魔王生存会議
「皆の意見を聞きたい」
全員が起きて集まった頃、俺はそう切り出した。
「何ですの?」
『意見ですか?』
ウーナとリアが同時に首を傾げる。尚、リアの首には[隷属の首輪]が巻かれていたが、効果は現れなかった。生物ではない事が原因だろうが、あのダンジョン内を駆け巡り多様な罠を掻い潜った苦労は何だったのか………思い出すだけで疲れてきた。
でも、効果が無いのを良いことに『マスターからのプレゼント~!』と喜ばれたのは腹が立った。俺をからかいたかったのか本心から喜んでいたのか解らないから怒れなかったが。まあそれは置いといて話しの続きだ。
「今後の方針だよ」
「ん………いつものごとく」
そういえばスゥちゃんには最初の日の晩にも言ったな。うん、今後はこんな感じで会議を開くことにするか。
「これから先どうするか。まあ俺としては、とりあえずこの城から出て元の拠点に行こうと思ってる」
『ええええ!? リアがせっかくお城造ったのにぃ!』
「だからこそだろうが………再確認するが、本当に元に戻す事は出来ないんだな?」
散々確認したことだが、この城をどうにかするのは不可能な状態らしい。どうにも、増築にかかったポイントと同じだけのポイントが必要な様で、現在の所持ポイントは40000しかないのだそうだ。いや、多く見えるかもしれないが、この城の建設にかかった費用は350000。これを思うと、物凄く損をした気分になってくる。
『はい! ザンネンながらもう手遅れです!』
「………最初の時みたいな初期化は出来ないのか?」
『あれはダンジョンマスターが変わらないとダメですね、つまり、マスターが死なないと出来ないです』
「ふざけるんじゃありませんわ! あなた、魔王様に死ねと言うんですの!?」
『ち、ちがいますよぅ! そんな事言うわけないじゃないですか!』
ウーナが怒鳴り、リアが言い返す。俺のために怒ってくれるのは嬉しいが、会議の進行の邪魔はしてほしくない。俺は仲裁に入った。
「どーうどう、落ち着けお前等。とりあえず今は喧嘩は控えてくれ、そんな事より俺の生存方法の提案を頼む」
「う………も、申し訳ありませんでしたわ」
『ホントですよ~、気をつけてくださいね?』
「リア、お前は少し黙っていてくれ」
『何故!?』
撃沈するリアを余所に、俺は会議を進める。手始めにスゥちゃんから意見を求めた。
「スゥちゃんは意見あるか?」
「ん………お城居たい」
「………理由をお尋ねしても?」
「ん…………………お城だから」
つまりあれか? 「城、カッコイイ!」みたいな事を考えてるんだな!?
「だめだ………俺の命の事が考慮されていない…………ウーナとディーナ、お前達はどうだ?」
「ここですか? そうですわね………やっぱり水が無いのは苦しいですわ」
「そうだね、水は欲しいよね」
それだ! うん、そうそう。確かウーナとディーナは清潔な水が無ければ死んでしまう筈。故にこの拠点は不適!
「よし、じゃあやっぱりこの拠点は───」
『水ですか? それでしたら城の周囲に堀を作って近くの川と繋げて………できました!』
「退路を絶たれた!」
ベランダから出て下を確認すると、確かに堀ができていた。水も、近くの川からの流入で現在進行形で貯まりつつある。
ほ、他に誰か………
「スケルトンは……喋れないもんな………」
その隣に友香もいるが、こいつは別だ。仲間ではなく捕虜だ。もっと言えば奴隷だ。
「ねえ、アンタ何か酷いこと考えてない?」
「誰が喋って良いと言った?」
「いや、喋るなとも言われてないし。というか私も意見言うけど、ここの城、結構丈夫みたいだし複雑な構造してるし、さっきリアちゃんに聞いたら罠も満載らしいし、アンタにとっては最高の場所だと思うけど?」
全くよく喋る奴隷だ。しかし、こういう勇者から見た場合の意見を聞くために捕まえたのも事実。ならば詳しく聞かない道理はない。
「続けろ」
「ダンジョンはこの世界だと、勇者ぐらいしか攻略に行かない程難易度が高い物が多いからよ。それに、もう建てちゃったんだから近いうちに勇者が来るだろうし、その時に防衛力のない場所にいるよりはこの城に居た方が安全だと思うわ」
隷属の首輪を着けているから、嘘は言っていない筈だ。因みに、ダンジョン内で決意した拷問の件だが、しっかりとやらせてもらった。といっても、足から宙吊りにして延々と回し続けただけだが。
閑話休題
「悩ましい所だな‥‥‥」
(できれば、勇者とは遭遇もしたくないんだがな)
勇者とは会いたくもない、今も尚、友香を前にして嫌悪感と敵対心が隠しきれないのだ。これはもはや呪いではなかろうかと疑いたくなってくる。
(本心としては、コイツ‥‥‥友香の事も、少しは仲間として扱ってもいいと思ってるんだが‥‥‥)
俺が魔王だからか、勇者を前にすると不思議と自分が凶悪になる気がする。友香はそれなりに言葉を交わしたからこれでも大分収まってる方だ。
(でもまあ、最優先事項は生存だ。なら、皆の意見を呑むべきなんだろう)
スゥちゃんの意見はただの我が儘だろうが……俺の天使の頼みだ。聞き入れよう。
「はぁ……解った。城に残るよ、となると……リア、お前の力が必要だ」
自分で決めたなら、後は前向きに事柄を進めていく。手始めに、魔物の召喚だな。
『はい! なんなりと!』
俺が城に残ると言ったからか、上機嫌のリアは元気な声で返事をする。俺はアイテムボックスから[召喚のオーブ]を取り出してリアに見せた。
「まずは、これについて聞きたい」
『召喚のオーブですか? レア級ですね、少しだけ強い魔物が召喚できますよ』
「いや、そういう事は鑑定で解ってる。使い方と、これを造るのに必要なダンジョンポイントと、その他補足事項あれば聞きたい」
『了解で~す! 使い方は念じればそれだけで使用可能です。製造にかかるポイントはコモンだと10ポイント、レアは100ポイント、ユニークは10000ポイント、レジェンドになると30000ポイントです。補足事項はですね‥‥‥あ、召喚のオーブで呼び出した魔物は特別な事例がない限りダンジョン内でしか生きられません』
コモンとレアまでは容易に召喚できるみたいだけど、レアからユニークの間に圧倒的な差があるみたいだ。そしてレジェンドには、更に大きな差がある。それだけ、レア級とユニーク級の違いは大きいのか。
『一応リアの方で、この城に召喚する魔物の強さと数は大体決めてありますけど………』
「教えてくれ」
『はい、まずコモン級の魔物を200体召喚して10体で1つの部隊とします。次にレア級の魔物を20体召喚して、20あるコモン級部隊の、それぞれの部隊長に置きます。そして最後に、ユニーク級の魔物を1体召喚して全部隊の長になって貰うんです』
魔物を束ねて部隊にするとは、その発想は無かったな。コイツ、馬鹿だけど頭は回るみたいだ。でも……俺はリアの意見を聞いて一つ頷くと、浮かんだ疑問を一つ、リアにぶつけてみた。
「なるほどな……確かに悪くない意見だが、コモン級の魔物では勇者相手に負けるんじゃないか?」
現に、前回の勇者襲撃では森の魔物達は殺されまくったみたいだし。
「確かにそうですわね、それに、コモン級とレア級の魔物であれば周囲から集めればいいでしょうし………ここは強力な魔物を数体召喚するだけでよいのではありませんの?」
『なるほどですね、ウーナさん名案です。では今暫くの間、城門を開け放っておきます。これで訪問者も気軽に入って来れますよね?』
「いや、流石にこんな馬鹿でかいダンジョンには来ないんじゃないか?」
『じゃあ、看板でも掲げます? 魔王軍入隊希望者歓迎って』
「却下だ」
『ですよね、まあ、廃城を住家にする魔物は多いですし、来ると思───あ、来ました』
早!? え、ちょ、早!? 門開けたのたった今だよね?
『入口に待機してますね、おおかた、次の巣にいいかな~とでも考えているんじゃないでしょうか?』
「え、ここ明かに新築の城だろ?」
「そうだけど、人の気配がほとんどしないからね。昔、造ったばかりで警備が薄い時に襲われて、真新しい城が魔窟になった事があったみたいだよ」
「なるほど、つまり、この城は今狙われている訳か」
やっぱここ出ようかな‥‥‥だって城って言えば‥‥‥ドラゴンじゃん?
『それを考えれば、これからもじゃんじゃん来る訳ですね?』
とんでもねーもんまで来る訳だがな。ドラゴン来たら逃げるぞ俺。まあ、今は小さい奴しか来てないみたいだけど‥‥‥
「とりあえず、訪問者を見せて貰えるか?」
『いいですよ~。え~っと、コア操作、ダンジョン内映像』
リアに頼むと、すぐさまメッセージウィンドウと似たような物が虚空に展開される。そこにはダンジョンの入口が映し出されていた。
「あれか」
俺は画面の中央、丁度入口脇の壁付近に居る、真っ黒いモフモフとした物体を捉える。
あれは‥‥‥真っ黒○介?
『シャドウラビットの群れですね、戦闘能力は皆無ですが、種族特性として[影移動]が挙げられます』
ああ、確かに長い耳が見える。まっくろ○ろすけではなかったみたいだ。ふむ、ざっと20は居るな。群れの長は‥‥‥周囲の個体より一回りでかいアイツだろう。
「リア、あのでかいのと話がしたい。あの場所まで転移させてくれ」
『了解です。シャドウラビットは臆病なので、慎重にいってくださいね』
「わかった」
言葉と共に、身体が淡い光に包まれる。転瞬、僅かな浮遊感の後。俺はダンジョンの入口に立っていた。
こういうところだけ見れば、実際アイツは優秀なんだろうけど……ま、それは置いといて、ちょっと交渉してくるか。
俺は何と切り出すか、今更思考を巡らせた。
(えっと……臆病なら、怖がらせたり脅したりするのはアウトだろう。ならば明るい雰囲気で行くのが妥当か?)
[明るい話し方]というのが具体的にどういうモノなのか解らんが、まあ、なんとかなるだろう。
「え~っと………やあ! 俺の城へようこそ!」
できる限り明るく振る舞った。振る舞ったのだが、声を張り上げた直後、密集していた黒モフ達は此方にめもくれず、一目散に走り出した。
「え? マジで? そんなビビリ?」
去り行く兎の背を見つめながら、唖然とその場で立ち竦む。逃げて行った兎達は、設置された壺の影に次々と潜り込んでいった。
(なるほど、あれがリアの言っていた[影移動]ってやつか………)
便利そうだし、戦闘中に敵の不意を突く事が出来るだろうが、この様子では逃亡にしか使ってないだろうな。
なんて考えている間にも、シャドウラビットの数はどんどん減っていく。ついに最後の大きな個体が通り抜けようとして───
────ズドム!
挟まった。
「…………ダサ」
思わず呟いてしまう。いやだって、まさか今時そんな醜態を晒す兎がいるとは思わなかったし。今も、足をバタバタさせていてとても情けない。
「おい………大丈夫か?」
心配になって声を掛けると、「キュ!」と唸ってバタ足を止める。死んだフリのつもりだろうか?
………仕方ないな。
俺は一つ溜息を吐くと、デカ兎の近くまで歩み寄ってその両足を掴み、勢いよく引き抜いた。
「ふん!」
「キュ!?」
ズボ! っと良い音を鳴らしながら、デカ兎が影から抜け出す。しかし、勢い余った俺はそのままバランスを崩してしまい、その場で尻餅をついてしまった。
「キュー!」
更に、引き抜いたばかりのデカ兎に下敷きにされる。モフモフがダイレクトに伝わってきた。布団を被っている気分だ。
この際だから鑑定してみる。これで称号が布団だったら笑えるが。
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種族:シャドウラビット (レア)
名前:イズ
職業:族長
称号:逃走者
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うん、少し期待したけど。まあそんな都合良く称号[布団]なんてあり得ないよな。
にしてもこのイズとやら、俺の上から退く気配がない。まあモフってるから良いんだけども。
『……………ダサ』
ふと、何処かからリアの声が聞こえてきた。あの使えないダンジョンコア、ぶっ壊してやろうか。
モフモフだったから甘んじて受けていたが、急に腹が立ってきた。
とりあえず、そのデカイ図体をバシバシと叩いて存在主張する。するとデカ兎は再度ビクッとして、ダンジョンの奥へと猛スピードで走っていった。
…………なんか、面倒くさそうなやつが来たな。
シャドウラビットを配下にするのは、色んな意味で骨が折れそうだ。
おはようからこんばんわまでどーもです!
お久しぶりです。敗者のキモチです。
次話投稿より先に、最後に書いていた話を改稿、追記しました。
12月何日かにもう一度投稿しますので、よろしくお願いします。
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