Episode:009 少女
第9話更新しました。
良かったらお読みください。
修二が町長カールスの家でリトール達を紹介され、さらにリトール達の涙に戸惑っている間、ダイニングではパーティの準備が着々と進められていた。そしてキッチンではカールスの妻セレンと息子の嫁レーナの2人が修二特製の包丁を握って料理を作っていた。
「レーナ。今日は久しぶりにはりきってしまったね」
「そうですねお義母さん。でも、まだまだ頑張って御馳走を作りましょう」
「そうだねぇ」
リトール達が久々にやってきたとあって、2人は腕によりをかけて御馳走を作りあげていた。その様子をダイニングルームの飾りつけを行っているカールスの息子ライカがニコニコと見ていた。
「おや? ライカ。飾りつけは終わったのかい?」
「ちゃ、ちゃんと終わったよ~。ほら~」
その視線に気付いたセレンは、暗にサボるなという意味合いでライカに飾りつけを終わらせたのか訊ねた。ライカは慌てて手を振りながら、ちゃんと飾りつけを終わらせたことを告げる。
「だったらお義父さん達を呼びに行ったらどう? そんなところで突っ立てないで」
「レーナの言う通りだよ。飾りつけが終わったんなら、父さん達を呼びに行きな」
「わ、分かったよ~。たく人使いが荒いんだから~」
ライカはため息を吐きつつ、カールス達を呼びにダイニングルームを出ていった。セレンとレーナは顔を見合って苦笑すると、出来あがった料理を次々に皿に盛り、テーブルの上においていった。
*****
カランカラン。
「はいはい~。今開けますよ~」
パーティが開催されて数分。呼び鈴が鳴らされたのに気付いたロレーヌが、ドアを開けるべく玄関へと向かった。そして、『誰ですか~』と訊ねながらドアを開けると、そこには信じられない人物が立っていたため動きを止めた。
「お、おう・・・・・・、さま・・・・・・?」
「おお。ロレーヌ。歓迎会は始まっておるか?」
「え? は、はい」
「うむ」
その人物は町民の出で立ちをしたセーレ国国王であった。セーレ王は、驚きを隠せないでいるロレーヌを気にした風もなく、ダイニングルームに向かった。
数秒後、慌てて後を追ったロレーヌだったが、間に合わずにセーレ王とエレナは鉢合わせしてしまった。
「おお、エレナ。リトール達は中・・・・・・」
「お父様! 何故、ここにいらしゃったのですか!」
廊下に響き渡るエレナの叫び声。
その大きさゆえに間近にいたセーレ王は、少しよろめいてしまった。そしてセーレ王の後ろにいたロレーヌもまた、耳を押さえていたのは言うまでもない。
「・・・・・・なるほど。お父様は執務をほっぽりだしてここにいらしたワケですね?」
その後、ダイニングルームで、セーレ王の話を聞いていたエレナがまとめるように訊ねた。セーレ王は、心外だという表情をして反論した。
「人聞きの悪いことを申すな。ワシは執務をほっぽりだしてはおらんぞ。今日中にしなければならんことはしっかり終わらせてやってきたのだからな」
「・・・・・・そうですか。そういうことにしておきましょう。ところでその格好はなんなんですか? 一国の王が、警護も付けずにそんな格好でいらっしゃるなんて前代未聞です」
「何を言う。ワシが即位する前は、しょっちゅうこの最上級の絹で作った服を着て城下町をたむろっていたものだ。そうそう。よくカールスと悪さをして、シュウに怒鳴られていたな」
「そうですなぁ。懐かしいことで」
(人のことは言えない)エレナの説教に反論したセーレ王は、やんちゃだった頃のことを思い出していた。カールスも頷くと、物思いに耽った。
エレナはため息をはくと、困惑している修二や恐縮しているリトール達、苦笑しているロレーヌの方を一瞥してから、セーレ王を向き直った。
「もう良いです。今宵はリトール達の歓迎会。説教するは無粋なことですね。せっかくいらっしゃったのだし、お父様も楽しんでいってください」
「うむ。最初からそのつもりだ。今宵は無礼講。存分に楽しもうぞ!」
セーレ王の言葉で、中断していたパーティが再開された。困惑していた修二や恐縮していたリトール達も、しばらくするとパーティを楽しむようになっていった。
*****
修二が楽しかった歓迎会が終わり、リトール達と明日また鍛冶屋で会う約束をして帰路についたのは、0時を少し回った頃だった。町長お手製のお酒で、少し赤くなった顔をしながら鍛冶屋へと続く道を歩いていく。
「今日は飲みすぎたなぁ。町長さんのお酒は上手すぎだよ」
酔いを覚ますため、ゆっくり歩きながら歓迎会の事を思いだず修二。それを月が照らしだしていた。
「あ、あれ? これって・・・・・・」
ふと修二は月の光が映し出していた自分の影がなくなったのに気付いた。空を見上げると、いままで輝いていた月に靄がかかっていた。これに見覚えがあった修二は立ち止まると辺りを見回した。
「やっぱり・・・・・・」
森の奥から黒いローブを被った人物が現れたのに気付き、修二は呟いた。その人物は街道と森の境で立ち止まると、被ったローブの奥から修二を見つめた。
「・・・・・・決して大臣の言葉に耳を傾けないで。大臣はあなたを誘惑してくる。あなたの、ドワーフの業を自らの欲望のために利用するために。だからどんなに大臣があなたを優遇すると言っても耳を傾けてはダメ」
「あなたは一体誰なんだ? なぜ大臣は俺なんかを狙うんだ?」
「・・・・・・・今は言えない。でも、信じて。私は、私たちはあなたの味方」
ゆっくりと暗闇に溶け込み始める黒いローブの人物。
「あ、ちょっと!」
「・・・・・・お願い。大臣の言葉に耳を傾けないで・・・・・・」
修二が慌てて止めようとするが、その人物はそう言い残して消えてしまった。それと同時に月が修二を照らし始めた。修二はしばらくその場を動かず、黒いローブの人物がいた場所を見つめていた。
『・・・・・・お願い。大臣の言葉に耳を傾けないで・・・・・・』
この言葉が、いつまでも修二の耳に残って離れなかった。
『あの人物は一体だれなのか』、『なぜ俺を大臣が狙うのか』、そんな疑問を修二は考えていく。しかし、どんなに考えても結論が出るはずもなく、修二はため息を吐くと自分の家へと延びる道を見つめた。
「信じて、か・・・・・・」
そう呟いた修二は、再び自分の家へと歩き出した。
*****
「・・・・・・・・・・・・」
自分の家へと歩き出した修二の後ろ姿を、先程消えたはずの黒いローブの人物が見つめていた。その人物は修二が見えなくなると、徐に頭のフードを脱いだ。その中からでてきたのは、まだ幼い印象の美少女だった。また、どこか大臣に似ている顔つきをしている。
「・・・・・・お父さん。きっとシュウジさんを助けるからね。待ってて・・・・・・」
黒いローブの人物、もとい少女は空を見上げると、そう呟いた。その顔から一粒の涙が滴り落ちる。少女は慌てて顔を振ると、フードを被り直す。そして森の奥へと消えていった。
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次回あらすじ
修二がリトール達の歓迎会をしている頃、セーレ国の玄関口ヴィアンカでは、ある物をもった人物が降り立った。
その翌日、リトールとともに鍛冶屋の仕事をこなす修二の前に、その人物が訊ねてくる。その人物が修二に頼んだこととは。