第七話 決戦
<Eisaku side>
「ここが、玉造電工の本社工場か・・・」
白衣を着込んで、玉造工業の名札を付けて、いつでも忍び込める準備万端の俺。今、俺は玉造電気工業の本社工場前で突っ立っている。ここまでは、愛車の原付で来ている。愛車は近くの空き地に置いておき、そこから徒歩。
「それにしても、大きいなぁ・・・」
玉造の工場は外から見てもとても大きいことがわかる。大きい塀で囲まれ、中で何が造られているかわからない。これなら、兵器の一つや二つ造っていても、可笑しくは無いか。
いろいろ思いながら、正面ゲートの警備員に名札を見せて、中に入る。引き止められるかどうか心配だったが、あっさりと通ることができた。まあ、忠実に造られた偽の名札とカードキーだから、警備員さんも騙されたのだろう。ただ、「今日はお休みですが、何の用件で出社かな?」と訊かれた時は、ビックリした。アドリブで、「書類を忘れてしまって・・・」と言って、誤魔化せたが、ちょっと罪悪感を感じた。
そして、ゲートを越えて、敷地内に入っていく。中に入っていくに連れて、心臓が高鳴っていく。
遙ちゃんは、いつもこんな体験をしているのか・・・ 彼女はサイボーグだから心臓は無いにしても、この緊張感はいつも感じているのではないかな、と思う。
「それにしても、やけに静かだな・・・」
中に入っても、人の姿は殆ど見当たらない。今は確かにクリスマスの夜。そりゃ、社員も家族のため、恋人のために早く帰るだろうけど・・・ でも、怪盗マリオネットが会社の大切な極秘資料を盗んでいくのに、この静けさはないだろう。下手すれば、会社が潰れる可能性もあるのに・・・
まあ、敵が少ないのは、俺にとってはメリットだから良いんだけど・・・この会社は大丈夫なのか?
「さて・・・秘密資料はどこぞやね」
俺は、持ってきたカバンの中から会社の建物の地図を取り出す。一応、来る前に確認はしたのだが、ここでも確認っと。
「ある意味迷宮だな・・・」
地図を見てもわかるように、玉造電工の建物はとても大きい上、迷路のように複雑な構造になっている。地上は3階まで。地下は6階まである。そして、怪盗マリオネットの獲物である会社の兵器開発資料は、地下2階。でも、行くのに時間がかなりかかりそう。俺は、遙ちゃんと違って、生身の身体だから、素早く目的地まで行くことは不可能。せいぜい、走って目的地に着いた頃には、ぜえぜえ言っているのがオチだ。
「まずは、奥のエレベーターで地下まで行くのか・・・ 結構長い道のりになりそうだ」
俺は、長い道のりを一歩一歩地図を確認しながら、歩いていった。
<Haruka side>
「ここが・・・玉造電工の工場か・・・」
ゲーム開始まで、あと1分。私は、ロングコートを着込んで、玉造電工の前の塀を眺めている。かなり大きな塀。写真で見たよりも、とても大きい。塀も普通の人間だったら、乗り越えるのは無理。よじ登るのも難しいだろう。おまけに、よじ登ったとしても。塀の上には、有刺鉄線があるから、普通の人間がここを飛び越えるのは、無理に近い。
「でも、私にとったら、簡単なんだけどね」
そう言って、膝くらいまであるロングコートを脱ぎ捨てる。中から出てきたのは、黒の金属表皮に赤のラインの入った私の身体。どこからどう見たって、普通の人間とは言えない私の身体。これが、怪盗マリオネットの仕事服?。
「さてと。それでは、仕事に行きますか」
ゲーム開始を知らせるアラームが私の頭で響き渡ると、私は勢いをつけて、塀に走り出す。
「よっと」
そして、大きくジャンプ。刑務所の塀のような高い高い塀を難なくクリア。
「それにしても・・・ 誰もいないね。世紀の大怪盗マリオネット様が来ると言うのに、無用心だなんて・・・ 私も嘗められたものだね」
周りを見渡しても、人っ子一人いない。今までの仕事では、警官何十人に追いかけられるのが、当たり前だったけど・・・ 今日は誰にも追いかけられないから楽だ。でも、なんだか調子狂うなぁ・・・
「取りあえず、目的の建物に入りましょうか」
そして、私は本社工場の中に入り込むことができた。
「潜入成功。やっぱり、いつもみたいな感覚じゃないから、少し変な感じがするなぁ・・・」
無事に建物内に潜り込むことができた私。外のセキュリティは、博士がコンピューターウィルスを流したお陰で、ある程度は麻痺している。
「それじゃあ、そろそろ本気で行きますか」
そう言って、私は目を瞑りオプションを弄る。
「おっ! さっそく効果が出てきた」
すると、私の身体は、透明になってしまう。光学迷彩装置。この間、博士が作ってくれた最新装置で、これがあれば、人の目はもちろん、カメラにも映らない。ただ、赤外線センサーとかだと、ある程度は反応するから、厄介。あと、消費電力がハンパじゃないからあまり使うな、と博士から言われている。でも、今は取りあえず使っておかないと。
「えっと・・・ セキュリティルームは・・・ 2階の中央か。ここの階段を上がって、すぐのところか」
今の私の最初の仕事は、セキュリティルームのセキュリティ装置を麻痺させること。あまり、光学迷彩ばかり使っていると、いつ電力が無くなるか分からない。だから、セキュリティ装置を麻痺させれば、コンピューターの目をある程度誤魔化すことができる。それに、最終的に獲物をゲットするには、こうするのが無難だからね。
「それじゃあ、セキュリティルームへレッツゴー」
誰もいないことで完全に油断しきっているのか。私は軽快にスキップを踏みながら、セキュリティルームへと向かった。
「ここが、セキュリティルームか・・・」
私が来たセキュリティルームは、何台もの大型コンピューターが置いてあり、ウインウイン鳴っていて騒がしい。そんな部屋の真ん中にあるのが、よくあるデスクトップ型のパソコン。たぶん、これが管理用のコンピューターなんだろう。ちなみに、セキュリティルームに入るのに、電子キーを三つもハッキングしないといけなかったのは、ちょっと面倒くさかった。
「それじゃあ、アクセス開始」
私は、右手首からコネクタを取り出し、その接続部を管理用のパソコンに差し込む。
『アクセス権限外です。アクセスできません』
やっぱり・・・ ここの会社の人じゃないと、無理だよね。でも、それは予測済み。
「ウィルス注入」
私がそう言うと、コンピューターはカタカタと音を出し始める。そして、一旦画面が真っ暗になってしまう。
『アクセスに成功しました』
私の頭の中で、電子音声が鳴り響く。私の身体の中には、いくつかのコンピューターウィルスがあり、それを自在に使うことで、ハッキングも簡単にできる。もちろん、全くのオリジナルだから、ウィルス対策しているパソコンでも簡単にハッキングできる。でも、メインコンピューターからはシステムを隔離してあるから、自分がウィルスにかかることは無い。
「さてさて。それでは、本題といきましょうか」
そして、私はセキュリティ管理のところを思う存分弄る。時間制限は10時まで。それまでは、セキュリティ装置は作動しない。と言う設定に書き換える。
『セキュリティ設定を上書きいたしました』
電子アナウンスが流れると、差し込んでいたコネクタを抜き、右手首に収納する。そして、光学迷彩も解除する。これで、光学迷彩じゃなくてもセキュリティ装置に引っ掛かることはたぶん無いと思う。
「ここからが本仕事。獲物を取りに行きますか」
私は、画面に建物内の地図を立ち上げる。
「それにしても、探偵さん・・・ どう来るんだろうかな・・・」
人っ子一人いない建物内。でも、探偵さんは絶対にこの中にいる。これは、彼と私のゲーム。ここで、私は負けることはできないし、彼だって負けを譲る気はないだろう。だから、彼がどのような戦法で来るかは、わからない。
「とにかく、今回のミッションは成功しないと」
拳をぐっと握り締め、今回の仕事も絶対に成功させる。そう思いながら、私は急いでセキュリティルームを後にした。
「『兵器開発課』。ここがメインの場所か」
私の目の前には、『兵器開発課』と書かれた札の扉がある。ここに来るまで、探偵さんを始め、この会社の人には全く会わなかった。ここまで、楽勝なミッションは初めてだ。探偵さんも本当に来ているのか、ちょっと心配。
「でも、ここまで来るのは大変だったなぁ・・・」
流石、公に姿を晒すことの出来ない場所。ここまで来るのは、結構苦労した。本棚がここへ来る道の入り口だったり、迷路のように道が複雑になっていたりで、かなり大変だった。それに、6個くらいカードキーの差し込み口があり、ハッキングしないと通れなかった。だからそれなりに時間も費やしてしまった。人と戦って苦労するよりも、面倒なことで苦労したミッションだったと感じる。
「その苦労もここで終わりだよね」
私は、扉の横にあるカードキーからハッキング。そして、開錠に成功。
「失礼します」
部屋に入ってみると、どこの会社にもよくある部署の部屋。仕事机と椅子があり、その上に、パソコンと書類、そして私物が置いてあったりしている。ただ、部屋の西側に大きな窓があった。でも、ここは地下2階。窓がある必要はないはず。私は、窓に近づいて窓の外を見てみる。
「こ・・・これは・・・」
私が除いた窓の外の風景。それは、地下の兵器工場を眼下に見渡せる窓だった。今は、稼動していないにしろ、ここで兵器が造られ、売られているのはこれを見れば、誰でもわかるはずだ。
「証拠証拠」
私は、義眼のカメラ機能を引き出し、窓の外の兵器工場の写真を数枚撮影した。
「仕事を忘れていた。極秘資料。極秘資料」
近くにあったパソコンからハッキング。この会社の兵器開発関連のファイルにアクセスして、私のサポートコンピューターに記憶させる。
「終了。探偵さんにも会わなかったし、今回の仕事は一番簡単だったなぁ」
コネクタを抜いて、部屋を出ようとする。
「ちょっと待った!」
しかし、開かれた扉には、1人の人がいた。
「探偵・・・さん?」
「ああ。探したよ。怪盗マリオネット。いや、遙ちゃん。と言っても、俺が探していたのは、君じゃなくてこの部屋だったんだがな」
ちょっと息が切れながら話す探偵さん。たぶん、迷っていたんだ・・・ でも、私と道中で会わなくて良かった。だけど、結局ここで会ってしまってしまっては、元も子もない。
「お願いだ。今回の仕事を最後に、引退してくれ」
探偵さんの言うことは、やっぱり私の引退についてだ。
「嫌です。私は、正義を貫き通します。いくら、世間が私を悪者と言おうとも」
しかし、私の考えは変わらない。探偵さんがいくら私のことを思って言おうとも、この考えだけは絶対に曲げたいと思わない。
「そうか・・・ なら、仕方が無いな」
そう言って、探偵さんがポケットから出したのは、変なアンテナのついた機械。
「あまり、使いたくなかったのだが、君がそこまで拒否することのなら、これを使わないといけないんだ」
そして、探偵さんはその変な機械を起動させる。
「うう・・・」
すると、私の身体がいきなり重くなったように感じ、前に倒れこんでしまう。
「これは、君の運動装置をある程度鈍くさせるような命令を放つ機械だ。一応、運動装置のみだから生命維持装置や脳のコンピューターに影響は無いから安心して欲しい。どうだ? 引退してくれないか?」
「悪魔・・・」
「ああ。俺は、君から悪魔と呼ばれても一向に構わない。君が泥棒から脚を洗い、普通の生活で幸せに暮らしてくれるなら、悪魔にだってなるよ」
私は、探偵さんを睨みつける。探偵さんは、いつに無くクールな対応で、私に答えた。
<Eisaku side>
「引退は・・・まだ考えてくれないか?」
彼女が動けない状態になって、10分が経った。一向に彼女の考えは変わらない。
「・・・」
ずっと黙って、俺の顔を見つめる彼女。綺麗な顔なのに、睨みつけられるとちょっと怖い。
「一応、ゲーム終了の9時半までに君が答えを出さなければ、俺の勝ちになる。どちらにせよ、君のその格好だと、動けないで9時半までいることになる。それなら、早めに答えを出した方が賢明だと思うのだが」
今の彼女は、俺の作った装置で動けない状態。このまま9時半を回れば、俺の勝ち。だから、正直今の彼女に勝ち目は無い。ちょっと、悪役っぽいやりかただけど、これくらいしか、彼女に引退してもらう方法は無いだろう。
「・・・わかりました。引退しましょう」
ようやく彼女から出た言葉。
「ほ、本当か?」
その言葉に俺は感激。やっと、彼女は普通の生活を選んでくれるようになったのか。そう思うと、今までの苦労が報われる。
「ええ。でも・・・その前にこの身体を動けるようにしてもらえますか? この体勢のままでは少し辛いので・・・」
「ああ。わかった」
そして、俺は彼女の言った通り、機械の電源を切る。すると、前向きに倒れていた彼女は、楽に立ち上がることができた。
「ありがとうございます。でも、ごめんなさい」
すると、彼女は機械を握っている俺の手から、機械を取り上げてしまう。
「あ・・・」
そして、グシャリと機械を握ってコナゴナにしてしまう。俺が必死に勉強して作った秘密兵器が・・・
「ごめんなさい。探偵さんが私を思ってくれるのは、とても感謝してます。でも、これは私の使命ですから、辞めるわけにはいかないです」
申し訳なさそうに言う彼女。
「はは。悪魔なのは、お互い様だな」
「私は、もともと悪魔なのかもしれませんけどね。探偵さんは、悪魔のふりをした天使なのかもしれませんが。それでは、失礼します」
そう言って、彼女が部屋を出た。その時だった。
ビービー
突然鳴り響く警報音。さっきまでは、何も無かったのに・・・
「ど・・・どうなってるんだ!?」
「えっと・・・ 取りあえず、逃げましょう。探偵さんも今は、不法侵入者ですので」
うう・・・図星。これには、彼女に妥協しなければならない。
「とにかく、逃げよう。ナビの方お願いできるか?」
「もちろんです。地図は、頭の中に入っていますので」
微笑んで答えを返す彼女。そして、俺たちは警報の鳴る廊下を走っていった。
「でも、どうして警報が鳴ってしまったんでしょうか? セキュリティにハッキングもしかけて、上書きしたはずなのに・・・」
「うーん・・・ やっぱり、俺の作ったあの機械が問題だったかな? はは」
ちょっと苦笑。でも、彼女は俺をじと目で見つめる。
「とにかく、二人とも捕まらないで脱出することが第一だ。それでOK?」
「ええ。もちろんです」
エレベーターは使えないから非常階段を使わないといけないし、迷路のように道は複雑になっているしで、行きよりもかなり大変だと言うのが、実感できる。
「行きと大分道が違うけど、大丈夫か?」
俺の記憶だと、行きの道と今の道はなんだか違うような気がする。まあ、迷っていた俺が言っても説得力皆無なんだが・・・
「大丈夫です。地図が間違っていない限りは、無事に脱出できますよ」
その「地図が間違っていない限り」というのは、少し心配だが・・・ 方向音痴の俺が指摘できるワケもなく、彼女をナビに任せて、俺たちは走り続けていった。
「あれ? こんなところあったっけ?」
彼女の言った扉を開けると、とても大きな大ホールのような部屋に着いた。でも、行きにこんな部屋は通った覚えが無いが・・・
「遙ちゃんはこの部屋に来たのかい?」
「いえ・・・ 私もこの部屋は初めてです。でも、地図では帰路に最適の道はここと示されていますし・・・」
なるほど。やっぱり、彼女もここは初めてなのか。それにしても、大きな部屋だな。市の体育館の1.5倍くらいありそうだな。
「とにかく急ごう」
「はい」
俺たちは、向かい側の扉に向かって思いっきりダッシュする。
ウイーン
走っている途中に後ろから聞こえた怪しげな機械音。
「な、なんだあれは!?」
立ち止まって、振り向いてみると、高さ2.5メートルほどの大きな球に足の生えたロボットがいた。さっきまでは無かったのに・・・
「何だか・・・嫌な予感がします」
ウイーン
そして、そのロボットの本体部分からマシンガンのような武器のついた手が二つほど出てくる。
「あれって・・・ヤバくないか?」
「かなりヤバイです」
そのロボットのマシンガンは俺たちの方向を向いている。完全に標的だよな? 俺たち。
「逃げるぞ!」
「ハイ!」
そして、思いっきり逃げる。すると、ロボットのマシンガンも俺たちのいた場所を集中砲撃。
「人による警備が手薄なのは、ロボットの警備が死ぬほど厳しいからなのか」
今頃になって、怪盗マリオネットの挑戦状を受け取っても、人がいない理由に気付く。確かに、ロボットなら外に秘密を晒す危険性も無いし、人件費も掛からないからメリットは大きいからなぁ・・・
「とにかく、あの扉まで必死で走ってください! 探偵さんは生身だから死んじゃいますよ!」
正論。彼女は金属表皮で覆われているから、多少は大丈夫かもしれないが、俺の場合は蜂の巣状態。そして、お陀仏。自分の死ぬことをイメージすると少し走るスピードが上がった気がした。
「やっと撒けましたね」
無事に扉を開けて、ロボットから逃げることに成功した俺たち。しかし、扉の向こうには、まだ廊下が続く。
「一体、どれだけ走れば良いんだ・・・」
「次の突き当りを曲がれば、出口に着くはずですよ」
今は彼女の言葉をとにかく信じるしかない。まさか、牢屋行きどころか命を落としそうになるような体験をしなければならないなんて、思ってもいなかったから、かなり動揺中。
「あの突き当たりだな」
彼女の言っていた突き当りが見えた。あそこを曲がれば、やっと日常に戻れる!と言っても、怪盗マリオネットの遙ちゃんと一緒にいることでさえ、非日常的なのだが・・・
そして、俺たちは突き当たりを曲がろうとした。その時だった。
「!!」
突き当たりのところで待ち伏せしていたのは、さっきのロボットと同型のロボット。そして、そのロボットは俺たちの方向を完全に狙っていた。しかも、さっきの武器はマシンガンだったが、今度の武器はかなり物騒なランチャー砲。
「危ない!!」
遙ちゃんはそう言って、俺を突き飛ばす。その後、ちょっとした爆発音が廊下に響いた。
「遙ちゃん!」
煙が廊下に舞い、遙ちゃんとロボットが見えなかったが、だんだん煙が晴れていき、彼女とロボットの状態を知ることができた。
「遙ちゃん!!」
遙ちゃんの左腕は無くなっていた。付け根のところからすっぽりと無くなっており、左腕のあった場所からは、何本ものコードが飛び出している。
「怪盗マリオネットも嘗められたものですね」
左腕を無くしながらも、ロボットに向かって走りこんでいく遙ちゃん。
「お返しです!」
そう言って、彼女は右手首からコネクタを取り出し、差し込み口をロボットの背後に回って、差し込む。
「ウィルス注入!」
すると、ガシャンガシャン鳴っていたロボットが急に大人しくなる。
「遙ちゃん!!」
俺は急いで、遙ちゃんの下へと走っていく。
「私は大丈夫です。それより、探偵さんの方は大丈夫ですか?」
右手で左腕の付け根部分を押さえながら、話す彼女。こう見ると、改めて彼女の身体が機械でできていることを感じる。
「君の方は大丈夫じゃないだろ!? 左腕まで無くしてしまって・・・」
「ええ。家に帰れば、修理できます。それよりも、急ぎましょう。追っ手が来ると厄介ですし」
待ち構えていたロボットの先には、非常口と書かれたドアがあった。俺たちは、そこから脱出した。
その後、俺たちは正面のゲートから脱出した。ゲートの警備員は、彼女の持っていた睡眠ガスを使って眠らせ、その隙に脱出に成功した。
「遙! どうしたの!?」
正面ゲートを出て、少し歩いたところに、凪穂さんが車で来ていた。彼女は、左腕を無くした彼女を見て、とても驚いていた。
「ちょっと無理しちゃいました」
そう言って、遙ちゃんは舌をペロッと出し、イタズラ気に微笑む。
「とにかく、事情はあとで聞くから、早く車に乗りなさい! あと、西九条君も乗っていって!」
「あっ・・・ でも、俺、原付があるんで・・・」
「あなたの思う人がこんな状況なのよ!? 乗っていきなさい! 命令よ!」
「あっ。ハイ!」
こうして、俺は凪穂さんの車に乗せられ、彼女の家へと向かったのだった。
「遙ちゃんは、どうして俺を庇ったんだ?」
車の後部座席に載せられた俺と遙ちゃん。そして、俺は、隣に座っている遙ちゃんに質問する。
「・・・だって、探偵さんは私のことを思ってくれてたんですよね?」
「ああ」
「それなら、理由は無いです。ただ、守りたい人を守った。それだけのことです」
少し照れながら彼女は俺の質問に答える。
「それに・・・探偵さんは、私の初恋の人ですから」
恥ずかしそうに言う彼女。そして、俺はそれを聞いて、顔が真っ赤になっていた。