勇者と表通りでの一幕2
「――――いやぁ~食った食った。サンキューな、おっさん。」
串焼きをあっさりと平らげ、ご機嫌なユウキ。
「なぁに、気にするこたぁねぇよ。どうせそれを売っちまったら一旦、店を閉めるつもりだったからな。」
「え!? もう店を閉めんの? まだ十時半にもなってないけど。もしかしておっさんの串焼きってそんなに人気?」
言いながら串焼きの味を思い出すユウキ。確かに地球育ちの彼が食べてもかなり美味いと感じた一品。他の料理を食べていないので詳しいことはわからないが辺りでも人気が高い料理なのかもしれない。
「確かに俺が作る料理は天下一品だが、今日は特別良く売れるのさ。あんたらのお陰でな。」
「へ?」
「今日は、ラシェル、グレイド両国による大事な話があるらしいじゃないか。噂によれば我が国の王女の誰かがグレイドの第一王子と結婚するとか……。 まあ、そんな訳でその一大ニュースを確認するため遠い所から沢山の観光客がわんさか来てな。ご覧の通り、町は人で賑わっているわけよ。」
「あ~。そういうこと。」
ようはお祭り効果なのだと納得したユウキ。実際の所は国の乗っ取りという一大事なのだが。
「でもってウチの店は大盛況!もう、用意してた食材を使い切っちまったんで一旦店を閉めて、人の多くなる午後からまた商売をはじめるって寸法よ。」
笑顔でそう言う店主にへぇ~、と感心するユウキ。商魂たくましい。
「ところで……グレイドの騎士さんに質問なんだが、本当なのかい? ウチの王女様とアンタんとこの王子が婚約するって話は。」
話を切り出す店主。やはり噂が本当か気になっているのだろう。ユウキとしてもそうであったらどれだけよかったか。彼はバツの悪そうな顔をして誤魔化す。
「おっさん、おごってもらっておいて悪いけど俺達下っ端にはなーんにも聞かされてないんだわ、これが。」
「……そうか。いや、このラシェル王国もグレイド王国と同盟を結んではや五年。友好的な関係だし、そろそろ何か進展があってもよさそうだなと思ってな。」
実際に起きているのが真逆のことなので実際に言われると悲しくなる。ユウキはただ言葉を合わせる。
「アハハ。ソーデスネ。」
感情の無い声で答えるユウキ。そしていい笑顔で国を案じる店主の顔を見ていられなくて少し通りに顔を向けた、その時だった。
――黒い軍服のような服を着た男。茶色の短髪に刀のように鋭い眼光。それだけでも他の人と変わっているが特に異質なのはその雰囲気。いくつもの修羅場を潜り抜けてきた者だけが纏っている独特のオーラ。ユウキにはそれがわかった。
(まあ、怪しいわな。)
そしてユウキの目に止まる一つのマーク。それはこの騎士鎧にも付いている狼の紋章。つまりグレイド帝国の人間だと示す証拠。
店主の方に向き直り、用事ができたと伝えるユウキ。
「――んじゃまあ、俺はそろそろ行くわ。ホント、ありがとな、おっさん。」
「なぁに、言ったろ? 気にすることらねえって、たかが串焼きの四本位。じゃあな、騎士の兄ちゃん。遊んでばっかないで仕事がんばれよ。」
店主の最後の言葉に苦笑いしながらも元気良く人混みに消えたユウキ。軍服の男との距離は大分離れてはいるが目立つで見失うことはまず無いだろう。
「さてと……。あの柄の悪そうな男についていきゃあ、またお嬢ちゃんに会える気がするね。」
つかず離れずで軍服の男についていくユウキ。彼の中では少女との再開と激しい闘いの予感が頭をよぎった。