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勇者と面倒な異世界事情1


「ん~。どうしよう……。」


左手を頭にあて、悩みだす男、鈴原友貴。彼が何をそんなに悩んでいるかの答えは、この状況にある。


「遂に追い詰めましたよ。」


路地裏の出口、つまり表通りにもっとも近い場所から西洋騎士の様な格好をした男が路地裏の奥の方に向かってそう言い放つ。彼の後ろには彼よりも少し貧弱な装備で身を固めた二人の男が。見た感じ恐らく彼の部下であろう。その二人もまた、真っ直ぐと路地裏の奥を見つめる。


路地裏の奥には先程友貴が出くわした女性が。彼女は友貴を充分確認できる距離であるにも関わらず彼を華麗に無視して奥の行き止まりの方まで走ってしまったのである。フードで視界が悪くなっている上に追われていたので気付かなかったという可能性もあるが。


結局、友貴が介入すること無く、追い詰められる女性、そしてそれにジリジリと迫っていく男達という、何処かで見たことあるお約束な展開になってしまったのであった。因みに友貴は相対している二組のちょうど真ん中に位置している。女性だけでなく騎士達の方も友貴の姿は見えていない様である。薄暗い上に頭を覆う兜のせいで視界が悪くなっているのであろう。フードの女性とどっこいどっこい。


見えてないなら好都合と、これをどうするか考える友貴。


(さて、どうしたもんかね。絵面的にはよくありそうな光景なんで女性を助けてもいいんだけど、彼女が悪もんの可能性も否定できないしなぁ。あ~。なんか今の状況を懇切丁寧に説明してくれる人がいてくれたらホント楽なんだけど。)


友貴が悩んでる間に先頭の男が再び口を開く。


「ふふっ。遂に俺にも千載一遇のチャンスが巡ってきた! ラシェル王国の第三王女、エリーゼ・アレキサンドライトの身柄を確保したとなれば俺の株は急上昇! 昇級間違いなしだぜ!」


「隊長、興奮しているのはわかりますけど心の声駄々漏れですよ……。」


叫んだ男の左側にいた男がさりげなくフォローを入れる。隊長と呼ばれた男は暫し固まり間を置いてゴホン、と咳をひとつ。


「……うん。エリーゼ姫! 貴方は今、完全に包囲されている。大人しく身柄を我々に預けていただきたい。」


かっこよく決めたつもりだろうが、先程のくだりがあったせいか隊長である男の声は少しばかり震えていた。隊長の発言に対して今まで口を閉じていたフードの女性、もといエリーゼも口を開く。


「私は、貴方達に奪われたこの国をいつか必ず取り戻します。よってその降伏には応じれませんし、ここで捕まる気もありません。特に貴方の様に私利私欲で私を捕まえようとする方には!」


透き通る美しい声、しかしその声の調子には強い意志が感じ取れる。


一方、否定の言葉を投げ掛けられた隊長の男は少し後ろに後ずさって悲しい顔をしていた。完全に昇級に目がくらんだクズ騎士のレッテルを王女様に貼られたことが悲しいのであろう。意志が弱い。


「わ、私のことはさておき、我々グレイド帝国にも事情があるのですよ。やらねばならぬ大きな大義が。」


「私達、同盟国を裏切ってまで……父上を殺してまでやり遂げたい大義とは一体なんなんですか!」


隊長の言葉に対して怒りを露にするエリーゼ王女。そんな中、二人のやり取りを冷静に監察する男、影の薄さに定評のある友貴。


(いまだに気付かれないことに驚きだよ! 俺って影の濃いキャラだと自称していたがそうではないのでした! …………まあ、それはさておき、知りたいことはあ

る程度はわかったかな? ようは国家間の争い……だな。それもグレイド帝国ってとこの一方的な裏切りで。)


友貴が先程のやり取りから現在の状況を整理する。会話中に出てきた二つの国名、ラシェル王国とグレイド帝国。元々この両国は同盟を結ぶ位仲が良かった。それがグレイド帝国の突然の裏切り。ラシェル王国の王は殺され、恐らく今はもうラシェル王国はグレイド帝国の手中に収まっているのであろう。


そこで今現在のこの状況。国外逃亡を図るラシェル王国第三王女とそれを捕らえようとするグレイド帝国の騎士達。かなりな正念場である。路地裏の魔物に捕まった自分を嘆きつつもとりあえずやることを決めた友貴は暫し静観を決め込むこととした。


「…………どうしても、降服はありえないと?」


一時の沈黙を続けていた両者だったが隊長の男がその沈黙を破る。男のその問いにエリーゼは頷く。


「それだけは絶対にできませんので。」


短く、しかし強くはっきりと。アリーヤの否定の言葉を聞いた隊長の男はやれやれ、と肩をすくめそして、


「困ったお姫様だ。ーーそれなら少しばかり痛い目にあって貰いますか。」


腰に携帯してあった剣を抜刀するのであった。


ロングソード。中世時代の最もポピュラーな武器で長さ約一メートルの刀身、両刃の刃を搭載している。この武器の一番の長所はなんと言っても扱いやすい所にある。適度な重量、薄く頑丈に作ってある鋼の刃、均整のとれた形状。まさに一介の騎士が持つに相応しいといえる。そのロングソードを構える隊長の男。


「よ! 見せたれ! 隊長の剣さばき!」


隊長の男の左側にいる男ーー部下1がエールを元気良く送る。応援は立派だがこの場では場違い。


「大丈夫ですか隊長。相手が女性だからってまたドジして逃がしてしまうなんて愚かなことがないようにお願いしますね。」


続いて隊長の男の右側にいる男ーー部下2が辛辣な言葉を送る。ドSなのであろう。


「うるさいぞお前ら! せっかく人が格好良く王女を捕縛するって時に……少しは黙らっしゃい!」


隊長の叱責にも動じる様子が無い二人。きっといつものことなのだろう。溜め息をひとつついて、隊長の男はゆっくりと歩き出す。隙の少ない良く訓練された歩きにエリーゼ姫は身動きが取れない。やがて隊長の男が通路の真ん中に到着。彼はそこから勢い良く足に力を入れる。そこから一気にエリーゼ姫の間合いに入ろうとしたのだ。騎士らしい堅実な作戦。しかしその作戦は一人の男によって容易く遮られる。


「へい!!」


友貴の右足が隊長の男の左足にクリーンヒット! 隊長の男はエリーゼ姫に近づく手前で盛大に転けたのだった。


「あばばばばば!」


鉄と石畳が擦れる音を響かせながら隊長の男が地面に倒れる。


(さぁーて、それじゃあちょっくらお姫様救出といきますかね。)


唖然としている一同の前についに現れた友貴。


ーーこうして彼は再び大きな運命の渦の中に飛び込んでいくのであった。

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