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異世界魔王のダンジョン奮闘記  作者: 敗者のキモチ
異世界ダンジョンは遠い
17/29

迷宮の主

本日二話投稿してます。前話を読んでいない方はそちらからどうぞ。



(ウーナの言っていた通り、確かに罠も無いみたいだな)


 ずっとスケルトン分身を先行させているが、俺達が最初にかかった落とし穴以降何も起こっていない。


(油断させる作戦か? いや、そうだとしても魔物が一匹たりとも居ないのはおかしい)


 そもそもこのレジェンド級ダンジョン、何をもってレジェンドとされているのか知らないが、これでこのまま何も無いならとんだ詐欺だ。しかし、現にここでは死人が出ている。それも尋常じゃない量の死人だ。


(間違い無くここには何かがある。強力な魔物か、はたまた何かしらの罠か魔術か‥‥‥)


 すべてこの霊魂と会話できれば解決するのだが、何分それが出来ないのだから仕方が無い。


「完全に打つ手なし‥‥‥か。受け身になるのは危険だけどしょうがないな」


 余りの状況に呆れを通り越して笑いが込み上げてくる。そもそもの原因と言えば、友香が暴れなければよかったんだ。全くあの女、とんだことをしてくれたものだ。


「帰ったら‥‥‥拷問でもするか」


 俺もウーナの事をどうこう言えないな。


 でも、これは必要な事だろう。アイツの所為でウーナがあんな目にあっているんだ。それに、躾のなっていない奴隷には仕置きが必要だろう?


 というかそもそも、俺には魔王としての残虐性に欠けている。別に残虐でなければ魔王ではないと言うつもりはないが、下手に甘くして味方に被害が出る様ではいけないのだ。要するに俺は、自信の無さを優しさでごまかしていたんだ。そしてその偽善的な優しさが今回の結果を生み出した。なら、もう偽善はやめる。


「さしあたっては、出口のついでに友香でも捜すか」


 にしても腹が立つ。自分の甘さも原因の一端とはいえやはり主な原因は友香だろう。


「とりあえずはあれだ、[身内に優しく敵には惨く]。これをコンセプトに置く」


 目標を口に出して呟いた時、不意に前を行くスケルトンの動きが止まった。


「ん? どうし───って、何だあれ?」


 何事かと思いスケルトンの横から顔を出して前を見遣ると、そこには部屋が広がっていて、その先に上へと伸びる階段があった。恐らくあれが出口なのだろう。だが‥‥‥‥


「あれは‥‥‥剣? いや、刀か?」


 その手前に、宙を漂う黒い刀が浮いていた。


(「この迷宮には何かがある」‥‥‥か、なるほど確かに、コイツから放たれる禍々しい殺気は尋常じゃないな)


 もう癖にすらなりつつある、始めて見るものに対する全級鑑定を行う。



────────────────────

鑑定対象からの妨害を確認、鑑定不能。

────────────────────



「───なっ!?」


 妨害? 鑑定を妨害するなんてできるのか!?


 すぐさま森小人の短剣を抜き、正中線に構える‥‥‥こういう時、盾があったらまだ安心できるんだが、まあ言っても仕方ない。


(敵の力は未知数‥‥‥でも奇襲せずに待ち構えていたって事は、かなりの自信があるって事だよな)


 スケルトンと並び立って敵を待ち構える。コイツも俺の配下である以上、後ろで護られている訳にはいかない。


「戦うぞ、出来るか?」


 カタカタと頷きながら湾曲刀を構えるのを確認して、前を見据える。相も変わらずそこには黒い刀が漂っていた。


(そっちから来ないのならこちらから‥‥‥‥いや待て、それを待ってるのか?)


 二分は経ったか、刀が動く気配は無い。こちらから先手をかけたい衝動に駆られるが、悪手だと解っている事をあえてするようなヘマはしない。


(動くな、動くな、動いたら死ぬぞ‥‥‥)


 嫌な汗が背中を伝い始めた頃、ようやく戦況に動きが見えた。


「うお!?」


 ───ガイィィン!


 あっという間、とは正にこのことだろう。一瞬で眼前にまで迫って来ていた刀を、俺は反射的に構えた短剣で受け止める。衝撃に金属が狂振動を起こして、俺は剣を持つ両手に痛みを覚えた。


「───っつぅ!」


 たった一度の攻防で確信する。これは勝てないと。だが敵は逃がしてくれそうも無いし、思考の間すら許してくれない。間髪入れず迫ってくる刀を、俺は受け止めきる事が出来ない。


 ───キィィィン!!!


 俺が友香にしてみせたように、今度は俺の剣が澄んだ音を発てて宙を舞う。友香の剣を弾いた時よりいい音がしたのは、一重に技量の差と言えるだろう。理不尽な事に、奴は力量だけでなく技量も俺の遥か上を行っていたのだ。


(────避けられるか!?)


 剣が無くなった分身軽にはなったが、いかんせん足場も体勢も状況も悪い。咄嗟に軽業師を発動するも、既に刀は首元に迫っていた。


 ───ガキィ!


 それを遮ったのは、スケルトンの湾曲刀。ちょうど俺と刀の間に割って入る様に立ち塞がったスケルトンは、そのまま一合、二合と攻防を繰り広げる。案外スケルトンの方が俺より強いのかもしれない。


「すまない! 少し持ちこたえてくれ!」


 今は少し、考える時間が欲しい。俺は戦場から身を引くと、アイテムボックスから[強化薬シリーズ]を取り出した。

 怪しかったしスゥちゃんに効果が見られなかったから極力使いたくはなかったが、今はそんな事を言っていられる状況ではない。


「使えそうなのは‥‥‥‥」


 強化薬シリーズの数は残り九個、中には粉末状の物から固形の物、液状の物まで数種ある。


(骨だから粉薬も錠剤も無理だろうし、なら液薬しかない)


 九個のうち、液薬は計三つ。[鬼人の液薬][魔女の劇薬][古今の淫薬]だ。とりあえず[古今の淫薬]は候補から降ろす。理由は言わずもがな。


 となれば残りは鬼人と魔女だが、もう考えている時間は無い。スケルトンの方を見れば劣勢にあるその姿が伺える。俺は[鬼人の液薬]の入った試験管を取ると、一人で奮闘するスケルトンに向けて投げ付けた。


「命令する!『これを吸収しろ!』」


 スケルトンがこれに反応して、飛来してきた試験管を左肘で打ち砕く。ガラスの砕ける音と共に赤い液体が無骨なその腕にかかると、音もなく吸い込まれていった。


(‥‥‥‥どうだ?)


 効果が出るか、否か。それは賭けだった。事実、前回スゥちゃんに使った時は何の効果も見られていない。


 緊張した面持ちでスケルトンを見つめる。するとその白い骨格が赤黒く変色し、各所から不気味に雄々しい棘が生えた。

 頭蓋からも天を突く二本の角が生え、両手は鋭い爪を有する鬼の骨格となる。


「ゴアアアアアアアアアアアア!!!」


 数十年もの間沈黙を保った伝説の迷宮。そこに今、鬼骨の産声が轟いた。

おはようからこんばんわまでどーもです。

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