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異世界魔王のダンジョン奮闘記  作者: 敗者のキモチ
異世界ダンジョンは遠い
24/29

裏切り

「………炎?」


 ふと、傍で映像を見ていた友香が訝しむ様に呟いた。何か気付いたみたいだ。


「どうかしたのか?」


「あ………いや、確証はないから」


「いいから話せ」


 コイツ状況解ってないのか? 今はどんな些細な情報でも必要なんだよ。


「ん、隠しだてすると………」


「死期が早まりますわよ」


 俺の言葉に続きスゥちゃんとウーナが言うと、友香は嫌そうな顔をしつつ答えた。


「いや………そういう脅しやめて欲しいんだけど……はぁ、わかった。言うわよ。炎属性は斗夜の得意な属性だったなって思ったの。それだけ」


「とうや?」


「アンタにやられた私の仲間よ」


 そういえばそんなのが居たな。魔法使いみたいな奴で、仲間のピンチを確認するなり逃げ出した男だったか。まあ結局、ハンバハ相手には逃げることすら許されなかった訳だが。


「可能性の一つとして考えておくか」


 顎に手を置きながら、ポツリと呟く。如何せん、決めつけることは出来ないが、まあ思考の片隅にでも置いておこう。


「いや、それは無いんじゃないかな?」


 しかし、俺の呟きはディーナによって即座に否定された。


「人間が魔法を使うなら、詠唱は絶対に必要になる筈だし。コイツは見た目は人だけど、多分魔人なのかもしれない」


 はあ、魔人とな。


 よくは解らないがまあ、コイツが人間じゃない事は確実な訳か。


 てっきり勇者の類いかと思ってたから意外だった。でも………


(確かにコイツ、勇者って感じがしないんだよなぁ………)


 寧ろこの、何かに突き動かされるような迷いの無さは魔王寄りだろうか?


 依然として炎で敵を焼き払っていく男を見ながら、俺はディーナの助言から勇者の可能性を捨てた。


『マスター、報告します。敵、第一階層を突破。第一階層の被害、五つの罠を破壊。魔物が二割程やられました。敵は現在二階層を踏破中』


 今更だが、このダンジョンは十階層からなる構造になっていて、全てが迷路状に創られている。加えて罠、魔物が多くいる為普通であればそれなりに時間がかかる筈なのだが、この男は迷う事無く正解の道を進んでいた。


(妙だな………)


 目印なんて親切な物は置いていない筈だから、少しくらい迷うと思うんだが。


「ウーナ、ディーナ」


「なんですの?」


「はいはーい、何かな?」


「悪いけど、侵入者の様子を見て来て貰えるか」


「了解ですの!」


「ちょっと待って、ボク達は様子を見るだけ? 戦わなくていいの?」


 意気揚々と答えるウーナと、待ったをかけるディーナ。その言い回しから、闘争を所望していると解る。

 俺は若干苦笑してから、一度頷き言い直した。


「そうだな、小手調べもいいから手を出して来てくれ。でも、危険と判断したら逃げろよ?」


「うん、任せて!」


「では、次の階層の水路で待機しておきますわね」


「ああ、このペースだ。多分すぐに着くだろ」


 リアに指示をして、二人を転移させる。さて、また暫く様子見と………ってあれ? 珍しく迷っているみたいだ。今まで不気味なくらい正確に歩いて来たのに。

 いや、こちらとしてはその方が歓迎なのだが、こう………何と言うか逆に不気味だ。


 それから暫く経って、しかしそれでも侵入者は迷い続けていた。ウーナ達を送ってから大分経ってしまった。


「リア、二階層の被害を」


『イェス、マスター。魔物の被害は全体の三割で、罠を二つ破壊、二つ突破。しかし突破の際、軽度の怪我を負った模様』


「突然迷い始めた理由は解るか?」


『いえ……私には何とも』


 ふむ、まあ仕方ないか。実際俺にも皆目見当つかない。まあ、あの男自身に何かあったのだろと考えておこう。


 と、突然プニプニしたもので左頬をつつかれた。見れば俺の左肩でスゥちゃんが何か言いたげな様子で居座っている。うん、やっぱりかわいい。


「………ん、ベル。リアあやしい」


『え、えぇ?』


 何かと思えば、スゥちゃんはそんな事を言い出した。


「リアが?」


「ん、何か、かくしてる」


『そ、そんなこと………ないですよ?』


 どこか確信めいたように宣言するスゥちゃんと、戸惑いを隠そうとしているリア。


 確かに、少し様子がおかしい。


「………コア、出して」


『え?』


「コア」


 スゥちゃんが追い詰める様にまくしたてる。何だ? コアがどうかしたのか?


「リアがほんとにベルをマスターと認めているなら、制御装置(コア)を渡さないのは変。どうして?」


『た、確かに渡しませんでしたけど………ちゃ、ちゃんと言う事は聞いてましたよ?』


「りゆうになってない」


 制御装置? 最初にあった水晶玉の事だろう。あれは単なる迷宮の心臓ではなかったのか?

 確かリアには、そう言われたんだが。


「………出さないの?」


「リア、俺からも命令だ。隠し事は許さない。コアを出せ」


『…………』


 別に減るもんでもないだろう。何故出さない。

 様子が変だ。つい先ほどまで一定の信頼を寄せていたリアに対して猜疑心がひよっこりと顔を出し始める。


「おい、リア?」


『………………まあ、ウーナさんとディーナさんが居ないから、大丈夫ですよね』


「なに……?」


『───接続(コネクション)第二階層(セカンドフロア)侵入個体(インベーダ)転移(ワープ)転移先(ルート)最奥階(マスターフロア)


「おい、何を───」


 ───悪寒。


 流れる様に唱え始めたリアに声をかけようとして、俺はそれを感じた。


 リアのダンジョンに住む様になってから、久々に感じる[直感]の感覚だ。


 咄嗟の判断でリアから距離を取り、映像化されていたダンジョン内………そこに映っている男を確認する。そこには、未だ二階層をウロウロと彷徨う男の姿があった。


 ───のだが、俺が確認するとほぼ同時、映像内から男の姿が掻き消える。ダンジョン内を転移した時と同じ光景だ。


「全員下がれ!」


 直感の示す危険位置は部屋の中央。声を張り上げる。今現在この部屋に居るのは、俺とスゥちゃん。それから奴隷の友香、シャドウラビットのイズ。最後に鬼骨(スケルトン)だ。


 戦力になるのはスケルトンしか居ない。


 もうすぐ───来た!


 予想していたタイミングに合わせて、部屋の中央に突如としてローブの男が現れた。


「リア! 何の真似だ!」


 いや、もう解っている。答えなど知れている。今更尋ねることに意味はない。だがそれでも、一定の信頼を寄せていただけあって、今現在の状況を信じきれない自分がいる。


『黙って下さい雑魚魔王様。それに、呼び捨てもやめてください。反吐が出ます』


 ───裏切り。


 そんな単語が、信じきれない俺に言い聞かせるように脳裏にでかでかと表記されていた。


「ちょ、ここ、これどういう状況!?」


「………ん、許さない」


 友香が戸惑い、スゥちゃんが怒気を込めた声色で呟く。イズは知らぬ間に影移動を使って逃げていた。

言葉の話せないスケルトンは相変わらず無言であったが、事態は理解している様で、湾曲刀を片手に臨戦態勢をとっている。


「殺してやる。返せ、死ね、消えろクソが。死ね、奪う。腕、俺の腕」


 男にとっても突然の転移であっただろうに、男に戸惑いの色は見えない。それどころか、俺の方に頭を向けてうわ言の様に恨み言をつらつらと連ねている。


「スケルトン、こっちに来てくれ。他の皆は部屋の外に………」


扉閉鎖(ドア・クローズ)。逃がすと思いますか?』


 ───チィ!


「イズ、何処に居るか教えろ。スケルトン以外は皆、そこに入れ」


 扉が駄目なら、影移動だ。


 [影移動]のスキルは、影を用いた転移が出来る訳では無い。ただ単に影を出入り口に影の空間へ入ることが出来るだけのスキルだ。

 しかし、影の中は絶対と言って良い程安全な場所となっており、その中へはレベルに応じてスキルを持たない者も招き入れる事が可能なのだ。


 調べたところ、レベル1で自分のみ、2でもう一人追加、3で、更にもう一人追加といった内容だ。


 そして今、イズの影移動スキルはレベル3、何とかスゥちゃんと友香は避難出来る。


「キュ!」


 戦々恐々とした様子で、部屋の隅の影から長い耳が伸びる。そこか。


『───ッ!』


 それを確認したのは、俺だけではない。リアもまたそれを確認して、俺の策を阻止しようとダンジョンを操作し始める。


「スケルトン!」


「ガァァアァ!」


 俺の意を汲み取ってくれたスケルトンが、リアの集中を切らす為に雄叫びをあげながら襲いかかる。その隙に友香にスゥちゃんを任せる。


「や、ダメ! ベル!」


「友香、頼んだぞ……一応命令しておく、スゥちゃんを害することを禁ずる」


「わ、わかった」


 スゥちゃんは嫌がっていたが、居た方がかえって危険だ。それに、言い方はアレになるが足手まといになる。

 スケルトンにとっては俺も足手まといなのかもしれないが、まあ一対二で闘うよりはマシだろう。


「さて……ウーナ、ディーナ、聞こえるか?」


『ふふ、ダンジョン内での通信は、ダンジョンの機能ですよ。とっくに切ってあります………っとと、あぶないあぶない。スケルトンさん、少し前まで仲間だったのに容赦ないですね~』


「ちっ!」


 そういえばそうだった。最近は通信を当然の様に使っていたから何時もの癖でやってしまった。


 コイツが炎を使うなら水精霊の二人が居ると助かったんだが。

 無い物強請りは出来ない。この場にいる自分たちだけで何とかしなければならないのだ。


「………全級鑑定」



────────────────────

種族:????(ユニーク)

名前:■■■■ Lv??

職業:炎術■■

称号:失敗作

状態:炎魔の呪魂

────────────────────



「はぁ!?」


 何だこのふざけた鑑定結果は!


「腕だ、奴だ。殺す。返せ、死ね、潰す」


「~~~っ! さっきから変な事呟きやがって! なんなんだよお前!」


 ローブの男は答えない。ずっと同じ恨み言を繰り返している。俺はアイテムボックスから森小人の短剣を取り出すと、すかさず構えて、とある呪文を呟いた。


黒竜(ブラック)加護(プロテクション)!」


 転瞬、俺の右手、人差し指に嵌められた指輪が突如として黒く輝き出した。


 クエスト報酬で手に入れた[黒竜の指輪]の効果だ。

 強化対象は武器。指輪から零れ落ちた黒の輝きは手元の剣に纏わりつくと、徐々に収束していった。


「これは………」


 輝きの去った短剣に目を落とす。そこには先程までのシンプルな造りの短剣ではなく、全体的に黒く、禍々しい意匠の施された物へと変貌していた。


 この黒竜の指輪を使うのはこれが初めてだ。俺は目の前の男の事も忘れて、手元のそれに全級鑑定を行っていた。



────────────────────

蠢黒森の短剣 (レジェンド)

 闇に侵された森の力を冠する短剣。振るう度に魔毒の胞子が散り、斬った者を苦しめる。

特殊:地面に突き立てると周囲に黒森が広がる。

────────────────────



 物凄い強化だ。最早別物と言って良いだろう。これなら、目の前の意味不明な存在もなんとかなるかもしれない。


 俺は短剣を構えて、男を見据える。未だうわ言の様に何かを呟いているその姿は、戦闘経験の浅い俺から見ても隙だらけと言っていいものだ。だがだからこそ怪しくも感じられ、俺は少し、初手を出すのを戸惑った。

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