Episode:004 遺言
〈魔剣士〉 高天原 A様、コメントありがとうございます。
第4話更新しました。
良かったらお読みください。
「お主がカナイ・シュウジと申す者か?」
「は、はい」
ここはセーレ城・玉座の間。そこでセーレ王と修二は謁見をしていた。
修二の口から“鍛冶屋”という言葉が出された後、エレナ姫とロレーヌの二人は城に報告。そして修二は瞬く間に王と謁見することになった。
なにがなんだか分からないまま城へと連れてこられた修二は、落ち着かない表情で、王の呼びかけに頷いた。
「お主は鍛冶屋を営んでいると聞いておる。それは真か?」
「あ、はい。一応・・・・・・、鍛冶職人をしております。まだ半人前ですけど」
「・・・・・・そうか。エレナの言う通りだったな・・・・・・。エレナ・・・・・・、よろしく頼む」
「はい。お父様」
王は修二の返事にそう呟くと、優しい表情になった。そして傍に控えていたエレナ姫を呼んで、耳打ちをした。エレナ姫は笑顔で頷くと、修二に近づいた。
修二はますます落ち着かない表情になりながら、エレナを見つめるしか出来なかった。
「シュウジ。ある場所に案内する。ついてきてくれ」
「あ、はい」
修二に告げたエレナ姫は王に一礼して、玉座の間を出ていく。修二もエレナ姫にならって、王に一礼してから玉座の間を出て、エレナの後をついていった。
修二がでていった後、エレナとともに傍に控えていた大臣が、王に話しかける。
「王様・・・・・あの者は鍛冶妖精族なのですか? たしかドワーフは、シュウしかおられなかったはずでは・・・・・・」
「・・・・・・エレナの話では、シュウの最後の手紙にはドワーフはワシ1人ではないと書かれてあったらしい」
「なんと! では・・・・・・、やはりあの者は・・・・・・」
「分からぬ。だが、あの者が鍛冶職人である以上、シュウの遺言を施行しないといけない」
「シュウの遺言ですか?」
「そうだ。ただちに世界中のシュウの弟子たちに伝えよ。“シュウの種族”が現れたと、な」
「・・・・・・はい、王様」
大臣は、頷くと王に一礼して玉座の間を出る。そして扉がしまった瞬間、悪い笑みを浮かべながら呟いた。
「くくく。あの者、カナイ・シュウジと申したな・・・・・・。シュウと同じドワーフならば、願ってもないことだ。あの計画を無駄にせずに済む。しかし、まずはあの者をこちらに引きずり込まなければな・・・・・・」
*****
城から少し山間に進んだ場所にエレナ姫と護衛の兵士とともにやってきた修二。そこに建つ木造の建物があって、魔法陣で封鎖されている扉の前にロレーヌが立っていた。
エレナ姫は兵士に合図をして控えさせると、修二を連れてロレーヌに近づく。
「あの。ここは?」
「今からここがお前の家だ」
「え? それはどういう・・・・・・」
「つもる話は、家の中に入ってからにしよう。ロレーヌ」
「はい。・・・・・・封印されし扉よ。大精霊の名の下に開け放て」
ロレーヌの呪文により、扉に描かれていた魔法陣が光り出して、徐々に魔法陣が消えていく。そして完全に魔法陣が消え去った後、ロレーヌは扉を横に引いた。すると引き戸になっていたのか、ガラガラと扉が開いた。
「どうぞ。中に」
「・・・・・・・・・・・・」
「どうした? シュウジ」
修二は、そこはかとなくここは自分のいた世界ではないと思っていたが、今目の前で起きた出来事には驚いてしまい、ロレーヌが中に入っていくのをただ見つめているだけだった。その様子にエレナ姫が首を傾げながら訊ねてきたので、修二は我に返って答えた。
「い、いえ。なんでもありません」
「そうか? なら中へ入ってくれ。そこで話をするとしよう。」
「あ、はい」
修二がエレナ姫に続いて中に入ってみると、そこは見慣れた風景が広がっていた。
「ここは、鍛冶場・・・・・・?」
「そうです。ここは一年前までシュウ爺さまというドワーフが営んでいた鍛冶屋です」
「ドワーフ?」
修二は聞き覚えのない“ドワーフ”という言葉に首を傾げた。エレナ姫とロレーヌは見つめ合うと、真剣な表情をして修二を見つめた。そしてロレーヌが『聖なる光よ。大精霊の名の下に我らを包みたまえ』と唱えて杖を振ると、杖の先端から眩い光が出て、修二たち三人を包み込んだ。
「え!? ちょっ!? え!?」
「落ち着いて下さい、シュウジさん。他の人たちには訊かれたくない話があったので、結界を張っただけです」
「え、それはどういう」
「それは私から話そう。シュウジ。君はカナイ・シュウという人物に心当たりないか?」
「カナイ・シュウ・・・・・・?」
修二はエレナ姫が訊ねてきた“カナイ・シュウ”という人物について、少し心当たりがあった。
それは修二が5歳の頃、よく祖父である修一郎から訊かされた、金井家に伝わる話に出てきた人物であった。
「知っておるのだな?」
「・・・・・そのカナイ・シュウという人がどうかしたんですか?」
「・・・・・・カナイ・シュウ。この鍛冶屋を営んでいたシュウ爺の本当の名だ。シュウ爺は私とこのロレーヌに言ったのだ。自分はこの世界の者ではないと」
「え?」
「そして自分の生い立ちも話しだした。少し長くなるがいいか?」
「はい」
修二はエレナ姫の言葉に興味を持ち始めて、素直に頷く。エレナ姫は深呼吸をすると、シュウが話して訊かせた生い立ちを語り始めた。
「シュウ爺はこう語った。『お主たちにはなにを言っているのか分からんかもしれんが、訊いてくれ。ワシの本当の名は金井修といって、こことは違う武蔵の国というところで代々、刀鍛冶を営んでおった。ワシが剣に焔龍という銘を打つだろ? それはワシの家の刀工銘だ。まぁ、それはお主たちには分からないだろうから、話を進めるぞ。ワシがこの世界にきたのは、ある嵐の日だった。その日、村長の一人息子がいなくなったという騒ぎがあってな。全員で、もちろんワシも探しまわった。そして氾濫した川にいるのを発見したワシは、急いで川に飛び込んでその息子を救出した。しかしな、救出したのは良かったんだが、息子を預けた瞬間に足がもつれてな。そのまま川で流されてしまった。それで気が付いたら・・・・・・、この世界に来ていたというワケだ。信じられないかもしれんが、これが本当の話だ』とな。そしてシュウ爺は、最後にこう言った。『もしワシのような人間が現れることがあったとしても、王様たちには知らせないで欲しい。なぜなら、ドワーフというのは4代前の王様が、ワシの仕事から考えて下さった仮の種族名だからだ。だが、もしその者がワシと同じ刀鍛冶だったら伝えてほしい。お主がこの世界にやってきたのには、理由があるはずだ、と』とな」
「・・・・・・・・・・・・」
修二はエレナ姫が語り終わっても、言葉が出なかった。エレナ姫が話した金井修なる人物が、祖父の修一郎に何回も訊かされた伝記と同じだったからである。また、シュウの境遇が自分と重なるところが多々あったからでもある。
「・・・・・・シュウジ。もう一度聞く。カナイ・シュウという人物を知っておるか?」
「・・・・・・知ってます。その方は私の高祖父の叔父にあたる人です」
「高祖父のおじ・・・・・・? ということはシュウ爺とお前は、血がつながっていると?」
「・・・・・・はい。」
「なんと・・・・・・」
エレナ姫は驚きの表情をして黙ってしまった。
ロレーヌもまた驚きを隠せずにいた。
「僕はこの後どうすればいいのでしょうか?」
修二は取り乱そうとしている自分の心を何とか抑えながら深呼吸をして、二人をを見つめて話を切り出した。エレナ姫とロレーヌは我に返ると見つめ合い、代表してロレーヌが返答した。
「あなたがシュウ爺さまの血縁者の方であることが分かりましたので、今日からこの家はシュウジさん、あなたがお好きにお使いください」
「え? い、いいんですか?」
「ああ。自分と同じドワーフにというシュウ爺の遺言だ。遠慮なんかせずに住んでくれ」
「・・・・・・・ありがとうございます」
「今後のことについては、また明日話をしよう。今日はもう疲れただろう。二階が寝室となっている。休みなさい」
「はい」
エレナ姫はそう言うと、シュウの家の鍵を修二に渡した。
修二は頷いて、恭しく鍵を受け取って、ポッケにしまった。
「ではな」
「また明日です」
「はい。では」
エレナ姫とロレーヌは修二に挨拶をして城へと帰っていった。それを見送った修二は、エレナ姫に言われた通りに鍛冶場の横にある階段を上がって、奥の部屋の鍵を開けた。
その部屋に入った途端、急に眠気が襲ってきた修二は、よろけながらもベットの傍にある小箪笥の上に鍵を置くと、そのままベットに倒れ込んだ。そして深い眠りに落ちていった。
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次回あらすじ
シュウと修二の関係が明らかなった翌朝。エレナ姫とロレーヌが、修二がいるシュウの家に付くと、家の中から金槌の音が。