Episode:012 宝剣
第12話、更新です。
良かったらお読みください。
「フランが来ているのか?」
「はい」
フランと宿屋で別れたロレーヌは、エレナの寝室で鍛錬後の身支度をしているエレナに修二やリトールのことを報告したのち、フランがセーレ国に来ていることを伝えた。
「フランが来るなんて、聞いていないが?」
エレナは顔だけ向けると、ロレーヌに訊ねる。
ロレーヌは別れ際にフランが言っていたことを伝える。
「フラン様は『セーレ国に前もって伝える必要はないだろ? 今回はサーンジア国の特使としてではなく、一介の退魔師としてセーレ国の鍛冶屋に用があったんだから』とおっしゃっていました」
「それもそうだな。それにしても、あっちにも鍛冶屋はあるだろうに、わざわざシュウジのところにくる必要はあるのか?」
身支度を整えたエレナは、侍女たちを下がらせて椅子に腰を下ろすと、疑問を呈した。
どうやらサーンジア国にも鍛冶屋があるのにも関わらず、修二を訪ねた理由が思い至らなかったらしい。
ロレーヌは、フランが修二に依頼したときのことを伝えた。
「なるほど。サーンジア国の鍛冶屋には断られたのか。そんなに酷かったのか?」
「はい。私からは大剣の形を保っているのが不思議でしたね。それであの大剣を直せるのは、ドワーフであるシュウ爺さましかいないと情報屋に訊かされたようです」
「だからシュウの親類であるシュウジのところに来たのか、奴は。で、サーンジア国の鍛冶屋が断ったほどの錆をシュウジは元に戻せると言ったのか?」
「完全な状態になるかは分からないとは言っていましたが、錆取りは可能だと仰っていました」
「さすがはシュウの親類だな」
エレナはうんうんと頷く。ロレーヌも同じように頷いていたが、街に向かう途中でフランが呟いていたことを思い出して思案顔になった。
「どうした?」
「・・・・・・フランさまが呟いていたことなんですが、あの大剣、五年前の大火事のどさくさで盗まれてしまったサーンジア国の宝剣の可能性があるみたいなんです」
「なんだと?」
エレナは目を見開いて、ロレーヌを見つめた。
「それは本当なのか?」
「私には分かりません。ただ、フランさまがシュウジさんに依頼をしたのは、あの大剣が宝剣であることを確かめたいのではないでしょうか?」
「ああ、そうだな。宝剣を見つけ出すというのがフランの目標だからな。だが、本当にその大剣はサーンジア国の宝剣の可能性が高いのか?」
「うーん。私はサーンジア国の宝剣を見たこともないので、一概には言えませんが、魔物が結界破りにあの大剣を使ったという事実を鑑みると、宝剣の可能性が高いと思われます」
「なるほど・・・・。って、結界破りだと!?」
エレナはロレーヌの口から放たれた『結界破り』という言葉に反応して、勢いよく椅子から立ち上がった。ロレーヌは笑顔でエレナを見つめて口を開いた。
「結界は破られていませんので、ご安心を。それにあの状態の大剣では結界を破る力はないそうです」
「そ、そうか・・・・・・。ふぅ・・・・・・」
エレナは椅子に座り直すと、息を深く吐き出す。
「脅かすな、ロレーヌ。肝が冷えたぞ」
「私もフランさまから訊かされたときは驚きましたが、よくよく考えると、実際に結界が破られたのであれば、結界師である私が気付かぬはずがありません」
「それもそうだな」
エレナはロレーヌの言葉に納得する。
ロレーヌたち結界師は、人や普通の動物たちの住む場所と魔物や魔獣たちが住む場所を分ける結界の維持を行っている。結界を維持しているということは、結界の状態が分かるということである。その結界師であるロレーヌが、結界が破られたことに気づかないという失態を犯すわけがない。たとえ万が一でもロレーヌが気づかなかったとしても、結界師は国ごとに数十名いる。その全員に気づかせずに結界を破るなど不可能に近い。
「話を戻しますが、もしあの大剣が宝剣であるのならば、未遂に終わったにせよ魔物が結界破りを行おうとしたのは頷けます」
「そうだな。サーンジア国の宝剣“サラマンディーネ”は、我がセーレ国の宝剣“シルノーマ”と対となる魔を断つ剣だ。たとえ結界が、魔物たちの用いる闇魔法ではなく、光魔法により生成されていようと、魔の力であることは間違いない。その大剣が宝剣であり、魔を断つ力がなくなっていなければ結界は破られていただろう」
「はい。魔物たちがそれを知っていて使ったのかは分かりませんが、結界破りに用いようとしたことは事実。あの大剣が宝剣である可能性は否定できません」
「そうだな」
コンコン
話の句切がついて、二人が一息いれたとき、計ったかのようなタイミングでドアがノックされた。
「入れ」
「失礼します。エレナ様、シーズラ国への出発の支度が出来ましたので、お迎えに参りました」
「分かった。すぐ向かう。悪いな、ロレーヌ」
「いえ。行ってらっしゃいませ」
「ああ」
エレナは頷くと、侍女長であるエリィとともに城門へと向かう。そしてロレーヌは、エレナが見えなくなるまで見送った後、そのまま回れ右をして結界師の詰所に向かったのだった。
*****
その頃、フランは宿屋の裏手の森の奥にある広場に来ていた。
ここは五年前まで彼がセーレ国へと来るたびにエレナともう一人と遊んでいた場所であった。
「・・・・・・久しぶりだな。この場所にくるのも・・・・・・」
持っていたカードに書かれている『ランさん。あなたに話したいことがあります。あの場所へ来てください。 ロン・ギョクレイ』という文章をもう一度読んでから呟くフラン。
彼がこの場所へとやってきたのは五年ぶりだ。五年前のある事情により、この場所を避けていた彼だったが、カードの文の最後に“ロン・ギョクレイ”という名前があったため、彼をもう一度、この場所に向かわせたのである。
「む・・・、霧か・・・・・・」
彼が広場の中央に立った直後、霧が発生して彼を包み込んだ。彼はカードを懐にしまい、剣の柄に手をのばす。そして、いつでも剣を抜ける体勢をとった。
すると、フランの前にローブをかぶった人物が現れる。
「貴様はだれだ? なぜギョクレイの名を騙った」
「・・・・・・私は名を騙ってなどいません」
「!!」
その人物はローブをとって、フランを見つめた。
フランは目を見開いて驚いた。目の前の人物が、彼の知っているギョクレイという少女の面影を映していたからだ。
「・・・・・・ギョクレイなのか?」
「はい。お久しぶりですね、ランさん」
ギョクレイと呼ばれた少女は、少し微笑んで彼を見つめた。
フランは剣の柄から手を離し、彼女に近づくと顔をまじまじと見つめる。そして次の瞬間、彼女を強く抱きしめたのだった。
「・・・・・・ギョクレイ。聞かせてくれ。五年前、お前に何があった? なぜ我が城から国宝“サラマンディーネ”を盗み出そうとしたんだ?」
数秒ほど抱きしめていたフランだったが、真剣な目で彼女を見つめる。そして五年前のサーンジア国内で起きた大火事の裏で起きた宝剣盗難事件について訊ねる。
実は宝剣の盗難を目撃していたのはフランだった。彼はあとで『宝剣を奪還しようと崖まで追い詰めたが、あと少しのところで逃げられてしまった』と報告している。
あの時なにがあったのか、それはフランが何も語らないので誰も知らないが、ただ一つ言えるのは、フランはギョクレイは宝剣とともに川に流され、命を落としたと思っていたことである。
「・・・・・・ランさんをこの場所に呼んだのは、五年前の真実を話すためです」
「五年前の真実だと?」
「はい・・・。五年前、私たちの身に何が起きたのか、それを話したいと思います。訊いていただけますか?」
「・・・・・・分かった。訊かせてくれ」
フランは切り株に腰を降ろして頷いた。ギョクレイはフランの横へと座ると、淡々と五年前に何が起きたのかを語りだした。
第12話をお読みいただきありがとうございます。
ご意見・ご感想、お待ちしております。
次回あらすじ
昔フランやエレナとともに遊んでいた広場で、少女ロン・ギョクレイは五年前の真実を語る。その真実とは。




