第九話 そして・・・ [栄作サイド]
<半年後>
「おーい。遙ー」
「はーい」
俺の探偵事務所でパタパタと働く遙ちゃん。いや、遙。彼女は、俺との闘いの約束で、怪盗マリオネットを引退。あれ以来は、夜の天誅に行かなくなった。しかし、彼女は正義の味方であり続けたかった。そんな中に飛び出したのが、探偵業という道だった。
「探偵なんてどうかしら? 遙」
凪穂さんの口から飛び出したアイディア。これにまた、遙が目を輝かせていたのは、言うまでも無い。まあ、俺としては、彼女が泥棒業から足を洗ってくれたから良かったものだが・・・ まさか、本気で俺の探偵事務所に嫁いでくるとは思わなかった。
高校を無事に卒業できた遙は、近所の大学に入学。その傍ら、暇があれば俺の事務所で探偵修行をしている。
「栄作さん。何でしょうか?」
「えっと・・・ この間の浮気調査の件だが・・・ うまくいっているか?」
「もちろんです」
ニッコリと笑う遙。ちなみに、俺と遙は付き合っている。結婚は、彼女が二十歳になってからを考えている。里親の凪穂さんの命令だから・・・ まあ、遙と俺が愛し合っているのに間違いはないのだから、別に構わないのだが。
「ところで、かなたとのコンビは上手くいっているか?」
「もちろんですよ。ただ・・・」
「ただ・・・」
ガチャリ
俺と遙が話している途中で、部屋のドアが開く。
「はーるーかーちゃーん」
入ってきたのは、助手兼秘書の天王寺かなた。かなたは、入ってきて早々遙に抱きつく。
「かなたさん・・・ 栄作さんの前ですよ・・・」
「んー 所長は関係ないでしょー。うーん。遙ちゃん。萌えー」
かなたは、異常なほど遙のことが好きだ。今まで知らなかったが、彼女は怪盗マリオネットの大ファンだったらしい。今まで、一緒にいて気付かなかったのは、探偵としてちょっと恥。一応、かなたには怪盗マリオネットの正体が遙だと言うことは話している。一番最初に、かなたに怪盗マリオネットの正体が遙だと言うと、感激のあまり遙に抱きついたまま、一時間号泣したらしい。そして、現在はこの状況。彼女がマリオネットのファンだったのに加えて、ちょっとした同性愛の持ち主だったことも初めて知った。だから、遙は俺認定の二股?をしている。まあ、遙自身は容姿も良いし、顔も性格も上の方だと思うから好きに思えても仕方がないと思う。
「えっと・・・ 話の途中なのだが・・・ 遙。本当に大丈夫か?」
「大丈夫ですよー 私は事務所じゃ遙ちゃんLOVEだけど、仕事はしっかりしていますから」
遙に対して質問したのに、何故か答えるかなた。俺としては、事務所仕事もしっかりして欲しいんだけどなぁ・・・ 彼女が言うとおり、外での調査などは、しっかりとできている。遙もかなたとの相性は良い方だと言っているから、心配は無いのだが・・・
「それと、遙。身体の調子は大丈夫か? この間、急なメンテナンスで休んでいたが・・・」
「問題は無かったですよ。ただ、お母さんが急に予定していたメンテナンスの日をずらして欲しいと言ってきたので、急に休ませてもらったのですが・・・ ごめんなさい」
遙は怪盗マリオネットを引退しても、サイボーグという身体を生身の身体に変えるというのはできない。この時代には、サイボーグの存在は認知されているが、まだまだ数は少ない。遙もその少ないサイボーグ人口の1人。メンテナンスは凪穂さんがやってくれるから良いものの、生身の俺やかなたとは違うから、メンタル面でいろいろと気を遣ってやらなければいけない。機械と生身とのギャップもあるだろうし・・・ ただ、彼女自身はそんなに悩んではいないそうだ。
「流石は、元一流の大泥棒。この間の悪徳業者の調査も光学迷彩でさささーっと資料を集めちゃって。羨ましいなぁ・・・」
かなたの言うとおり、遙自身はプライベートボディを潜入調査用に改造してもらって、探偵業に勤しんでいる。サポートコンピューターの高速演算やナビゲートシステム。光学迷彩装置などサイボーグならではの仕事ぶりで、俺としては凄く助かっている。
「えっと・・・ でも、光学迷彩は私としてはあまり使いたくないのですよ・・・ 裸にならないといけないですし・・・」
恥ずかしそうに言う遙。まあ、服を着た状態で、透明になったら服だけ浮いている風景になるからなぁ・・・ まあ、コンビが同性のかなただから別に心配が無い・・・いや、あるかも。かなただったら、いつ遙を襲いかねないか心配だ。
「ちょっと! 所長! 私は遙ちゃんを襲いませんよ! 仕事中は!」
じと目で、かなたを見つめていたら怒られた。仕事中は、ということは、仕事外では襲っているのか? まあ、詳しい話は、遙がいないときに訊いてみるとしよう。
「かなたは、程ほどにしろよ。一応、遙と同じ大学生なんだから、公序良俗に反することはしないように」
かなたは、遙と同い年だ。彼女は遙とは別の大学に行っているが、彼女も暇なときはウチの事務所で探偵をやっている。遙よりはキャリアが長いからある程度の調査は任せれる。それに、遙の教育係もやってもらっている。
「もちろんですよ。ところで、先月の詐欺事件の調査は、どうなったんですか?」
遙にじゃれついていたかなただったが、真面目な顔をして俺に訊く。
「ああ。アレね。無事、証拠が立証されて、犯人は逮捕されたそうだ。遙のお手柄だな」
「あ、ありがとうございます!」
笑顔でお礼を言う遙。俺としては、俺が遙にお礼を言わないといけないのだがな。
「それで、次の以来なんだが・・・」
ガチャ
またもや、俺が話している途中で、部屋のドアが開き、来客が入ってくる。
「お邪魔するわよ」
「凪穂さん!?」
「お母さん!?」
入ってきたのは、遙の里親の凪穂さんだった。彼女は時々、遙の仕事振りを見に、事務所に訪ねてくる。彼女自身も20代と若いから、娘の巣立ちが心配なのだろう。
「元気にやってるかしら? それと・・・ホームズ君はどこにいるの?」
それと、彼女がここに来る理由がもう一つある。
「ホームズなら、そこのソファで寝てますよ」
「おっ! んー ホームズ君は可愛いなぁ。この無愛想っぷりが、実に日頃のストレスを癒してくれるー」
そう言って、凪穂さんは、ソファで眠っている猫のホームズを抱き上げる。彼女が時々ここにやってくるもう一つの理由は、ホームズを見に来ることだ。根っからの小動物好きの凪穂さん。中でも、子猫は大好きならしく、ホームズに溺愛しているらしい。
「お母さん。今、仕事中・・・」
「可愛い 可愛い・・・」
完全に遙の声は、凪穂さんの耳には入っていない。ちなみに、遙は凪穂さんのことを「お母さん」と呼んでいる。怪盗マリオネットを引退したことを機に、正式に凪穂さんのところに養子を組んだのだ。そして、凪穂さんを母として、そして博士として慕っている。
「えっと・・・ なかなか話ができなかったが、今度二人には、平和町二丁目で行われているインチキ商法を暴いて欲しい。お年寄りばかりを狙って、高額な羽毛布団などを売りつけているインチキ商業団体なのだが・・・ やってくれるよな?」
「もちろんです! お年寄りに対して、詐欺紛いの高額な値段で物を売りつけるなんて・・・ 許せないです!」
遙の正義感は、マリオネットの時から全く変わらない。
「それじゃあ、今から向かってくれるかな?」
「「ハイ!!」」
そう言って、遙とかなたは事務所を出て行く。事務所に残ったのは、俺とホームズを抱いている凪穂さんだけ。
「凪穂さん。本当にこれで好かったのですかね?」
俺は、ホームズとじゃれあっている凪穂さんに訊く。
「西九条君が良いと思うなら、良いんじゃない? 私は間違っていないと思うけど」
凪穂さんはホームズとじゃれあいながらも真面目に答える。
「今回も私は、遙に探偵という道を教えてあげただけ。それを受け止めるかどうかは、遙自身が決めたこと。私にも西九条君にも彼女の人生を決め付けることはできないもの。ゲームの勝敗は、西九条君の勝ちで終わったけど、アレをやりたいと言ったのは遙だし、遙も負けたときの覚悟は決めていたと思うわ」
「なるほど。ありがとうございます」
「まあ、怪盗マリオネットもそろそろ治め時だったかもしれないし。次は、名探偵マリオネットでしょうね」
「はは。そうですね」
こうして、怪盗マリオネットと俺との闘いは幕を閉じた。そして、名探偵マリオネットとの生活が始まったのだった。
END