勇者五名様ご案内
「あーもー、馬ってやっぱ足早いな、ウゼェ」
「ん? でもあそこに居んのってさっきのヤツじゃないか?」
「待つんだ。待ち伏せかもしれない」
「うん、何体か一緒に居るみたいだけど‥‥‥」
「皆様、慎重に行きましょう」
草木を掻き分けて湖の広場に現れる。五人の人間。男が三人に、女が二人。俺は無意識の内に森小人の短剣に手をかけて、五人に全級鑑定を行っていた。
リーダー格と思しき男は、金色の鎧で身を包み、同じく金の盾と豪奢な剣を持っている。
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種族:異世界人(ユニーク級)
名前:宝城翔太 Lv39
職業:聖騎士勇者
称号:むっつりスケベ
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その隣には、古めかしい木の杖を手に持つメガネの男。
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種族:異世界人(ユニーク級)
名前:金井斗夜 Lv32
職業:炎術勇者
称号:腹黒勇者
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チャラチャラした印象をうける男は、手ぶらに見えてその手に拳甲を装着していた。
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種族:異世界人(ユニーク級)
名前:畑野悠 Lv26
職業:拳闘勇者
称号:女好き
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軽鎧を装備した女は、短槍を装備していて。スピード重視であると推測できる。
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種族:異世界人(ユニーク級)
名前:九重友香 Lv35
職業:武槍勇者
称号:永遠の非リア充
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そして最後の女は、恐らくこの中では最年長者だろう。しかし、勇者ではなかったみたいだ。
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種族:ヒューマン(コモン級)
名前:レイラ・フローラス Lv37
職業:宮殿騎士
称号:指導官
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高レベルの人間達。しかも五人のうち四名が勇者。称号が変だけど紛れも無い勇者だ。
対してこちらは、低レベルのスライムに低レベルの駆け出し魔王。レベルが高いのはウーナとディーナのみ。一応レイオールもいるが、彼が味方したところで状況が好転するとも思えない。
「あれ? オイ、あのボロいローブの男。魔王じゃねぇか? 皆、鑑定眼で見てみろよ」
畑野とかいう、チャラチャラした男が俺を見て言う。どうやら俺の全級鑑定のように、勇者達も鑑定眼なるものを持っている様だ。そして他の者達が鑑定眼で俺を見る中、勇者畑野は続けた。
「ギャハハハハ! コイツ、レベル7だってよ! よっわ! ウケるー!」
「な!? 無礼者! 魔王様を何だと思っていますの!?」
実際俺は低レベルなので何も反論する気は無いが、ウーナは我慢出来なかったらしい、憤慨した様子で両手を前に翳すと、短く呪文を唱えてみせた。
「乱れ狂う激流よ、敵を穿て!」
転瞬、ウーナの手から水の塊が弾丸の如き速度で畑野に迫る。しかし、水弾は畑野に当たる事なく直前で砕け散った。
「対魔法障壁!?」
「姉さん! ボクらじゃ分が悪いよ!」
無効化された魔法に驚愕するウーナとディーナ。俺は魔法について詳しくないからよく解らないが、どうやら向こうは魔法に対策でもしていたのだろう。
「サンキュー金井、助かったわ」
「構わないが、あまり敵を挑発するな」
「悪かったって。つか、あれ精霊じゃね? 何で魔王に味方してんだ?」
「知るわけないだろう」
「だってあの二体めっちゃ可愛いじゃん。ゴスロリの方はちょっと気が強そうだけど」
俺達を無視して、完全に勝ったつもりでいる勇者畑野。そんな畑野を、女勇者友香が諌めた。
「アンタ、一応魔王の前なんだから気を引き締めなさいよ」
「うっせーな、レベル7の魔王なんか敵じゃねぇだろ? それに女のテメェが口出しすんなよ」
「は? なにそれ、アタシ一応アンタよりレベル高いんですけど」
しかし、今度は友香と畑野が険悪なムードになる。そんな二人を、一般人である女騎士は戸惑った様に見つめ、魔法使いの金井はやれやれと肩を竦める。
(協調性は皆無か‥‥‥)
異世界人ということは、彼等は召喚されたのだろう。召喚以前から知り合いだったのかどうかは不明だが、とりあえずこの場において彼等は仲良しではないのは確かだ。一応の所纏まっているのは翔太という勇者がそれなりに纏めようと努力しているからだろう。
俺の思考を裏付けるかのように翔太がその場を収めようとしているのが見て取れる。
「勇者様方。ちょいと俺の話しを聞いてくれないか」
そして俺は、更に状況を乱そうと声を張り上げた。
「‥‥‥ベル?」
肩に乗るスゥちゃんが、奇行に出た俺に訝し気な視線を向けてくる。ウーナとディーナも、驚愕の表情で俺を見ていた。
「なんだぁ? 命ごいか?」
相も変わらずふざけた調子の勇者畑野に、ウーナが再度キレかかるが、それを片手で制す。そして、続けた。
「はは、それもいいかもしれないけど、ちょっと言いたい事があってね、とりあえず君は黙っててくれ、女好きのクソ野郎と話すことはない」
「テメェ‥‥‥もう一度言ってみろ!」
すると、畑野が激昂する。案の定というか、称号の通り彼は女好きだったみたいだ。
「図星かな? まあ、君だけが他の勇者よりレベルが低いのも、女遊びでもしていたんだろ?」
追撃とばかりに言葉を重ねる。しかし、これに反応したのは友香だ。
「ぶはっ、畑野アンタ、魔王に看破されてんじゃん!」
畑野を笑う友香に、俺はすかさず口撃をしかけた。
「いやいや、彼氏いないキミも、人の事言えないと思うけど」
「なっ!? アンタ、何でそんなこと知ってんのよ!」
「ギャハハハハ! 友香テメェ、召喚されたとき「彼氏が居るのに!」とか泣いてたの嘘かよ!」
「う、うるさいわね! ちょっと魔王! さっきから変な事言って! 何が目的なの!」
「さあ? なんだろうな? 彼氏のいない勇者さん」
言葉に反応して、勇者友香が持つ槍に力を込める。キッとこちらを睨みつけると、槍を構えて駆け込んできた。
後ろの方でレイラと翔太が「待て!」と叫ぶが友香には聞こえない、俺は内心でほくそ笑んだ。
風を切り裂きながら友香の槍が迫り、俺の喉元を正確に貫こうとしてくる。職業が槍使いだからか、それともスキル[槍術]でも持っているのか。その物腰は女性とは思えないほどのモノだ。
だが‥‥‥俺は[武術][軽業師]のスキルを持っている。こと避ける、受け流す事に関しては専門分野と言っていいだろう。俺は迫り来る槍の穂先に手を添えると、それを軸に身体を回転させて敵の懐に潜り込む、手の届く位置に勇者友香の顔を捉えると、俺はその顔に向けて麻痺粉をぶちまけた。
そして間髪入れず、胴体に蹴りを入れて地面に転がす。その際に槍を奪っておくのも忘れない。
「わ!? ゲホッ! ごほ! か、身体が‥‥‥!?」
「へぇ‥‥‥中々いい槍だな」
起き上がろうとする友香を無視して、俺は奪った槍に全級鑑定を使用する。
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風来の短槍(レア級)
風の属性を帯びた短槍の魔具。攻撃速度に補正がかかる。
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これは有り難く頂戴しておこう。俺は槍の切っ先を倒れたまま動かない友香の首筋に添えてみせると、友香は仲間の方を見て喚きだした。
「ちょ、ちょっとアンタ達! 助けなさいよ!」
「全く、軽はずみな行動は控えろと言っただろう!」
「ギャハハハハ! 友香ァ、助けてやろうか? ただちょっと条件があるがなぁ」
苦い顔で説教を垂れるリーダーの翔太と、下劣な表情で下品な物言いの畑野。お前らホントに協調性無いのな、7レベルの俺が優位に立ってる様に見えるぞ。
「俺さぁ、お前の身体それなりに興味あったんだよなぁ。ムカつくけどそれなりにイイ面してるし」
「な!? アンタ最低!」
それは今に解った事では無いだろう。俺は馬鹿二人を無視して、リーダーの翔太に目を向けた。
「俺はこうして人質を手に入れたわけだが‥‥‥さて、どうしようか?」
視線でリーダーの翔太に問い掛ける。交渉するか、否か。
「‥‥‥何が目的だ」
「さすがだねむっつり勇者クン。話しが早くて助かるよ」
「御託はいい。何が目的だ」
流石はリーダーと言うべきか。称号に書いてあったことで揺さぶりをかけてみたが、某二名の勇者と違ってポーカーフェイスを崩さなかった。
「いやいや、簡単な事だよ。キミら、ここに来るまでに何体殺した?」
「何?」
「だから、お前達はこの森に入ってからどれだけの魔物を殺した?」
実を言うとさっきから[直感]が異常に反応を示していて、ずっと考えていたのだが、ついさっき思い当たったのだ。
「お前等もしかして、ここに来るまでの道すがら、見かけた魔物を全部狩ってきたんじゃないか?」
それはハンバハ───森の神の激怒。
この状況から推定されるのは、それしかなかった。
「当然だろ、レベルアップになるんだから殺さない道理が無い」
翔太が当然とでも言うかのように告げる。そして俺は、確信した。
(こいつら、もう終ったな)
「おいテメェ、さっきから変な事ばっか言って何なんだよ一体」
さて、ハンバハの怒りが解った以上、ここに長居する動機もこいつらを倒す必要も無い。少し時間を稼げばそれでいいのだ。何かしら喚く畑野に対し、俺は素っ気なく、いかにもどうでもよい事のように告げた。
「いや、うん。まあ、あんたら早く逃げた方がいいんじゃない?」
「はぁ? 逃げんのはテメェだろ弱小魔王がよぉ」
まだ何か言っているが、この際どうでもいい。適当に時間を稼げばハンバハが来てコイツ等は全滅する。
俺が呑気にそんなことを考えていると、今まで余り喋らなかった男、腹黒勇者の金井が注意を促した。
「畑野、ソイツ何か企んでいる見たいだ。念のため警戒しておけ」
おやおや勘が鋭いことで、失うのが少し惜しいぐらいだよ。
しかし畑野は、金井の忠告を無視してあくまでも調子に乗った発言を繰り返す。
「馬鹿かお前、7レベルの魔王にやられるなんて、友香ぐらいしか居な───」
だが、畑野の言葉は突如として響いた咆哮に遮られた。
「ボォオオォォオォオォアァアアァァ!」
ビリビリと空気が震え、気の抜けていた雰囲気が一気に引き締まる。
咆哮が止んだ後も、辺り一体は不穏な風が流れ、ねっとりと肌を舐める様に吹き続ける。
俺に向けられた怒りでないと解っていても、正直足が竦んだ。勇者達も、これがハンバハの怒りであると理解していなくても恐怖ぐらいは感じただろう。案の定、足元の友香も酷く怯えた様子で周囲を警戒していた。
「ね‥‥‥ねぇアンタ、これ何なの?」
「さぁな、とりあえずお前等は、怒らせちゃならない相手を怒らせたんだよ」
地響きが、次第に近づいてきていた。
おはようからこんばんわまでどーもです。
更新できてなくてホンットすみません!
ケータイ没収されておりました……
でも、なんかいつの間にかお気に入り件数が50を超えていまして、最高記録に感動しております。
次は100を目標っすね!




