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鍛冶物語 ~異世界で鍛冶屋を営業中~  作者: 光闇雪
第2章 大剣と退魔師と王子
14/15

Episode:014 写取

一応、第14話を更新です。


良かったらお読みください。

「私が意識を取り戻したのは、サーンジア国と魔国ハイランドを隔てる結界近くの浜辺でした。あの時、私は記憶を失っていました。自分の名前や過去の記憶が全て・・・・・・」

「闇魔法『憑依』による副作用か・・・・・・」

「おそらく宝剣“サラマンディーネ”とともに谷底の川へと落ちた私を用済みと思ったのでしょうね」

「なるほど・・・・・・」


 フランは頷くと、ギョクレイに話の続きを促す。ギョクレイは目を瞑り一呼吸すると、話を続ける。


「・・・・・・記憶を失った私を助けてくれたのは、水妖精族(ウンディーネ)とよばれる方たちでした。フランさんはご存知だと思いますが、ウンディーネは水魔法を得意としています。傷だらけの私をほっておけなかったのでしょう。動けなかった私を担いで、ウンディーネたちの村落に連れて行き、そこで治療を行ってくれました」

「ウンディーネの水魔法『治癒(ヒーリング)』は、他の種族には真似できないもので、蘇生はできなくとも、死んでいなければどんな傷や病もたちどころに治してしまうらしいな。だから、不埒な輩に常に狙われているため、サージニア国はウンディーネを守っていると父上に聞いたことがある」

「治療を終えたところに、ウンディーネの長老様がやってきました。そして一目見ただけで私が記憶をなくしていることに気がつきました」

「なるほど。記憶を取り戻したのは、ウンディーネの魔法か?」


 フランの呟きにギョクレイは、首を横に振る。


「私の記憶喪失は、闇魔法によるもの。魔法によって消された記憶は、ウンディーネの魔法でも治せないそうです。長老さまは深々と頭を下げられて『申し訳ない』と仰られました」

「そうか・・・。記憶は戻らなかったのか・・・。ん? なら、どうやってお前は記憶を取り戻したのだ?」

「長老さまのお知り合いの方が治してくださいました。その方のことやどうやって治したのかは教えできません。その方との約束ですから」

「それは残念だ。まあ、約束ならば致し方ない。さて、話を戻そう。ギョクレイ。憑依された後、サラマンディーネを盗むまでに何があったのか教えてもらえるか? もちろん話せる範囲で良い」

「はい・・・・・・。憑依された私はーー」


 ギョクレイは頷き、スッと目を閉じる。そして、憑依された自分が父親と母親、孤児院の子供たちに行った蛮行や“サラマンディーネ”を盗むことに至った経緯などを淡々と語りだした。それは壮絶な話だったのは言うまでもなかった。


*****


「・・・・・・・・・・・・」


 ギョクレイがフランに自分の過去を語っているころ、修二は錆びた大剣をじっと見つめ、大剣の寸法に合わせられた羊皮紙にペンを走らせていた。それには、大剣の概形とその内側に幾何学模様のようなものが書かれている。その模様は大剣の表面に刻まれていた。

 修二は、まず大剣の姿を写し取ることから始めた。これは錆取り後の仕上げを行うための準備だ。

 もとの姿に甦らせるためには、見本があるのとないのとでは仕上がりに雲泥の差がある。金井家の修行は、まずこの写し取りから始まる。完璧に近い写しを行うことができて、初めて錆取りの修行に入れる。修二は、その写し取りに関していえば、父や祖父を凌駕すると言われていた。


「・・・・・・・・・・・・」


 大剣は錆がひどく、表面に刻まれた模様が見にくくなっていた。しかし、修二は模様が見えているかのように迷いなく、羊皮紙に書き込んでいく。


(やはり若も見事だすな。師匠から一人前のお墨付きをもらっとるが、若の作業を見とるとまだまだだすな)


 リトールは自ら志願した剣の鍛え直しの作業の途中、大剣とにらめっこしている修二と、模様が描かれた羊皮紙を見つめて頭の中で呟いた。

 自分たちが目指す頂がはるか彼方にあることへの戦慄、いつかその頂に足を踏み入れてみせるという奮起など、いろいろな気持ちを新たにリトールは剣を鍛え直していくのだった。


「ふぅ・・・・・・」


 それから数十分後、修二は顔を上げて一息ついた。

 羊皮紙には、大剣に刻まれた模様が寸分違わずに描かれており、その隅には縦幅、横幅、曲線長、深さなどの詳細なデータ(目分量)が記されていた。

 修二は、羊皮紙と大剣を交互に見つめて間違いがないか確かめてから、羊皮紙を桐箪笥の一番下の引き出しの中に入れると、鍵をかけた。この桐箪笥は、シュウが町の職人に依頼して作らせたもので、シュウ以外が触れることを禁止したものである。修二はロレーヌからそのことを伝えられていたので、それを踏襲して自分以外が触れることを禁止している。


「リトールさん。錆とりに使う薬草を裏森に取りにいくので、お店のを方をお願いします」

「んだ。若はしっちょると思うんが、裏森は比較的安全じゃけんど、ヤクソがあるんところには崖があるので気を付けるっち」

「はい」


 修二はリトールの忠告に頷くと、籠を背負って裏の森へと向かった。


*****


 修二が裏の森へと向かったとき、ギョクレイは五年前の真実を語り終えようとしていた。


「――というワケです」

「今、城にいるリュウコウ殿はニセモノだというのか・・・・・・? 二ヶ月ごとに、特使としてリュウコウ殿に会っているが、(ニセモノだとは)気付かなかったぞ?」


 フランは王と謁見したときに会ったロン大臣ことリュウコウが、いつもと変わらない柔和な表情をしていることを思い浮かべて、首を傾げる。そして、リュウコウが五年前からニセモノと入れ替わっていることが信じられないという表情をする。


「・・・・・・フランさんはルージという者をご存知ですか?」

「ルージだと? 八か国で指名手配をされている犯罪者だな。変装の名人で・・・」


 フランは、ルージという人物について知っていることをしゃべっていた途中、“変装の名人”という言葉でハッとして、ギョクレイの顔を見つめた。


「ギョクレイ。リュウコウ殿は、ルージの変装だと言いたいのか?」

「はい」

「手配書に記されたヤツの特技を信じるならば、リュウコウ殿がニセモノだと気づかなかったのは納得できる。奴の変装を見破れるのは、ただ一人・・・、ヒーリン皇国の宮廷薬師“サラマ”だけだからな。しかし、解せんな。たとえリュウコウ殿がルージだとしても、なぜ奴が半魔族に手を貸しているんだ?」

「私はルージではありませんので、本当ところは分かりません。ですが、お父さんの思念によると、ルージはある目的で半魔族に手を貸しているらしいのです」

「ある目的とは?」

「それはお父さまにもわからないそうです」

「・・・・・・・・・・・・」


 フランは目を閉じて顔を空へと向ける。今までのギョクレイの話を整理するためだ。

 ギョクレイは黙って、フランの言葉を待つ。

 数秒後、目をゆっくりと開けたフランは、こう問いかけた。


「本物のリュウコウ殿は生きているのか?」

「はい。生かされています。奴らの事が運んだ時にお父さんがいらっしゃらないと犯人に仕立て上げられませんから・・・・・・」


 ギョクレイは目を伏せて、爪が皮膚に食い込むぐらいに握りしめる。

 フランは立ち上がると、ポンとギョクレイの肩に手を乗せる。ハッとしたギョクレイが見上げると、フランは微笑みながら頷いた。


「お前が悔やむ必要はない。全ての元凶は半魔族なんだからな。それはリュウコウ殿やレイカ殿、子どもたちも分かっているさ」

「はい・・・・・・」


 ギョクレイは握りしめていた手をほどくと、涙を拭って笑顔で頷いた。フランは頷くと、もとの位置に戻り、ギョクレイと向き合う。


「さて、我々が今やるべきことを考えようか」

「はい」

「リュウコウ殿を救出し、ルージや半魔族たちの企みを阻止することが最終的な目標だが、そのためには、まずリュウコウ殿がどこに監禁されているのかをを知る必要があるな。リュウコウ殿は何か言っていなかったか?」

「城のどこかということしか分かりません」

「うむ・・・。まずはリュウコウ殿の居場所を見つける方法を考える必要があるな・・・・・・」


 フランは腕を組んで思考の渦に身をあずけ始めた。

 ギョクレイもまたリュウコウの思念から得た情報を吟味し、リュウコウの居場所のヒントがないか探っていく。

 しかし、二人ともリュウコウの居場所を見つける良い方法が見つからず、時だけが過ぎていった。


「・・・・・・そろそろ暗くなる。レイカ殿たちをどこかで寝かせてやらないとな」

「お父さんとお母さんが孤児院を始めるまでに住んでいた家があります。そこは結界で誰も近づけないようになっています」

「場所は分かるか?」

「はい。一先ずそこに皆で身を隠します」

「了解した。明日、同じ時間にここに集まることにしよう」

「分かりました。それでは・・・・・・」


 ギョクレイはフランに一礼すると、横たわっていた十四人とともに霧の中へと姿を消した。


「・・・・・・厄介なことになったが、まぁ良い。ギョクレイが無事でよかった・・・・・・」


 フランはギョクレイが消えた場所をしばらく見つめていたが、そう呟いてから宿屋へと戻って行ったのだった。

第14話をお読みいただきありがとうございます。


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