Episode:005 包丁
〈魔剣士〉 高天原 A様、コメントありがとうございます。
第5話更新しました。
良かったらお読みください。
修二は窓から差し込む月明かりで、目を覚ました。
「・・・・・・ここは・・・・・・、そうか・・・・・・」
修二が身体を起こし、暗闇に目が慣れてから辺りを見渡すと、そこは知らない、否、昨日案内された家の部屋だった。
寝れば元の場所に戻ってたら良かったと少し思った修二だったが、あまり落胆しない自分に気付くと、昨日もあまり取り乱さなかったと思い出して苦笑した。
「少しワクワクしてるのかねぇ・・・・・・」
そう呟き、ベットから抜けだす。そして昨日はできなかった、この家の探索を行おうと寝室を出た。
寝室を出ると向かって左に二部屋があった。まずは、寝室のすぐ手前にある部屋に入る修二。
「ここはトイレか? なるほど、水洗じゃないのか・・・・・・、汲み取り式? バイオ? う~ん。分からん。まぁ、いいや。えっと、次の部屋は・・・・・・」
その部屋はトイレであった。修二はトイレ内を見渡し、呟きながら部屋を出た。そしてもう一つの部屋のドアを開けた。
そこは浴室だった。しかも、露天風呂であった。
「露天風呂か・・・・・・・? ご先祖様は随分と羽振りが・・・・・・、いや、鍛冶屋だし弟子とかいただろうから、そのための風呂かな? あれ? 温かい? う~ん。どういうシステムなんだ? まぁ、いいか。さて折角、温かいんだからお風呂に入ってさっぱりするかね」
浴室でも修二は呟きながら辺りを見渡していく。そしてお風呂にはった水がお湯であることに気付いて考えこむが、すぐに考えを切って服を脱ぎ、風呂に入って鼻歌を歌い始めた。
*****
「さて、さっぱりしたし、一階の作業場にでも行くか」
数十分後、風呂からあがって脱衣所にあったタオルで身体を拭き、脱いだ服に再び着た修二は、浴室から一階の鍛冶場に向かった。
鍛冶場は、昨日と同じで鍛冶職人が来るのを待っているかのように、いつでも作業ができる状態になっていた。修二は、昨日のトンガリ帽子の、いかにも魔法使いだという服装をした女性(ロレーヌ)が使用した魔法を思い出して、“便利だなぁ”と思いながら鍛冶場に足を踏み入れた。
そして一か所に集められていた道具を一つ一つ取っては眺めていく。その道具たちが手に馴染むような感覚に修二は、すこし戸惑った。しかし、それよりもこの道具たちを使いたいという思いが上回っていくのを感じていた。すると鍛接前の素材があるのに気付いた。
「・・・・・・よし。やってみるか」
意を決した修二は、寝室に戻った。そして小箪笥の中から作業服を取り出して着てみたところ、その作業服は、しっくりくるほど修二にぴったりと合っていた。
修二は着替え終わると、鍛冶場に戻って祖父に最初に教わった道具の手入れをし始めた。そして全ての道具の手入れが終了し、修二は火床に燃料を入れて点火し、箱鞴のハンドルで送風しつつ、火を見つめる。
その時、初めて修一郎(修二の祖父)に褒めてもらえた時のことを思い出していた。
修二は職人歴7年で、まだまだ半人前だったが、過去に一人で包丁を造ったことがある。その出来をみた修一郎が、笑顔で『よく出来てる』と褒めてくれたのだ。
「・・・・・・・・・・・・」
火に目を離さないようにしつつ、修二は考え事をしていた。
(濁流に呑みこまれた時は、ダメかと思ったが、助かって良かったよ。まぁ、異世界に来てしまったのは驚いたな。不思議なこともあるもんだ。まぁ、来てしまったのは仕方がないから、これからどうするか考えるとして、どうにか親父たちに俺が生きていることを伝えたいんだけど・・・・・・、どうすっかねぇ。それにしても、昨日の二人は綺麗だったなぁ~。今日もくるって言ってたし、仲良くなりたいなぁ)
修二がどうでもいいことも考えている頃、城では、エレナが近衛隊の朝の鍛錬を行っていた。
「よし。ここまで! 休憩後、各自の持ち場につきなさい!」
『『『『『はっ!』』』』』
エレナの号令で休憩に入る近衛隊員たち。城内に戻ったエレナは侍女にタオルをもらい、汗を拭った。そこに侍女のナフィ(侍女長)がやってくる。
「姫さま、ロレーヌさまがいらっしゃいました」
「シュウジのところにいく時刻か? ナフィ」
「ええ。ですから身支度を整えてください」
「分かった」
エレナは頷いて、ナフィとともに自分の部屋へと戻る。そして身支度を整えた後、城の入り口へと向かい、ロレーヌと合流する。
「ロレーヌ、行くか」
「ええ」
エレナとロレーヌは、護衛の兵士とともに城を出て、修二がいる鍛冶場に向かった。
*****
カーン! カーン!
「ん? この音は・・・・・・。ロレーヌ、急ぐぞ」
「はい」
鍛冶場に向かう途中、何かを叩く音が聞こえてきたため、エレナとロレーヌは足を速めた。
しかし、数十メートルで着くというところで、叩く音が聞こえなくなった。
「入るぞ」
「おじゃましま~す」
到着した二人は兵士たちを外で待機させ、家の中に入る。そして鍛冶場に足を踏み入れ、そこで何かを作っている修二の姿が目に入った。
お互いを見つめ合った二人は、黙って修二を見つめる。修二は二人の気配に気付かず、一心不乱に刃物を作っていた。
「・・・・・・できた」
そう呟いたのは、修二が作りはじめてから数時間が経過した時であった。修二は完成した刃物(包丁)を眺めながら、額に流れる汗を拭った。
「それはなんだ? シュウジ」
「・・・・・・あ、いらしてたんですか?」
背後から突然、声をかけられたため少し驚いた修二だったが、気持ちのいい疲れでビクッとなるのは防げた。ゆっくりと背中に視線を向ける修二の目に、昨日と同じような格好をした二人が写った。二人は修二が鍛えた包丁を興味津々に見つめている。
「すいません。気付かずに」
「いい。それでそれは何なんだ?」
「これですか? 包丁です」
「包丁だと? これが」
エレナは修二の言葉に怪訝そうな表情をする。修二は何故そんな顔をするのか分からず首を傾げつつ、横にいるロレーヌを見た。
ロレーヌは修二の視線に気付いて、微笑むとエレナの表情の理由を告げた。
「すいません、シュウジさん。エレナさまは、お料理をしませんので、包丁というものを見たことがないのです」
「お、おいロレーヌ」
「それにその包丁は、私も見たことがないですね」
「・・・・・・そうなのですか?」
その言葉に慌てて文句を言おうとするエレナを無視し、ロレーヌは言葉を続いていく。修二が戸惑いつつも訊ねると、彼女は頷き、どんな時に使う包丁なのかとか、なぜこのような形をしているのかとか口早に質問しだした。修二は、『え、えっと・・・・・』と、迫るロレーヌにたじたじで答えることができない。そんなロレーヌに対し、ため息を吐いたエレナがロレーヌの頭に拳骨を叩き落とした。その拍子に持っていたトンガリ帽子が床に落ちる。ロレーヌが頭を抑えて恨めしそうにエレナを見つめるが、エレナは無視して戸惑っている修二に昨日言ったように詳しい話をするために来たことを告げた。
修二は我に返ると、二人を見つめる。
「昨日、言ったようにここはシュウ爺。えっと、確かお前の高祖父のおじだったな。その者の家だ。そしてシュウ爺の遺言で、ここはもうお前の家でもある。自由に使ってくれ」
「あ、はい」
「後ですね~。シュウジさんには、これからは鍛冶妖精族って名乗ってほしいんです。異世界から来たという話は、誰も信じてくれませんでしょうから」
「分かりました」
「あ、そうそう。町長が、こちらに後でくるからな」
「え?」
「昨日、お父さまが街の皆にお触れを出したのだ。ドワーフが現れたとね。それで町長が挨拶にくる」
「なるほど」
それから色々なことを話すことを数十分。外で待機していた兵士から、町長と男衆がやってきたことを伝えられた。
エレナが中へ入るように促すと、数名の男たちがぞろぞろと入ってきた。
「カールス。お前だけじゃないのか?」
「すいません。ちょっと訳がありましてのう。えっと、こちらがシュウ爺さんの?」
「ああ。シュウ爺の仲間で、シュウジという」
「修二です。よろしくお願いします」
「なるほどなるほど。シュウ爺さん、そっくりですなぁ」
修二が挨拶をすると、修二の顔をまじまじと見つめた町長は大きく頷いて、後ろに控えている男衆に向き直った。そして何事かを伝えると、男衆はエレナとロレーヌに礼をしてから部屋を出ていった。
「どうかしたのか?」
「いえいえ。王様のお触れでドワーフが現れたというのは分かっていたのですが、あの者たちは信じきれていなかったのですよ。だから、連れてきたのです。ですから、ドワーフが現れたというのが本当であるといのを街の皆に知らせるようにと言いました。さて、シュウジとやら」
「あ、はい」
「ワシは町長を務めるカールスという。困ったことがあったら気軽に相談してほしい」
「はい。よろしくお願いします」
「さて、挨拶も済んだことだしワシはお暇させていただくとしましょうか。後は若い者同士で話し合うがいいでしょう」
「な、何を言ってるんだ? カールス」
「そ、そうですよ~」
「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ。あ、そうそう。シュウジくん、夜に歓迎会を開くから、カリーナ酒場まできておくれ。案内役を迎えに行かせるからのう」
「あ、はい」
カールスは笑いながら鍛冶場を後にする。呆気にとられる修二だったが、二人の視線に気付いて我に返った。
「え、えっと何か?」
「な、何でもないぞ。さて、私も夜の歓迎会には参加さえてもらうとしよう。ロレーヌ。後のことは任せたぞ」
「あ、ちょっとエレナさま!?」
「?」
修二の質問に何とか誤魔化したエレナは少し顔を赤らめながらロレーヌに後のことを任せ、鍛冶場を後にして兵士とともに城へと戻っていった。残ったロレーヌはしばらくエレナが去った入り口を見つめていた。そして二人の様子に首を傾げる修二であった。
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次回あらすじ
作成した包丁を持って、歓迎会に向かう修二。その途中、黒いフードをかぶった人物が、修二の前に姿を現した。警戒する修二に、その人物が発した言葉とは。