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異世界魔王のダンジョン奮闘記  作者: 敗者のキモチ
異世界ダンジョンは遠い
15/29

尋問のお時間です

本日二話投稿してます。

前話を読んでいない方は、そちらからどうぞー

 地下に来てすぐ、俺は解毒草をアイテムボックスから取り出した。睡眠液で寝ている友香を起こすにはこれを使わなきゃならないからだ。だが起こす前にプレゼントボックスに付いていたリボンを幾つか取り出して、友香の手足を縛っておく。ウーナはいるが、念のためである。


「さてと、それでは早速‥‥‥」


 俺は解毒草を友香の口に捩込んで、ウーナに水を出してもらってそれを飲ませる。すると間もなく解毒草の効果が見られ、俺は友香の肩を揺すって意識を覚醒させた。


「う‥‥うぅ、ここは?」


「よう、漸くお目覚めだな、勇者サン」


 まだ眠そうな様子の友香に、挑発的な声音で言う。すると友香は冷や水でも浴びたようにハッとして、俺の事を睨んできた。


「あ、アンタ! ここ、何処なのよ」


「俺の拠点だ」


 ここは嘘をつく、その方が友香の心情不安を誘えるからだ。

 敵の拠点で縛られている。それはつまり、自分の命が敵の手中にあることと大差ない。


「あ、そうか……助けてくれたんだよね‥‥‥も、目的は何?」


 なるほど立場は解っているみたいだ。説明する必要が無くなったな。


「端的に聞こう。お前の知っている事を全て教えろ。世界に国は幾つあるのか、お前はどの国で召喚されたのか。勇者は何人いるのか。それから世界の情勢も教えろ」


 御望み通りに目的を告げる。友香はそれを聞いてから、少し不安そうな顔になって聞いてきた。


「全部聞いたら‥‥‥殺すの?」


 そう告げる友香の瞳には、恐怖が見てとれる。それは俺に対する恐怖か、それとも死に対する不安なのか。

 俺はおどけた様に肩を竦めてみせた。


「さあな、その後に利用価値が無ければ殺す」


 言外に「従えば殺さない」と伝える。それが伝わったかどうかは解らなかったが、友香はそれを聞くと俯いてしまった。そして、ボソリと。


「‥‥‥レイラは」


「ん?」


「ひ、一つだけ‥‥‥教えて欲しい」


「なんだ?」


「レイラは、どうなったの?」


 レイラ‥‥‥ああ、あの女騎士か。


「お前等と一緒にいた騎士の女だよな?」


「‥‥‥うん」


 肯定する友香の瞳には、僅かに期待の色が見え隠れしていた。さしずめ、あの男臭いパーティの中で女性だった彼女とは仲が良かったのだろう。だが、変に期待させるのは後に禍根を残すと判断し、俺は事実を突き付ける。


「残念だが、それは解らない。この森の神の怒りを買ったんだ。俺の見立てでは、生存確率は限りなくゼロに近い」


「そ、そんな!」


「俺は答えたぞ。今度は俺の質問に答えて貰おうか」


 突き付けられた事実に、友香の表情は悲観に染まる。それを見て、俺は一つ、良いことを思いついた。


「何なら、ちゃんと答えてくれたら捜索だけはしてやるよ」


 餌を見せて情報を吐かせ易くしようという寸法だ。実際捜索するかどうかは置いといて、まあ問題無いだろう。


「だが、嘘偽りが少しでもあれば捜索しない。わかったか?」


「うん‥‥‥何が‥‥‥‥知りたいの?」


 だが、今にも泣きそうな声で友香が返してくる。正直欝陶しいと思ったが、仲間のといってもレイラのだけだろうがが哀しいのは理解できる。それに、目の前で女性に泣かれるという事態に、俺は少し悪いことをした気分になって、居心地が悪くなった。

 タイミング良く、ポケットに入ったハンカチを思い出す。白いロゴで「あかん、拭いたらあかん」と書かれたあの黒いハンカチだ。


「ほら‥‥コレ使えよ‥‥‥‥」


 俯く友香の視界に入るようにハンカチを持って行く、友香は一つ無言で頷いて、そのハンカチを受け取った。


 それから暫く、室内には少女の嗚咽だけが反響する。


 その間、俺はすぐ傍らに溜まった水溜まりを覗き込む。そこには退屈そうな表情のウーナが映っていた。


────人間って面倒ですわね、そもそも、魔王様の手を煩わせるだなんて許せませんわ。


 ウーナの思念が俺にだけ伝わってくる。俺は喋る訳にはいかないので、大仰に肩を竦めて苦笑を零す。


────でも、仲間の死を悲しむのは魔物(わたくしたち)勇者(にんげん)も同じですわね。


 おや? 今日は何だかしおらしい事を言うな。


────私も‥‥‥ディーナ(いもうと)が居なくなったらと思うと不安になりますわ。まあそもそも、ディーナが死ぬときは自分も死ぬのですけれど。


 ‥‥‥それは、スキル[二身一体]による弊害なのだろう。


────もちろん、魔王様が死んでしまったら私も自害しますが。


 いやそれは困る。なんというか、困る。というか不吉な事言うなよ。

 っと、友香が立ち直ったみたいだ。俺はウーナを一瞥して、再度友香に向き直った。


「‥‥‥それで、何から聞きたいの?」


 目を真っ赤に泣き腫らした友香が、目元を拭いながら言ってくる。


「その前に、ハンカチ返してくれよ」


「こ、これは‥‥まだ借りとく‥‥‥」


 言って、ズズッと鼻を啜る。まだ泣き足りないのだろう。


「まあいいけど‥‥‥じゃあ、さっき行った通り、世界に国は幾つあるのか‥‥‥まずはそれからだな」


「‥‥‥‥まずこの大陸に在る国だけど、合計で四つ在るはずよ。武術大国[クォルトランジ]と、魔術に長けた[トリスカラーナ]、高い技術を持った[ガルドキア]に、宗教国家[エルクロイス]。私が召喚されたのはクォルトランジで、翔太と畑野も一緒に召喚されたの‥‥‥」


 友香が少し思い詰めた表情をする。きっと、召喚された日の事でも思い出しているんだろう。畑野の話では彼氏がどうとか騒いだらしいが。


「金井斗夜は違うのか?」


「金井はトリスカラーナ。今回の魔王討伐作戦はクォルトランジとトリスカラーナでの共同作戦だったから」


 ほうほう、俺を殺す作戦ね‥‥‥ん? 待て、今聞き捨てならん事が聞こえたぞ?


「ちょっと待て、魔王(おれ)がいるって事はなんでバレてるんだ?」


 作戦までたてられるって事は、魔王が発生したと解っているからだ。だが俺は今の所、コイツ等としか会っていない。であれば、どうやって俺の存在は知れ渡った?

 俺の疑問は、すぐに友香が答えた。


「それは確か、エルクロイスの[聖女]っていうのが神からのお告げで知るみたいなの。それが各国まで伝えられて、国内で勇者を捜したり、勇者を異世界から召喚したりするみたいよ」


 いや、いやいやいや、それは困る。もしそうなら俺が倒されない限りはいつまでも勇者が来るということか? となると、俺が平和な生活を獲得するためには世界を征服するか滅ぼさないといけない訳か?

 ‥‥‥究極の二択だなオイ。

 いや、さりげなく国に入国して隠居生活というのも‥‥‥



 閑話休題(それはさておき)



「にしても聖女か‥‥‥厄介だなぁ、召喚なんてあるんなら勇者召喚し放題だし、ズルすぎだろ? 人類」


「アンタだってあんな切り札隠し持ってたじゃない」


 いやあれ俺の配下じゃないよ?


「まあいい、続きだ。勇者は後残り何人いる?」


「他の国に何人いるのかは知らないけど。私のいたクォルトランジでは召喚された勇者は‥‥‥あと一人。この世界出身の勇者が二人いたわ」


 一瞬の沈黙が気になったが、ちゃんと答えてくれたから良しとする。でも、少し怪しかったので、俺は少し脅しをかける事にした。


「あと三人か‥‥‥他国の事も鑑みると最低でも各国に五人はいるものと考えていいかもな。それと‥‥‥お前のその情報に一つでも偽りがあれば、判明した時点でお前を殺すからな」


「う、嘘なんてついてないわよ!」


「別にそれならいいさ。続けろ」


「くっ‥‥馬鹿にして‥‥‥!」


 そこからは、スムーズに話は進んだ。ここで今回解った事を纏めよう。

 まずこの世界の事だが、国は合計四つ。情勢についてもついでに延べておこう。



────────────────────

クォルトランジ。

 武術に秀でた国で、四国の中で最も人口が多い。三年に一度開かれる武闘王決定戦で国のトップを決める、力こそ全てと豪語する国。故に他国間との諍いは絶えない。


トリスカラーナ

 魔術に長けた精霊と共に生きる国。国王はエルフという種族の者で、精霊王と心を通わせる[巫女]という存在が居る。エルフ史上主義の為、宗教国家エルクロイスとは仲が悪い。


ガルドキア

 他国と比べると非常に高度な技術力を有する技術大国。他国に無い武器を持つ強国で、国家元首を国民投票で行うなど、高い水準の文明を持つ。技術を秘匿しているため他国からは嫌われている。


エルクロイス

 [聖女]を中心とした国家で、神聖術と呼ばれる回復魔法で有名。秀でた技術も武術も無いが、魔物を寄せ付けない神晶石の産地として、各国への発言力は高い。

────────────────────



 と、まあこんなところか。とりあえず今回の勇者達ほどじゃないが協調性は余り無いようだ。

 トリスカラーナとエルクロイスの仲は結構悪いようで、トリスカラーナの巫女とエルクロイスの聖女の存在が似ている事も小競り合いの大きな要因となっているんだとか。


 それでは次に、クォルトランジにいる勇者達の情報だ。



────────────────────

種族:異世界人(ユニーク級)

名前:松本駿(まつもとしゅん) Lv17

職業:狂戦士

武器:大剣

────────────────────


────────────────────

種族:ヒューマン(コモン級)

名前:リード・フレグロード Lv35

職業:勇者

武器:レイピア

────────────────────


────────────────────

種族:ヒューマン(コモン級)

名前:イリア・ティアステインド Lv29

職業:勇者

武器:ペンデュラム

────────────────────



 俺の見立てでは脅威となるのは召喚勇者の松本だろうか。狂戦士、というのが気になるな。他もレベル的には十分脅威だが。

 因みにレベルは友香が最後に確認した時のものなので、正確ではない。


 最後にもう一つ、とても重要な事が解った。なんと、勇者と魔王ではスキルの取得方法が大きく違ったのだ。


 まず俺、魔王はクエストクリアによるスキルポイントを割り振ってスキルを得ているが、勇者にはそもそもクエストというものが無いらしい。ではどうやってスキルを得るのかというと、レベルアップに伴って少しずつ得られるんだとか。


 尚この事は友香の耳に入れていない。俺が一方的に友香を問いただして判明した事実だ。


「さてと、とりあえず聞きたい事は聞いたかな?」


 一通り聞き終えた俺は、首をコキコキと鳴らしながらそう言い、意味ありげに友香を見る。


「‥‥‥‥じゃあ、外しなさいよコレ」


 すると彼女は手足のリボンを示してそんな事を言ってきた。


「いや、おかしいだろ? 俺最初に言ったよな? 利用価値が無くなれば殺すって」


 対して、俺は確認をとるように友香に言う。そして、彼女の次の言葉に耳を疑った。


「別にいいわ、もう‥‥‥外してるし!」


 固く結んでいた筈のリボンが、何の抵抗もなくスルリと解ける。すぐさま立ち上がった友香の手には、短く細いナイフが握られていた。


「なっ!?」


(───仕込みナイフ!?)


「魔王様!」


 叫び声と共に水溜まりからウーナの未完成の腕が伸びてくる。だが、遅い。友香のナイフは既に俺の喉元を切り裂かんと動き出していた。


「っ、っつ!?」


 咄嗟に飛び退いて距離をとる。間髪入れず友香は開いた距離を詰めて斬りかかってきた。 だがその動きは大振りで、お世辞にも勇者とは思えない。恐らく、ナイフに関するスキルを持っていないんだろう。いや、それよりも‥‥‥


(身体検査はある程度やっといたつもりだったが‥‥‥何処に隠し持ってやがった?)


 [武術][軽業師]のスキルを持っている俺には、友香の攻撃を避けるのは容易い。友香の背後では既に人化の完了したウーナが魔法を放とうとしていたが、俺に被弾することを怖れて中々放てないでいる。

 俺はウーナに待っているように手でジェスチャーすると、腰の剣帯にある森小人の短剣に手をかけた。


 ───キンッ!


 渇いた音を発てて、友香の手からナイフが弾かれる。レベル2の[武術]と装備による剣術補正がかかった俺の[剣術]はレベル4に匹敵するだろう。単調な攻撃しかしてこない友香のナイフを見切って弾き飛ばすのに、別段苦労は無かった。そして立て続けに、剣の柄部を腹に叩きつける。


「グゥ!?」


 苦悶の声を漏らして、友香が三歩ほど後退さる。だが、それほど強く打った訳では無かったので、彼女はすぐに痛みから立ち直って俺に敵意の眼差しを向けた。


「魔王様! ご無事ですの!?」


 その隙をみて、ウーナが俺の所に駆け寄ってくる。


「大丈夫だ、それよりウーナ、アイツ何処に武器持ってたか解るか?」


「申し訳ありません、唐突すぎて私にも解りませんでしたわ。それより魔王様?」


 謝ったウーナは、そのまま俺に疑問の眼差しを向けてきた。


「なんだ?」


「あの程度の相手、魔王様なら簡単に殺せる筈ですわ。なぜそうしないんですの?」


 友香と睨み合ったまま、ウーナがそんなことを言ってくる。

 確かに、殺そうと思えば簡単に殺せる。だが、せっかくの捕虜だし、今後勇者達と戦う限り人間が傍にいれば何かと有用かと思ったのだ。だからなるべく、殺したくはない。


 だが言い訳をするより先、友香がウーナの発言にキレた。


「ふざけないで!」


 そして、何も持って無かった右手に一本の剣が現れる。それを見て俺は驚愕し、直後理解した。


(アイテムボックス! しまった、その事を失念していた!)


 最初のナイフも今の剣も、アイテムボックスから取り出したのだ。


 理解すると同時、友香が剣を構えて突っ込んでくる。俺は森小人の短剣を構えてウーナの前に出る。そして全力で、しかし何も考えずに振られた剣を受け止めた。


「何でアンタは、そんなに強いのよ! たかがレベル7のくせに! 何で勝てないのよ!」


 正確には今俺のレベルは12だが、今は関係ない。どっちにしたって俺は友香よりレベルは低く、そのうえで彼女を簡単にあしらう事が出来る。理不尽な力の差、それは勇者と魔王のスキル獲得方法の違いから来るものだ。だが、そんな事を教えてやる義理は無い。

 再度武器を弾いてやろうと足の位置をずらす。その時。


 ───カチリ


 不意に足元で、奇妙な音が響いた。


「ん?」


 足元を見てみると、今し方足を置いた場所に地面に小さな突起物───スイッチがあった。


「へ?」


 ここは迷宮ダンジョン。それもレジェンド級の超高難度迷宮。そしてそこにあるスイッチ。そこから自ずと導き出される解答は───罠。


 ───ガコン!


 軽快な音を発てて、俺、友香、ウーナを乗せていた床が消え去る。


「「「はぁぁぁぁぁぁぁぁあ!?」」」


 素っ頓狂な絶叫をあげて、俺達は穴に落ちていった。

おはようからこんばんわまでどーもです!


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