あの夏の日
あの日。
あの暑い夏の日。
私と瑛人と崇と陽子は、この場所を見つけた。
空き地に不自然に空いた謎の空間。草が刈り取られている中に、ぽつりとある青いテント。
辺りを探っても、私たち以外に人がいる気配はなかった。きっとホームレスが置き捨てたのだろうと、そう納得して。
それから、ここは私たちの秘密基地となった。
「『裏空地に行ってみようよ』って、そう言ったのは、さぁちゃんだったね」
「そうだったっけ」
そうだった。
でも、私はなんとなくとぼけてしまった。
「『裏空地に行こう』だなんて、さぁちゃんは俺らと一緒にいるときだけは一番の勇者だったよなぁ」
そうだったね――。
その勇気をどうして私はいつも持ち続けることができなかったのだろう。
どうしてその勇気を、自分の未来を切り開くために振り絞れなかったのだろうか。
「裏空地……そういえば、ここはそう呼ばれていたんだっけ。私たちにとっては、あの時からずっと秘密基地だったから」
壁のように並んでいた工場の裏に、潜むようにあったから裏空地。
その工場も今では潰されるか移転するかして、無くなっている。
外の世界は変わっていって、ここだけ取り残されていた。
でも、もう終わり。
今日で、おしまい。
「よく、今日までもったわね」
「まぁ、不発弾があるとか、毒ガスが出てるとか、幽霊がいるとか、怖い噂があったからなぁ。俺たち以外近づく人なんていなかったからじゃない?」
「幽霊ね……」
確かに、私達が最初に来たときにはそんなものは一切いなかった。
噂なんて嘘っぱちだったと、私達は自分たちの勇気を誇らしげに思ったほどに。
でも今は――私はじとっと瑛人を睨む。瑛人は視線に気づくと慌てて首を横に振った。
「はっ!? いやっ、幽霊じゃないよ、俺は!!」
「だって、私たち以外には見えないじゃない」
「いやいやいやいやいやいやいや!! 僕生きてるから、ただ止まっているだけだから!」
止まっているだけ、それが一番謎なんだよ。
何で、あんたは止まっていられるの?
何で、あんたはそのままでいられるの?
「でも、止まっていられるのも今日までなんでしょ」
私の口から出たのは嫌味。
本当はこんな言葉吐きたくなかったのに、妬みが込められたどろどろした感情。
「明日には工事の人が来て、ここは潰される。ひっくり返して、平らに整えられて、アスファルトが地面を覆って、見る影もない、あの日の要素なんて何一つなくなっちゃう」
住民が望んでいたスーパーがやっとこの田舎町にできる。
私達の思い出を潰して、紡がれる新しい時間。
何もかも変わっていく。変われない私を置いて。
止まっている彼を残して。
――ここを秘密基地にしよう。
崇の言葉に私たちは興奮した。
ここを見つけるまで、肝試しでもしているかのような気持ちで草むらを掻き分けたことなどすっかり忘れて、私達ははしゃいでいた。
お菓子やゲームを持ち込んで、四人でいっぱいになってしまうテントの中ではしゃいで。
草むらの中で駆けっこしたり、ヒーローごっこしたり。
冬は寒さのせいで足が遠のいたが、それでも夏が来ればまた草むらをかき分けて向っていた。
秘密基地。
誰にも見つからず、自由でいられる場所。
大人の目も、面倒くさい子供同士のトラブルからも無縁で、
私達だけの場所。
中学生になり、頻繁に通うことはなくなったが、それでもふらりと気が向けば立ち寄っていた。
私にとって、とても居心地がいい場所。
崇も陽子も私と同じ感じで、親しみ、懐かしみつつ、少しずつ巣立ちを始めていたように思う。
でも、瑛人は違った。
彼は特別だった。
瑛人には、ここしかなかった。
二週間遅れです!
すみません(汗