コーヒーシュガー
会社の昼休みの時間。
ある社員が後輩社員を、暇つぶしの為に近所の喫茶店へ誘った。
誘ったのはグレーのスーツを着ている小太りの30代半ばの男で、誘われたのは白いワイシャツを着ているまだ新卒の若い男だった。
あまり人気が無い喫茶店の為、昼時だというのに客は二人以外客はいない。
注文するとすぐにテーブルに二つのコーヒーとおしぼりが並べられる。
おそらく数分もしないうちにそれぞれが注文した昼食も運ばれるだろう。
「ああ、最近つまらんなぁ。はぁ。なんかこう、インパクトのある話が聞きたい」
小太りの男がおしぼりで顔を拭きながらため息をつく。
「はぁ、インパクトのある話ですか」
「そうだ、俺が驚く位インパクトがあって面白い話。何か無いかね」
いつも面白い話を求めて無理矢理でも話を聞くのがこの男の趣味であり、昼になると誰かが暇つぶしに付き合わされていた。
「そうですね、先輩がびっくりするようなネタならあります。ちょっと、シモの話ですけど」
「それはいい、是非聞きたい!」
にやにやとしながら小太りの男は、若い男の話に食いついた。
「でも、普通に話しても面白くないですよね……あ、こうしませんか?」
若い男は思いついたように手をパチンと叩く。
「僕はこの話を区切りながら話します。続きを聞きたくなったら、先輩は自分のコーヒーに砂糖を入れていくんです」
「なるほど、最後まで聞きたくなる話ならこれがそれはそれは甘ったるいコーヒーになるわけだな。面白い、やってみよう」
小太りの男が了承し、若い男は楽しそうに話し始めた。
「いや、先週の日曜の話なんですけどね」
「うんうん」
「続きは1シュガーです」
「早くないかね?」
そう言いながらも小太りの男はコーヒーシュガーが立てられている容器から一本のシュガーを取り出し、コーヒーに入れた。
「夕方頃、女性が財布を落とした所を見たんですよ。で、僕がそれを拾って届けてあげて」
小太りの男はコーヒーをティースプーンでかき混ぜながら頷く。
しかし、続きが話されない。
「あー……もう追加か?」
「はい、お願いします
「なんだかソーシャルゲームか何かに課金しているような感覚だな……ほら入れたぞ、続きを話せ」
渋々とコーヒーシュガーをもう一本コーヒーの中に入れ、カチャカチャと混ぜる。
「そしたらすごく感謝されちゃって。しかもその女性がすごい美人なんですよね! で、お礼がしたいって言われて」
若い男の話がぴたりと止まる。
「わかった、わかった。二本入れてやるから、本題まで飛ばしてくれ」
呆れたようにコーヒーシュガーをザザァ、ザザァと入れていく。
「ホテルでその女性がシャワーを浴びていて」
「一気に話が跳躍したな」
「僕は先にシャワー浴びてベッドで待ってたんですけど、僕のアレはもうギンギンでしたね。もう久しく抜いてませんでしたし。あんな綺麗な年上の女性を抱けるなんて考えたらもう、興奮して」
「お前のナニの詳しい説明はいい。内容だ、内容が聞きたいのだ」
情事が気になって仕方なかった小太りの男は、少し早口で続きを急かした。
「ここからは3シュガーです」
若い男は右手の指を三本立てる。
「……ええい、つまらなかったら許さんぞ! さあ話せ!」
半ばやけくそになりながら、小太りの男はコーヒーシュガーを足していく。
既にコーヒーの底には溶け切らなかった砂糖が溜まっていた。
「その女性がシャワーからあがって、僕はベッドに押し倒されましてですね」
「ふむ、ふむ」
「ねっとりキスをした後、可愛いわね、とか言われながら僕のアレを扱かれて、咥えられたと思ったらすぐイかされて」
「おお……」
にたにたと話す若い男の話に興奮し、小太りの男は鼻息を荒くして身を乗り出す。
「もう途中まで主導権握られっぱなしだったんですけど、上に乗られてからは僕も反撃とばかりに突き上げまして、その女性」
「それで、それで!」
「続きは……」
若い男はそれ以上言わず、笑顔のまま横目でコーヒーシュガーを見ていた。
「ああ、これからがいいところだというのに!」
「どうします先輩、砂糖追加しますか? オチまで飛びますか?」
「もういい……オチを話してくれ」
若い男は今日一番の爽やかな笑顔になった。
「いやぁ、実はその女性、先輩の奥さんだったんですよねー!」
それはそれは甘ったるいコーヒーが若い男の顔面にかけられ、白いワイシャツに染みがついた。
END
読んで頂きありがとうございました。
ギャグです。下ネタです。喫茶店で思いつきました。