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勇者と面倒な異世界事情3

「えっと……あの……そういう訳ではなくて……。」


ラシェル王国第三王女、エリーゼは困惑していた。無理もない、ピンチの時に突如表れ、何故か自分を助けてくれた青年。この国では恐らく珍しいであろう服装、肉体強化を使った手練れの騎士相手に素手で挑み、魔法も使わずに勝利するその強さ。何者と尋ねれば人間だ、と至極当たり前のことを言う。彼女にとっては訳のわからないことばかりだ。


「あ、お嬢ちゃん。今さっきの、俺は人間だ発言に対して訳がわからないわって顔してるな? けっこう大事なことなのよ、これ。あ~この人、人間なんだぁ~安心するわ! ってなるだろう?」


ユウキの力技でねじ伏せたような説明に戸惑うエリーゼ。いまだフードで顔は確認できないが、恐らく困り果てた顔をしているだろう。


「い、いえ、見知らぬ方にそのようなこと言われましても……まあ、魔族だと言われるよりかは……。」


(魔族もいるんかい、この世界……。)


エリーゼの返し言葉にまた色々と考えなきゃいけない事が増えたユウキだったが、彼女の透き通った声がその思考を遮る。


「そんなことより、私は貴方に一つ、聞きたいことがあります。」


先程よりかは幾分軽い調子でユウキに話しかけるエリーゼ。ユウキのごり押し戦法が通じたとでもいうのだろうか。


「答えられることならば、しっかりきっちり答えて見せよう。うむ。」


彼女の僅かな変化を感じとりながらも、仁王立ちで質問に答える姿勢を見せるユウキ。非常に偉そうである。


「どうして私を助けてくれたですか?」


ユウキの悪ふざけに付き合うこともなく真っ直ぐとした疑問をなげげかけるエリーゼ。


「最初はお互いの趣味を知る所から初めても、かまわんのですよ?」


「遠慮しておきます。」


「……さいですか。」


ユウキはそんな彼女の姿勢にふざけるのを諦めて質問に答える。


「助けた理由ねぇ……しいて言うなら、自分の為だな。」


「自分の為、ですか。」


「そ、自分の為。偶然あんな場面に遭遇したのは運が悪かったとしか言えないんだけどさ、それを理由にあのまま見過ごすのはどうもねぇ。だから助けたって訳、後味悪いし。」


彼女の問いにそう言いきるユウキ。自分が助けたいと思ったから助けた。ユウキにとって誰か助ける理由はそれで十分。


(欲をいうなら、異世界に来たばっかだから沢山聞きたいことがあるんだけどそんな暇、このお嬢ちゃんには無さそうだからなぁ。)


「そんなことより、こんなとこで油売ってていいの? 俺としてはまだまだおしゃべりしててもいいんだけどさ、場所が悪いし、コワーイ騎士さん達がまたやってくるかもよ?」


ユウキは彼女をここから出るようにと促せた。しかし、エリーゼは沈黙を守ったまま動こうとしない。


(あらら、なんだかんだでやっぱり警戒してるのか。)


状況が状況、いくら助けたとはいえエリーゼにとってユウキは怪しい人物に変わりないのだ。どうやらユウキがさっさとこの場から離れるほか無さそうだ。


「…………へいへい。わかりましたよー。俺はお邪魔みたいだからさっさと退散しますわ。お嬢さんもせいぜい捕まらないようにがんばれよー。」


ユウキは渋々といった感じでトボトボと路地裏の出口の方に歩いていく。彼的には利益目的では無いにせよ助けに入ったのだから、感謝の言葉の一つ位欲しかった。と同時にしょうがないか、と思う気持ちもある。だって怪しいのだから。


そんな彼がもうすぐ出口に着く、まさにその時、後ろから声が。


「――――待ってください。」


「ん?」


けして大きくはないが確かに聞こえたその声に足を止めるユウキ。


「私は貴方がどんな人かはわかりません。一見、ふざけているようで何か深く考えてるようにも見えます。それに見たこともない服装、騎士を素手で倒すその強さ、警戒されるのは当然だと思います。」


「デスヨネ……。」


エリーゼの言葉に少し傷ついて、内心ショックを受けるユウキ。俺はそんなに危険に見えちゃうのかと、この顔か!? この顔なのか!? と。それを知ってか知らしずか、彼女は、でも、と言葉を繋げる。


「でも……それだけ怪しいのに何故でしょう。貴方が悪い人にはとても思えないんです。むしろ貴方はその逆。強い、良い心を持っている、そんな気がするんです。」


「うーん。照れますなぁ。」


エリーゼのいい人発言に頭をかいてホッコリなユウキ。さっきまでのショックはどこにいったのやら。きっと銀河の彼方まで飛んでいったのだろう。


そんなユウキを見ながらエリーゼは懐からあるもの取り出す。


「今はこれしか渡せませんが……。」


そう言ってユウキにそれを手渡すエリーゼ。


「これは?」


「助けて頂いたお礼です。それくらいしかお礼が出来なくてすいません。――それでは、さようなら。」


ユウキが止める暇も無く表通りへと走り去っていったエリーゼ。


「――行っちゃったよ……。」


今はもう人ごみにまぎれ見えなくなった王女の方に目をやりながら呟くユウキ。


「結局、顔は見れずじまいか。俺が考察するに数年後が楽しみな美少女だと予測するが……それはともかく。」


エリーゼから手渡されたものを見て少し考え込むユウキ。


「懐中時計ねぇ…………。」


ユウキが手渡されたもの、それは銀と金が入り交じっているいかにも高級そうな懐中時計だった。


「まあ、時間を知るには便利だけど。」


ふいに時計を見る。時刻は十時を過ぎたばかりだった。

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