Episode:013 真実
難産でしたが、一応、第13話を更新です。
良かったらお読みください。
「まず言わなければならないことがあります。・・・・・・サーンジア国の宝剣“サラマンディーネ”を盗み出したのは、私ですが、私ではありません」
「・・・・・・・・・・・・」
ギョクレイの言葉にフランは、何を言ってるいるのか分からず、怪訝の表情になる。
「・・・・・・言っている意味がわからん。どういうことだ?」
「盗み出したのは確かに私です。しかし、あの時の私は、私ではなかったのです。それをお話します。あの時、私・・・、いえ、私たちの身に何が起きたのかを・・・・・・」
ギョクレイは真剣な目でフランを見つめる。そして、フランが数秒ギョクレイを見つめ返した後、ゆっくりと頷いたため、目をつむって五年前の出来事を話し出した。
「朝。いつものようにお城へと向かわれたお父さんを見送った後、私はお母さんの手伝いで洗濯をしていました・・・・・・」
*****
セーレ国城下町から一キロほど離れたところに一軒家あった。ここにはロン・リュウコウ一家が住んでいた。
リュウコウは、セーレ国の大臣を務める人物だ。今日も妻と娘に見送られセーレ城へと向かっていく。
それを見送った妻のレイカと娘のギョクレイは、いつもの通りに掃除と洗濯をするべく腕まくりをする。
「私は洗濯をするから、母さんは孤児院の掃除をお願いね」
「ふふふ。分かったわ。気を付けていってらっしゃいな」
「もう。子供じゃないんだから分かってるわよ」
「ふふふ」
ふくれっ面になるギョクレイを微笑みで見つめたレイカは、何も言わずに箒をもって、家の裏から続く道を歩いていく。
ギョクレイはしばらく見つめていたが、気を取り直して洗濯かごとタライをもって近くの小川へと向かった。
「今日も洗濯物が多いから頑張りましょ!」
小川に到着したギョクレイは一息ついた後、洗濯かごに入っている洗濯物を一つ一つ丁寧に洗っていく。
ロン一家はリュウコウ、レイカ、ギョクレイの三人暮らしだが、家の裏手にはリュウコウが王に進言して建てた孤児院がある。その院長をレイカがしており、毎日洗濯や料理など、子どもたちの世話をしないといけない。それをギョクレイが手伝っているというわけである。
「♪~♪~」
「お姉ちゃん!!」
「あら、ジエル。そんなに慌てて走ったら危ないわよ」
鼻歌混じりに洗濯していると、川上の方から一人の女の子が走ってきた。
それが孤児院で世話している一三人の末っ子、ジエルだと気づいたギョクレイは、洗濯を一旦やめて走ってきたジエルを抱き留めて注意する。
「ジェ兄ちゃんとレイ姉ちゃんがお姉ちゃんを呼んでこいって! あっちで男の人が倒れてるの!」
「え!?」
ジエルはギョクレイに抱き付きながら事情を話した。
ギョクレイは目を見開くと、洗濯物が流されないようにしてから、ジエルを抱きかかえて川沿いをのぼっていく。
「ジェド! レイチェン!」
「「あ、お姉ちゃん!!」」
二,三〇メートル進んだ時、そこに一五歳ぐらいの男の子と女の子がしゃがみ込んでいた。
ギョクレイが名前を呼ぶと、二人は同時に振り返る。そばには男が一人仰向けで倒れていた。
「この男の人が倒れてたの?」
「「うん」」
ジエルを下ろし、二人のそばまで来たギョクレイが質問すると、二人は同時に頷く。
「川で遊ぼうと来てみたら、岩と岩の間に挟まれてて」
「このままだと流されちゃうと思って、ジエルにお姉ちゃんを呼んできてもらって僕たちで川岸まで運んだんだ」
「そう・・・・・・」
ギョクレイは二人の説明にざっと男の様子を見つめ、男が息がある事を確かめた後、二人に指示を出した。
「ジェドは、街にいってエミール先生を呼んで来て。レイチェンはジエルを連れて院長を呼んできて。転ばないようにね」
「「う、うん!」」
ジェドと呼ばれた男の子はすぐに城下町へと続く街道へと出る道を走りだし、レイチェンと呼ばれた女の子はジエルの手を取って孤児院に続く道を走り出した。
それを横目で確かめたギョクレイは、濡れて身体に張り付いている服を脱がすと、もっていた手拭で身体を拭き始めた。
(あんまり深くないようね・・・・・・)
男の身体は、全身擦り傷だらけだった。
ギョクレイは身体を拭きつつ、看護資格をもつ母親から学んだことを思い出しながら、傷の具合を確かめていく。
『お前の身体をいただく』
「え!? キャッ!?」
突然、頭の中に声が聞こえたかと思うと、男がギョクレイの腕を掴んできた。
驚いたギョクレイが身を引かせたが、男の力によって引き戻され、そのまま男に抱きつくように倒れてしまう。
「な、何を!?」
顔を真っ赤にしたギョクレイは、倒れたまま顔をあげて男の顔を見る。
男は目を覚ましていた。
手を離してもらおうと、ギョクレイが声をだそうとしたとき、キラっと男の目が光る。
「あっ・・・・・・」
その光をまともに見てしまったギョクレイは、声を漏らしながらゆっくりと意識を手放していった。
*****
「このとき、私は魔族に連なる者を通じて誰かに身体を乗っ取られました」
(闇魔法『憑依』か・・・、いや、違う)
フランはその考えをすぐに否定した。
なぜならば闇魔法を使用する魔獣や魔物、魔族は、決して結界内に侵入することができないからだ。
「フランさんは半魔族という者たちをご存知ですか?」
「・・・・・・聞いたことはないな」
ギョクレイはフランが何を考えているのか理解していたが、肯定も否定もせず、そう質問する。
フランは、記憶しているすべての魔族や魔物を思い浮かべる。そして、“半魔族”と言われている者はいないことを確かめてから、首を横に振って答えた。
ギョクレイは懐から小壜を取り出し、蓋を開けた。すると、小壜からモクモクと白い煙は吹き出し始めた。
「半魔族というのは、上級魔族に楯突いた罪により、すべての能力値を一万分の一にする呪い、人間の姿に変える呪いをかけられた下級魔族たちの集団です」
「下級魔族だと? それはおかしい。人間の姿に変えられたといっても本質は変わらん。結界内には決して侵入できないはずだ」
辺りを白い煙が立ち込める中、フランは気にせずギョクレイに疑問を投げかけた。
「・・・・・・確かに結界は魔族の持つ闇の魔力に反応して侵入を阻みます。能力値が一万分の一になり、人間の姿になったとしても、半魔族は結界を越えることはできません。しかし、人間ならば結界を越えることは可能です」
ギョクレイはそう答えると、両手を突き出し、『光を司る精霊王よ。彼の者たちの御霊と身体を戻したまえ』と唱える。すると、白い煙が柱のように集束し始めた。その数は一四柱。
「・・・・・・なるほど。俺と同じ退魔師か。それも駆け出しの者を狙ったんだな」
その様子を眺めながら呟くフラン。
ギョクレイは両手をかざしながら、頷いた。
「半魔族は姿が人間ですから、油断した退魔師の身体を乗っ取るのは容易だったはずです」
「なるほどな・・・・・・」
フランが納得した表情を浮かべたと同時に煙が完全な柱になる。そして、スッと煙が上部から消えると、そこには一人の女性と一三人の少年少女が宙に浮いていた。死んでいるかのように目を閉じている。
ギョクレイが一四人を静かに地面に下ろすと、フランが近づき全員の脈をとる。
「全員生きているようだな・・・・・・。ギョクレイ。身体を乗っ取られた後のことを訊かせてくれるか?」
「はい・・・・・・」
ギョクレイは母親のレイカの頬をなでながら、話の続きをしだした。
「私が意識を取り戻したのは、サーンジア国と魔国ハイランドを隔てる結界近くの浜辺でした。あの時、私は記憶を失っていました。自分の名前や過去の記憶が全て・・・・・・」
第13話をお読みいただきありがとうございます。
ご意見・ご感想、お待ちしております。




