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ピリオド

作者: 及川 輝新

 相島さんが死んでから今日で一か月になる。

 入学初日、「趣味は読書と買い物です」と自己紹介で語っていた、どこにでもいるような、普通の女子高生だった。

 そんな普通の相島さんは、一か月前の早朝、教室の窓際最前列、自分の席で、自殺した。

 拳銃自殺だった。

 なぜただの女子高生が拳銃を持っていたのか、なぜ死に場所に学校を選んだのか、ワイドショーや週刊誌で数々の憶測が挙げられたが、どれもいまいちピンとこなかった。

 友達もおらずクラスに溶け込めなかったとか部活動でいじめられていたとか母親の再婚相手に犯されたとかアングラなクラブに入り浸っていたとかそこで密売人と知り合ったとかどれも原因や可能性としては考えられることだし、翌週公開の映画の前売り券を二か月も前に買っていたのに自殺するはずがないとか、死のうとする人間は先のことを想像する余裕なんてないとか、それもどちらもおっしゃる通りなのだが、どうも的を射ていない気がする。

 そう、ピンとこないのだ。

 学校の記者会見も、ニュースの字幕で読んだような言葉がニュースの字幕となって流れていた。オリジナリティがまるでない、平平凡凡な会見だ。聞いた五秒後には忘れるような、ありふれた説明。

 紐なしで二人三脚をしているような、睡眠薬で眠らせたライオンを棒切れでつついているような、ホームの反対側にいる不良を挑発しているような。楽観。傲慢。無警戒。

 学校もマスコミも本質的な部分で自分は無関係だとわかっている。

 いち女子高生の自殺が、自分の責任なわけがない。

 原因は学校でも社会でもない。

 相島さんは、勝手に死んだ。

 それでも腫れものを触るように、より合理的な、言い換えれば当たり障りのない理由で無理やり納得しようとしている。ただの自殺として封印しようとしている。

 彼らは本当は恐れている。

 相島さんを理解しようとすることを恐れている。

 相島さんには友達もいたし、付き合っている人もいた。

 普段は無口で休み時間はずっと図書室にこもっていたが、周りから浮くほど気難しい子ではなかった。

 成績はどちらかといえば優秀で、囲碁部では学年トップの実力だったという。

 天ぷらの調理実習では小麦粉は混ぜすぎてはいけないとかビールを加えるとサクサクに仕上がるとか僕に色々教えてくれた。

 料理が得意で勉強ができてちょっと物静かだけれどあたたかい平凡な女の子。それが相島さんだった。

「……映画、行けなくなっちゃったなあ」

 三ヵ月前に一緒に購入した映画のチケットは、家の机の引き出しにしまったままだ。

 もうすぐ公開も終了してしまうだろう。もともとラブコメはあまり好みではなかったけれど。

 でもやっぱり、一緒に観たかったなあ。

 僕はまだ、相島さんのことを知りたいと思う。

 彼女は人生にピリオドを打った。しかし、彼女が終わらせられたのは、自分の人生だけだ。

 僕はまだ、終わりの続きを見ている。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 力のある問題提起だなと感じました。 ガツンと来ます。 とても好きな作品です!
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