スゥちゃん
さて、スライムのスゥちゃんが配下になった。ああ、スゥちゃんってのは俺がつけた名前な。
それでそのスゥちゃんなんだけど、配下にしたらファンファーレが鳴った。何事かとスゥちゃんから目を離すと最初の時と同じようにメッセージウィンドウが開いていた。
『おめでとうございます。クエスト[初めての配下]をクリアしました。報酬としてプレゼントアイテムとスキルポイントが贈られました。ステータスウィンドウのアイテム項目からプレゼントを、スキル項目からスキルポイントを確認できます』
続きを見ようとタップすると、メッセージウィンドウが閉じられる。どうやら続きは無かった様だ。
ふむ、クエスト報酬を確認するのもいいが、もう空は赤みがかっている。俺は左肩にスゥちゃんを乗せると、寝られそうな場所を探すために歩き出した。
「スゥちゃん、この辺でモンスターに襲われないような、安全な場所はあるか?」
右手の指先でスゥちゃんをプヨプヨしつつ、尋ねる。スゥちゃんは記憶を探るように少し黙ってから、短く答えた。
「‥‥‥ん、ある」
「どんなとこ?」
「ん‥‥‥洞窟で、ちょっと湿っぽい」
洞窟か‥‥‥寒そうだし、ある意味何か棲んでそうだけど。まあいいか、スゥちゃんを信じよう。
「案内してくれるか?」
「‥‥‥ん」
スゥちゃんがプルッと跳ねて肩から降り、フヨフヨしながら森の中を進んで行く。俺はその後に着いて行った。
道中見かける怪しげな植物は全て鑑定して、使えそうな物は回収してアイテムボックスに放り込んでいく。スゥちゃんの言う洞窟に辿り着いた時には、その種類と数は大分豊富になっていた。
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麻痺草
食べると身体が痺れて動かなくなる。摂取量が多ければ死に至ることも。
死毒花
牛程度であれば即死する強力な毒を持つ花。解毒には数種類の毒物を用いることで漸く解毒が可能となる非情に厄介な代物。
睡眠蔓
樹木に巻き付いて養分を吸い取る蔓草。毒性は弱く遅効性だが効果は長い。
鎮痛草
ただの雑草と侮るなかれ、その葉には痛みを和らげる鎮痛作用がある。中毒性も無く利便性は高い。
解毒草
人体に何らかの影響を及ぼすモノを除去する効果がある。数種の毒を解毒可能。
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「うん、大分揃ってきたな」
何が? もちろん毒物である。
既に洞窟には着いていて、奥の方にも何も棲んで居なかったのは確認済みである。位置的には小高い丘の中腹で、外に出てみると広がる森が一望できる程度の高さ。
こうして見ると、案外広い森の様だ、それに、歩いてる時にも思ったが起伏が激しい。地平線の辺りで煙が上がっているから、もしかしたらそこに村か何かがあるのかもしれない。
(まあ、村はまだ危険だろうな。何があるか解らないし、もっと力をつけてから行くべきだろう)
「ん、ベル。これからどうするの?」
おお我が天使スゥよ、特に予定はありません。
「特にないから、寝てていいよ」
「そうじゃなくて、明日とか」
「ああ、えっとな。とりあえず毒物作ってから周囲を探索するつもりだ」
「ん、わかった」
そう告げて眠り始めるスゥちゃんを撫でて、ふとクエスト報酬の事を思い出す。いそいそとステータスウィンドウを開くと、アイテム項目からプレゼントボックスを取り出した。
「うわ、まんまプレゼントボックスだし」
出てきたのは可愛い包装の施された四角い形状の、リボンが施された箱であった。まあ、外見はどうでもいい、問題は中身だ。期待に胸を膨らませながら包装のリボンを解いて包装を綺麗に剥がす。こんなモノでも何かに使えるかもしれないから一応残しておく。とりあえずはアイテムボックスに放り込んでおけばいいだろう。
身包みを剥がされて無骨な外見となった箱に手をかけて開け放つと、中に入っていたのは、試験管に入った液体やら粉やら錠やらの薬だった。
「初級鑑定」
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原始の秘薬
魔物を強化する秘薬。強化薬シリーズと二個以上服用すると死に至る。
魔女の劇薬
魔物を強化する劇薬。強化薬シリーズと二個以上服用すると死に至る。
鬼人の液薬
魔物を強化する液薬。強化薬シリーズと二個以上服用すると死に至る。
精霊の霊薬
魔物を強化する霊薬。強化薬シリーズと二個以上服用すると死に至る。
神秘の丸薬
魔物を強化する丸薬。強化薬シリーズと二個以上服用すると死に至る。
未来の医薬
魔物を強化する医薬。強化薬シリーズと二個以上服用すると死に至る。
怪物の銀薬
魔物を強化する銀薬。強化薬シリーズと二個以上服用すると死に至る。
異界の甲薬
魔物を強化する甲薬。強化薬シリーズと二個以上服用すると死に至る。
亡霊の怨薬
魔物を強化する怨薬。強化薬シリーズと二個以上服用すると死に至る。
古今の淫薬
魔物を強化する淫薬。強化薬シリーズと二個以上服用すると死に至る。
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「薬のオンパレードだな」
全部で十個。とりあえず、どれも危険な香りがするのでアイテムボックスに放り込んでおく。でも、鑑定の結果が真実であれば、二個以上服用しなければ問題は無い筈。それどころか生物を強化するときた。
今現在戦力に心許ない手前、躊躇っている暇は無いのかもしれない。魔物ではない俺はムリだが、明日の朝にスゥちゃんと相談して飲んでもらうか。
「ま、朝はそれするとして、その後だな‥‥‥」
ぼやきながら、ステータスウィンドウを眺める。配下の欄には「スゥ」と追加されていて、そこから配下のステータスを見ることができる。と、ヘルプで確認は済ませてある。
初級鑑定では見れなかったステータスも、ここなら確認できる筈だ。
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種族:スライム
名前:スゥ Lv6
職業:魔王ベルナックの配下
体力:30
魔力:50
スキル:融解液Lv3
軟体Lv5
称号:魔王ベルナックの抱きまくら
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ふむ、Lv6みたいだが、ステータスは俺よりも低いみたいだ。身体が生粋の軟体生物だからかスキルにはレベル5の[軟体]がある。
そういえば、この世界でのステータス基準はどれほどなのだろうか? 俺は魔王だから高めなのかと思ったらほぼ同レベルと似たり寄ったりだし‥‥‥
周囲の魔物との戦闘は、今はなるべく避けて、毒物が揃ってからにした方がいいかな。
幸いにも毒となる植物の類は大体集まってるし、数も結構ある。
「明日は一日ここに篭って、毒物作るか」
そうと決まれば、今日はもう寝よう。
俺はスゥちゃんを抱えて洞窟の奥に移動すると、スゥちゃんを抱き横になった。確かスゥちゃんの称号には「魔物ベルナックの抱きまくら」とあったはずだ。誰が決めたのか知らないが、良い仕事してますね!
接触面にプルプルと心地良い感触を感じながら、俺は眠りに堕ちていった。
敗者のキモチでした。次の投稿もなるはやで行きます。 ………今日中いけたらいけます。