Episode:006 小刀
〈魔剣士〉 高天原 A様、感想ありがとうございます。
第6話更新しました。
良かったらお読みください。
「え、えっと何か?」
「な、何でもないぞ。さて、私も夜の歓迎会には参加さえてもらうとしよう。ロレーヌ。後のことは任せたぞ」
「あ、ちょっとエレナさま!?」
「?」
エレナは少し顔を赤らめながらロレーヌに後のことを任せ、鍛冶場を後にして兵士とともに城へと戻っていった。残ったロレーヌはしばらくエレナが去った入り口を見つめていた。
そして修二と言うと、二人の様子に首を傾げていた。
「たくもう。都合が悪くなると、いつもそうやって逃げるんですから・・・・・・」
「あの~」
「あ、ごめんなさいシュウジさん」
「い、いえ。謝る必要はありませんよ。で、私にまだ何かあるようですが?」
修二は火床の様子を確認しつつ、話を訊く態勢になった。ロレーヌは『ええ』と頷くと、座っていたイスに座り直す。そしてシュウジの横顔を眺めながら口を開いた。
「これは今更というべきことなのですが、一応シュウジさんに訊いておこうと思いまして。シュウジさんは、最初から私たちの言葉を理解しているようですね?」
「は、はぁ・・・・・・、ちゃんと分かりますけど・・・・・・、それが何か?」
修二は動きを止めてロレーヌを怪訝な表情で見つめる。彼女は『意味が分からないかもしれませんが』と前置きしてから言葉を続けた。
「シュウ爺さまは最初、この世界に流れ着いた時、現地の人たちの言葉をあまり理解できなかったそうなのです。なぜなら、シュウ爺さまは鍛冶妖精族語という言語しかできなかったからなのですが、シュウジさんはこのドワーフ語をご存知ですか?」
「いえ・・・・・・」
修二は、シュウが自分の高祖父の叔父にあたる人物であることを踏まえて、その時代の“日本語”であると考えたが、違う可能性もあるので知らないとロレーヌに伝えた。彼女は『こういう言葉です』と呟いてから、ドワーフ語で話しかけた。
≪シュウジさん、理解できますか?≫
「・・・・・・そうですね。よく訊けば分かると思います。ですが、咄嗟に言われると理解できないかもしれません」
修二は、ロレーヌの言葉が思った通り、昔の“日本語”であると分かり、彼女にそう伝えた。
日本語は、時代によって発音が変化している。そのため、ドワーフ語(シュウの時代の日本語)を修二が聞き取り辛いと言ったのは当然である。また、日本語と英語という全く異なる言語ではないため意味を多少は理解できるのも頷ける。さらにロレーヌが発したドワーフ語は、完全にシュウの時代の“日本語”ではないというのも修二が理解できた原因と言える。
「なるほど分かりました。では、街の皆には、シュウジさんもシュウ爺さまと同じように、私たちの言語を理解していると言っておきます」
「・・・・・・分かりました。ですが・・・・・・」
「安心してください。ドワーフ語を知っているのは、私とエレナさま、そして王様だけですので」
修二の心配事を理解したロレーヌは、安心させるように笑顔で伝える。ホッとした修二は、火床の確認を再開した。
「まだ何か創るのですか?」
「はい。歓迎会まで、まだ時間があるようなので、折角ですからいくつか小刀でも創ろうかと」
「なるほど。見ていてもかまいませんか?」
「え? ええ。それは構いませんけど、つまらないと思いますよ?」
「いえ。見るのが好きなのです」
「は、はぁ・・・・・・」
修二は首を傾げつつ、小刀の製作に取り掛かりはじめた。ロレーヌは、邪魔にならないとこに座り、作業を行う修二を見つめる。そしてその横顔が、いつも見ていた鍛冶をしているシュウの横顔とダブって見えていた。
(やっぱりシュウ爺さまのご親戚で間違いありませんね。横顔がそっくりですもの。まるで、シュウ爺さまが若返ったみたいで、不思議ですね。・・・・・・あ、でも違うところもあるみたいですね。これは発見です。・・・・・・ああ。やっぱり職人さんの顔って素敵です♪ あの真剣な目で見つめられたら、私・・・・・・、ああ、ダメです。そんな目で見ないで~)
ロレーヌは危ない妄想をしながら、修二の作業を見つめていく。その眼は妖艶な眼つきになっていたが、修二は作業に集中していたため気付いていなかった。
*****
その後、一心不乱に鋼を鍛え続けた修二が顔を上げたのは、あたりが薄暗くなってきた頃だった。
修二は出来上がった小刀を見つめ、会心の出来だと笑みを浮かべたが、ふと金槌が目に入ると思案顔になってしまった。
(包丁の時も思ったけど、この道具・・・・・・、僕の手に馴染むんだよな。一度も使ったことがないはずなのに・・・・・・)
「どうかしたのですか? シュウジさん」
出来上がって笑みを浮かべていたはずの修二が、金槌をずっと見つめているのを疑問に思ったロレーヌが、暗くなった作業場の灯りをともしながら訊ねる。我に返った修二は、『なんでもない』と言って金槌から視線をはずした。考えるのはいつでもできると判断したためだ。
彼女は一瞬首を傾げたが、すぐに修二が製作した小刀に興味を持ち始めた。それも包丁と同じように馴染みのない形をしていたからである。またもや彼女に迫られてしまう修二。
「あ、あのあの。せ、せせせ説明しますから! は、はははは離れてください!」
「いいえ、離れません。この小刀の特徴を(ゴン!)ふきゃっ!?」
必死に引きはがそうとする修二だったが、ロレーヌはなおも食い下がって迫った。その時、ロレーヌの頭に拳骨が落とされ、むりやり修二から引きはがされた。腰が抜けた修二が、おそるおそる見つめるとロレーヌの首根っこを掴まえているエレナが眉間に皺をよせていた。
「たく様子を見にくればなにをやっているんだ?」
「うぅ。エレナさま酷いですよ~」
「お前が悪い。さてシュウジ大丈夫か?」
「あ、はい」
修二は返事をして立ち上がる。エレナは修二の無事を確認してからロレーヌを離した。
涙目の彼女は、頭を抑えてエレナを睨みつけるが、エレナは無視して修二と、その手にある小刀を見つめた。
「それは?」
「これは小刀です。包丁と一緒に町長のカールスさんに渡そうと思いまして」
「なるほど。さぁ、歓迎会の準備が終わったということだ。街へと向かうとしよう」
「あ、はい。少々お待ちください」
修二は返事をすると、包丁と小刀に銘を打って桐でできた柄にはめた。そして危なくないよう鞘に納めてから、布に巻いて抱える。
エレナは修二の準備が整ったのを確認し、未だに頭をさすっているロレーヌの首根っこを掴んで玄関に向かった。その後を修二がついていくと、外には昼前に町長カールスとともに来ていた男たちの一人がいた。
「こやつはローリー。カールスに頼まれてお前を街へと案内することになった。私は、こいつについてきたんだ」
「ローリーです。シュウジさん、よろしくお願いします」
「あ、こちらこそよろしくお願いします」
「では、シュウジさん。こちらです」
案内役のローリーは修二と握手すると、先頭に立って街へと案内しだした。エレナはロレーヌの首根っこをつかんだまま、修二は包丁と小刀を包んだ布を抱えて、その後をついていった。
*****
「って、あれ? 姫さま? ロレーヌさん? ローリーさん?」
ローリーのあとをついていくこと数分。修二が少し目を離した瞬間、霧が現れてエレナ、ロレーヌ、ローリーの三人の姿が見えなくなった。修二は立ち止まってあたりを見回すが、霞がかって三人を見つけることができない。
「・・・・・・・・・・・・」
「え? だ、だれ?」
どうしようか悩んでいた修二の目の前に、すっと黒いフードをかぶった、男か女か分からない人物が現れた。修二は警戒して後ずさりながら睨みつける。
「・・・・・・大臣には気をつけて」
「え? 何を言って」
「・・・・・・大臣は、あなたを狙ってる。ドワーフの力を狙ってるの。だから、大臣には気をつけて・・・・・・」
「あ、ちょっと・・・・・・、消えちゃった・・・・・・」
その人物は、修二にたいして忠告ととれる言葉を残し、霞とともに消えてしまった。修二はしばらくぽつーんと、その人物が消えた方向を見つめていた。
そこにロレーヌが戻ってきた。
「シュウジさ~ん。どうかしたんですか?」
「えっと僕もよく・・・・・・、いえ、なんでもありません」
「? そうですか? 二人がお待ちですよ、まりましょう」
「あ、はい」
修二はロレーヌに今会ったことを言おうとしたが、整理が必要と考えて言い変える。ロレーヌは首を傾げたが、すぐに笑顔になって修二の手をとり、エレナとローリーが待つ場所へと向かった。
その後、二人と合流してカリーヌ酒場についた修二は、すでに宴会を始めていた町長と街の男たちに誘われるままに酒を呑んだり、町長に渡した包丁と小刀について酔ったロレーヌに再度迫らたりといったことがあったものの、大いに歓迎会を楽しんだのだった。
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次回あらすじ
歓迎会から数日、各地にちらばっていたシュウの弟子たちが、シュウの子孫、修二に会うために集結。初めて修二を見て弟子たちが思ったこととは。