「………剣圧」
『ち、違………ゃめ………』
無慈悲な暴力に、抵抗が出来ない。無機的に発動されたスキルは破壊の嵐を剣に纏わせ、貫かれていたコアが今度こそ砕け散った。
それと同時に、手元にあった急造の核も私から送られる力を失って罅が入る。
意識が闇に溶けて行く中、ダンジョンがその機能として、侵入者の詳細を今更私に知らせてくる。そこには、私の様に時の経過による高位化とは質の違う。産まれながらの高位存在が居た。
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種族:ヒューマン
名前:ロッテン・クロイツ Lv76
職業:勇者
体力:6520
魔力:5000
スキル:流剣城盾Lv3
異界通路Lv1
回避Lv2
剣圧Lv3
体術Lv4
衝撃変換Lv1
無拍子Lv2
縮地Lv3
光属性魔法Lv3
火属性魔法Lv3
水属性魔法Lv3
風属性魔法Lv3
気配察知Lv3
気配遮断Lv3
渇望Lv2
勝利Lv3
奇跡Lv1
不幸Lv5
称号:真の勇者
状態:鬼神憑き・思考操作
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『そん、な………』
敬虔なる神の使徒。真なる勇者
そのステータスを一言で表すなら、[異常]。
そして何より、[状態:鬼神憑き]。
魔王でもないのに殺されたのは、こいつに思考誘導を受けたのだろう。
敵う筈が、無かった。
───ああ……自由に、なりたかった、なぁ………
いつまでも題名が「異世界魔王のダンジョン奮闘記〜旧:魔王がハーレムに至るまで」なのもアレなので、訂正しました。
 




