Episode:001 濁流
新たな物語が始まります。
それは雨の日のことだった。
その日、金井修二は父の金井修の使いで、初代焔龍から十代焔龍の日本刀・真打を博物館に搬送していた。
修二は今年25歳になる鍛冶職人の跡取り息子である。修二の家は江戸時代からの鍛冶職人であり、明治時代の初頭(十代焔龍)までは刀を鍛造していた。現在、刀はあまり鍛造されなくなったが、その卓越した技術は受け継げられている。そして修二はその14代目に当たる。
今回、修二が博物館に刀を搬送している理由は、日本を代表する職人の博覧会という催し物が開催される関係で、有名な刀鍛冶であった金井家は代々の焔龍作品を貸与することになっていたからである。
「すいません。本当はこちらから預かりに向かわないといけませんのに」
「いえいえ。暇な私が勝手にやってことですからお気になさらずに。では、初代から十代焔龍の日本刀をお預けいたします」
「はい、確かにお預かりしました。」
搬送を無事に終えた修二は、担当の者へ挨拶をすますと、家路を急いだ。
今日は修二の祖父、金井修一郎の喜寿の祝いで、母親から早く帰ってくるように言われていたからだ。
『『『『結ちゃん!!』』』』
「ん?」
雨足が次第に強くなる中、修二が桟橋を通りかかった時、子ども達の声が聞こえてきた。車を止め様子を見ようとした時、修二の眼に飛び込んできたのは、雨で水位が上がった川の中の女の子だった。
修二は慌てて車から降りると、騒いでいる子ども達に近づいた。
「結ちゃんが川に落ちた~!」
「どうしよう! どうしよう!」
「うわぁ~ん」
「はわわ!」
「ちっ!」
修二は泣いている子ども達を抱え川から離れさせると、迷わず川に飛び込み溺れて流される女の子を追いかけていく。そして追いつき女の子を抱えた時、ロープが傍に落ちてきた。
『修二! そのロープにつかまれ!』
「祖父ちゃんっ!」
駆けつけた地元の消防団が駆けつけて、ロープを投げ入れたのだ。修二は先頭にいる祖父、修一郎に気付き叫ぶと、素早く女の子が流されないように少し巻きつけて、自分はロープの端をしっかり握った。
『それ! 引っ張れ!』
『『『『おう』』』』』
「げほっ! げほっ!」
「頑張れ。もう少しの辛抱だ」
修二は引っ張られながら、咳き込み水を吐いていく女の子に言い聞かせる。
「修二!」
「俺なら大丈夫。早くこの子を!」
「分かった!」
そして岸についた修二は、目の前にいる修一郎に女の子を預ける。修一郎は女の子を抱えあげると、濡れた身体を拭きながら岸を上がっていった。
「修二も掴まれ!」
「ああ」
ドン!
修二が知り合いの消防団員に手を伸ばそうとした時、突然濁流が押し寄せ修二を呑みこんだ。修二は必死にロープにしがみ付くが、その押し寄せてくる量に耐えきれなくなり遂には手を放してしまった。
「修二!」
知り合いの消防団員の叫びを最後に、修二は濁流に呑みこまれ意識を失うのだった。
*****
修二が濁流に呑みこまれて一週間。修二は未だに発見されていなかった。
「・・・・・・・・・・・・」
金井家の居間では、母親の金井静子が呆然と座っていた。そして時々、修二の写真を眺めては、涙を流していた。
昨日、修二の捜索が打ち切られた。事実上、修二の生存の望みが絶たれたことになるので、今まで修二が生きていることを信じていた静子にはショックだったのである。
「「・・・・・・・・・・・・」」
処変わって、ここは鍛冶作業場。
そこでは、カン! カン! カン!と一心不乱に鉄を打ち続ける修一郎と修の姿があった。
その二人の目には涙の跡があった。静子同様、二人も捜索の打ち切りで修二の生存の望みが断たれ悲しんでいたのだ。
しかし、修二が生きていることを、何事もなかったかのようにひょっこり現れることを二人は信じていた。だから、二人は仕事を続ける。修二がいつでも戻ってこられるように、修二を笑顔で迎えられるように・・・・・・。
*****
(はっくしょっい!)
「ん? どうした、シュウジ?」
「風邪ですか?」
え? シュウジ?
第1話をお読みいただきありがとうございます。
ご意見・ご感想、お待ちしております。