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勇者と表通りでの一幕1

「さーてと、んじゃ俺もそろそろこんな場所からオサラバしましょうかね。」


エリーゼとの話で止めていた足を動かしまた歩きだすユウキ。


「にしても、異世界に来てそうそう大変な場面に出くわしたもんだ。」


逃げる王女とそれを追いかける騎士達。このラシェル王国ではもうグレイド王国に占領されているらしい。そのわりには路地裏から見える表通りの光景におかしい様子はないが。


(詳しいことはわからんがグレイド王国が上手く誤魔化しているのか? はたまた情報が広まってないのか……。まったく厄介なタイミングで異世界につれてこられたもんだ。)


「うん?…………これってホントに偶然か?」


何かひっかかる。ユウキは路地裏の出口で立ち止まり、手を顔にあて考える。この違和感がなんなのかを。


(国の一大事にちょうどやって来た異世界の人間。それってあまりにもタイミングが良すぎるんじゃないか? この世界には魔法もある。召喚魔法なんてものがあってもおかしくはないはず。だとすればやっぱり…………。)


ユウキはやはり誰かに召喚されたのだ。それも明確な目的があって。


(となると、俺を召喚した人間はラシェル王国の人間。しかも異世界から人を呼び出せる位の強い魔力を持つ人物。それなら路地裏に召喚されたのも何か問題が生じたという理由で納得できる。


元の世界に帰りたいユウキはラシェル王国の城内に召喚主がいると推測。しかし、グレイド王国に占領されている今、なにもわからぬまま忍びこむのは無謀だろう


「『いま』の俺じゃあ分が悪い……か。やっぱりあの王女様から詳しい事情を聞くしかないかぁ。」


先程別れてしまったラシェル王国の第三王女エリーゼ。彼女ならばきっと城内で何が起こったかしっているはず。そうと決まればとユウキはエリーゼを探すため表通りへ。


「その前に、っと。」


とは行かず路地裏に戻って、倒れている隊長の男の前に。


「そんじゃあまあ、お休みの所悪いけどその装備頂きますわ。」


ユウキはヒッヒッヒと邪悪な笑みを浮かべながら騎士装備を奪っていく。出歩くのなら目立つ服装よりもこちらのほうが断然良いという判断だがいうなれば追い剥ぎ、誉められたものではない。


「まあ、殺されそうになったんだしこれくらい許してちょ。俺の上着あげるからさ。」


鎧を着るのに邪魔な上着を気絶している隊長の男の上にかけて、ささっと着替えるユウキ。


「ふぅーん。どこの世界でもあんま着け方ってかわらないもんなのかねぇ。」


以前の世界の事を思いながら着替えを終えたユウキは、改めて自分の体を見る。顔が見えないおかげで隊長の男と見分けがつかない。


「おっしゃ! にじみ出るスーパーオーラは隠せないけど変装は完璧だ!」


勝手な自己満足に浸りながらもご満悦なユウキ。チェックを終えた彼は意気揚々と表通りに出ていくのであった。


表通りの光景。一言でいうなら平和そのもの。商店街のように店が一つずつ並んで作られていて、道を行き交う人、お店の商品を買う人達で賑わっている。


「おお! こりゃまた、絵になりますなぁ~。」


ユウキが予想していた通り、人やその服装、風景に、置かれている物まで中世の雰囲気をひしひしと感じる。歩く人達の髪色は多種多様、パッと見渡しただけでも大体の色は揃っているように感じる。もちろんその中には黒色もいてユウキだけが目立つということはないようだ。


通りを歩くユウキが次に感じたのは魔法の普及率の高さ。先程から香ばしい匂いを漂わせている店、何かの肉を串焼きしているようだが焼き置きした肉を買う人に手渡す際、手から出す炎で軽く炙り温めてている。


「……そういや、あっちで夕飯食ってなかったから腹減ったな……。」


しかしユウキは一文無し。肉を買うことはできない。串焼きへの思いを振り払いその反対側の方に目をやるとジュース屋が。お客が選んだ果物であろう何かをミキサーの様な物に入れ、魔法を発動。中で果物はバラバラになり細か砕け、数秒後には果汁百パーセントのフルーツジュースができていた。


「……今、喉からっから。俺、フルーツジュース大好きなんだよね。」


されどユウキは一文無し。金が無ければ何も買えない。それはどの世界でも変わらないようだ。


他にも氷の魔法でアイスを作っていたり魔力を高めるというフレコミの胡散臭い道具を売っていたり、どうやら魔法という概念はかなり一般的なようだ。もちろんこの国だけ、という可能性もあるが。


「はぁ。銭なしの俺にとってここは地獄だ……。買いたくても買えないこの悔しさ! 泣けるぜ、まったく。」


王女を探そうと勢い良く飛び出したはいいものの商店街という大きな壁に遮られやる気下降中のユウキ。彼が肩を落としてトボトボと歩いていると横から声が。


「オイオイ、どうした兄ちゃん! そんなシケた面して!」


顔を声の出た方に向けるとそこには先程見た串焼き屋と似たような店が。どうやらそこの店主が話かけてきたらしい。


四十位だろうか。ダンディなお髭を蓄え、筋肉隆々なその姿は歴戦の戦士ような風貌だ。そのためか、配管工のような服装の上にエプロンを身に付けている姿は非常に違和感を感じる。


「いやぁ、それが……腹は鳴るけど金持たず、ってわけで項垂れながら歩いてた訳よ。」


「グレイド王国の騎士様とあろうもんが一文無しだぁ? お遊びも大概にしないとダメだぜ兄ちゃん。」


豪快に笑いながらユウキの肩を叩く店主の男。


「はぁ……。」


軽く誤解されながらも言葉を返す元気は無いユウキはその場を立ち去ろうとする。それに店主の男は待ったをかける。


「まあ、ちょっと待っとけ!」


店主はそう言うと焼き置きしておいた四本の串焼きを魔法で軽く炙りユウキに手渡す。


「……お? おおっ! いいのかおっさん!? 俺、ホントに一文無しだけど?」


「おう! いいぞ、持ってけ泥棒!」


「それじゃあ……遠慮なく!」


気前良く店主から串焼きを貰ったユウキはそれに勢い良くかぶりつく。


腹が減っては戦はできない。必死で逃げているであろう王女を尻目に異世界初めての料理を堪能しているユウキであった。

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